つい先日、地元の友人から、

「実は私、アロマを始めたんだよね」

と打ち明けられた時、近ごろ疑問に思っていたことの答えがふいに分かった気がした。

 

「あ、そうか。要するにこれは、私が歳をとったってことなんだな」

と。

 

その友人は、数ヶ月前にネットワークビジネスで有名な会社の会員となり、その会社の看板商品であるエッセンシャルオイルの使用を始めたそうだ。

 

ネットワークビジネスとは、つまりマルチ商法だ。その会社が世間的に良いイメージを持たれていないことは彼女も重々承知しているのだが、エッセンシャルオイルを利用したアロマテラピーは、心身のトラブルに確かな効果があるらしい。

少なくとも彼女は、実際に使ってみて、その効果を実感したのだろう。

 

私の身の回りにいる友人知人で、近頃アロマにハマっているのはその彼女で3人目。

そのうちの1人は、アロマテラピーを入り口にスピリチュアルにもハマってしまい、怪しげなビジネスを始めている。

会社から資格認定講座が提供されていたり、仲間内での交流が活発なせいか、アロマとスピリチュアルとキラキラ起業の親和性はとても高い。

 

私は日頃からスピリチュアルやキラキラ起業を手厳しく批判しており、友人もそれを承知しているからこそ、「実は…」と、バツが悪そうな打ち明け方をしたのだろう。

友人に気を使わせてしまって、こちらこそ申し訳ないような、バツが悪い気持ちになってしまった。

実のところ、私は何とも思わないのだから。

 

アロマテラピーを始めたからと言って、その友人がスピリチュアル方面に突き進んでしまったり、キラキラビジネスに手を染める心配は全くしていない。マルチの商品を勧めてくることもないと信用している。

ただ、近頃の彼女は心身の健康面で不安を感じることがあり、救いになったのがたまたまアロマだったのだろう。

 

それなら、それでいいじゃないか。こちらとしては、それをいちいち批判したり、やめるよう説得したりする気はさらさらない。

「オンラインで遠隔アロマヒーリングをします」(どうやってパソコン越しに香りを届けるというのだろう?)だのと理屈に合わないことを言い出さない限り、本当になんとも思わないのだ。

 

私も随分まるくなった。と言いたいところだが、実はそういう訳でもない。

ただ、地方での暮らしが長くなるにつれて、にぶい私もようやく気がついてきた。

この歳で田舎暮らしをしながら、自然派、代替医療、スピリチュアルの全てを否定していたら、リアルな人間関係に支障をきたしまくるということに。

 

都会に暮らす友人の中にも、口に入れるものと肌につけるものはオーガニックに限るとこだわりを持つ人たちが居るが、彼女たちの意識は高い。

一方で、田舎の生活では自然が近いせいなのか、意識なんてとくべつ高くなくても、自然派の思想が当たり前のように生活の中に入り込んでくる。

 

無農薬をうたう野菜や米。天然の肉(ジビエ)や魚、山菜、野草、昔ながらの製法で作られた塩や砂糖。

そうした食材がふんだんにあって、しかも簡単に手に入り、神秘を感じる雄大な自然も生活のそばにあるからだろうか。

 

それでも私が若かった頃には、地元にいても自然派の思想が身近だと意識したことはなかったのだ。

けれど、40代も後半になった今、気付けば身の回りに居る人たちが、次から次へと自然派の食事法や健康法を嗜好するようになっている。そこからスピリチュアルや代替医療に傾倒していくケースも珍しくない。

 

珍しくないというより、最近ではそんな人たちが多くなりすぎて戸惑っていた。

スピリチュアルに傾倒したり、すっかり自然派に染まってしまった友人知人たちは、元からそうした思想を持っていた訳ではない。

 

もしかしたらそういう傾向があったのかもしれないが、少なくとも私と知り合った時点では、まだスピリチュアルのスの字も自然派のシの字もなかった人たちである。

 

それが、いつの間にか雰囲気が変わり、有機農業と自然食の素晴らしさや、スピリチュアルや代替医療について熱心に発信するようになっているのだ。

人がスピリチュアルに傾倒していくきっかけは、何らかの挫折経験である場合が多く、自然派に傾倒していくきっかけは、たいてい健康問題である。

 

ただし、健康に問題を抱えたからといって、いきなり代替医療に走る人などまず居ない。

はじめは誰しも病院におもむき、医師の診察と標準医療による治療を受けるのだが、残念ながらそれでは「健康と自分の体のコントロールを取り戻した」という実感に乏しいのだ。

 

通院と薬の服用を延々と続けたり、手術や入退院を繰り返すうちに、じわじわと不満と不安が溜まり、「もっと根本的に自分の心と体に向き合う必要があるのではないか」という意識が高まっていく。

私自身も、20代〜30代にかけて自然派にハマっていた時期があるので、その信条と心情はよく分かる。若かった私が自然派にハマったきっかけは、長男のアトピーだった。

 

「ステロイドは悪」「市販のスキンケアグッズはかえって肌に悪い」「化学調味料と食品添加物はアトピーの元」「ケミカルな洗剤は肌荒れを悪化させる」などと思い込んでしまい、偏った知識ばかりを仕入れて神経質な生活を送っていた。

それで息子のアトピーが治ったのかといえば、残念ながら答えはNOだ。

 

当時の私はネットワークビジネスの会員にこそならなかったが、アロマにも凝っていた。

エッセンシャルオイルや天然の植物性オイルを買い集め、様々な香りと効能のブレンドを試しながら、ローション、クリーム、石鹸や洗濯洗剤までせっせと手作りしていたのだ。

子供のために頑張っている自分に満足していたが、今思えば子供のアトピー肌には市販のベビーワセリンでも塗っていた方が、よほど低刺激で安全だし、肌の乾燥も素早く改善しただろう。

 

自然派思想に凝り固まっていた私は、10年近く偏った努力を続けた結果、ようやく「自然」だから正しいわけでも、「天然」だから体に良い訳でもないということを理解した。つくづく子供には迷惑をかけてしまったと反省している。

ただ、紆余曲折を経て自然派からは脱したものの、「伝統的な手法で、手間暇かけて作られた食材や調味料」「化学調味料を使わない食事」「余計な添加物を入れないお菓子」は今でも好きだ。単純に美味しいから。

 

なので、自然派の食料雑貨店やお菓子屋さんにはよく買い物に行くし、自然派をうたうレストランやカフェに足を運ぶことも多く、お店のオーナーやシェフとも仲良くしている。

 

自然派の人たちの極端な主張や生活様式にたじろぐ事はしばしばあるが、地方の狭いコミュニティーの中では、相手の思想や信条についていけないからと言って、むやみに人との縁を切っていては生活や仕事にさしさわりが出てくる。

嫌でも顔を合わせて付き合っていかざるをえない人たちも少なくないのだ。

 

関係が切れないのであれば、ある程度の思想と嗜好の違いには目をつぶっていくしかない。

 

冒頭の話に戻るが、近頃は身の回りの友人知人が、次から次へと自然派や代替医療に傾倒していくのを不思議に思っていた。

 

しかし、よく考えてみれば私もすでにアラフィフなのだ。親しく付き合う人たちのほとんどは同年代のため、私が歳をとったということは、友人知人たちも同様に歳をとっている。

10代20代の頃は輝くように美しく、若さが弾けていた友人たちも、30代の頃にはまだまだパワフルで、無軌道に飲み歩いていた職場の同僚や飲み仲間たちも、みんな一緒に歳をとり、いっせいに人生と体にガタがき始めているのだ。

 

アロマテラピー、ヨガ、瞑想、自立整体、有機農業、自然食、薬膳、波動、インドの神様、宇宙の哲理に陰陽バランスなどなどなど。

知り合った頃には全く生活や体に気を遣わず、精神世界にも無縁だった人たちが、今になって様々な健康法や思想にハマり、人によっては宗教やスピリチュアルにも傾倒していくのは、「そういうお年頃になった」ということか。

 

現在の私がそうしたものから距離を置いているのは、たまたま自然派にハマった時期が早く、すでに卒業しているからだ。

もし息子がアトピーでなかったら、私だって今頃は心身の爽快感を取り戻そうともがき、様々な健康法や代替医療のジプシーをしていたかもしれない。

 

10年前の私なら、極端な思想や科学的エビデンスのない健康法に染まっていく友人知人たちを、「バッカじゃないの。目ぇ覚ましなよ」と一刀両断にしただろう。

 

けれど、最近はよほどのことがない限り、「それぞれが自分なりの答えを見つけるまで、やりたいようにやればいい」と静観している。

あまりに尖った主張をしていれば「ホンマかいな、マジかいな」と驚かされはするけれど、インチキなキラキラ講師やスピリチュアル教祖にさえならなければ、かまいはしない。

 

そんな風に受け流せるようになったということは、やっぱり私は丸くなったのかもしれないな。

まあ、それも含めて歳をとったということなのだろう。

 

 

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【著者プロフィール】

マダムユキ

最高月間PV40万のブログ「Flat 9 〜マダムユキの部屋」管理人。

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Photo by :Christin Hume