以前勤めていた会社で、会話の時には「ちがう」と言ってはいけない、というルールがあったことを6月ごろに書いた。
コンサルタントやってた時、重要な対人技術として『「ちがう」と言うな』と習った。
コンサルタントのころ。対人技術を教わった。
様々なものがあったが、その中でも群を抜いて重要な技術の一つは
「会話の時、人の話を否定しない」こと。
具体的には、人に『ちがう』と言ってはいけなかった。
コンサルタントというのは、クライアントの力を借りないと、何もできない仕事だ。
本当に、何一つできない。
だから、クライアントとの人間関係はとても重要だった。
その「人間関係」の構築において、最も重要な事柄の一つが、上の「ちがう」に代表されるような、言葉の使い方だ。
言葉は使い方によって、人間の意識を変え、行動を変える。
だから、仕事では、面倒くさがらず「適切な言葉を選ぶこと」が極めて重要だった。
*
例えば当時、私が在籍したコンサル部門ではなく、会計監査の部門では、「お客さん」と言わず「クライアント」と呼称していた。
また、仕事を取ってくる部署を、「営業」ではなく「開発」と呼んでいた。
「開発」と言うと、通常はシステム開発のことを想像する人が多いと思うが、監査では「営業部門」のことなのだ。
なんか変だなあ、と思って、私は上司に聞いてみた。
「なんか、意図があるのですか」と。
上司は言った。
「監査は、監査先の企業からお金をもらってる。でも、「お金をもらって監査」なんて、普通に考えたらおかしい。客観性が疑われてもおかしくない。」
「ですね。」
「だから、「お金は受け取ってますけど、我々はあくまでも第三者ですよ」と強調するために、「お客さん」とは呼ばない。「クライアント」だ。」
「……マジすか。」
「本当だ。営業を「開発」と言うのも同じ理由。お客さんじゃないから、営業でもない。」
私は思わず
「クダラネー」
と言いそうになったが、上司の真面目な顔にビビってしまい
「よくわかりました」
とおとなしく答えた。
ただ、それを聞いても私は「変なところにこだわるなあ、細かい言葉のちがいなんて、どうでもいいっしょ」と思っていた。
*
だが上司は、非常に言葉にうるさかった。
例えば「問題」と「課題」のちがい。
これは専用のテキストまであり、「絶対に混同して使うな」と教えられた。
これはのちに、小難しい議論を好む人ほど
「問題」じゃない、「課題」だ
と強く主張することが結構多く、「厳密に教えてもらっていてよかった」と強く思った。
あるいは「失敗」と言うな、「成長ネタ」と言いなさい、とも言われた。
正直なところ、「馬鹿馬鹿しい」と最初は思った。
小学生じゃあるまいし、「失敗」と言って何が悪い、と。
しかし、「失敗」の発表の場で、誰が発表したいと思うだろうか。
社長が「成長ネタ」を披露してください、とコンサルタントに言い、事例の共有がなされるにつれ、「成長ネタ」という言葉が、心理的安全性を作っていることに、やがて気づいた。
前にいたコンサル会社では
『失敗』と言う言葉を使うなと言われた代わりに使われたのは
『成長ネタ』くだらないと思ったけど
実際に会議で、社長が
『成長ネタの発表をしてください』
とコンサルタントに依頼をしていたのを見て
納得した『失敗の発表をしてください』
より響きがずっと良かった— 安達裕哉(Books&Apps) (@Books_Apps) September 13, 2021
私が考えていた以上に、「失敗」と言わないことは重要だったのだ。
あるいは、客先で、「経営方針」について議論するミーティングに出ていた時のこと。
創業からだいぶ時間がたち、事業も変化をしてきたので、方針を時代に合わせたい、という話が出た。
ところが、根本の部分、「何のための事業なのか」というところで、彼らは躓いた。
議論が一向にまとまらないのだ。
それまでは「顧客第一主義」といった、テンプレート通りの方針しか持たなかった彼らは、自分たちの事業の定義がうまくできなかった。
そして、会議が停滞してきたとき、クライアントの一人から言われた。
「安達さんのところの、方針を見せていただけないですか」と。
当時、我々は中小企業向けのコンサルティングを行っていたため
「大企業的」な「小難しい」雰囲気を持つ方針は排除されていた。
そのため、「お客様を元気にする」という表現を使っていた。(クライアント、ではなく)
正直なところ、私はその響きを「かっこ悪いのでいやだなあ」と思っていた。
ところが、このお客さんには、驚くほど刺さった。
「この表現、いいですね!」と大変褒められた挙句、その会社の方針には、元気にする、を少しもじった「顧客をエンパワーする」と言った文言が含められた。
なんだか悪いことをしたような気がしたが、「表現」がマッチすると、皆がとても前向きになったのだ。
それは、「クライアントの協力を仰ぐ」上では、確かに素晴らしいことだった。
そして、私は体面ばかりに気を取られていた自分を恥じた。
「一見かっこ悪くとも、言葉、そしてそのニュアンスをしっかり練ることで、人の行動や印象は大きく変わるのだ」と、認識したのだ。
*
今は、何の因果なのか、こうして文章を書く仕事をしている。
が、表現と、そのニュアンスについては、考えれば考えるほど奥深く、かつ難しい。
しかし、うまくいったときには、強大な力を持つものだ。
そう知ってから、言葉をつくるには、自分の力は不完全ではあると認識しつつも、「表現を練る」際に、手抜きだけはするまい、と思うのだ。
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(2024/12/6更新)
【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
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