ちょっと前に、大人用オムツの売り上げ高が新生児用オムツの売り上げ高を越えたということを知ってファーwwwとなったのだけど、今読んでる犬の飼育記に「日本の15歳以下の人数より、ペットとして飼われている犬猫の方が多い」と書かれててさらにファーwwwとなると共に、わかる!となってる
— タビトラ (@tabitora1013) October 20, 2017
リンク先によれば、日本の15歳以下の人数より、ペットとして飼われている犬猫のほうが多いのだそうだ。
実際どうなんだろうと思って調べてみると、犬猫の総数自体も少しずつ減っていて、現在は2000万頭を切っていることがわかった。
※平成28年 全国犬猫飼育実態調査 より。
とはいえ、現在の日本の15歳以下の人口は既に1600万人を切っているので、冒頭で紹介したtwitterのコメントは間違っていない。
犬猫に比べれば、子どもを育てるにはお金もかかるし、心配しなければならないこと・負わなければならない責任も多い。
ペットを飼うような感覚で子どもをもうける人は今日の日本では稀なので、出生数を増やさなければ国が衰退するからといって、おいそれと、個人が子どもをもうけるとは考えられない。
「誰が子どもをもうける主体者なのか」
さっき私は、何気なく「個人が子どもをもうけるとは考えられない」と書いた。
そう、個人、である。
現代社会において、子どもをもうける主体となるのは、個人である。
それも、男性ではない。実際に妊娠を選択し、出産をも選択するのは、女性個人である。
女性個人が子どもを産みたい・育てたいと決定した時だけ、この国では子どもが生まれて、子どもが育てられる。
かつては、イエとか、国とか、そういったユニットが子どもをもうける主体者だった。
子どもをもうける主体者は男性側だった、とも言い換えられるかもしれない。
出産のリスクや子育ての負担を、女性が全面的に負担していたにも関わらず、女性の意志や主体性は軽んじられて、蔑まれていた。
今日でも、先進国とは呼ばれない国々においては、そのような傾向はまだまだ残っている。
しかし、女性の権利が守られるようになり、女性の意志や主体性が尊重されるようになると、子どもをもうける主体が、イエや国や男性となることはあり得なくなった。
少なくとも日本では、この数十年の間に、そのような傾向は大幅に少なくなった。
今日では、子どもをもうけるか否かは、女性ひとりひとりが自己決定することとされている。
女性が子どもをもうけない・もうけられないと判断したら、子どもは生まれない。
子どもをもうけない・もうけられないと判断している女性を、無理矢理に孕ませて、無理矢理に子育てさせて子どもが増えるようなことは、21世紀の日本では起こり得ない。
だから、子どもを増やしたい・国の人口を回復したいと思ったら、やるべきことはきわめてシンプルなのだ。
少なくとも、原理的にはシンプルである。
日本全国の女性が、子どもを産みたくて育てたくて仕方がない状態をつくることである。
子どもを産んで育てるほど幸せになれるとか、儲かって笑いが止まらないとか、そういう構図をつくれば、子どもは増える。
それこそ、どんどん増えるだろう。
逆に言うと、日本全国の女性に、子どもを産みたい・育てたいとモチベーションづけることができない限り、日本の人口は、絶対に、絶対に、絶対に! 増えることはない。
子どもを生むという行為の、実務と決定主体の両方を女性が握っている以上、その女性が子どもを産みたくならない限り、人口が増加に転じることなどあり得ない。
少子高齢化について、いろいろなことが言われて、いろいろな政策が採られている。
子ども手当、待機児童問題の解決などは、やらないよりはやったほうが良い政策だろう。教育無料化などもそうだ。
しかし、これらの政策は、いずれも「子育ての負担を減らすためのもの」「子育ての難易度を下げるためのもの」と女性には感じられていることだろう。
子どもを産みたいけれども、経済的負担や育児問題があって躊躇っている人の背中を、ほんの少し押すようなものだ。
この水準で、人口が増加に転じるほどの出生率増加――つまり、出生率が2を軽々と超えるような出生率――が生じるとは思えない。為政者も、そこまでは期待していないだろう。
この個人主義社会においては、女性が子どもを産むほど収入が得られ、女性が子どもを順調に育てるほど収入が伸びるような状況にでもならない限り、出生率が増加に転じるとは思えない。
現在でも、次から次へと子どもをもうける女性がいないわけではないが、数は少ない。
大多数の女性が次々に子どもをもうける社会になるためには、子どもが増えるほど女性の年収が高くなって、子育ての上手な女性のなかから、出産と子育てを専業とするプロが現れるぐらいでなければなるまい。
それこそ、子どもを6人立派に育てあげている母親の年収が、それだけで1000万~2000万円になるのが当然の社会が望ましい。
国家が子育てに支払うとしても、民間が「子育てファンド」のようなかたちで支払うとしても、子どもと年収が直結することにグロテスクさをおぼえる人もいることだろう。私も、その一人である。
だが、これほどまでに個人主義と資本主義が私達の価値観のうちに浸透して、それに基づいて個々人が行動を選択するようになった以上、挙児や子育ての領域でも、そういった価値観との辻褄合わせは必要なはずである。
そして、その辻褄合わせができずにグズグズしている国は、子どもが減って国が傾いていくのが道理だろう。
それだけの政治決定が、日本でできるのか?
やるべきことがシンプルでも、やってのけるための条件は複雑だ。
女性が子どもを産むほど収入が増えて、順調に育てるほど収入が伸びるような社会を実現するのは、現在の日本の政治状況では困難である。
これに近いことを成し遂げている国が無いわけではない。
ひとつは、出生率の回復が報じられて久しいフランス、もうひとつは最近になって出生率が急速に回復したロシアだ。
※グラフはgoogleからの引用
[関連]:日本以上に深刻な少子化問題を解決した、ロシアの大胆な「奇策」 – まぐまぐニュース!
しかし、これらの国と同じことを日本でできるかといったら、なかなか大変そうである。
フランスは第一次世界大戦以来――というより、ナポレオンが戦争をやりまくって以来――少子化問題に向き合い続けてきた。
そのようなフランスと、半世紀前まで子どもが増えすぎることを心配していた日本では、少子化に対する合意形成の基盤は大きく異なる。
フランスは、子どもを産む女性を助けるためにたくさんの手を打っているようにみえるが、そうした援助は、最近になって急に始まったわけではない。
20世紀以前からの積み重ねの結果として、女性が子どもを産み育てやすい、現在のフランスができあがった。
そうした歴史的経緯の無い日本で、フランスと同等以上の政策をいきなりやってのけるのは、政治状況から考えて不可能だろう。
もっともっと日本が少子化問題に直面して、もっともっと少子化問題の痛みに苦しみ抜かない限り、フランス以上の政策を採れるような機運は生じないだろう。
一方ロシアは、フランスほど長くは少子化問題に向き合ってこなかったが、プーチン大統領が就任して以来、少子化対策が動き出した。
彼が就任する以前から、ロシアでも少子化は懸念されていたが、大した成果は得られていなかった。
だが、強い権力の集中した大統領が動いたことで、ロシアは強い少子化対策を実現することができた。
しかし、これはロシアという国の、強権的な大統領がやったことであって、議会制民主主義がしっかりと定着した日本でやれることではない。
先日の選挙では安倍総理率いる自民党が大勝したが、その自民党ですら、プーチン大統領と同じことをやろうとすれば選挙で敗けてしまう――つまり、できない――だろう。
強権的な政治構造のロシアにおいて、プーチン大統領という人物が出てきたからこそ、少子化対策に剛腕をふるうことが可能になった。
こんなことが、“まともな”議会制民主主義をやっている日本でできるわけがない。
フランスのように、少子化に向き合い続けてきた歴史的経緯も無く、ロシアのような、強権的な政治構造も無い日本は、結局、もっとスローな少子化対策しか採りようがない。
そんななかで、ときの政府が実施している少子化対策は、かなり頑張っているほうだと個人的には思うが、これでは間に合わない。
日本でフランスやロシア並みの少子化対策が進んで、たくさんの女性が子どもを産みたい・育てたいと思うようになるためには、もっと少子化問題にみんなが痛めつけられて、少子化を解決しなければ破滅しかないこと、未来を握っているのは、国でもイエでも男性でもなく女性個人であることを、骨身に染みるほど痛感しかければ、それに似つかわしい政治状況は立ち上がってこないだろう。
「母を大切にしない国はじきに滅ぶ」
女性が子どもをどれだけもうけて育てるかは、国全体の命運を左右し、経済の行方をも左右する、一大事だ。
その一大事が、女性それぞれの個人的な選択にゆだねられている以上、女性に対して豊富な選択肢を提供して、出産や子育てに携わる女性の立場や収入や権利を強化しない限り、国の衰退は不可避である。
だというのに、そのための政治決定ができない日本という国は、まだ当分は衰退し続けることを余儀なくされるのだろう。
「出産と子育てのスペシャリスト」が、ひとつのキャリアとして尊敬されて、経済的にも社会的にも報われるような社会に日本が到達するのに、あとどれぐらいかかるのだろうか。
母を大切にしない国は、父を大切にしない国や、老人を大切にしない国よりも早く、衰退するだろう。
――『シロクマの屑籠』セレクション 2017年11月6日投稿 より
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【プロフィール】
著者:熊代亨
精神科専門医。「診察室の内側の風景」とインターネットやオフ会で出会う「診察室の外側の風景」の整合性にこだわりながら、現代人の社会適応やサブカルチャーについて発信中。
通称“シロクマ先生”。近著は『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(花伝社)『「若作りうつ」社会』(講談社)『認められたい』(ヴィレッジブックス)『「若者」をやめて、「大人」を始める 「成熟困難時代」をどう生きるか?』『健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて』(イースト・プレス)など。
twitter:@twit_shirokuma
ブログ:『シロクマの屑籠』
Photo by Jenna Christina