先日読んだ『ここらで広告コピーの本当の話をします。』という本のなかに、「学校と会社の区別がつかない若者」についての記述があった。

 

とても興味深かったので、さっそく紹介させていただこう。

今の若い人は学校と会社の区別の付かない人が非常に多いです。学校はお金をもらう場所ではなく、本人がお金を払い学習する場です(僕の主催する学校は無料ですが)。だから、どんな手前勝手な、ダメダメなコピーを出したって、「あなたの学習のため」に講師は次もコピーを見てくれるでしょう。

仕事の場にそれと同じ感覚でコピーや企画を持って来たらどうなるか。「これじゃあダメ」と言われて、「じゃあどう書けばいいか教えてください」という甘えた人もいます。答えが欲しいならコピー量をもらうのではなく逆に授業料を払うべき。
出典:『ここらで広告コピーの本当の話をします。』

なるほど、たしかにそうかもしれない。

 

学校は答えを教えてもらう場所なのに対し、会社は自分で答えを見つける場所。答えを教えてもらうから授業料を払うし、答えを見つけてくるから給料をもらう。

 

最近の若者は「すぐ答えを知りたがる」と言われることが多いから、「学校と会社の区別がついていない」という表現はたしかに当てはまる。

 

でもその一方で、こうも思う。

「学生気分の若者も多いが、それと同時に、企業自体が学校化しているんじゃないか」と。

 

仕事の場を学校だと勘違いしている若者たち

『ここらで広告コピーの本当の話をします。』からもう2つほど、「学生気分の若者」を感じるくだりを引用したい。

若い人の多くは、「これでいいでしょうか」という態度でコピーを出してきます。そんなコピーはいりません。「ああ、それでいいよ」とわかっているようなものは、CD(筆者注:クリエイティブディレクター)が自分で書きますから。くどいですが、学校じゃないんです。世のCDは、コピーや企画を提出されて「まいった!」「負けた!」と言いたいんです。

学校ではただ先生が用意した答えをなぞり、期待通りにやればいい。満点を取らなくとも、ある程度成績が取れればそれで十分。

 

先生を追い越したり、打ち負かしたり、驚かせたりする必要はない。というか、間違っていなくとも模範解答とちがえばバツになる可能性があるから、言われたことを言われたとおりするのが一番いい。

 

では、その姿勢で仕事をするとどうなるか。

 

上司が納得するであろう答えを持ってきて、言われたことをやるだけ。それ以上のことをやって認めてもらいたいとか、出世したいとか、そういった気持ちはない。うまくいかなかったら、「ちゃんと教えてくれない上司が悪い」という。

 

うん、いるよね、こういう人。

 

そしてもうひとつ。

若手コピーライターには、まず自分が喜びたい、という人が多いです。中には日常業務はテキトーで、公募の広告賞は目を血走らせて必死、そういう人もいます。愚かなことです。日常業務の中にこそ、喜ばせることのできる人がいます。

これも、学校でよく見た光景だ。そう、テスト前である。

 

普段は全然勉強しないくせに、テスト前になると慌てて勉強し、その場しのぎで良い点数を取ろうとする。

テストの点が悪かったとしても、そこで心を入れ替えて勉強するようになるわけではなく、やっぱり次もギリギリになるまでやらない。

 

仕事でも、やらなきゃやばいことだけはそれっぽく仕上げるが、あとは適当な人は少なくない。

そう考えると、たしかに「仕事の場を学校だと勘違いしている若い社会人」は、たくさんいそうだ。(「社会人」という言葉はあまり好きではないが、ここでは「サラリーをもらって働いている人」という意味で使っている)

 

仕事ができる=自分で答えを見つけられる

学校は基本的に、「正しい答えがある場所」だ。

だから先生に「これでいいですか」と聞き、「それでいいですよ」と合格をもらえばそれで終了。ゲームクリア。

 

一方仕事では、「唯一無二の正しい答え」なんて、ほとんど存在しない。

新しい製品を売るにしても、どこにどれだけ広告を出すか、どのターゲットにアピールするか、価格はどうするか、パッケージはどれがいいか、競合に勝つためにどう工夫すべきか……。

 

これらの問いに絶対的な正解は存在しないし、ゴーサインを出す上司や経営者たちだって、正解を知っているわけではない。

だからこそ、より正解に近いであろう答えを自分から見つけ出す能力が求められる。

そしてその能力こそが、「仕事ができる」ということなのだ。

 

学校と仕事ではちがう能力が必要なのだから、当然、働くときはその能力を学ばなくてはいけない。

しかしそれを学ばないまま仕事をしている人が多い……というのが、前述の指摘だ。

 

若者がいつまでも学生気分でいる理由

ではいったいなぜ、学生気分が抜けていない人が多いと言われるのだろう? 昔はそうじゃなかったんだろうか?

思い当たるのは、「企業戦士育成」から「ワークライフバランス重視」への転換だ。

 

一昔前は、「見て覚えろ」「自分で考えて動け」「できませんなんて許さない」という世界だった。まさに、「24時間働けますか?」状態だ。

上司からゲンコツを食らうことも、珍しくなかっただろう。

 

そんな非効率で無茶苦茶なことがまかり通っていたのは、そういった理不尽が、「答えを教えてもらう」という学生思考から、「自分から答えを見つけ出す」という社会人思考への変換方法だと考えられていたからじゃないだろうか。

 

いわゆる「社会にもまれる」経験を経て、学生たちはバリバリ働く企業戦士になっていく。

なぜなら、「学校は授業料を払って教えてもらう」のに対し、「仕事では答えを見つけ出すことで給料をもらう」ところだから。

 

若者がいう、「どうすればいいか全部ちゃんと教えてください」に対し、上の世代の上司たちが「給料をもらってるのに甘えてんじゃねぇ」とイラつく理由も、ここにあるかもしれない。

 

「学生思考」の若者のために、企業もまた「学校」になっていく

とまぁ「学校」と「仕事」のちがいについて書いてみたわけだが、「では学生気分の若者を叩き上げて企業戦士にすれば仕事ができるようになるのか」というと、そうともかぎらない。

 

というか、このご時世、もはやそれは不可能だ。

いま求められているのは、企業戦士ではなく、ワークライフバランス重視の働き方だから。

 

「無理せず働こう」「ストレスの溜めすぎには気を付けて」「嫌なら辞めてもいいんだよ」

 

こういう環境で、「ほどほどにやって、そこそこの給料をもらえればいいや。残業がなくて、パワハラ上司がいなければそれで十分」という姿勢で働いている人は多い。

 

だからいつまでも学生気分のまま、「どうすればいいか教えてくれないとわかりません」「合格点をもらえればそれで満足です」「自分のいいところを伸ばしてください」と言う。

 

そしておもしろいのは、企業もそれをヨシとしている……つまり、「企業が学校化」していることだ。

あくまでわたしの印象ではあるが、多くの企業は、若者のそういったスタンスを受け入れている。受け入れないと、若者が辞めてしまうから。

 

だからマネージメントの本には、「指示は明確にしてあげよう」「失敗を怒ったり責めたりせずに解決策を一緒に模索しよう」「プロジェクトの目的を共有してモチベアップ」なんて書かれている。

それは、先生が受験生のために勉強プランを立て、点数が低い生徒には特別授業をし、運動会でクラスごとのスローガンを掲げるのと同じ。

 

最近よく聞く「自律キャリア」だって、結局のところ、上司が部下に進路面談しているようなものだ。

 

「学生思考回路」の若者に働いてもらうために、企業もまた「学校」になるしかない。

そんな状況になっているんじゃないだろうか。

 

学生気分の社会人と学校化する企業でうまくいく……?

とはいえわたしはこの状況を、「悪い」と言いたいわけではない。

 

そもそもこうなったのは、「がんばって働いても給料は上がらないし昇進もしない。それなら言われた通りやるだけでいいや」という、労働者側の諦めも多分にあるはずだ。

 

企業だって、「強く言うとパワハラとして訴えられたり、メンタルの不調で休職、退職されたりしてしまうから、言われたことをやってくれるだけでもういいや……」と割り切っている事情もあるだろう。

 

時代の変化とともに価値観が変わり、それに対応するのは、当然のこと。

そして学生気分の社会人は、今後ますます増えていくだろう。そうやって働くほうが圧倒的にラクだし、たいしてデメリットがないから。

 

すると必然的に、企業は「学校」としての役割を求められるようになる。上司は、先生として部下の面倒を見てあげることが仕事になるわけだ。

 

さて、では教えられる先生が年を取って退職していき、生徒ばかりがどんどん増えた学校はどうなるのだろう。

 

順当に考えれば、廃校だ。だって、教えられる人がいないのだから。

先生がいる学校に転校するしかない。

 

学校化する企業も同じで、いまはまだ先生を務められる人がいるからいいが、10年後、20年後、先生を失った学生気分社員たちはどうなるのだろう。

まぁそのときは、生徒のなかでも優秀な生徒会長的な人が、新たに先生になるのかもしれない。

 

 

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【著者プロフィール】

名前:雨宮紫苑

91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&写真撮影もやってます。

ハロプロとアニメが好きだけど、オタクっぽい呟きをするとフォロワーが減るのが最近の悩みです。

著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)

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