日本はつねづね、有能な人が損をする場面が多いと思う。
このツイートが4.5万いいねを獲得していることからも、うなずいてくれる人は多いんじゃないだろうか。
そいや今日職場で上司がそのまた上司から
「君んとこの部署いっつもみんな定時で仕事終わって帰ってるよね?仕事に余裕あるみたいだし来年度から人員減らしていい?」
的な話をされたらしいんですけど真面目にきちんと時間通り頑張った結果さらに仕事がキツくなるのって常識的におかしないッスかね…?— 割れせんべい復元機🎨 (@kaelu_only) 2018年3月6日
探しても見つからなかったのだが、ほかにも
「時間に余裕ができるとそのぶん仕事が増えるから、効率化したら損をする」
「仕事をがんばったら、『こっちがサボっているように見える』とまわりから嫌な顔をされた」
といったツイートを何度か見かけたことがある(どちらもめちゃくちゃバズっていた)。
努力をした人、有能な人が損をするのは、おかしい。
だれもがそう思うのに、なぜかそうなってしまう。
でもそれは、考えてみれば当然なのだ。
だって日本は、「有能な人が無能な人の尻ぬぐいをするシステム」だから。
仕事をやらない人のしわ寄せがデキル人にいく問題
先日、当サイトで安達さんの『「依頼された仕事をやらない人」は、なぜあれほど言われても、仕事をしないのか』という記事が公開された。
仕事を遂行する能力はあるし、ちゃんと「やります」と言う。
それなのにやらない人がいる。いったいなぜか。
記事内で、それは「たぶん、面倒になった」からだと結論付けている。
確かに、つらそうな仕事でも、最初彼らは「やります」という。
「これだけやってりゃいい」という指示を与えれば、短期間で爆発的な力を出すこともある。
でも、プライベートで何か起きたり、当初の予定通りいかず「ちょっと考えなければならないこと」が出来た時点で、彼らは、仕事を放り出してしまう。
わたし自身面倒くさがりだから、この思考回路はよくわかる。
予定通りいかなくなったり、イレギュラーな対応を求められたりすると、途端に面倒くさくなるのだ(それでも仕事はやるけども)。
で、今回注目したいのは、その先の「放り出された仕事はだれがするのか」という部分である。
たとえばあなたが、Aさんに顧客対応を任せたとしよう。
Aさんにはその能力があるし、やり方もわかっているはず。本人も「わかりました」とにこやかに引き受けてくれた。うん、大丈夫そうだ。
……しかしAさんは、なかなかその仕事に取り掛からない。
「大丈夫?」と確認したら、「大丈夫」だと言う。ちょっと手伝って「あとは平気?」と念押しすれば、「はい」と答える。
それなのに、やっぱりやらない。
なんやかんや言いつつ放置して、仕事を終わらせようとしない。
そういう状況で、あなたはどんな対応をするだろうか。
Aさんを怒る? Aさんと面談する? Aさんのマネージメントを見直す?
いや、たぶん多くの人は、「自分・もしくは他の人がその仕事をやる」という方法を選ぶだろう。
そっちのほうが、楽で確実だから。
記事内でも、「こういう人々には、『引き受けたじゃないですか!』と怒ったところで無駄であるし、代わりの人を探したり、時には自分でやったりしたほうが早い」と書いてある。
そう、こうやって「できる人がやればいい」となるのだ。
「自分の仕事は自分でやれ」で話は終わり
主語を大きくすると荒れそうではあるが、誤解を恐れずにいえば、「依頼された仕事をやらない人がいて困る」という記事は、「とても日本っぽいなぁ」と思った。
この問題は、個々の責任があいまいな日本流の働き方だからこそ、起こりやすい気がするから。
たとえばわたしが住んでいるドイツは、ザ・担当制。
役所に問い合わせても「自分の担当じゃない」とたらいまわしにされるなんて日常茶飯事、「担当者が3週間バカンスに行っている」と手続きを放置され、なんでもかんでも担当者に予約しろと言われる。
こっちからしたら「だれでもいいから対応してくれよ」と思うのだが、向こうからしたら「自分の仕事じゃないから対応する義理がないし、責任をとれない」からやりたくない。
そういうお国柄なのだ。
「あなたの仕事はこれね」という契約のもと働き、その人の担当として仕事を任される。
自分の仕事をやってりゃそれでいいし、自分の仕事をやらなきゃその人の責任。至ってシンプル。
だから、「面倒くさいからやらない」なんてのは、基本的に許されない。
そしたらもう仕事を任せてもらえなくなるし、自分がやらないからってだれかがやってくれるわけじゃないからね。
もちろんドイツでも、他人の仕事を手伝ったり、フォローしたりすることはある。
ただそれはあくまで好意であって強制ではないし、最終的に責任を負うのは担当者だ。
マジメにやると手伝わされる理不尽
一方の日本は「担当」があいまいだから、だれかがやらない仕事は、ほかのだれかに回されることが多い。
仕事をしない人がいても「ちゃんとやれ」とはならず、「手伝ってあげて」と、仕事が早くて融通が利く人が割を食う。
思い出してみれば、学校に通っていたときからすでにそうだった。
早く帰りたいから一生懸命掃除したのに、最終チェックのために先生を呼んだら、「廊下掃除を手伝って」と言われる。
見てみれば、廊下掃除担当の男子は雑巾を投げて遊んでいて、掃除する気ゼロ。
「男子がちゃんとやればすぐ終わるじゃないですか」と言っても、「そっちは終わったんだからちょっとくらい手伝ってあげなよ」となるのだ。
たとえグループ研究の担当範囲を家で完璧にやってきたとしても、授業では「〇〇ちゃんがまだだから一緒にやってあげて」と言われる。
「〇〇ちゃん昨日プリクラ撮ってたのmixiで見たよ。サボっただけだよね? なんでわたしがやってあげなきゃいけないの? 休み時間使って自分でやりなよ」と言えば、悪者になるのはわたしだ。
「なんでチームの輪を乱すの」「心が狭い」「それくらいやってあげなよ」と。
いや本当にさ、ムカつくんだよ。
ちゃんとやればやるほど、「じゃあ手伝ってあげて」「じゃあこれもやって」ってさ。マジメにやり損じゃん。
抗議しても「まぁまぁ」と困った顔をされて、なんかこっちが悪いみたいになるし。
この尻ぬぐいシステムの最悪なところは、最終的に「みんなでがんばった」って評価されるところだ。
雑巾投げで掃除しなかった男子も、廊下掃除が終われば「ちゃんとやった」ことになるし、宿題をしなかった〇〇ちゃんも、グループワークが形になれば「ちゃんとやった」って成績をつけてもらえる。
本人、なにもしてないのに。
正当な理由があってできないならともかく、手抜き・サボり・面倒くさがりの人の尻ぬぐいをするのがチームワークなんて、クソ食らえだ。
有能な人が尻ぬぐいするのはただの帳尻合わせ
……とまぁちょっと感情的になってしまったけど、「責任」が軽いと、デキル人が損をするのは事実だと思う。
だってその人の仕事を本人がやらなくても、「まわりの有能な人がフォローしてあげればいい」って結論になるんだから。
まわりの人が代わりにやってあげてしまうと、その人は「やらなくてもどうにかなる」と味を占めて、その後もやらなくなる。
そして代わりにやらされた人は、「なんで自分が尻ぬぐいしなきゃいけないんだ」と不満を抱く。
サボりは加速し、有能な人は「やってらんねー」とやる気をなくす。
それが、日本でよく見る尻ぬぐいシステムだ。
「これは君の仕事。ちゃんとやったらそのぶん評価するよ。でもやらなかったらもう同じ仕事は任せないし、今後与える仕事を見直すから給料にも影響する。仕事を任せるってそういうことだから」
ものすごく当たり前だけど、本来仕事って、こうあるべきじゃないだろうか?
もちろん、問答無用で仕事を押し付け、「お前の責任だぞ!」なんていうのは論外。
仕事をやり遂げられない理由が、仕事が多すぎて手が回らないだとか、作業環境が悪くて集中できないだとか、育児との両立で体力的に限界だとかって場合は、また別の話だ。
デキル人を評価するために責任は必須
「責任」と言うと重苦しく聞こえるが、責任はある意味、「手柄独り占め」でもある。
「これがあなたの仕事だよ」と任され、自分の責任で、それをやり遂げる。そしたらそれは、あなたの功績として認められる。
「責任」を負うから、「手柄」を評価してもらえるのだ。
できなければ相応のペナルティがあるとはいえ、そういう仕組みにおいてこそ人はやる気になるし、もっといい仕事をしようと思うんじゃないだろうか。
まぁ、「あなたの担当はこれ」と明確に決められていること、ちゃんとその仕事に集中できる環境であることなどが前提となるけども。
逆にいうと、責任があいまいで「みんながんばりました」というざっくり評価だと、がんばる意義はなくなる。
がんばればがんばるほどマイナスの補填をさせられるし、そのくせ自分の評価はたいして上がらないし……。
有能な人にマイナスの補填をさせ続けるのは、マネージメントではなくただの帳尻合わせ。
そのときは「丸く収まった」と思うかもしれないが、割を食った側は、その理不尽を忘れない。
「なんだよ、やらないヤツのほうが得してるじゃん」という不信感を抱いてしまう。
で、最終的に、自分をもっと高く評価してくれる職場に行くのだ。
それは組織としても、結果的に損していることになる。
というわけで、
「仕事を放り出す人がいたらどうするか?」
の質問に対する答えはかんたんで、「責任を取らせる」。
冷たいように聞こえるけれど、やらない人に責任を取ってもらうことと、ちゃんとやった人を評価するのは表裏一体のはず。
「クビにしろ!」というわけではないが、なにかしらケジメをつける必要があるんじゃないだろうか。
マジメな人が報われるために、わたしは、そうあるべきだと思う。
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【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
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Photo by Lucas van Oort