みなさんは、HSPという言葉をご存じだろうか。

Highly Sensitive Personの略で、かんたんにいえば「めちゃくちゃ繊細な人」という意味だ。

 

HSPは診断がつく医学的概念ではなく、その人の傾向・気質を表す心理学の用語で、小さなことで考えすぎてしまったり、自分の殻にこもりがちだったり、大きい音や強い光が苦手だったり……などの特徴がある。

ちなみに、5人にひとりがHSPだといわれている。

 

生きづらさを抱える人の心に響くのか、最近は「HSP」という言葉の認知度もグッと上がり、「自分は繊細な人間だ」という人をたくさん見かけるようになった。

先日もこのツイートが、5.5万いいねを獲得している。

それに伴い、「HSPの生き方」的な本も増えてきた。

本屋では、ひとつのコーナーが設けられていることもある。

 

しかしそれらの本には、どうにも肝心なことが書いていないような気がするのだ。

HSPが本当に学ぶべきは、処世術ではなく、自己表現方法じゃないだろうか。

 

認知が広まるHSP関連の本は高評価レビューが多い

わたし自身、自分のことをHSP、つまり繊細で傷つきやすい人間だと思っている。

たとえば友人とカフェに行った後「もしかしたらあの言い方は相手を傷つけたかもしれない」と考えてどっと疲れたり、いつもツイートにいいねくれている人からいいねがないと「フォロー外されたんじゃ」と心配になって確認したり、大きい音が苦手でアクションゲームですらテレビ音量3でプレイしたり、あれこれ考えて最終的に「もうイヤだ~」と外界との接触を断って引きこもったりする。

 

だからHPSという概念を知ったとき、「これだ!」と飛びつき、たくさんの本を読んだ。

HSPの本は総じて、「繊細で傷つきやすい自分を受け入れ、その個性とどう付き合い、どうやってまわりの人とうまくやるか」にフォーカスしている。

 

例として、高評価レビューが多いHSP系の本の目次の一部を紹介しよう。

 

『鈍感な世界に生きる敏感な人たち』

・思い切って本来の自分をさらけ出す

・本来背負うべき以上の罪悪感を抱え込まない

・無理に相手に怒りをぶつけなくていい

 

『「気がつきすぎて疲れる」が驚くほどなくなる「繊細さん」の本』

・繊細さんは自分のままで元気に生きていける

・「刺激」から自分を守る工夫

・相手と境界線を引いて自分のペースを守る

 

『繊細な人が快適に暮らすための習慣』

・「段取り苦手」と「緊張」をゆるめるコツ

・たくさんの人と付き合おうと思わない

・漠然とした不安への向き合い方

 

そう、基本的に「疲れないように自分を守りつつ、気楽に前向きに生きていこう」というコンセプトなのだ。

あくまで自分の中、内省的な内容である。

 

でも最近、「もっと大切なことがあるのに、多くのHSP書籍が伝えていないのではないか」と思うようになった。

それは、「自己表現方法」だ。

 

30歳にもなってすぐに泣いてしまう自分はHSPだと思う

わたしは小さいころから、よく親に「感受性が強い子」と言われていた。

習い事の先生には「自分の世界をもっている」、学校の先生には「人とはちがう意見をいう」などと言われていたので、単純にちょっと変わっていたのだと思う。

 

それは30歳になったいまも変わらず、小さなことで感情が乱れてしまう。

たとえば、先日夫とともに、犬の散歩に行ったときのこと。

この前まで元気だったご近所さんの老犬が、ワゴンに乗せられていた。

「まだ元気だけど、いまのうちにワゴンでの散歩に慣れさせたいから」と。

 

うちのワンコは我が家に来てまだ2年だけど、初めて会ったときすでに推定8歳。

うちの子も年を取って、いつかいっしょにお散歩に行けなくなる日が……。

いま元気に走り回ってるこの子が、耳が遠くなって、そしていつかわたしたちより先に……。

それを想像しただけで目の前がにじんできて、道端で旦那とワンコを抱きしめて「長生きしてね~」とオイオイ泣き始め、夫が爆笑していた。

 

そうそう、夫と喧嘩したときもそうだ。

そもそもの原因は別として、イライラしている夫を見ているだけで心臓がぎゅーっとして、ボロボロ泣いてしまう。

感情任せに相手を傷つけたり、関係が破綻したりするのが怖くて、喧嘩になったら黙り込んでしまうのだ。そして、泣く。

 

「泣いてばかりいないで、言いたいことがあったら言ってほしい」と言われても、まず頭の中で感情を整理して、言いたいことをまとめて、それに対して夫がなんと言うかを想定して、全部書き出して、そのメモをもとにしないと話せない。

30歳にもなって泣き虫なんてシャレにならん……とは思いつつ、自分ではどうにもできない。

 

元同級生に「変な人」とネットに書かれた

感受性が強い、という表現が正しいのかはわからないが、わたしはこんな感じで、小さいことでもすぐに感情が乱れてしまう。

そんなわたしにとって、「それはHSPという気質です。こうやってうまく付き合いましょう」というのは、生きづらさから抜け出せる啓示のように思えた。

だから、この気質に「打ち勝つ」ために、冒頭で紹介したようにいろんな本を読み漁ったのだ。

 

でも高校時代からの親友の一言で、「HSPを克服しよう」と思っていたわたしの考え方は、がらりと変わった。

それは、とあるニュースサイトにわたしの記事が転載されたときのこと。

高校のとき同級生だった男子が、「自分はこの人の元クラスメートで仲が良かった。この人は学生時代から変わってた」と書き込んだのだ。

 

そもそもその男子とは仲良くなかったし、なんならわたしは嫌いだった。

承認欲求のための踏み台にされるのは気分が悪いし、「変わってる」だなんて失礼だ。そもそも君、学校の先生だろ。実名Facebookでよくそんなこと書けるな。

 

あまりにもモヤモヤするので、高校時代の親友に「あいつ覚えてる? なんかムカつくコメントがあってさ」と愚痴ったところ、彼女は「あーいたねそんな人」と苦笑しつつ、こう言った。

「変わってるからおもしろいこと書けるのに、なに言ってるんだろう」と。

 

HSPで感受性が強いからこそライターになれた

それを聞いて、目からうろこというか、憑き物が落ちたというか……とにかく、「そりゃそうだ」と納得したのだ。

わたしは感受性が強いから、小さなことに怒ったり悲しんだりして、他人と関わるとすぐに疲れてしまう。まわりからすれば、たしかに「変わっている」のかもしれない。

 

でもわたしは、それを文章として表現できるのだ。

この厄介な気質がなければきっと、ライターとしてやっていけなかった。

 

繊細な自分に向き合い、処世術を身に着けどうにかこうにか生きていくより、自分の個性をうまいこと表現して、まわりに「そういう人」だと思ってもらったほうが、圧倒的にラクじゃないか!

親友の一言で、わたしはそれに気づけた。

 

いま思い返すと、高校生の時、ちょっと天然でのほほんとした、独特な雰囲気をまとうクラスメートもそうだった。

彼女は卒業後、絵画系の芸術大学に進学。「なるほどね」と納得した記憶がある。

同じく天然で、いつでもどこでもまわりを笑わせる人気者のクラスメートも、卒業後は料理専門学校に入学した。自分の店を持つのが夢だという。

 

ライターという仕事もそうだが、たとえばイラストレーターや料理人が多少変わっていたとしても、たいていの人は「まぁそうだよね」と受け止めてくれると思う。

ピアニストでもダンサーでも写真家でも照明スタッフでも、自分の感性を表現する仕事についている人は、「感受性が強く」て「多少変わって」いても、当たり前だと思ってもらいやすい。

 

たとえば職人には「気難しい」イメージがあるけど、それは「小さなことにもこだわる」という職人気質と結びついているから、かならずしもネガティブな意味ではない。

「職人さんなら日常生活でもいろいろこだわりがあって当然だよね~」と、受け入れる人が多いはずだ。

 

だって、そういう感性があるから自己表現する仕事に就いているわけだし、他人とちがうからこそ作品を生み出せるわけだしね。

そうやって、「あーそういうタイプの人ね、オッケー」とまわりに受け入れてもらえれば、HSPは各段に生きやすくなる。

 

HSPは自己表現方法を持つことで各段に生きやすくなるはず

「わたしは傷つきやすいし繊細で複雑なんだから、まわりはそれを理解すべき!」と主張したところで、まわりは「面倒くせーな」としか思わない。

 

かといって、波風立てないように縮こまって生きるのもしんどいし、自分の感情をコントロールするために必死で自分をだますのもまた疲れてしまう。

だから、自己表現の手段を見つけ、それをまわりに認知してもらうのは、HSPが生きやすい環境にするために有効な方法だと思う。

 

文章を書く、ピアノを弾く、風景を描く、家具を作る、彫刻する、毎日髪型を変える、アニメキャラの凝ったネイルにする……なんでもいい。

 

「この人は感性が豊かで、こうやって自分を表現しているんだな」

「センスがよくて、他の人とはちがうタイプだな」

「自分はここまでできない。すごくこだわりがあるんだな」

とまわりに思ってもらえれば、儲けもの。

 

そうすれば多少面倒くさかろうが、多少変わっていようが、「まぁそういう人だし」と受け入れてもらえる。「多少」ならね。

とはいえ、芸術系の仕事に就くことが必須なわけではない。

「パワポの資料をつくらせたら社内一」「データをまとめるときめっちゃ頼りになる」「整理整頓が得意で細かいところにも気づいてくれる」のように、「この人はセンスがよくて他の人とはちがう」「この人はここにこだわりを持っている」と思ってもらえればいいのだ。

 

もちろん、HSであるの自分の対処法を知ること、心穏やかに生きる努力をすることは大前提。

でもまわりの理解をどれだけ獲得できるかで、要求される努力の程度はかなり変わる。

だから、まわりに「そういう人なんだね~」と受け入れてもらえるように、なにかしら自己表現方法をもつことこそが、HSPには必要なんじゃないだろうか。

 

HSP関連の本では、「HSPは長所」「それを活かした職業に」とさらっと書かれていることが多いけど、自己表現によってまわりに理解してもらう努力というのは、もっともっと重視されてもいいと思う。

その自己表現によってだれかの役に立てたり、優れた能力として評価してもらえたりしたら、HSPという厄介な気質は「自分の強み」になる。

そうすればきっと、HSPの自分のことを、少し好きになれるはずだから。

 

 

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(2022/8/2更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

名前:雨宮紫苑

91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&写真撮影もやってます。

ハロプロとアニメが好きだけど、オタクっぽい呟きをするとフォロワーが減るのが最近の悩みです。

著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)

ブログ:『雨宮の迷走ニュース』

Twitter:amamiya9901

Photo by Ahmad Odeh