昨年の末、ChatGPTが登場し、生成AIの能力を一般の人が実感できるようになりました。

大きく世の中が変わった、と感じる人も多いかもしれません。

 

特に、今年の3月にリリースされた生成AIモデルのGPT-4は、ChatGPTの能力を大きく高めたので、世の中が騒然となりました。

中には「AIが人類を滅ぼすかもしれない」と本当に心配した人もいたようです。

 

企業の経営者たちも同じ感想を抱いたようで、例えば日清食品のCEOは、「どうしてこんなことができるのか。恐ろしい時代になったものだ」という感想を述べて、3週間で生成AIを全社導入したといいます。*1

 

 

しかしGPT-4のリリースから半年ほどたち、当初の「ChatGPT狂騒曲」も収まりつつあります。

 

例えば、上述した日清食品では、社内の利用は1日150~200人程度で、全体約5000人のうち、5%未満だと明かされていました。

 

また、ロイターによると、ChatGPTそのものへのアクセスも減少しているといいます。


実際、知人や友人たちの話を聴いても、「生成AIを、仕事で活用している」という人は、それほど多くありません。

 

日清のように、全社で生成AIの研修をやり、社員たちが自由に使える環境を整えてすら、利用率は全体の5%。

労働者全体で言えば、おそらく1%にも満たないのではないかと思います。

 

しかしなぜ、生成AIの利用がそこまで広がらないのでしょうか。

逆に「使っている人」は、どのように利用しているのでしょうか。

 

その理由を調べるために、つい先日、私はX(旧Twitter)で、生成AIの活用事例の取材先を募集させていただきました。

するとありがたいことに、30社近くの方からご承諾をいただきました。

そして、実際に話を聴くと、AIを使いこんでいる人は、「もう、これなしでは考えられない」と言うほど幅広く利用しています。

 

その「実際の使い方」に関しては、改めて別の記事にする予定ですが、彼らの使い方を聞いて、逆に私は「なぜ生成AIが広く使われないか」の理由が少し理解できました。

 

なぜ「生成AI」は仕事で広く使われないか

結論としては、今のところ、以下の3つが生成AIを「つかわない」理由となっています。

 

1.特に必要性を感じない

おそらくもっとも多い理由でしょう。

まだ世の中は「何に使えるかよくわからない」「私の業務には不要」あるいは「触ったことがない」という人たちが大半だからです。

ただし、この中には「AIで代替可能な仕事」がかなり含まれているので、彼らの認識とは関係なく、仕事が安泰というわけではありません。

 

例えばサイバーエージェントは、人間が行っていたクリエイティブ業務を丸ごと消滅させてしまいました。

ChatGPTで広告会社の組織激変、サイバーでは30人以上いたディレクターがゼロに

サイバーエージェントで制作に携わる職種のうち、広告クリエーティブの出来栄えを判断するディレクター職はかつて30~40人いたが、現在はゼロになっている。極予測AIの予測機能が同職の役割を代替したからだ。

ディレクター職だった人材は営業職など他の職種に転向したり、同社を退社したりしたという。キャッチコピーをつくるコピーライター職も、いずれは不要になる可能性がある。

特徴的なのは、「クリエイティブ」だとみなされていた仕事で、AIによる代替が起きたことです。

中途半端なクリエイティブは、AIで十分、という事なのでしょう。

 

あるいは、コンサルティング会社においても、「仮説の設定」「シナリオ作成」はAIの得意とするところで、すでにAIが代替しつつあります。

また、以前は外注したり、新人たちがパワーを使って行っていた「リサーチ業務」がかなりの部分、AIで代替できるようになっています。

 

あるいはライティング業務です。

今回の取材の中で、パンフレットの文言や、募集要項などは、ほぼAIが制作して問題なかった、という話を聴きました。

PRやデジタルマーケティングの分野では、従来、人が行っていた役割を、AIが徐々に侵食しているのです。

 

実際、ライター業界はすでに「文が書ける」という能力はありふれていて、ライターは「書ける」ではなく、「人を集められる」という能力が問われていますから、AIによるライターの代替は、思ったより早く進むかもしれません。

 

したがって、「何に使えるかわからない」「私の仕事はAIで代替できない」と思っていても、他の誰かが「あなたの仕事で、AIをこう使えますよ」という最適解を見つけてしまうと、一気に状況が変化するでしょう。

サイバーエージェントでそれが起きたように。

 

2.AIに命令をするのが面倒

2番目の「AIを使わない」理由としては、「AIに命令をするのが面倒で、自分でやったほうが早い」が挙げられます。

 

確かにやってみるとわかりますが、AIへの命令文、「プロンプト」を自分で考えるのは、結構骨が折れます。

けっこう工夫したつもりでも、自分が意図したとおりの回答が得られないことも多いのです。

 

そのため「誰かが生み出したプロンプト」をそのまま使えばよい、という判断もありますし、もっと言えば、AIがプロンプトそのものを生み出してくれる、というのが現実的な未来かと思います。

実際、今回のインタビューでも、画像生成AIへの命令文を、ChatGPTに出力させている、という方がいました。

 

ただし、今のところは文章を書くのが苦にならない、「言語能力」の高い人のほうが、AIを使いこなす能力が高いのは事実です。

 

これは「人に指示を的確に伝えられる能力」と同じなので、人をうまく使える人は、AIをうまく使えることが多いでしょう。

参考:なぜ「ChatGPTは、使う人次第で能力が大きく変わる」のか、使ってみてはっきりした。

で、「ChatGPTの使い方マニュアル」を作ってみてわかったことが一つあります。

それは、AIへの指示の出し方と、人間への指示の出し方は、さほど変わらない、という点です。

 

「自分でやったほうが早い」と、いつまでもAIに指示出しを面倒くさがっていると、AIの提供してくれるコンピューターのパワーを使いこなせない労働者になってしまう可能性があるのです。

 

あたかも「パソコンを使えない」「コンピューターが苦手」が、少なくない数のホワイトカラーにとって、死活問題となっているように。

 

3.専門能力がない

「使う理由」があり、「使いこなしたい」と思っていても、最後の関門として、「専門能力」があります。

専門能力が低い人は、AIを使いこなしにくいのです。

というのも、現在のAIは、「解像度の高い質問」をしないと、そのパワーを引き出せないからです。

 

例えば、中国における中古車の市場について調査をかけるときに、素人は

「中国における中古車の市場について教えて」

という大雑把な命令くらいしかできません。

 

もちろん、それなりの結果は得られます。

 

しかし調査の技能を持つ人は、AIへの命令文にもっと工夫ができます。

例えば、

 

「中国で中古車を購入する方法をおしえて」

「中国で中古車を購入する場所の候補を10個ほど教えて」

「中国の中古車市場の市場規模と、参入企業とその特性を教えて」

「中国で中古車を購入するときの、支払いの方法にどのような方法があるか、リストアップして」

質問力の差によって、さらに細かい調査が、AIのアシストによって効率良くできるようになっているのです。

これは「専門能力」が、AIを使いこなす能力を強化することを示しています。

 

生成AIは「特殊技能もち」と「その他大勢」の差を広げるツール。

ここまで見ていくと、AIが提供する大きなパワーは、

・「業務で使える(使いたい)」と思っていて

・「言語能力」が高く

・「専門性」のある

これが当てはまる人にすさまじい恩恵がある一方で、その他大勢には、恩恵があるどころかむしろ「仕事を奪う」という可能性すらあるのが現実かもしれません。

 

あと、余談ですが、「AIによる自動運転」は早いところ実現してほしいです。

態度の悪い個人タクシーは絶滅してほしいし、人類には運転は危険すぎる。

 

 

 

 

 

【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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Photo:Michael Dziedzic

 

*1 「恐ろしい時代になった」日清に走った生成AIショック わずか3週間で全社導入