かつて筆者の知人には、「ナンパ師」が3人いた。
ビジュアルはそれぞれ、丸刈りの懲役ヅラ、キン消し体型の山男、絶対売れないビジュアルバンドのボーカル、という風体だ。
正直言って到底モテそうには思えないのだが、彼らの身の回りには常に異性の姿が見え隠れしていた。
これは一体、どういうことなのか。
自分なりに理由を分析して気づいたのは、彼らには「恥を知らない」という共通点があることだ。
100人にアタックして断られても、羞恥を覚えるどころか何ら心に痛みを感じない。
それどころか、101人目がOKしてくれるかも知れないしとばかりに街角で突撃を繰り返す。
そんなのみっともないと思えるなら、それはあなたが正常な感覚の持ち主である証拠。
だが、ことナンパに関しては、恥も外見も関係ないタイプに一定のメリットがあるのは事実のように思われる(迷惑なので消えて欲しいが)。
さて、問題は仕事の世界。
前述のナンパ師、というか怪人たちのごとく厚顔無恥な人は、どんな業界や組織にも程度の差こそあれ存在する。
これはざっくり言えば、社会人として持っていてしかるべき「自分が他者からどう見られるか」という意識が欠落した人々だ。
ナンパ師ならば街中で遭遇しても無視を決め込めば問題ないが、仕事ではそんな面の皮が厚い輩と接点を持つことが往々にしてある。
筆者の経験から言うと、実はこの手の人々をよく観察すると、同じ「恥知らず」でも幾つかの類型があることに気付かされる。
では、その中で最もタチが悪いのはいかなる者か、自分もそうならないためにはどうすべきか。
また我々は仕事の中で恥の意識とどのように向き合うべきか。
確信犯か、それとも無意識か
何を恥とするかは生きている時代、所属する集団、はたまた個人によっても違う。
恥の定義から始めていたらそれで話が終わってしまうので深入りは避けるが、社会人として恥ずかしいことなどというのは普通、世間に揉まれているうちに大体の人が理解する。
責任を果たさない、ルールや規範を守らない、他者に迷惑をかけて何ら思うところがない……挙げていけばキリがないが、ここで話題とするのはそれらを全く意に介さないモンスターである。
筆者の見立てでは、底抜けの恥知らずには大きく分けて二つのタイプがいる。
一つはそれが恥と知りつつも、自己の利益と天秤にかけて、恥の意識を捨てた方が得だと思ったらどう思われようが関係ないとする確信犯。
もう一つはガチで無自覚、恥ずかしいという感覚が欠落していたり、他者にどう見られているかに思いが及ばない方である。
確信犯タイプは、要するに手段を選ばない人のことだ。
ルールや約束、信義といったものを時には紙屑のように投げ捨てて、恥知らずと後ろ指をさされようともカエルの面になんとやら。
これはこれで実にタチが悪く、モノホンに接したことがない方にとっては「世の中にこんな人間がいるのか」と理解できないのではとすら感じる。
忘れ難い事例を一つ挙げると、筆者はかつて日本の中堅出版社に勤めていたのだが、何かのきっかけで人を紹介され、その方から某展示会に出展してほしいとの話を持ちかけられたことがある。
出展料は不要、誌面で大きく取り上げてくれればそれでいいとのバーター案件で、だったらということで準備をしていたら、開催ギリギリの段階で突然電話がかかってきた。
「出展料がまだ振り込まれていないのですが」
いやあんた、バーターでいいって言ったじゃん。
当然そう切り返すと、そんなことはビタ一文言ってない、法的に有効な証拠があるなら出してくれとの一点張り。
当時の出版業界、特に雑誌は口約束がまかり通っていた時代で、時には言った言わないのトラブルもあったが、ここまで無理筋なシラの切り方はさすがに初めて。
口約束がまずかったというレベルではなく、この言葉を吐ける人ならたとえ文書を交わしていようが平気で反故にしてくるだろう。
ここまでひどくなくても、会社組織には明らかに自身が負うべき責任を他人に押し付けたり、論理破綻を承知の上で強弁して己の立場を守ろうとする人は普通にいる。
理想を言えば、一番いいのは一切関わりを持たないこと。
だが、そういう恥知らずの標的に運悪くされてしまった場合、社内での立ち位置や上下関係など変数は多々あるが、できるだけあらがった方がよい。
一度屈して尻拭いでもさせられようものなら、コイツは強く言えば折れると思われて、以後もターゲットにされかねない。
会社で人と接する際には、仕事ができるできない以前に、人間性を見ることが非常に大事。
一眼で見抜けるほど簡単ではないが、コツは相手の言葉ではなく行いを観察すること。
世の中には些細な利益のためであっても平気で人を裏切る者がいると肝に銘じ、眼光を養わなくてはならない。
見ているこちらが恥ずかしくなる自然体の恥知らず
確信犯に比べてより身近にいて、しかも厄介なのが恥の意識に無自覚なタイプである。
大概この類型はそれなりの職位に就いており、人に何かを命じたり、部下を抱えていたりする。
社会に出た瞬間から「恥って、なぁに?」という感じだったわけではなく、ある程度出世して、自分のテリトリー内で物申されることが減っていき、相手にどう思われているかに鈍感になるパターンが多い。
具体的な事例で説明すると、筆者が雑誌で編集長を務めていた頃、誌面の最終チェックをする部署があった。
そこの長がOKを出さなければデータを印刷所に持ち込めないわけだが、とにかく毎回返事が遅い。
チェックが仕事の部署長が務めを果たさなくてどうすんの、と誰もが思いつつ、相手はオーナー一族だったので意見できず、時折様子を見にいくと1週間前に提出したものがそのままの位置で机の上に置かれている。
その間、関係各方面から矢のような催促の電話。
スタッフどころか外部の人まで全員待機となり、印刷所からサバ読みなしで待てて半日とか言われたところで、そのチェック担当者殿がのそりのそりと役員室から降りてきて、「見たけど、ここはこうした方がいいんじゃないかな」と呑気な御宣託。
本当に、本当にどうでもいい直しである。
でもそれを部員はもちろん、待機してもらっていたデザイナーやら何やら皆が徹夜でやり抜く。
そして明け方、データをバイク便に託した時、いつも思った。
あの人、自分がどう思われているか考えたことはあるのだろうか、と。
さすがにブチ切れた社員が意見した時も、会議とかあって忙しいんだよね、次は早く見るわといった返事で全く響かず、改まらず。
本人は皆に迷惑をかけている自覚がなく、申し訳ない、恥ずかしいという気持ちがない以上、行いは変わらないものだ。
この手の人につける薬はなく、対応策も限られる。
筆者の場合、相手が言ってきた言葉全てに自分の脳内で「すみませんね、私無能なもんで」という一言を付け足して、こんな恥を知らないおじさんの相手をしてあげて私、えらいなと思うようにしていた。
無意味なことは承知の上かつ何の解決にもならないが、目の前にいるのは裸の王様であるとその都度再確認することで、ほんの少し気持ちが軽くなる。
筆者の経験から言うと、不運にもそういうタイプの人を上に頂くことになった場合、真面目な人から壊れがちだ。
即ばっくれるのも一つの手だが、いずれはあなたの世代が上に行く。
その時のための反面教師、悪しきお手本が眼前にいると心の中で思ってみてはどうだろう。
結局、恥ずかしいという感覚は、本来自らを戒めるものである。
社会に出たばかりの若い人が経験不足などの理由から、仕事でミスをしたり同僚に迷惑をかけることになったりすれば、上司から叱責を受けることだってあるだろう。
そんな時、同じ過ちを犯さないためのモチベーションとして、廉恥の思いを持つことはとても大事だ。
だが筆者としては、反省しつつも頭の片隅でちょっとだけ、こんなことも考えてみてはと言いたくなる。
叱責している上司自身は、そもそも恥を知れと他者に言う資格のある人間なのか、ということをーー。
人手不足 × 業務の属人化 × 非効率──生成AIとDXでどう解決する?
今回は、バックオフィスDXのプロ「TOKIUM」と、生成AIの実務活用支援に特化した「ワークワンダース」が共催。
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・導入における選択肢と、導入後のワークフロー像
登壇者紹介:
松原 亮 氏(株式会社TOKIUM 取締役)
東京大学経済学部卒業後、ドイツ証券に入社し投資銀行業務に従事。
2020年に株式会社TOKIUMに参画し、当時新規事業だった請求書受領クラウド「TOKIUMインボイス」の立ち上げを担当。
2021年にはビジネス本部長、2022年より取締役に就任し、経費精算・請求書処理といったバックオフィスDX領域を牽引。
業務効率化・ペーパーレス化の分野で多くの企業の課題解決に携わってきた実績を持つ。
安達 裕哉 氏(ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO)
Deloitteで大手企業向けの業務改善コンサルティングに従事した後、監査法人トーマツにて中小企業向け支援部門を立ち上げ、
大阪・東京両支社で支社長を歴任。2013年にティネクト株式会社を設立し、ビジネスメディア「Books&Apps」を運営。
2023年には生成AIに特化した新会社「ワークワンダース株式会社」を設立。生成AI導入支援・生成AI活用研修・AIメディア制作などを展開。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計71万部を突破し、2023年・2024年と2年連続でビジネス書年間1位(トーハン/日販調べ)を記録。
日時:
2025/5/16(金) 15:00-16:00
参加費:無料 定員:50名
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
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(2025/5/8更新)
【プロフィール】
御堂筋あかり
スポーツ新聞記者、出版社勤務を経て現在は中国にて編集・ライターおよび翻訳業を営む。趣味は中国の戦跡巡り。
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