ちょっと前に温泉むすめというコンテンツを巡って喧々諤々の議論が勃発した。
出張先で「温泉むすめ」のパネルを見て、なんでこんなものを置いているの😩💢と思って調べたらひどい。スカートめくりキャラ、夜這いを期待、肉感がありセクシー、ワインを飲む中学生、「癒しの看護」キャラ、セクシーな「大人の女性」に憧れる中学生など。性差別で性搾取。https://t.co/vw3w00zAPu pic.twitter.com/jkWRsvQKCa
— 仁藤夢乃 Yumeno Nito (@colabo_yumeno) November 15, 2021
この手のセクシャルな表現が組み込まれたものは定期的に炎上する。
それをもって告発する側は「日本社会は遅れている。いくら頑張っても全く進歩しない」という類の事をいうが、これについて「それは間違いだ」という興味深い指摘をする本がある。
セクハラ論争は壮大なループものだった
”心を病んだらいけないの?うつ病社会の処方箋”という本に出てきた事例だが、筆者である與那覇潤氏はセクハラ論争はまるでループものの小説やアニメのようだという。
彼は2017年に起きたMeToo運動を始めとするセクハラ告発ブームは既に平成初頭にもあったという事例をあげ、そしてそれを皆が忘れているという事実を本の中であげる。
以下で詳しく見ていく事にしよう。
実は平成元年(1998年)に「セクシャル・ハラスメント」が大きく取り上げられている。
キッカケは当時の首相による女性スキャンダルで、この事を通じて世間ではセクハラに対する批判が大いに盛り上がった。
この首相のセクハラ問題もあって当時の自民党は歴史的な敗北を喫した。
その一大ムーブメントはセクハラがその年の流行語大賞の金賞を受賞するほどまでの勢いだったという。
このようにかつてセクハラ・ムーブメントはとてつもなく盛り上がった。
にも関わらず、後年になってMeToo運動が勃発しているのだから、セクハラ・ムーブメントはこの手の性的スキャンダルを根絶できるほどには社会を大きくは変えられなかった。
どうして?それはセクハラ・ムーブメントが加速していった結果、むしろ逆に生きにくい社会が到来しそうになったからだと與那覇潤さんは説く。
セクハラ認定を強化していくと、逆に生きづらくなる
このセクハラ・ムーブメントが加速していく中、ある女性バンドが解散ツアーをする事となった。
そしてお別れツアーのポスターでメンバーが縄でぐるぐる巻きとなった写真が使われたのだが、この表現が”炎上”した。
「SMプレイを連想させて猥褻だ」
「女性への暴力を助長するからこの表現はよくない」
女性が縄でぐるぐる巻きとなった構図だけを切り取り、このような批判が噴出したのだという。
実はこの縄でのぐるぐる巻きはバンドメンバー自体の置かれた状況の暗喩で
「いまはバンドの存在自体がこんな風に私達を拘束するような自体になってしまった」
という比喩表現だったのだが、そういう文脈を無視した写真単体での切り取り図だけが先行し、結果として意図しなかった意味だけが勝手に一人歩きをしたのだという。
この事件だけではないだろうが、これらの事件を通じて世間では
「セクハラ認定を強化していくほど女性が活躍しやすい自由な社会ができるという神話は怪しいのではないか?」
という空気が蔓延するようにもなったのだという。
歴史は繰り返すとはいうものの…
そして早くも翌年になると
「男女平等なんて幻想。男が男らしさを発揮してこそ秩序が保たれるのだ」
という事が書かれた「父性の復権」という本がベストセラーになる。
かくして1999年に男女共同参画法が施行される頃にもなると「女性の権利の強調は行きすぎた」という論調が保守的な人々の中で根を下ろすようになり、フェミニズムは当初とは異なりバッシングの対象と成り下がってしまったのだそうだ。
この一連の流れをみて、さすがの僕も頭を抱えてしまった。
歴史は繰り返すとはいうし、別に似たような事例が起きたとしても不思議なことではないのかもしれないが、さすがに平成初頭に起きた事がもう一度同じような形で繰り返されているともなると…馬鹿馬鹿しいにも程がある。
保守の復権に男らしさの再評価、そしてフェミニズム批判…一部のTwitter界隈で最近勢力をつけてきた”女性嫌悪”と言われている界隈のやっている事と全く同じで、あまりにも堂々巡りである。
そういう風に言われてみれば、確かに平成そして令和と、時代はループしているのかもしれない。
つまり日本社会が遅れていて、いつまでたっても進歩しないのではない。
この議論はメビウスの輪のように同じ場所をグルグルと回っているだけだったのである。
属性による平等をやりすぎると、分断が生じる
セクハラ論争が壮大なループものであるという可能性が提示された以上、次に私達が考えなくてはならないのは「どうやったらループから抜け出して先に進めるのか」だろう。
この解決策をあげる事は非常に難しいが、ありがたい事に既に大失敗した類似の先行事例がある。
それがアメリカにおけるアファーマティブ・アクションだ。
御存知の通りアメリカでは黒人やLGBTを始めとするマイノリティと言われている人達に対して、少数派優遇策としてアファーマティブ・アクションというものがとられている。
例えばハーバード大学の合格最低点は黒人とアジア・白人系とでは全く異なるものとなっており、それが加速した今現在、願書にアジア系民族と書かれているだけで合格難易度が桁違いにあがる。
具体的にいえば「高校の成績は常にトップクラス。討論や数学の全国、州の大会で何度も入賞した。それなのにハーバードを含めた上位30校全てが入学を認めなかった」という事例もあるのだそうだ。
いやはや…属性で人を区別するという事は難しいものである。
日本でも現在、女性役員の比率を高めようとSGDsを掲げて改革が行われつつある。
役割や立場によって人が育つという部分もあるだろうからこの試みにも一定の効果は出るだろう。
だが、もし仮にこれがグイグイと推し進められて米国におけるいま現在の失敗したアファーマティブ・アクションのような事態へと進展するであろう事は想像に難くない。
そうなると、今度は皆が己の属性をいかに”強くなさそうに”みせるか。
もっと言えば弱者の皮をどうやってかぶるかというような、本末転倒な事態へと事が運む。
それが更に加速した結果がトランプ大統領だ。
多数派の中にいた強くはなれないもの達が「弱者こそが逆に私達の権利を脅かしているのではないか?」とスイッチが入ってしまうと…分断が生じる。
結果はもう言わずもがなだろう。
こうなってしまったらお終いだ。確かにループからは脱却できたかもしれないが、最悪のバッドエンドである。
被害者ポジションを反撃されない為の魔法として使用しない
加害や被害というモノをこの世から根絶することは難しい。
私達は誰しもがそのどちらかの立場になる可能性を秘めている。
その事を前提として、僕はこう主張したい。
己の意見を語るのに被害者ポジションを利用するのを辞めるべきである、と。
冒頭に出てきたようなフェミニストの人達が妙に攻撃的になってしまうのは、大前提として「女性が性的に搾取されている」というような被害者ポジションを取っているからというのがあるように思う。
「自分は被害者である」あるいは「自分は被害者の為に戦っている」というスタンスを確保した後に攻撃を発射するのは極めて卑怯なやり口だ。
極端な事をいえば、それに対する反論全てに「あなたは被害者の気持ちを無視するのですね」というようなやり口でもって相手の口を塞げてしまう。
いってみれば、これは予め相手の反撃を無効化した上での一方的な攻撃行為であり、相手との対話の可能性が予め除外している。
相手を単に殴りたいだけだというのならこの技は極めて有効だろうが、そこに対話の余地がないのなら関係改善の要素はゼロといっても過言ではない。
実際、被害者ポジョンをとってから活動をする人は自分が反撃されるという前提が無いからなのか、攻撃されると突然過激な反応を示す傾向が極めて高いようにも思う。
それは単なる喚き散らしでは終わらず、時に殺害予告やキャンセル・カルチャーを通じての公的空間からの排除といった、傍からみれば殲滅にも近い行いとなる事すらある。
<参考>
自分の攻撃は正義で相手の攻撃は悪という認知がベースなら、そうなる理由もわかろうというものではあるが…そういう血で血を洗うような戦争はできれば勘弁してもらいたいところである。
属性をあえて身にまとわないという積極的姿勢が大切となっていく
弱者を語りすぎるものは遅かれ早かれ加速してしまう。
実際問題弱者であろうが、それを全面に押し出さずに1人の人間としてまずは筋をもって対話をする事が肝心であり、話し合いに属性の優劣のようなものを持ち込むのはズルだという認知を徹底していく必要がある。
加速しない為にも、これからは属性をあえて身にまとわないという積極的姿勢が大切となっていく事だろう。
アファーマティブ・アクションの結果が何に繋がったのかを私達は真剣に学ぶ必要がある。
繰り返しになるが、弱者であるというコトを無かったもにしろという訳では無い。
弱者であるかどうかは別にして、私達は一人の人間としてモノを語らなければならないのだ。
私達は属性を身に纏わずに語れないようなモノを、あえて主語をデカくして話す事で大問題としてしまう事の弊害を、歴史から学ばなくてはならない。
属性を、あえて身にまとわない。
相手との話し合いを前提とした、建設的な関係を築き上げる事を目標としたお作法の流布が今という時代だからこそ求められているのである。
失敗したら…きっと我々はまたループするのだろう。
できればその先へと、生きている間に進みたいものである。
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【著者プロフィール】
都内で勤務医としてまったり生活中。
趣味はおいしいレストラン開拓とワインと読書です。
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noteで食事に関するコラム執筆と人生相談もやってます
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