トロント大の哲学者、ジョセフ・ヒースによる「反逆の神話 「反体制」はカネになる」を読んだ。

哲学者らしい、皮肉たっぷりの本だったが、なかなか楽しめた。

 

一言でいうと、「オルタナティブ」や「カウンター・カルチャー」と呼ばれる、いわゆる反体制思想は、ロクなもんじゃない、と言う主張をこれでもかと詰め込んだ本だ。

忙しい人は、最後の「結論」だけ読めば十分だと思う。

 

ちなみに、なぜロクなものではないのか、抜粋すると、次の3つになる。

 

・反体制は、多くの場合「反逆」をウリにして、自分の地位をあげようとしているだけ

・反体制は、社会問題の原因をすべて「現在の体制が悪い」に押し付けるので、目の前の社会問題の解決に役立たない

・グローバリゼーションや、市場を否定するだけで、その有用性には目をつぶっている

 

これらをどう思うかは、各人に委ねる。

 

が、私の場合は、昔ともに仕事をした、上司批判を繰り返す、一人のオジサンを思い出した。

たぶん、企業でも同じことが言えるのだ。

 

 

ある電機メーカーの仕事をしたときのこと。

私達は、その会社の本部長から依頼を受け、プロジェクトを取りまとめることになった。

 

こちらからは3名、先方からは5名のメンバーが選出された。

合計8名で推進するプロジェクトだったと記憶している。

 

 

その中の一人が、例のオジサンだ。

彼の肩書は、「担当部長」。

当時50歳弱だったと思うが、肩書は、部下を持たない部長待遇を示す。

 

要は、出世街道からはずれ、「部下を持つ部長になれなかった人」だった。

とはいえ、彼は付き合いやすい人間だった。

 

得意技は営業で、外部との交渉が非常にうまかった。

社内に人脈も多く、ガハガハ笑って、場を盛り上げるタイプだった。

 

 

ある日、夕方の打ち合わせが終わり、「担当部長」と、そのほかのメンバーに誘われ、飲みに行った。

夜に予定がないのは私一人だけだったため、私一人、相手方5人、という構成だった。

完全にアウェーの飲み会である。

 

最初はプロジェクトの進捗や、社内調整についての穏当な話が続いた。

 

が、酒が回ってくると、徐々に「愚痴」が増えてくる。

19時を回るころには、私は一人で、彼らの愚痴を一手に引き受けることになった。

 

私は会社から、「こういう時には、黙って愚痴を聴きなさい。人間関係を知る良いチャンスだから」と教わっていたため、ひたすら彼らの話の聞き役に回った。

 

するとどうだろう。

普段は見えない感情が、浮き彫りになってきた。

 

実は、その「担当部長」は、今の本部長や、経営陣に対して、大きな不満があった。

特に、このプロジェクトのオーナーである「本部長」に対して。

 

「あの人はうまくやっているが、本部長の器じゃない」

とか

「数字を作る力がない」

など、歯に衣着せぬ批判を繰り返したのだった。

 

私は驚いた。

社内の人間が4人もいて、さらに外部の人間、しかも、本部長から依頼を受けて動いている、コンサルタントがいる場だ。

そんなことを言ってしまってよいのだろうか、と、逆に私は怖くなってしまった。

 

私は残りの4人の表情を伺った。

 

すると、一人の40代半ばのベテランも、「まあ、そうですよね」といった同調を始めた。

30代の二人も、便乗して会社批判を始めた。

 

一番若い、20代のメンバーだけは、「そうなんですねー」と、私と同じような立ち位置で、愚痴を聴いていた。

 

結局、妙に彼に気に入られた私は、夜中の1時過ぎまで連れまわされ、家にたどり着いたのは2時を回っていた。

 

 

翌日、私はそこで聞いた話を、プロジェクトの上司、つまり飲み会に参加しなかった、リーダーに言った。

本部長への不満を散々聞いたため、「プロジェクトのリスクではないでしょうか」と進言したつもりだった。

 

ところがリーダーは、

「何か仕事は滞ってるか?」

「実際に、トラブルは起きているのか?」

と私に尋ね、私が「起きてません」というと、「そんなん、リスクでも何でもない」といった。

 

私は予想外の答えが返ってきたので、「なぜでしょう?」とリーダーに聞いた。

すると、彼は言った。

「だって彼らは、安達さんたちに「俺らは上の批判ができて、すごいんだぞ」とアピールしたかっただけだから。」

 

私がポカンとしていると、彼は言った。

「ある程度能力があったけど、出世できなかった人は、だいたい、上に反抗的な立場をとるようになるね。そうして、社内で存在感をアピールするんだよ。」

 

私は合点がいった。

「なるほど。」

「いいガス抜きだから、聴いてあげて。それが原因でトラブったら教えて。」

「はい。」

 

しかし、そのあとにリーダーが言った言葉は、さらに衝撃だった。

「本部長から、「あいつ(担当部長のこと)、何かと文句ばかりだけど、仕事はできるから、プロジェクトでちゃんと使ってあげてね」って言われてる。」

 

私は寒気がした。

「本当ですか。」

「うん、それも分かっての、メンバーアサインだから。気にしなくていいよ。」

「了解しました。」

 

 

こうして私は、また一つ、人間関係の妙味を知った。

 

「反体制」を気取る人たちの気持ち。

それでも、そういった人たちを利用する、やり手がいること。

 

そういった、表には出てこない話を、肌で体感したのだった。

 

 

 

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安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
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(2025/6/2更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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