この記事で書きたいことは、以下のような内容です。

 

・成功体験を分析すると、大きく分けて「再現可能な部分」と「再現不可能な部分」に分けられる

・前者は「自分の努力や実力でカバー可能な要素」後者は「周囲の環境や運次第で、努力や実力とは関係ない要素」と言い換えることも出来る

・部下や後輩を指導する立場の人間は、定期的に自分の成功体験をたな卸しして、再現可能/不可能を切り分けしておくべき

・「老害」とは、自分の成功体験のたな卸しが出来ず、成功体験全てを努力で勝ち取ってきたと勘違いしている人のこと

・再現不可能な成功体験に基づいた指導を部下や後輩に押し付けるのは避けた方がいいですよね

 

よろしくお願いします。

さて、書きたいことを最初に全部書いてしまったので、後はざっくばらんにいきましょう。

 

以前勤めていた会社でお世話になった元上司が先日定年退職されまして、久々に電話でお話しました。

こんなご時世なので送別会やら退職の挨拶やらも十分に出来なかったそうですが、「面倒くさくなくて助かった」とご本人はさばさばしたものでした。

御年の割りにかなりガチでゲームされる方で、しばらくは積みゲーの消化に専念されるそうで、最初にやりたいゲームはカルドセプトリボルトと真・女神転生Ⅲ NOCTURNEだそうです。正直うらやましい。

 

で、その人に昔教えてもらった言葉を思い出しまして、ご本人にも御許可頂いたので書いてみます。

入社してから数年たって、サブリーダーを任せられるようになったくらいのころだったでしょうか。

 

私その人に、こう言われたんですよ。

「君も、そろそろ後輩や部下に指導する立場になるだろうから、早めに教えておくけれど」

「はい」

「将来老害と言われたくなければ、「成功体験のたな卸し」は出来るようになっておきなさい」

って。

 

つまりこういう話です。

企業人にとって、部下や後輩を指導して戦力にするのは、上から期待される重要な役割の一つです。

とはいえ多くのケースにおいて、「指導の為の指導」を受けられる程のリソースは割り振られないこともあり、基本的に「自分の経験・知見」に多くを頼って指導をせざるを得ません。

 

その際、自分の成功体験・失敗体験は、「教える」際の重要な指標になります。

自分の時はこうやったら上手くいったから部下にもこうやらせよう、とか。

自分の時はこうやって失敗したから、こういうやり方はやめさせようとか、そういう話ですよね。

 

この時一つ気にしなくてはいけないのが、「その成功体験は、再現可能なものなのか」という点です。

 

これは一般的に言える話だと思うんですが、成功体験には、「再現性があるもの」と「再現性がないもの」があります。

同じようなやり方をしたら同じように成功出来る(可能性が高い)ものと、同じようなやり方をしたからといって同じように成功出来るとは限らないもの、ですね。

もちろんこの間には非常に多彩なグラデーションがあるのですが、一旦大きく二つに大別します。

 

例えばの話、「株式投資における成功体験」というものがあったとしましょう。

「こんな風に取り引きしたら、こんなに利益を挙げることが出来た!!」とか、そういうヤツです。

 

この成功体験を他人にもお勧めする際には、「それは「相場状況」という外部要因を除いても再現可能なものなのか」ということを、まず強く疑わなくてはいけません。

当たり前ですが、株式相場というものは日ごと週ごと、それどころか秒単位で激変するものなので、ある人が成功した取り引きを同じようになぞったとして、同じように成功出来る保証は地平の果てまで見渡してもありません。

もしかすると「チャートの見方」とか「情報収集のノウハウ」のような形で再現可能な部分もあるかも知れないですが、一般的には「成功体験の再現性」がかなり低い分野である、とは言うことが出来るでしょう。

 

株式投資というフィールドは分かりやすいですが、実際のところ、それ以外のフィールドでも「再現性の低い成功体験」というものは世の中に少なくありません。

 

例えば、「それバブルだから通用したんだよね」というサラリーマンの出世物語とか、「消費者保護の法整備が進んでない状況だから出来たんだよね」という営業マンの営業手法であるとか。

自分の努力や実力によるものというわけではなく、周囲の状況や世情、景気状況があったからこそ成功出来た要素、というものは非常に多いんですよ。

 

もちろん、周囲の状況と自分の努力、必ずしも厳密に分けられるとは限りませんし、それら成功体験から「再現可能な部分」を抽出して、それを指導に用いるのは何の問題もありません。

どう勉強して知識や知見を得たのか、顧客の情報をどう整理してどう集積したのか、そこからどうアプローチ手法を考えたのか。

「状況によらず再現可能なノウハウ」というものは存在する筈で、それに基づいて行われる指導は大変貴重です。

 

ただ厄介なことに、人間は基本的に「成功体験を丸々自分の実力の結果だと考えたがる」んですよね。

たまたま景気が良かったから成功したのを、自分の努力の成果だと信じて疑わないベテランとか、運よく生き残れただけの経験を生存バイアスにして部下に無理を強いる上司とか、まあよく聞く話じゃないですか。

そういう人たちが、その成功体験だけを元手に部下や後輩を指導し始めると、色々と困ったことが起きてしまうわけです。

 

冒頭の元上司に言わせると、「いわゆる老害というのは、「自分の成功体験の再現性を疑うことが出来ない人」のこと」だそうで、私、その言葉にはかなり納得したんですよ。

自分の成功が「自分自身の努力に関わりがない、その場の状況」なくしてはあり得ないものだった、ということを認められないから、「どんな人でも頑張れば自分と同じ成功が出来る」と思ってしまう。

だからそれに基づいて無理な指導を行うし、なんなら部下に無茶を強いるブラック企業ムーブをしてしまう。

そういう例、枚挙に暇がないじゃないですか。

 

じゃあ、老害にならない為にはどうすればいいか。

その為に必要なのが、

「成功体験のたな卸し」

だ、と。

 

自分の成功体験の中で、自分だけの努力、自分だけの実力で勝ち得たものはどれくらいあるか。

その努力は、今、自分と同じバックボーンを持たない人でも再現可能なものか。

それをシビアに自己分析して、「状況によらず再現可能なノウハウ」だけをそこから抽出する。

 

例えば同じ勉強をするにも、自分は環境に恵まれて、人より豊富な時間やお金を使うことが出来たりはしなかったか。

同じプロジェクトを完遂するにも、クライアントの寛容さや部下の有能さに助けられた部分はなかったか。

同じビジネスを成功させることが、今、現在の状況で可能か。可能だとすればどんな条件が必要か。

 

「そういった部分を謙虚にたな卸しすれば、自ずと部下や後輩に教えるべき部分はなんなのか、ということが分かる」

というのが、その元上司の方の言葉だったのです。

 

確かに、私がその人に色んな指導を受けた時にも、「そうは言うけど今同じことするの無理でしょ」と思ったことは一度もなかったんですよ。

決して楽なことではないけれど、同じ道を行けば確かに同じゴールにたどり着くだろうな、と思えるような、具体的な知見やノウハウがその人の言葉にはたくさん詰まっていたんです。

 

以来、私自身、自分の成功体験についてはなるべく謙虚に「たな卸し」をすることにしています。

本当に「再現可能な努力」と言っていい部分はどこだったのかな、それは人にお勧めしてもいいノウハウかな、と、可能な限り謙虚に考えるようにしています。

 

まあ、私は生来いい加減な気質なので、そこまで厳密に区別出来ているかどうかは分かりませんが。

とはいえ、その場、その時でしかあり得なかった成功体験を、普遍のノウハウとして人に押し付けるようなムーヴはなるべく避けるよう心掛けたいなあ、と。

そんな風に考えているのです。

 

最後にちょっとだけ余談として、上記では「成功体験に基づく指導・ノウハウ」について主に話しましたが、実際には「失敗体験に基づく指導・ノウハウ」の方が貴重なものになる可能性が高かったりします。

「どんなことをしたら、どんな失敗に繋がったのか」っていう話、失敗体験ってノウハウの宝庫なんですよ、ホント。

 

ただ、失敗体験を他人に話すのって、それが洒落にならない失敗であればある程しんどいんですよね。

しかもしんどい割りにリスペクトされにくいし。

 

だから失敗体験を指導に活かせる人って滅茶苦茶貴重ですし、失敗談を赤裸々に公開してくれる人は滅茶苦茶貴重です。

「失敗して、その体験を人に話せる」という時点で尊敬に値する人だ、と我々は認識するべきです。

この辺の話は以前も書かせて頂きましたので、気が向いたら読んでみてください。以下の記事です。

貴重なノウハウの宝庫である「失敗談」を語ってくれる人に、わざわざマウントしに行く、残念な人たち。

最初にまとめると、この記事で言いたいことは下の三点になります。

・世の中に成功談は多いが、本当に参考にすべき失敗談は極めて観測しにくい

・成功談よりも失敗談の方が、再現性、リスク把握、リスク回避などの観点から、ノウハウとして貴重である

・我々は失敗談をもっと評価するべきであり、失敗談を語ってくれる人を大切にするべきではないか

 

 

今日書きたいことはそれくらいです。

 

 

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システム開発やITコンサルティングを経て、
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現在はネクセラファーマ株式会社で、システムだけではなく、企業風土改革や業務改善をリードし、
日本発グローバルバイオ製薬企業にむけて、同社の成長基盤の構築に尽力している。

岡田 雄太(ワークワンダース株式会社 CTO)
野村総合研究所に新卒入社後、証券総合バックオフィスシステムやオンライントレードシステムなどの開発に従事。
その後、8 Securities(現SoFi Hong Kong)へ出向し、日本人唯一のエンジニアとして国際的なプロジェクトに携わる。
BOOSTRYでは信託銀行向けSaaSの立ち上げと成長を牽引。
WiseVineではCTOとして開発組織を30名規模に拡大し、プロダクト開発を推進。
2025年4月よりワークワンダース株式会社CTOに就任。AI活用を中心とした開発支援をリードする。


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(2026/01/19更新)

【著者プロフィール】

著者名:しんざき

SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。

レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。

ブログ:不倒城

Photo:erokism

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