最近「二月の勝者」というテレビドラマが始まって、中学受験界隈がにぎわっていると聞いた。

 

中学受験については、2年ほど前にも書いた。

良い体験だったと思える子供が増えると良いな、と思う。

 

特に、「小学校が合わない」という子には、学校とは全く異なる価値観で動いている中学受験は向いている。

「中学受験が向いている子」とはどんな子か。

学校に対して感じていた「閉塞感」を塾が壊してくれたのが、何より嬉しかった。

「僕には塾があるんだ」と思えたおかげで、小学校の苦痛が軽減されたのだ。

 

勉強も、スポーツや芸術で競い合うのとまったく同様に、成果を残せば思い切り褒めてもらえる。

それは立派な個性だし、健全なことだ。

(出典:2月の勝者(2)高瀬志帆 小学館)

 

ただ、中学受験は誤解を招きやすいのも確かだ。

中学受験を経験したことのない人のほうが圧倒的に多いので、勝手な想像で「悪」と決めつけている人も少なくない。

 

例えばこんな記事にあるような批判がある。

中学受験は、そろそろ根本的に変わったほうがいい

中学受験はおよそ害悪だ。私がそう思う理由は単純だ。それが子どもたちの役に立っていないからだ。(中略)当事者のもう一方である子どもたちにとって、得られるものは「合格」以外のものはなにもない。(中略)

その本質は無視して、ともかく点数を上げることだけにフォーカスする。

そのためにはまず「出そうな問題」を洗い出し、そしてその解法をパターン化する。パターン化した解法を難易度順に整理し、そのひとつずつを段階的に反復させていく。

そうすることで解法パターンを暗記させ、いつでも使えるような道具にする。そうすれば、自動的に高得点が取れるようになる。

 

言いたいことはわからなくもないが、「子供の役に立たない」は、私の経験から言っても真っ赤なウソだし、「パターン化」だけで解けるような問題は、中学受験の本流ではない。

 

また、百歩譲って、「パターン化」で解ける問題だけが出題されるとしても、「パターン化して取り組む」は重要な技能の一つで、企業では頻繁に用いられる。

 

例えば新人の訓練。

まずパターン化できる仕事をやらせ、それをそつなくこなせるようになってから、高度な仕事に取り組ませる。

あるいは標準化。

仕事をパターン化できれば、システムに落としたり、外注化したりもできる。

 

そもそも、新しい知識の取り入れ方、その活かし方、応用のしかたは、一生使える。

だから、受験で経験したことは、大人になってからも十分役に立つ。

 

 

ただ、そうした「大人になって役に立つ/立たない」という議論だけでは、何か勉強の本質を外している気もする。

 

中学受験に限らないが、勉強において、役に立つ/役に立たないという議論よりもはるかに重要なのが、「ある種の人たちにとっては、勉強は最高に面白い」という事実だ。

特に、塾の授業や、そのコンテンツは、小学校よりもはるかに面白い。

 

例えば、私が憶えているのは「光」についての、講師の先生の投げかけだった。

 

今でもよく覚えているのだが、先生はこんな感じの質問を授業中、生徒にした。

「夜空はなぜ、明るくないと思う?」

 

私たちは戸惑った。

誰かが、「夜は、太陽が出ていないからじゃないですか?」と答えた。

 

ところが先生は言った。

「それは答えになっていない。宇宙空間には、夜空であっても、太陽の光がとおっているはず。なのに暗い。なぜ?」

 

確かにそうだ。

太陽は地球よりはるかに大きく、夜空にも太陽光線はあるはず。

ではなぜ、昼間は明るく、夜は暗いのか。

 

そうやって、先生はいつも、私たちに頭を使わせ、ディスカッションさせた。

 

塾の先生は、学校の先生と違って、難しい問いばかり発した。

深く考えろ、といつも言われた。

それは、小学校の退屈な授業に比べて、とても刺激的だった。

 

 

首都圏の中学受験の塾で、最も有名、かつ人気があるのはSAPIX(サピックス)だろう。

有名中学の合格者の6割は、SAPIXの出身者で占められているというから、圧倒的な実績だ。

 

ただ、学習塾そのものを嫌う人も少なくない。

SAPIXについても「詰め込み」だとか「金儲け主義」だとかの批判もある。

私もそうしたうわさをよく聞いた。

 

しかし、そのSAPIXの「授業の雰囲気を伝える動画」を見たとき、考え方が変わった。

 

社会科の先生らしき人が、「昨今の入試問題と、SAPIXの授業」というテーマで、こんな趣旨のことを言っていた。

ある有名中学の社会の入試問題で、3C(カラーテレビ、クーラー、自家用車)は、生活に変化をもたらしましたが、どんな変化だったでしょうか?という問題が出ました。

すると、ある参考書では「エネルギー消費が激しくなった」と解答例がありました。

ただ私はそれに対して納得がいきませんでした。

 

そこで、そこに進学した教え子に、「どんなことを書いた?」と聞いたところ、「今までよりもコミュニケーションの少ない生活になった」と答えたのです。

私はこれは、正解だと思います。

 

こういった答えを、その場で出せるようになってくれたのは、とても嬉しいことです。

知識をもとに、自分の頭で考えられるかどうかを試されていますが、こういった問題が、昨今では中心です。

 

私たちの授業は、例えば社会なら写真を一枚見せて、生徒で討論します。時には、社会の話から気候の話に飛んだり、ビニルハウスの話から太陽光発電の話に飛んだりもします……

この動画を見て、私は純粋に「すごいな」と思った。

たぶん、小学校の授業が退屈でしかたない子でも、この授業なら、楽しめるんじゃないだろうか、と思ったのだ。

 

もちろん、SAPIXは、入室そのものにハードルがあり、アタマの良い子供が集まるので、「勉強が苦手」という子供のためのものではないのだろう。

ただ、勉強が好きな子、知的パワーを持て余している子にとっては良い環境だろう。

 

そもそも、中学受験において、ハイレベル校に合格するような子供は、12歳の時点で、公立進学校の高校三年生程度の読解力があると、数学者の新井紀子は指摘している。

「御三家」と呼ばれるような超有名私立中高一貫校の教育方針は、教育改革をする上で何の参考にもならないという結論に達しました。

理由がわかりますか? そのような学校では、12歳の段階で、公立進学校の高校3年生程度の読解能力値がある生徒を入試でふるいにかけています。実際にそのような中学の入試問題を見ればわかります。まさにRSTで要求するような文を正確に、しかも集中してすらすら読めなければ、スタート地点に立つことさえできないように作られているのです。

SAPIXは「受験塾」を標榜している。

 

が、それは「勉強のできない子をできるようにする」のではなく、本質的には「素養のある」子供に対して、知的な楽しみを提供し、中学に送り出す場所なのではないか、そう理解した。

 

 

だから、中学受験は「万人を対象としたもの」ではないことは、上の話からも明らかだ。

 

以前に寄稿された記事にもあるが、スポーツと同様に、勝つためには努力以外の要素も必要なのである。

実は多くの東大生や医大生は血の滲むような努力なんてしてない。才能がない人間が入り込もうとするから、大変なだけなのだ

真ん中から上に位置する人間は、努力はしたっちゃしたのだろうけど、苦行みたいな努力なんて全然していない。

多くの人達は空気を吸うかの如く、目の前にある課題を黙々とこなす事ができた人間ばかりである。

 

別に中学受験なんぞやらなくても、問題はない。

勉強が好きで、自分の能力を持て余している子だけがやればよいのだ。

 

実際、もっとも受験熱の高い、東京ですら中学受験率は、たったの3割で、全国レベルで見れば、1割にも満たない。

 

ただ、まちがいなく、ある種の子供たちにとっては「塾は、最高の環境」であり、それこそ、彼らの最初の「自己実現」の場なのだ。

(出典:2月の勝者(11)高瀬志帆 小学館)

 

そうしたことを改めて発信するコンテンツである「二月の勝者」。

中学受験をフェアに評価するためには、一度目を通しておいてもよいのではないかと思う。

 

 

 

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【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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