トロント大の哲学者、ジョセフ・ヒースによる「反逆の神話 「反体制」はカネになる」を読んだ。
哲学者らしい、皮肉たっぷりの本だったが、なかなか楽しめた。
一言でいうと、「オルタナティブ」や「カウンター・カルチャー」と呼ばれる、いわゆる反体制思想は、ロクなもんじゃない、と言う主張をこれでもかと詰め込んだ本だ。
忙しい人は、最後の「結論」だけ読めば十分だと思う。
ちなみに、なぜロクなものではないのか、抜粋すると、次の3つになる。
・反体制は、多くの場合「反逆」をウリにして、自分の地位をあげようとしているだけ
・反体制は、社会問題の原因をすべて「現在の体制が悪い」に押し付けるので、目の前の社会問題の解決に役立たない
・グローバリゼーションや、市場を否定するだけで、その有用性には目をつぶっている
これらをどう思うかは、各人に委ねる。
が、私の場合は、昔ともに仕事をした、上司批判を繰り返す、一人のオジサンを思い出した。
たぶん、企業でも同じことが言えるのだ。
*
ある電機メーカーの仕事をしたときのこと。
私達は、その会社の本部長から依頼を受け、プロジェクトを取りまとめることになった。
こちらからは3名、先方からは5名のメンバーが選出された。
合計8名で推進するプロジェクトだったと記憶している。
その中の一人が、例のオジサンだ。
彼の肩書は、「担当部長」。
当時50歳弱だったと思うが、肩書は、部下を持たない部長待遇を示す。
要は、出世街道からはずれ、「部下を持つ部長になれなかった人」だった。
とはいえ、彼は付き合いやすい人間だった。
得意技は営業で、外部との交渉が非常にうまかった。
社内に人脈も多く、ガハガハ笑って、場を盛り上げるタイプだった。
*
ある日、夕方の打ち合わせが終わり、「担当部長」と、そのほかのメンバーに誘われ、飲みに行った。
夜に予定がないのは私一人だけだったため、私一人、相手方5人、という構成だった。
完全にアウェーの飲み会である。
最初はプロジェクトの進捗や、社内調整についての穏当な話が続いた。
が、酒が回ってくると、徐々に「愚痴」が増えてくる。
19時を回るころには、私は一人で、彼らの愚痴を一手に引き受けることになった。
私は会社から、「こういう時には、黙って愚痴を聴きなさい。人間関係を知る良いチャンスだから」と教わっていたため、ひたすら彼らの話の聞き役に回った。
するとどうだろう。
普段は見えない感情が、浮き彫りになってきた。
実は、その「担当部長」は、今の本部長や、経営陣に対して、大きな不満があった。
特に、このプロジェクトのオーナーである「本部長」に対して。
「あの人はうまくやっているが、本部長の器じゃない」
とか
「数字を作る力がない」
など、歯に衣着せぬ批判を繰り返したのだった。
私は驚いた。
社内の人間が4人もいて、さらに外部の人間、しかも、本部長から依頼を受けて動いている、コンサルタントがいる場だ。
そんなことを言ってしまってよいのだろうか、と、逆に私は怖くなってしまった。
私は残りの4人の表情を伺った。
すると、一人の40代半ばのベテランも、「まあ、そうですよね」といった同調を始めた。
30代の二人も、便乗して会社批判を始めた。
一番若い、20代のメンバーだけは、「そうなんですねー」と、私と同じような立ち位置で、愚痴を聴いていた。
結局、妙に彼に気に入られた私は、夜中の1時過ぎまで連れまわされ、家にたどり着いたのは2時を回っていた。
*
翌日、私はそこで聞いた話を、プロジェクトの上司、つまり飲み会に参加しなかった、リーダーに言った。
本部長への不満を散々聞いたため、「プロジェクトのリスクではないでしょうか」と進言したつもりだった。
ところがリーダーは、
「何か仕事は滞ってるか?」
「実際に、トラブルは起きているのか?」
と私に尋ね、私が「起きてません」というと、「そんなん、リスクでも何でもない」といった。
私は予想外の答えが返ってきたので、「なぜでしょう?」とリーダーに聞いた。
すると、彼は言った。
「だって彼らは、安達さんたちに「俺らは上の批判ができて、すごいんだぞ」とアピールしたかっただけだから。」
私がポカンとしていると、彼は言った。
「ある程度能力があったけど、出世できなかった人は、だいたい、上に反抗的な立場をとるようになるね。そうして、社内で存在感をアピールするんだよ。」
私は合点がいった。
「なるほど。」
「いいガス抜きだから、聴いてあげて。それが原因でトラブったら教えて。」
「はい。」
しかし、そのあとにリーダーが言った言葉は、さらに衝撃だった。
「本部長から、「あいつ(担当部長のこと)、何かと文句ばかりだけど、仕事はできるから、プロジェクトでちゃんと使ってあげてね」って言われてる。」
私は寒気がした。
「本当ですか。」
「うん、それも分かっての、メンバーアサインだから。気にしなくていいよ。」
「了解しました。」
*
こうして私は、また一つ、人間関係の妙味を知った。
「反体制」を気取る人たちの気持ち。
それでも、そういった人たちを利用する、やり手がいること。
そういった、表には出てこない話を、肌で体感したのだった。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
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