Twitter(X?)で、「200時間残業」という強いことばが拡散されていたので、目に留まりました。

書籍も紹介されていたので、読んで見ると、ツイートの主は2009年から2021年までの12年、コンサルティング会社で働いていたのだといいます。

 

なるほどー。

私もちょっと時期はズレますが、2001年から12年半、コンサルティング会社に在籍していたので、「確かにそんな感じだったなー」と、思い出しながら、「つい最近まで同じようなカルチャーだったのかぁ」と苦笑してしまいました。

 

もちろん、世間様の反応は様々です。

 

ただ、web上なので仕方がないのですが、こうした議論は、残念ながら解像度が低すぎて「なぜ200時間も残業せねばならなかったのか」という理由の説明にはあまりなっていません。

 

だから、何となく感情的に「質より量だろ」に対して「長時間労働すりゃいいってわけじゃない」という水掛け論になってしまうのです。

 

そこで本記事では、「コンサルタントたちは、何で月200時間も残業していたのか?」を扱います。

実は、結論としてはコンサルタントの「200時間残業」は、実はそこまでツラくなかったのです。

 

ただしこれはあくまで私の体験の話なので、べつの体験や、意見があって当たり前ですから、鵜呑みにはしないようお願いします。

 

「月200時間残業」の理由

実際には、コンサルティング会社は忙しさにかなり波があります。

ですから、「ずっと月200時間残業」にはなりません。

 

おそらく、私が残業月200時間だった時代は、2001年から2013年まで在籍していた12年半のキャリア中、「ずっと」ではなく、累計して7~8年程度だったと思いますが、その時のスケジュールは、こんな感じでした。

 

出社:7時30分

朝礼および本日の予定の打ち合わせ(チーム):~9時

客先(平均2時間×4件程度 個人か2名程度で動く):~18時

夕礼および勉強会(チーム):~20時

宿題事項および、翌日の準備(個人):~0時

事務処理、報告書のレビューなど(個人):~1時30分

退社:1時30分

 

まず私の上司の口癖は、「夜できることを昼にやるな。休日できることを平日にやるな」でした。

これだけでも結構とんでもないですよね。

 

なので、平日の昼間は100%客先に充てます。

昼間の社内にいるコンサルタントは、ダメな奴です。

コンサルタントは、客先に行かない限り、売上が上がらないからです。

 

よって、事務仕事は必ず夜。しかも、お客さんの仕事をすべて終えた後にやります。

優先度は極限まで落として、残ったら休日にやります。

 

食事は、仕事の合間に、立ち食いソバを食べたり、カレーショップに入ったり、弁当を食べたりします。

食事のためだけに、まとまった休憩はあまりとりませんでした。

 

また、移動にタクシーを使っても良かったので、休憩はクライアントからクライアントへの移動時間に車内で寝ることが多かったです。

ちなみに、列車は自腹で普通車のグリーン車をよく使ってました。

若いときには、15分も寝られれば、かなり回復しますので。

 

また、会社の近くに住み、退社から15分で家に帰れるようにしました。

 

この働き方で累計すると、月に残業が約170時間くらいです。

 

なお、残りの30時間は、土日の出勤です。

土日にやっていたのは、以下の4つが多く、大体9時ごろに出社して、夕方には帰っていました。

・お客さん向けのセミナー

・社内の勉強会、商品開発会議

・合宿

・平日の積み残し

 

なお、私の上司は「勉強会」と「合宿」をかなりの頻度でおこなっていたので、相当の土日がつぶれました

平日の昼を100%客先で過ごしていますから、社内でコンサルタント同士がまとまった時間、顔を合わせるには、休日に勉強会や合宿をするしかないのです。

 

これでめでたく、残業が月に200時間となります。

 

コンサルタントの「200時間残業」は、実はそこまでツラくなかった

一見大変そうに見えますが、実は「200時間残業」は、そこまでつらくありませんでした。

これにはいくつかの理由がありますが、大きくは6つくらいあると思います。

 

・若くて体力があったこと

個人差がありますが、若いときは、多くの人に体力があります。

なので、精神的にきつくなく、仕事が面白かったり、働くのが好きだったら、体力の限界に挑戦してもいいんじゃないですかね。

ただ、45を過ぎて、同じことをやれるかというと、やれなくはないけど、やりたくないです。

 

・裁量があったこと

所属していた部門は、個人の「裁量が大きい」のが特徴でした。

というのも、中小企業向けのコンサルティングは、大体1名から2名で動くので、細かな調整が必要ないのです。

 

つまり、多くを自分の裁量で決められる。

お客さんだけ見ていればいいのです。

これは、ストレスを大きく減らして、仕事の面白さを増やします。

 

「状況をコントロールできる」ことで、負荷は大きく減ります。

これらは、研究結果としても報告されておりますので、興味のある人は、下の記事も参照してください。

仕事において「裁量がない」時の精神的負担は、想像するよりも遥かに大きい。

会社には「独り立ち迄のルール」が定められており、何回か先輩と上司の同行を受ければ、あとは「一人でやりなさい」という明確なルールがあったからだ。

そのルールに定められた規定回数をすぎれば、責任は重くなるが、自分の好きなようにやれる、自分のペースでやれる、お客さんとまともに話すことができる。

そう思えばこそ、あの時期に超長時間労働に耐えることができたのだと思う。

 

・自分に向いている職業だったこと

コンサルタントは、私に向いている職業だったことは間違いありません。

私が最もストレスを強く感じる行為の一つが「成果を重視しない仕事」だからです。

 

ところが、コンサルティング会社の上司は「成果に対して真摯な」人が殆どでした。

少なくとも、「仕事はこなせばいい」「仕事の意義を考えるな」という発想は、一切ありませんでした。

 

・パワハラ上司・顧客が少なかった

パワハラまがいのことをするコンサルタントの話が面白おかしく語られるケースも多いですが、実際にはコミュニケーション能力が極めて高く、失礼な人が少ない現場でした。

これは大変仕事がやりやすく、論理さえ詰めておけば「話せば何とかなる。」と心理的安全性が極めて高い状態でした。

なお、余談ですが、「部下に傲慢で失礼なコンサルタント」は、その仕事も2流以下だと思います。

 

またお客さんも基本的には優秀なので、「感情に任せて」のような人は少なく、たとえいたとしても、「勉強会」などで得た対人ノウハウ(これは、「頭のいい人が話す前に考えていること」という本で書きました)で対処は非常に楽でした。

 

・長期の休みをガッチリ取れること

コンサルタントの仕事は、プロジェクト制なので、忙しいときと暇な時が交互にやってきます。

だから、月200時間の残業が続いたとしても、年末やゴールデンウィークなどは何とか都合をつけて、長いときには2週間近くの連続した休暇を取ることもできました。

そしてこれが大きな「活力の源」となりました。

 

「あとちょっとで、長い休暇だ!」と思えば、200時間程度の残業など大してつらくありません。

ダラダラといつまで続くかわからない、「残業の日々」のほうが、よほどつらいと思います。

 

・給料がいい

給料は一般的な日本企業に比べて、破格だったと思います。

また、私は飲みにもいかず、車も家も買わなかったので、基本的には上述した休暇の時以外にはほとんどお金を使いませんでした。

ですから、「お金を貯める」という行為そのものに、モチベーションを見出していたと思います。

預金の残高が増えていくのはいい気分なのは間違いないですし、その時に貯めたお金は、起業に大変役に立ちました。

 

 

「200時間の残業」でスキルは身につくか

結論から言うと、身につきます。

ただし、「まともな精神状態なら」という保留付きです。

 

疲れきっていて、合間に本も読めず、新しいチャレンジもせず、ただ仕事をこなしているだけでは、多分スキルアップにあまり役に立ちません。

 

しかし、上の6つのような条件が重なった時には、

「仕事の面白さがわかり」

「スキルアップの実感が伴い」

「様々な会社のノウハウを吸収でき」

「優秀な人たちとの人脈が手に入る」

という、かなり得難い果実が得られる可能性が高いです。

 

逆に、条件が整わなければ体を壊すだけです。

したがって、私の場合は、好条件がたまたま重なった「ラッキー」だっただけ、と言えるかもしれません。

 

自分の状況を冷静に見てください。

精神的な負荷が高い状態で「200時間残業」は絶対に無理です。

激務はほどほどに。

 

 

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(2024/4/21更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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◯有料noteでメディア運営・ライティングノウハウ発信中(webライターとメディア運営者の実践的教科書

 

Photo:Charles Forerunner