子供の勉強を見ていたら、「抗体」という言葉が出てきた。
小学生のテキストなのに、難しい言葉が出てくるなあ、と思い、子供に「こんな難しい言葉つかってるの?」と聞いたら、「意味を知らない」という。
すでに勉強を終えた範囲だったので、
「辞書で調べなかったの?」
と聞くと、「調べてない」と言った。
辞書を引きなよ、と子供に言ってから、ふと思った。
「子供のころ、辞書を引く習慣は私もなかったなあ」と。
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子供に言っておきながら何なのだが、私が辞書を引く習慣を叩き込まれたのは、社会人になってからだった。
というのも、入社したコンサルティング会社で、「辞書を引くこと」が大変重要視されていたためだ。
事実、会社は「知らない言葉はすぐに調べる」を方針として掲げており、勉強会へ出席するときには、必ず辞書を携帯せねばならなかった。
専門用語は「定義」を知らないと、すぐに周りのコンサルタントから総ツッコミを受けるので、これも必ず用語集や、各種資料で調べなければならない。
また、提案書に書く言葉、報告書に書く言葉、テキストに書く言葉などもちろん、適当であってはならず
「正確であること」
「出典をあたること」
も、求められていた。
自分の完全な言葉の理解なしに、人に説明できることはできない。
だから、上のことを実行しなければ「コンサルタント失格」、つまり社員として当然の義務を怠っているとみなされた。
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しかし、こうした指示にも関わらず、それを確実に実施しない人も中にはいた。
例えば顧客の資料の中に「変更管理」という言葉があった。
非常に重要な、会社の仕組みだ。
担当はそれをわかっているだろうか。
それを確かめるため、試しに、担当のコンサルタントに、「ここでいう変更管理とはなにか」と聞いたことがある。
変更管理は、「変更」と「管理」の両方の正確な定義を知らねばならない。
また、当時の顧客の行っている変更管理について議論するためには「PMBOK」などのベストプラクティスなどを読み、変更管理の目的や、理想のしくみを知っている必要もあった。
そのコンサルタントは、口ごもりながら「品質に関連する変更を監視することですよね」と、説明になっていない説明をした。
すると、そばにいた同僚のコンサルタントが、「それでお客さんのところに行ってるの、本当にマズいですよ。」と厳しいコメントをした。
実際、そのとおりで、彼は資料にある言葉や、お客さんのところで出てくる、知らない言葉も、帰社して調べていなかった。
これでは語彙も知識も増えず、コンサルティングの質も上がらない。
顧客に迷惑をかけてしまう可能性が高い。
その場にいた上司は、厳しく言った。
「すぐに調べる習慣」を実行しないのであれば、仕事を任せるわけには行かない、と。
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一体なぜ、これだけ厳しく言われているのに、かれは「知らない言葉」を調べないのだろう。
彼は決して、頭が悪い人間ではなかった。
良い学校を出ていたから、おそらく、成績も良かっただろう。
しかし彼は「自分がわかっていない、知らない」ということについての認識が、非常に鈍かった。
すでに知っていることだけに強い関心を示し、自分の知らないことはスルーする。
わからない言葉については、「知っておく必要あります?」という態度。
これでは、コンサルタントとしての能力は向上せず、知識も語彙も増えない。
結果として、将来に渡って、大した仕事もできないだろう。
社会人の勉強というのは、全く新しいことを積極的に学ぶことも大事なのだが、それ以前に「今やっていること」の中で、自分が「きちんとわかっていないこと」を認識することが大事だ。
新しいことをつまみ食いしても、それは「上っ面の知識」でしかない。
そうではなく、「今やっていること」を突き詰めて、「自分は本当に理解しているのだろうか」を自分に問いかけて、突き詰めた人だけが、プロフェッショナルとして仕事ができる。
そして、その知識は、実務をもとにしているので「真の知識」とようやく言える。
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子供に「辞書を引きなよ」というと、面倒くさそうな顔をした。
そこで「一緒に調べよう」と言ったら、顔が輝いた。
調べてみると、私も知らなかったような、新しい知識があった。
子供は嬉しそうに言った。
「辞書って面白いね」。
そう、知らないことを知るのは、本当は楽しいことなのだ。
大人になると、いつの間にか、忘れてしまっていることあるのだが。
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【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
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