ファミレスに限らず、飲食店の利用における最も重要な点は「何を求めてそこに行くのか」だと思う。

金に糸目をつけないで自分だけにむけられた有機的な旨いものが食べたいのか、あるいは多少の量産的で無機質さを受け入れた上で安価にセントラルキッチン方式のチェーン店にいくのかは、同じ美味しいでも尺度が全く異なる。

 

飲食店に限らず、何かにお金を使うということは、それを利用する事を通じて自分を表現するという事になる。

そういう意味ではキチンと相手を引き立ててあげられるようなお金の使い方ができる人は粋だし、イチャモンをつけて相手を腐すような人は無粋である。

 

賛否両論、サイゼリア

さて今回のテーマはサイゼリヤである。なにかとインターネットにおいて話題になるこのお店だが、面白いことにとても賛否両論あるチェーン店でもある。

 

例えばTwitterなんかだとエリックサウスのイナダシュンスケさんのような方は「素朴な料理を無理せず安価で設置したり、日本の食文化を少しづつ変えようとしている点が凄い」と褒める。

 

一方で黒かどやさんなんかは「料理が死んでる」と一刀両断する。

ちなみに個人的には、このどちらの意見も非常によくわかる。

 

例えばカプレーゼが日本で一般化したのにサイゼリヤは大きな貢献をしたと思う。むしろそれ以外のモッツァレラチーズの食べ方が流通しない点を危惧したからなのか、最近は「生のモッツァレラチーズはダイレクトにしか出さない、これでもってお前らチーズの直食いに目覚めろ」という強い意気込みを感じる。

 

一方で、やっぱり何回か食べてると毎回毎回同じ角度で殴られるからなのか、確かに料理に躍動感を感じないなと思わされる事も多い。

恐らくこれは調理場で徹底して刃物やらの使用を避ける等の業務簡素化に伴うブレの除外が大きく働いているように思う。

 

例えば吉野家の牛丼なんかは、毎回同じ味付けであるのは事実だとしても店での準備段階の段取りで本当に微妙に味が変わるからなのか、そこまで料理が死んでいるとは感じない。

 

一方でサイゼは店舗差ごとの味の違いがほぼ無い事が災いしてなのか、マニュファクチュアを確かに感じてしまう。具体的にいうと、何か全体的に冷凍食品っぽいっていえば、ちょっとぐらいニュアンスはわかってもらえるかと思う。

 

中央がハイクオリティーを維持する事に腐心した結果が、工場制手工業に伴うブレの無さ→料理が生きていないになるのだから、いやはやメシってのは本当に難しいものである。

 

現時点におけるサイゼリヤの私の最適解

実はインフレも相まってなのか、あるいは単純に料理が過渡期に入ってるからなのかはわからないが、最近のサイゼリヤはちょっとパッとしない傾向が続いている。

 

少し前まではカプレーゼにトリッパ、ラムランプステーキと、綺羅びやかなメニューが燦々と輝いていたのだが、現在はこのどれもがメニューから姿を消している。

これらのメニューがあった時は、僕もイナダシュンスケさんが最初に提言されたように、サイゼリヤでもってコースメニューを編成し、ファミレスで大人食いをするという手法に耽っていた。

 

単純にミラノ風ドリアだけを食べるトラットリア(軽食堂)的な使い方や、青豆と辛味チキンをツマミにワインをがぶ飲みするというバル(酒場)的な使い方をしている人を傍目に、自分はちゃんとイタリア料理を前菜・パスタ・メインで食ってるんだぜという幼稚な優越感をやるのがその頃は楽しかったのだと思う。

 

しかしそれから随分と時間がたってサイゼリヤのメニューは様変わりした。カプレーゼはなく、トリッパもなく、ラムランプステーキも無い。

つまり前菜・パスタ・メインとしてのサイゼリヤ利用法は全然ぱっとしなくなってしまった。そうなると逆に、ミラノ風ドリア”だけ”だとか青豆と辛味チキン”だけ”の利用方法の方が粋にみえてくるぐらいである。

 

そうして随分とサイゼリヤの利用方法に困り果てたのだが、最近になってサイゼリヤでしか果たせない欲望が存在する事にやっとこさ気がつくことができた。それはチーズのドカ食いである。

 

実際のモデルメニュー

さて、実際のメニュー編成といこう。

 

まず最初の一品目は生のモッツァレラである。中央部分が凍ったまま出される事も多いので、ナイフで半分にとりあえず切ってしまうのがコツだ。

そうやって凍った面を表に出してしまえば、凍ってない面を舌に置けばネガティブな食感は半減する。

 

この半切りモッツァレラを、付属品であるオリーブ塩にディップして、モシャモシャと食べよう。途中からカリカリと黒胡椒をひけば、いい感じに味変にもなる。

少量をチマチマとではなく、ハムスターになったつもりでポーション大きめでドカッと食べるのがポイントである。

 

そもそも日本人はチーズという食べ物がどこか苦手なように思う。有名な6Pチーズもそうなのだが、どうもチーズというのは味が強く、日本人には刺激が強い。

その点、モッツァレラチーズは香りも味も柔らかく、無理することなく口にたくさん頬張る事が可能である。そしてその状態に自分の口内を持っていってみると、欧米人がやたらとチーズを愛する気持ちが少しだけ理解できるようになってくる。

 

乳製品を口いっぱいに頬張る事には特殊な多幸感がある。ミルキーでじんわりとした昆布だしのような旨味を感じられるようになると「あれっ?チーズってこんなに美味しかったっけ?」となること必至である。

 

加熱したチーズはまた別の味わい

次に頼むのはバッファローモッツァレラのピザである。個人的にはチーズ増しを推したいが、そこは好みでいいだろう。

「またモッツァレラ?」と思われる方も多いかもしれないが、生と加熱では味わいが異なるのでその違いをあえて楽しむのだと強い気持ちで選んで欲しい。

 

サイゼリヤのピザの良さはハチャメチャに安い事とクリスピーな食感にある。ドミノやピザーラのようなアメリカンスタイルのピザはドシッとしていて生地が重いのがメリットでもありデメリットでもあるのだが、その点サイゼリヤは程よく日本人好みな薄さをしているように思う。

 

このピザをまたしてもハムスターになった気持ちで頬張る。するとまたしても乳製品由来の独特の多幸感が脳髄をダイレクトに刺激する感覚が伝わってくるはずだ。チェダーチーズのようなキッツい香りがしないので、老若男女問わず美味しく頂けることだろう。

味に飽きてきたら、途中で唐辛子フレークをかけてピリッと感を加えればよいだろう。

 

粉チーズを増し増し

次はパスタである。個人的なオススメはラムのラグーソースだ。パスタのロングとショートは好みで決めればいいだろう(個人的にはロングが好き)

これにトッピングコーナーにあるグランモアチーズを、気前よくかけて食べよう。最初はちょっぴり強めのチーズの香りが鼻を直撃するが、次第に「あ、あれっ?これ、美味しいぞ???」となるはずである。

 

ひき肉とチーズの組み合わせには独特のヤミツキ感がある。肉がチーズに、チーズが肉に旨味を分け与えてお互いを高めあう様は、まさにマリアージュといえよう。

課金が苦でない人は無料のグランモアチーズではなく有料のペコリーノチーズを頼むと、また新しいタイプの快楽の扉が開くのでそちらもオススメである。

 

ラーメン二郎で野菜マシマシを頼む時のような気軽な気持ちでオーダーしてみて欲しい。

 

チーズ二郎としてのサイゼリヤ

バッファローモッツァレラ 300円

バッファローモッツァレラのピザ 500円

ラムのラグーソース 600円

 

これで税込み1540円である。サイゼリヤで使う絶対金額としてはそこそこ高いかもしれないが、チーズ二郎を気軽に実体験できると認知を変えれば、これはだいぶ安いように思う。

人間はある日を境に目覚める生き物である。

 

例えばパクチーなんか、最初はいったい何が美味しいのかサッパリわからない食材の代表格であるが、何度も何度もトライし続けているとそのうち謎にハマり、気がつくとパクチーが無いと物足りなくなってくる有様である。

実はチーズにも同じことがいえる。

 

フランス料理人である三國清三さんが三流シェフ (幻冬舎単行本)という本の中で、フランス人が暑い夏に

「こういう時はチーズと生クリームをたくさん食べて精をつけたくなる」

と言って胃もたれするような食事を平気で敢行し驚くシーンがあるが、チーズはいったん受け入れられるようになると、逆に無いと物足りなくなる食材の代表格である。

ただチーズに目覚める為には、ちょっとづつを少量では駄目だ。

 

例えばラーメン二郎なんかは明らかにオーバーカロリーでオーバーボリュームな条件を通過する事で目覚めるタイプの食べ物だが、チーズもそこそこのクオリティのものでもって、オーバーカロリーでオーバーボリュームをやらないと目覚めようがない。

生・加熱・粉と複数方式で多角的に攻めるのもポイントである。

 

ラーメン二郎だと醤油の香ばしい香りに、モヤシにキャベツ、豚にゴワゴワのオーション麺と食感が複数あるのが麻薬的な中毒性を引き出すポイントがあるように思うが、チーズも様々な角度から殴られ続けないと、なかなか脳が恋に落ちてくれない。

 

もちろん人によって合う合わない、好き嫌いはあるので一概にこれが最適解だと言うつもりはないのだが、チーズ二郎としてのサイゼリヤという新しい概念は貴方の人生に彩りをもたらすと僕は思う。

そうしてチーズを好きになったら、是非とも百貨店などにある専門のチーズ売り場にでも出かけて様々な種類のチーズを楽しんでみて欲しい。チーズの扉は開くとなかなかに沼で楽しい。

 

ちなみに個人的な推しは東京・恵比寿ガーデンプレイスの一角にあるワインマーケットパーティーで、ここに置いてあるチーズはハチャメチャに旨いものが多い。

いかがだっただろうか。参考にして頂けたら幸いだ。

 

あとこれをサイゼリアの中の人が読んでたら、頼むからカプレーゼとトリッパ、ラムランプステーキはよ復活して。お願い(^o^)

 

 

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【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
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(2025/6/2更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

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高須賀

都内で勤務医としてまったり生活中。

趣味はおいしいレストラン開拓とワインと読書です。

twitter:takasuka_toki ブログ→ 珈琲をゴクゴク呑むように

noteで食事に関するコラム執筆と人生相談もやってます

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