以前勤めていた会社で、会話の時には「ちがう」と言ってはいけない、というルールがあったことを6月ごろに書いた。

コンサルタントやってた時、重要な対人技術として『「ちがう」と言うな』と習った。

コンサルタントのころ。対人技術を教わった。

様々なものがあったが、その中でも群を抜いて重要な技術の一つは

「会話の時、人の話を否定しない」こと。

具体的には、人に『ちがう』と言ってはいけなかった。

コンサルタントというのは、クライアントの力を借りないと、何もできない仕事だ。

本当に、何一つできない。

だから、クライアントとの人間関係はとても重要だった。

 

その「人間関係」の構築において、最も重要な事柄の一つが、上の「ちがう」に代表されるような、言葉の使い方だ。

 

言葉は使い方によって、人間の意識を変え、行動を変える。

だから、仕事では、面倒くさがらず「適切な言葉を選ぶこと」が極めて重要だった。

 

 

例えば当時、私が在籍したコンサル部門ではなく、会計監査の部門では、「お客さん」と言わず「クライアント」と呼称していた。

また、仕事を取ってくる部署を、「営業」ではなく「開発」と呼んでいた。

 

「開発」と言うと、通常はシステム開発のことを想像する人が多いと思うが、監査では「営業部門」のことなのだ。

なんか変だなあ、と思って、私は上司に聞いてみた。

 

「なんか、意図があるのですか」と。

 

上司は言った。

「監査は、監査先の企業からお金をもらってる。でも、「お金をもらって監査」なんて、普通に考えたらおかしい。客観性が疑われてもおかしくない。」

「ですね。」

「だから、「お金は受け取ってますけど、我々はあくまでも第三者ですよ」と強調するために、「お客さん」とは呼ばない。「クライアント」だ。」

「……マジすか。」

「本当だ。営業を「開発」と言うのも同じ理由。お客さんじゃないから、営業でもない。」

 

私は思わず

「クダラネー」

と言いそうになったが、上司の真面目な顔にビビってしまい

「よくわかりました」

とおとなしく答えた。

 

ただ、それを聞いても私は「変なところにこだわるなあ、細かい言葉のちがいなんて、どうでもいいっしょ」と思っていた。

 

 

だが上司は、非常に言葉にうるさかった。

 

例えば「問題」と「課題」のちがい。

これは専用のテキストまであり、「絶対に混同して使うな」と教えられた。

 

これはのちに、小難しい議論を好む人ほど

「問題」じゃない、「課題」だ

と強く主張することが結構多く、「厳密に教えてもらっていてよかった」と強く思った。

 

あるいは「失敗」と言うな、「成長ネタ」と言いなさい、とも言われた。

正直なところ、「馬鹿馬鹿しい」と最初は思った。

 

小学生じゃあるまいし、「失敗」と言って何が悪い、と。

 

しかし、「失敗」の発表の場で、誰が発表したいと思うだろうか。

社長が「成長ネタ」を披露してください、とコンサルタントに言い、事例の共有がなされるにつれ、「成長ネタ」という言葉が、心理的安全性を作っていることに、やがて気づいた。


私が考えていた以上に、「失敗」と言わないことは重要だったのだ。

 

 

あるいは、客先で、「経営方針」について議論するミーティングに出ていた時のこと。

 

創業からだいぶ時間がたち、事業も変化をしてきたので、方針を時代に合わせたい、という話が出た。

ところが、根本の部分、「何のための事業なのか」というところで、彼らは躓いた。

議論が一向にまとまらないのだ。

それまでは「顧客第一主義」といった、テンプレート通りの方針しか持たなかった彼らは、自分たちの事業の定義がうまくできなかった。

 

そして、会議が停滞してきたとき、クライアントの一人から言われた。

「安達さんのところの、方針を見せていただけないですか」と。

 

当時、我々は中小企業向けのコンサルティングを行っていたため

「大企業的」な「小難しい」雰囲気を持つ方針は排除されていた。

そのため、「お客様を元気にする」という表現を使っていた。(クライアント、ではなく)

 

正直なところ、私はその響きを「かっこ悪いのでいやだなあ」と思っていた。

ところが、このお客さんには、驚くほど刺さった

 

「この表現、いいですね!」と大変褒められた挙句、その会社の方針には、元気にする、を少しもじった「顧客をエンパワーする」と言った文言が含められた。

 

なんだか悪いことをしたような気がしたが、「表現」がマッチすると、皆がとても前向きになったのだ。

それは、「クライアントの協力を仰ぐ」上では、確かに素晴らしいことだった。

 

そして、私は体面ばかりに気を取られていた自分を恥じた。

「一見かっこ悪くとも、言葉、そしてそのニュアンスをしっかり練ることで、人の行動や印象は大きく変わるのだ」と、認識したのだ。

 

 

今は、何の因果なのか、こうして文章を書く仕事をしている。

が、表現と、そのニュアンスについては、考えれば考えるほど奥深く、かつ難しい。

 

しかし、うまくいったときには、強大な力を持つものだ。

そう知ってから、言葉をつくるには、自分の力は不完全ではあると認識しつつも、「表現を練る」際に、手抜きだけはするまい、と思うのだ。

 

 

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【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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