つい先日、「すぐに心が折れてしまう若手に対して、上司としてすべきこと」はありますか?と聞かれました。
実は、2015年から「労働安全衛生法」を根拠として、労働者が 50 人以 上いる事業所では、毎年1回、ストレスチェックを全 ての労働者に対して実施することが義務付けられているのです。
そのため、上司は部下のメンタルヘルスに対して、注意を向けざるを得ないという状況が、たしかにあります。
ですが、そもそも、心が折れてしまう、というのは、一体どのような存在なのでしょうか。
「心が折れる職場」の見波利幸によれば、心が折れてしまった状態とは、「無気力状態」のことを指します。
「頑張ったって、ムダだ」「どうせ社員のことなど見ていない」という意識が広がると、当初は会社に対して怒りを覚えていた社員が、次第に無気力になっていきます。
恐ろしいもので、無気力は怒りよりも組織の活力を失わせていきます。怒るというのは、なにかしら対象に対して期待を抱いていて、それが裏切られたという感情ですが、無気力は、もはや期待などまったくしていないという状態だからです。
この無気力状態というのが、つまり「心が折れた」ということです。
会社にも仕事にも期待しない、やる気もない、これが「心が折れた状態」です。
では、上司はどうすべきでしょうか。
上で紹介した見波は、部下のサポートにあたって、
・情報面(テクニカルなアドバイス)
・情緒面(精神的な支え)
・道具的サポート(直接の手助け)
・評価面(公正な評価とフィードバック)
の4つをすべて、どれにも偏ることなく、バランス良く提供しなければならないと述べています。
そんなパーフェクトな上司は、まずいない
しかし、です。
わたしが知る限り、うえの4つをバランス良く、しかも、個々人の「折れやすい」「折れにくい」といった特性を加味しながら、適切に部下に当たれる上司とは、恐ろしく稀少なリソースです
むしろ「仕事はめっぽうできるけど、人として「できた人」には程遠い」というケースのほうが多いのではないでしょうか。
一体なぜでしょう。
それは、管理職が「仕事のプロ」ではありますが、カウンセラーやセラピストのような「人の心理のプロ」ではないからです。
そして、そういう専門的な訓練を受けているわけでもない。
せいぜい管理職になってから何回か受ける「管理職研修」「メンタルヘルス研修」の中で、話題になる程度でしょう。
また、現在の日本では(そして多分世界のどこでも)「仕事はできないけど人はいい」という人は管理職になれません。
管理職の最優先事項は部門の成果をあげることにあり、メンタルへの配慮はその手段にすぎないからです。
ですから、バリバリと仕事をしながら、部下の人心も掌握する。
そんなスーパーな上司なんて、そうそういる訳ないのです。
いや、そもそも、部下のメンタルの不調を「仕事」だけの責任としてしまう事自体に、疑問符がつくことも数多くあります。
実際のところ、人のメンタルはプライベートに大きく影響されます。
・身近な人が亡くなった
・子供が病気
ならまだしも、
・彼女にフラれた
・好きなアイドルが結婚した
・ゲームにハマって殆ど寝てない
そういった状況まで、上司がケアしなければならないのでしょうか?
そんなわけありません。
しかも、最近メンタル不調の原因として大きいのは、「スキル不足」です。
見波が報告しているように、技術職など、高いスキルが要求される仕事ののメンタル不調は、長時間労働よりもむしろスキル不足に依拠しているのです。
私が出合ったケースでは、SEの不調の原因が多い背景として、「その人の技術の水準が、求められる技術レベルまで達していないから」というケースが多かったのです。
納期までのスケジュールが過酷で「120時間残業が3カ月続く」という状況でも、業務に必要な水準まで技術レベルが達している人であれば、不調になるケースは実はそれほど多くはありませんでした。
新人ならまだしも、業務に従事して何年もたった中堅社員のスキル不足によるメンタルの不調を、上司の責任として扱うべきなのでしょうか。
「君にはうちの(部門の)仕事は無理だよ」と告げることについて、配慮のあまり膨大な時間を上司が使わざるを得ないのであれば、どう考えてもそれは歪んでいます。
メンタルの問題はプロに任せるべき
そう考えていくと、上司は最低限、
「法律を守る」
「部下に礼儀正しく接する」
「教えるべきことは教える」
など、最低限のことをしているかぎりにおいて、部下のメンタルの状態について、責任を負わされるべきではないと、わたしは思います。
いわゆる「知りながら害をなすな」というやつです。
メンタル不調の克服は、カウンセラーやセラピスト、医者、そして本人の領域であって、上司の領域ではありません。
もちろん、メンタルの不調の原因が上司にあれば、カウンセラーなどは上司にその旨を伝え、改善を促すように求めなければならないでしょう。
上司の横暴を放置してはなりません。
しかし、
「すぐに心が折れてしまう若手に対して、上司としてすべきことは?」
と聞かれたときには、極端な話「法律は守ります、礼儀正しく接します、必要なことは教えましょう。しかし、他の話はカウンセラーか医者のところに行ってください」で十分だと思います。
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4月19日に”頭のいい人が話す前に考えていること” という本を出しました。
ここには、「働く上で知っておくと得すること」を盛り込みました。
マネジメントやコミュニケーションの摩擦が、「本来注力すべき仕事」の邪魔をするという事はよくあります。
こうした「人間関係の摩擦」を最小限にする、という事を一つの目的として書いた本です。
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【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
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