少し前に「なぜ「事実」と「意見」を区別して話せない人がいるのか。」という記事を書きました。
「事実」と「意見」を区別して話せない人は、ビジネス上損をしがちです。
実際、私が在籍していたコンサルティング会社では、それを「できない人の特徴のひとつ」と見なしていました。
例えば、以下のようなやり取りです。
「昨日の営業、途中退席してごめん。お客さん、ウチに依頼するか、決めてくれた?」
「大丈夫だと思います。」
「大丈夫って……決まったのか、決まってないのかが、知りたいんだけど。」
「あ、まだ決まってないです。」
「そうか、決まるかなと思ってたけど……。お客さん、何か懸念事項について言ってた?」
「金額について不満そうでした。」
「もう一度聞くけど、不満だと「言った」の?」
「いえ、たしか……言ってないかと。」
「じゃ、なんで不満だと言えるの。」
「えーと…」
「もう一度聞くけど、なんて「言ってた」?」
「ええー……確か、金額については交渉の余地がありますか、と言ってました。」
「交渉ね……、なんて回答したの?」
「私の一存で決められませんので、持ち帰りますと。」
「そしたらお客さんはなんて言った?」
「納得してくれたみたいでした。」
「だ、か、ら、お客さんはなんて言ってたの?」
「あ、すみません。えーと……確か、わかりました、と言ってました。それと、今思い出したんですけど、見積もりを指定の様式にして欲しいとも言ってました。」
彼らからの報告は、とにかく時間がかかるので、私は部下に「そのクセを直せ」と指示をしていました。
ミリオンセラーとして知られる「理科系の作文技術」では、米国の小学生用の教科書に、「事実と意見の区別」が繰り返し出てくると指摘しており、米国では基礎的な教養と見なされているようです。
例えば以下のような例題が教科書に出現します。
ジョージ・ワシントンは米国の最も偉大な大統領であった。
ジョージ・ワシントンは米国の初代の大統領であった。
どちらの文が事実の記述か?
これは簡単すぎるかもしれません。小学生向けですからね。
重要なのは、この教科書には続けて、事実と意見の区別について、こんな説明がある点です。
事実とは,証拠をあげて裏付けすることのできるものである。
意見というのは,何事かについてある人が下す判断である。ほかの人はその判断に同意するかもしれないし,同意しないかもしれない.
小学生向けの説明としては、非常にわかりやすいものですが、おそらくビジネスパーソンに対してもこの説明で十分でしょう。
ただし、ビジネスパーソンに対しては、もう少し難しい問題が出されます。
例えば以下は、採用で頻繁に用いられるGMA test(一般認識能力テスト)と呼ばれる試験の一部です。
主張が事実であると仮定したうえで、2つの結論を検討し、A~Eのうちどれが正しいか選択せよ。
主張:
インドの上位10%の世帯が占める国民所得の割合は35%です。
結論:
①経済が急速に成長すると、特定の人々に富が集中します
②インドの国民所得は偏在しています
A 結論①のみ、主張から論理的に導ける
B 結論②のみ、主張から論理的に導ける
C 結論①もしくは結論②のいずれかが、主張から論理的に導ける
D 結論①も結論②も、主張から論理的には導けない
E 結論①も結論②も、主張から論理的に導ける
「事実」と「意見」を取り扱うのが苦手な人は、もしかしたら上の例題に対して、自分の先入観や意見が先行してしまい、適切な解答をできないかもしれません。
そして「こんなもので仕事の能力がわかるわけがない」と主張する方もいるかもしれませんが、事実は逆です。
一般認識能力テストは「採用後の、パフォーマンスの予測精度が最も高い採用手法の一つ」だという研究が数多く存在*1しているため、外資系企業やコンサルティング会社の採用に頻繁に用いられています。
「事実」と「意見」を分けて話すコツ
では、このような能力は、身に着けることができるのでしょうか。
前にも書きましたが、個人的な考えでは「可能」です。
というのも、これは「賢さ」というよりも、「注意力」の問題だからです。
「理科系の作文技術」には、その点に関して、はっきりとした注意事項が記述されています。
事実を記述する文はできるだけ名詞と動詞で書き,主観に依存する修飾語を混入させるな。
これは文章だけではなく、話し方についても同様のことが言えるでしょう。
つまり、冒頭の例でいえば、事実を述べなければならないときには、
・(お客さんは)発注を決めなかった。
・(お客さんは)金額に交渉の余地がないかと尋ねた。
・(お客さんは)「わかりました」と言った。
と、シンプルに名詞と動詞で言うのが良いのです。
逆に、意見はすべて、私は,……と考える(想定する,推論する,思う,感じる,……)。というかたちが基本形です。
・(私は)大丈夫だと思います。
・(私は)金額について不満そう(に感じ)ました。
・(私は)納得してくれたみたい(に感じ)ました。
冒頭の例で、部下がなぜダメなのかと言えば、「事実」を求められているのに、報告がすべて「私」を主語とした「意見」になっており、それを彼が区別できていないために、上司に怒られてしまっているのです。
であれば今後、彼は主語が「私は」に置き換えが可能かどうかを検証してから発言すべきでしょう。
そうすれば上司から「事実と意見の区別できないやつ」とレッテルをはられることがなくなるはずです。
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【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
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*1 Frank L. Schmidt and John E. Hunter, “The Validity and Utility of Selection Methods in Personnel Psychology: Practical and Theoretical Implications of 85 Years of Research Findings,” Psychological Bulletin 124, no. 2( 1998):