「なんで海外に行ったの?」と聞かれるたびに、わたしは「同調圧力がイヤで日本を飛び出した」と答えている。
同じような理由で海外に飛び出した人は、少なくない。
日本に住み続けている人でも、「みんないっしょ」という考えに抵抗感をもっている人は、たくさんいるんじゃないだろうか。
ではその『同調圧力』ってやつは、いったいどこから生まれ、どうやって広がっていくのだろう?
今回は、去年経験した「新作ゲームのネタバレ自重」をテーマに、『同調』が『圧力』になっていった経緯を思い返していきたい。
「ネタバレ」で嫌な思いをしないための平和的な住み分け
ゲーム界隈では、シリーズの新作や続編、大型アップデートが発表されると、タイムラインがお祭り騒ぎになる。
有給を取るのは朝飯前、発売直後は限界まで寝ずにぶっとおしプレイなんて言わずもがな、数日分のカップラーメンをストックするのだ。
……とはいえそんなガチ勢は少数派で、大多数のプレイヤーは、楽しみにしつつもマイペースにプレイする。
1日でクリアする人もいれば1週間かける人もいるし、発売日1週間後からはじめる人もいる。
そこで毎回話題になるのが、「ネタバレ」についてだ。
ガチ勢が発売日やアップデート当日に「ラスボスは○○! こういう攻撃を使うから準備しておこう!」という情報を広めてしまうと、「事前情報なしでやりたかったのに……」という人の楽しみを奪ってしまう。
だから、ネタバレに関してはみんな慎重になる。
そして発売日やアップデート前に、こんな宣言が飛び交うのだ。
「発売後1週間は、動画のサムネイルにスクショを使いません」
「自分は最速で進めてクリアツイートするので、嫌な人は事前にミュートしてください」
「つぶやきには『ネタバレ』と入れるので、ミュートワード推奨です」
「初見を楽しみたいので、クリアするまでSNSお休みします」
これは、
「自分はどんどん進めるから、ネタバレには気をつけるね」
「自分はのんびりやるから、ネタバレを見ないように気をつけるね」
という配慮、平和的な住み分けだ。
これだけなら微笑ましい思いやりなのだが、そこからなんだか、妙な「空気」になっていった。
「ネタバレには気をつけよう」という呼びかけがはじまる
ネタバレの自重・自衛宣言が増えるにつれ、タイムラインの様子が変わってきた。
「ネタバレツイートをするなら、『ネタバレ』と入れましょう」
「ゆっくり進める人のことも考えましょう」
「せめて1週間はエンディングのスクショをアップしないようにしましょう」
ん?????
いやいや、ネタバレの自重・自衛はいいと思うよ。うん、思いやりがあって素晴らしい。
でも、だからって「自重しましょう」って呼びかけるのは、ちがうんじゃないか?
「みんなそれぞれのペースでプレイするから配慮しよう」という主張はわかるが、3日でクリアする人もいれば、3ヶ月かけてクリアする人もいる。
その全員に対して配慮なんて、できるわけがない。
どんどん進めたい人の遊び方は配慮されなくていいの?
そもそも、「ネタバレ」の基準も曖昧すぎる。
エンディングは当然として、新フィールドは? 装備の見た目は? 敵の名前は? 敵の必殺技エフェクトは? もらえるアイテムの詳細は?
厳密にいえば、事前に公式発表されていないものはすべて「ネタバレ」になりうる。
だれかが勝手に「ここからがネタバレ」と線引きして、「それに従うべき」だなんて、あまりにも理不尽だ。
なんて思いつつ、ついに迎えた発売日。
さて、タイムラインはどうなるんだろう?
気づいたらみんなに合わせてスクショをアップしない自分がいた
本当にみんな……ネタバレ自重してる……ッ!!
ちゃんとみんな、ネタバレに「配慮」するんですよ。まじで。
配信者はサムネイルを文字にしたりネタバレハッシュタグをつけたりして、登録者への通知でネタバレしないように気をつける。
フォロワー数が2桁の人々ですら、エンディングのネタバレポイントはスタンプで隠したり、ラスボスの名前を伏せたり、新フィールド外で写真を撮ったり、「詳しくは書かないけど意外な展開だった」なんてツイートしたりする。
わたしはそれを見るまで、「ネタバレを見たくなければ見なきゃいいんだから、気にせずツイートしてもいいだろう」と思っていた。
でもみんなが最終決戦のスクショ投稿を控えているなか、自分だけが「クリアしましたー!」とスクショをアップするのは、さすがに気が引ける。
明らかに「空気が読めないやつ」になっちゃうもんね……。
というわけで、まわりに倣って、ネタバレはしないように気をつけてスクショをアップした。
そして、発売日から1週間後。
まだ情報解禁は早いようで、多くの人はネタバレに気をつけながら、クリア報告やストーリーの感想なんかをつぶやいている。
やっぱりまだつぶやかない方がいいよなぁ。ムダに敵をつくりたくないし……。
さらに1週間後。
このあたりから、情報解禁している配信者が増えてきた。
ガチ勢はすでに、やり込み要素を周回している頃合い。なんならちょっと飽きはじめている。
とはいえまだクリアしていない人も多いし、わたしのまわりにものんびりペースの人がいる。
「ん〜あと1週間くらいはなにもツイートしないでおこうかなぁ。友だちもまだ情報解禁してないみたいだし……」
と、まだ我慢。
「ネタバレ自重の呼びかけ」に対して「なんだそれ」と思っていたわたしでも、しぜんとまわりと足並みをそろえてしまうのだ。
だって、「無神経な人」って、思われたくないから。
「思いやり」が、しぜんな流れで「圧力」になっていく
「いやいや、結局のところそれは自分判断でしょ? 嫌なら気にせずつぶやけばよかったじゃん」
そう思うだろう。わたしもそう思う。
しかし実際、こんなことが起こったのだ。
・ギルドマスターから、「ネタバレになる会話は禁止、Twitterでも控えてください」と通達される
・発売日当日にラスボスをサムネイルにした配信者に、「ネタバレタグ入れたほうがいいですよ」というアドバイスが届く
・努力して倒した敵のクリア画面をツイートすると、「それネタバレになるから隠したほうがいいかもw」という心配コメントが書き込まれる
・最速攻略動画をアップすることで有名なプレイヤーが、「先ほどのスクショはネタバレが含まれていたため、削除して再投稿しました。申し訳ありません」と謝罪する
……などなど。
最初は単純に、「ネタバレされたくない人のために気をつけるね」という思いやりだったはずだ。
ゲームなんてマイペースに楽しむものだから、ネタバレされたくないなら自分が情報を遮断すればいいだけ。
とはいえ、「ネタバレされたくない」という人の気持ちもわかる。
だから、「ネタバレしないようちょっと気をつけるよ」というだけの話。
しかしそれが広がるにつれ、少しずつ「ネタバレは配慮して当たり前」の空気になり、いつのまにか、「逸脱してはいけないマナー」として、自重を求められるようになった。
だれかひとりでもネタバレしたら、配慮していた側の努力がムダになってしまう。
だから、「みんなで気をつけよう」という呼びかけにつながったのだろう。
でも、「自分はネタバレされたくないからやめてくれ」ではなく、「ネタバレされたくない人がいるからやめましょう」と言われると、いつ、なにを、どこまで自重すればいいのかわからない。
そうすれば当然、モヤモヤする。
だって、だれの気持ちを慮ればいいかわからないもの。
でも空気を読まないやつになりたくないから、まわりの様子をうかがって合わせてしまう。
「思いやり」がスタートなぶん、「そんなの知らねーぜ!」と空気をぶち壊すのも、かなりの勇気が必要だしね。
不満を持ちつつも従う。
そうすると、「自分は気をつけてるのに平気でネタバレするなんて無神経」と他人に腹が立つし、「自分だけが損したくないからあなたもそうすべき」という主張になる。
「空気を読まないと反感を買いますよ」というありがたいアドバイスによって、「個人の自由」も封じられていく。
こうやって、「思いやり」が「圧力」になっていったのだ。
同調圧力が息苦しい理由は、目的がわからず納得できないから
もちろん、「好きなようにネタバレしていい」と言いたいわけではない。
名探偵コナンの映画を見に行く前に犯人を教えられたら、イラっとするだろうしね。
ゲームは攻略情報を共有するのが前提だからこそ、ネタバレの判断基準がむずかしい、という側面もある。
ただこの一連の流れを思い返して、「同調圧力の息苦しさは、対象不在の配慮やルールだからなんだなぁ」と、再認識した。
「まだクリアしていない○○さんのために、1週間はラスボスについてつぶやくのを控えましょう」なら、なにも思わないだろう。
でも「どこかのだれかが嫌な思いをするかもしれないから我慢しましょう」と、具体性がない根拠をもとにした要求だと、納得がいかない。
いつまで、なにを気をつければいいのかわからない。
でも「好き勝手やりまーす」とも言えない。
基準がわからないからまわりに合わせるしかなくなり、身動きが取れなくなる。
あいまいなルールのくせに強制力はばっちりあるものだから、なおさら面倒くさい。
同調圧力に息苦しさを感じる理由は、「根拠を欠いた押し付け」だからなのだと思う。
要は、「だれのため・なんのためかを明確にしないまま暗黙の了解への服従を求めると、不幸が生まれるよね」という話だ。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
Twitter:amamiya9901
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