インターネット上では、コミュニケーションの複雑さ・ややこしさを愚痴っている人をそこここで見かけるのですが、コミュニケーションって、複雑でややこしいほど有利なものでしょうか?

 

そういう場合もあるかもしれません。

しかし、すべての場合ではなく、むしろ不利だから複雑でややこしいコミュニケーションで何とか解決しようとあがいていることも多いよう、思われるのです。

 

今回とりあげる複雑なコミュニケーションとは、「メタメッセージ」。

この「メタメッセージ」はどのように受け止め、取り扱うのが良いのでしょうか。私なりの考えを述べてみます。

 

「いわゆる京都ブブ漬け」にどう対処するのが適当か

世の中のあちこちに、メタメッセージが飛び交っています。

「どうぞごゆっくり」が「さっさと飯食って帰れ」を含んでいることも、「勉強熱心ですね」が「ボヤボヤしてんじゃねえよ」を含んでいることも、「実は一緒に考えて欲しいんだけど」が「ナデナデしてください」を含んでいることも珍しくありませんよね。

 

こうしたメタメッセージを煩わしく感じる人がいるのは無理ならぬこと。

とはいえ、タテマエを尊重しながらホンネをやりとりしたり、お互いの面子を尊重しあいながら火花を散らせたりと、メタメッセージだからこそ成立するコミュニケーションもありますから、きっと100年後の人間もメタメッセージを用いていることでしょう。

 

では、メタメッセージに対して私たちはどう向き合うべきなのか。

巷間では、メタメッセージに対して硬直的な姿勢を取ろうとしている人も少なくないようです。

 

「メタメッセージなんて読むな。読めなくて構わない。語られたとおりの解釈だけを追いかけるべきだ。」

「メタメッセージをよく読み込んで、疎漏の無いコミュニケーションを心がけましょう。」

 

私に言わせれば、どちらも巧くありません。

前者なら幾らかマシかもしれませんが、後者はすごく悲惨ですね。

「メタメッセージを読むこと・読めること」と、「メタメッセージを読まなければならない」ことの間には大きな隔たりがあります。

 

そもそもメタメッセージって、読み込もうと思って読みこみ過ぎると、きりがないじゃないですか。

相手がまったくメタメッセージを込めていない場合にまで勝手にメタメッセージを読み込むようになってしまったら、疑心暗鬼や神経衰弱や被害妄想になってしまいそうです。

 

じゃあ、メタメッセージに対してどう構えるべきかと言ったら、私の答えはズバリ、以下のようなものです。

「メタメッセージはいちおう読むだけ読んでおいて、そこからは自由に構えるべきである。」

これですね。これしかないでしょう。

 

メタメッセージを読んでもイニシアチブは手放すな

たとえばあなたが京都でブブ漬けを出されたとしましょう。

皆さんもご存じのとおり、ブブ漬けは「京都しぐさ」の一例として語られるもので、お客さんをおもてなししているようにみえて「さっさと帰れ」というメタメッセージを含むもの、とされています。

 

なかには純粋なおもてなしとしてブブ漬けが出てくることもあるでしょう。

しかし今回は、話者の言い回しや滞在時間の長さなどから「これ、どう考えても『さっさと帰れ』ってメタメッセージが含まれてるよね……」って想定できる状況だと仮定します。

 

そのようなメッセージを読み取った時、あなたがすべきことはなんでしょうか。

「これは早く帰れってメタメッセージだな、じゃあもう帰ろう」と席を立ちあがるのが望ましいのでしょうか。

 

もちろんそういう場合もあるはずです。

相手が送ってきたメタメッセージを読解し、そのメッセージどおりに行動すれば相手の心証は良くなるでしょうし、心証を良くすることこそが肝心な状況もあります。

 

しかし必ずそうすべきか?

そうとは限りません。たとえばもう少しだけその場にとどまって大事な話をしなければならない、肝心な話が済んでいないと感じている時は、メタメッセージを受け取ったうえで、心のなかで握りつぶしてしまうべきではないでしょうか。

 

メタメッセージは、発言に多義的なメッセージを持たせたり、直接的には言いづらい言葉をオブラートに包んだりできて、まあ便利ではあります。

しかし太字で強調しておきたいのですが、それでもメタメッセージは言葉や態度としてはっきり表出されていない、存在するかどうかがお互いの腹積もりと呼吸次第の曖昧なものなのです。

 

相手が「さっさと帰れ」というメタメッセージを込めてブブ漬けを出してきたとしても、表出されたメッセージとしては「どうぞごゆっくり」「ブブ漬けをめしあがってください」でしかないわけで、そこでメタメッセージを読み取って従うのか、それとも読み取ったうえで従わずにブブ漬けをいただきながら話を続けるのかは、受け取る側次第です。

 

なにしろ直接「さっさと帰れ」と言われていなくて、表向きは歓待されているわけですから、メタメッセージを無視したとして、いったい何がいけないというのでしょう。

たとえブブ漬けを出されたとしても、本当の本当に必要だと思われる状況なら、「さっさと帰れ」と明示的に示されてから席を立ったとしても遅くはありません。

 

メタメッセージを出す側にイニシアチブがあると、いつから勘違いした?

そもそもの話として、メタメッセージって、それを出す側のほうが有利だったりイニシアチブがあったりするものでしょうか。

メタメッセージを毛嫌いする人のなかには、メタメッセージを発する側がコミュニケーション強者であるかのように、そしてメタメッセージを強力な手札であるかのように捉えている人も多いようですね。

 

私はそう思いません。

どちらかというと、メタメッセージは弱者の武器だと思うんです。

「さっさと帰れ」とか「おまえの態度が気に入らない」とか、直接的に言えちゃう立場・言えちゃう状況では、メタメッセージなど不要です。

誤読や解釈の余地が生じてしまわないよう、できるだけ簡潔に、伝えたいメッセージを出してしまえば良いのです。

 

立場が上の人間がこちらにメタメッセージを出してきている場合も、この捉え方は変わりません。

立場が上なのにメタメッセージを出してきているとしたら、それは何か事情や理由があって強く出られない場合だと私なら考えます。

 

そういう場合、立場としては相手が上でも、そのときのコミュニケーション自体は相手が一方的に優位ではありません。

メタメッセージをこちらに読ませ、あわよくばより穏便に、より低コストに、より言質をとられにくい発言で済ませたい魂胆や計算があるはずです。

 

そのような場合、メタメッセージを読んでどう振る舞うかのイニシアチブはこちらにあるとみるべきでしょう。

恩を売るためにメタメッセージに従うのか。それとももう一言を引き出すためにあえて無視するのか。

 

同じ状況を、右のような文脈でとらえ直すことだってできるでしょう──機敏のわかる人間だと思われるためにメタメッセージに積極的に応じるべきか。御しやすい人間と思われないためにメタメッセージに消極的に応じるべきか。

 

どちらを選ぶにせよ、メタメッセージを投げかけられた時、それを読んでどう立ち振る舞うのかのキャスティングボートは投げかけられた側にあると考えるべきで、それは目上が相手の場合でも、こちらに何かの決断を促している場合でも変わりません。

そして相手が明示的なメッセージを投げかけていない限りにおいて、そのメッセージをあえて読まなかったような体裁を取ったり、読み損ねたかのように見せかけたりしても、失うものは比較的少ないのです。

 

もし万が一、相手がメタメッセージを読んでくれなかったなどとグチグチ言い始めた時には、「すみません、気が付きませんでした」と言ってしまいましょう。

その場合、コミュニケーションの齟齬が起こったのはあなたのせいではありません。

明示的なメッセージを出し渋り、メタメッセージを読み取らせて済ませようとした側のせいと言わざるを得ません。

この場合、明示的なメッセージを無視するのに比べれば、メタメッセージを読んだうえで読めなかったふりをするのはリスクやコストが小さいので、やったほうが良いと判断できる状況では積極的にやっちゃいましょう。

 

また、こういう判断に際して、目上か目下かを意識しすぎるのは危険です。

相手が目上だからとメタメッセージを積極的に読んで従っていると、コミュニケーションのコストをこちらが多く支払わなければならないだけでなく、相手に「こいつはメタメッセージによく従ってくれる人だ」と思われてしまうおそれがあります。

ですから、メタメッセージは読めるに越したことはありませんが、読めるさまを見せすぎるのは考え物です。

 

こういったメタメッセージの応酬ひとつひとつも、ぬかりなく、丁寧にこなしていきたいものです。

 

 

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(2024/3/26更新)

 

 

 

【プロフィール】

著者:熊代亨

精神科専門医。「診察室の内側の風景」とインターネットやオフ会で出会う「診察室の外側の風景」の整合性にこだわりながら、現代人の社会適応やサブカルチャーについて発信中。

通称“シロクマ先生”。近著は『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(花伝社)『「若作りうつ」社会』(講談社)『認められたい』(ヴィレッジブックス)『「若者」をやめて、「大人」を始める 「成熟困難時代」をどう生きるか?』『健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて』(イースト・プレス)など。

twitter:@twit_shirokuma

ブログ:『シロクマの屑籠』

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Photo by tommy chheng