facebookを見ていて、茶を吹いた。

以前から胡散臭い商売をしていた知人の外見と職業が、胡散臭さの最終形態へと進化していたからだ。

 

つい先日、私が子供の卒業式のため着物を着用した姿を投稿したところ、そこに件の知人から「いいね」が押されていた。

SNS上では「友達」であるものの、没交渉になってかれこれ9年。その間、相手から私の投稿に「いいね」が押されることなど、これまでに一度も無かったのだ。もちろん、こちらから押したことだってないのだけれど。

 

一体どういう風の吹き回しだろう?

怪訝に思って彼のプロフィール写真を見てみると、スーツ姿で腕組みしていた以前のものとうって変わって、和装のアンサンブル(同一柄、同一品質でできた着物と羽織のセット)できめ込んでいる。

 

日本文化や和装に馴染みがある人ではないのに、なぜ着物を着ているの?

自分が着物を着るようになったから、私の着物姿に「いいね」を押したの?

 

よけい不思議になって彼のページを見に行ったら、どうやら職種を変えたらしい。2ヶ月前に肩書きが更新されていた。

去年までは自称「ビジネスコンサル」で、ぼったくりのセミナー屋だったのが、なんと「宿命鑑定士」になっているではないか。

 

は?宿命??鑑定???

 

ざっと調べてみたところ、宿命鑑定とは、生年月日からその人が生まれ持った才能や未来について鑑定するものだそうだ。

要するに、占いの一種である。

 

インチキ占い師、じゃなかった宿命鑑定士になった知人によれば、

・宿命とは、現世での使命のこと

・宿命を知ることで己の運気を知り、運命を変えることができる

・宿命鑑定を受けると、好機を逃さず、次元上昇の波に乗れる

そうだ。

なかなかのスピリチュアル臭さではないか。私好みのネタである。

 

女のキラキラ起業家は、まっとうな物作りやサービスを販売する実業で稼げないと、コンサルやセミナービジネスという虚業に走り、そこでも行き詰まりを感じると、スピリチュアルに傾倒するのがお決まりだ。

このパターンはてっきり女の専売特許だと思っていたのだが、なんだ、男よ、お前もか。

 

実業で成功するのは難しい。

凡人が起業した場合、商売のセンス以上に必要なのが、時間と根気である。成功を焦ると、上手くいくはずの事業も上手くいかない。

けれど、大抵の起業家は「早く稼げるようになりたい」と焦っており、トライ&エラーを繰り返しながら地道に商品やサービスの改善をはかる前に、心が折れる。

 

そんな時に登場するのが「あなたの悩みを解決します」という、自称ビジネスコンサルである。

「こんなことで悩んでいませんか?成功の秘訣はマインドにあります。あなたもマインドの持ち方を変えれば、今までの悩みが嘘のように解決しますよ。これまで多数の起業家のコンサルをしてきたワタクシが、成功者のマインドの秘密を特別に伝授いたしましょう。起業家のためのマインドアップセミナー、ウン万円。これは、あなたの覚悟の値段です」

残念ながら、焦って知能指数が低下している真っ最中だと、この手のベタなテンプレにまんまと引っかかってしまう。

 

しかし、中身が空っぽのセミナーにいくら高い料金を払っても、何の変化も起こらない。当然である。商売に試行錯誤をスキップできる秘訣なんてないのだから。

 

しかし、IQダダ下がりの上にプライドまで高いとなると、虎の子の金をドブに捨てたと認められなくなってしまい、

「もしかすると、得るものがなかったのは学び足りないせいかもしれない。たった1回のセミナーでは不十分だったんだ」

と、都合よく解釈する。そして、さすらいのセミナージプシーになるのだ。

 

よせばいいのに高額セミナーに重課金し、大枚はたいて自称コンサルから役に立たないアドバイスをもらい続けるうち、やがてどんなバカでもふと気が付く。

「こんなチョロい商売なら、俺(私)にもできんじゃね?」

 

思い立ったら、即行動だ。

何事もまずは形から。髪を整え、眉を揃え、ほんのりメイクもしてもらい、スーツを着て写真撮影。女はお腹の前で手を重ね、男はナナメに構えて腕組みポーズがこの手の写真のお約束。

 

実績なんて無いけれど、信頼できる風の講師っぽい写真が撮れたら、セルフプロデュースはバッチリさ。

大事なのは中身じゃない、外見だ!

本物じゃなくても、本物っぽければいいんだよ。

 

それなのに、楽勝だと思ったセミナービジネスも、いざ始めてみると楽じゃない。

どうして世の中は、セミナー講師やコンサルになりたがる奴らばかりなんだろう。おかげで競争が激しいじゃないか。

カモは奪い合うものじゃない。廻しあうものだろう?仲良くしようぜ!

 

同類との交流が集客に繋がるとばかりに、虚業家同士でランチ会、お茶会、飲み会に集い、お互いのセミナーやコンサルを受け合って、心にもないお世辞を言い合うのが互助会のマナー。

交際費がかさんで仕方ないけれど、投資と思って割り切ろう。

 

だけど、そうした「お付き合い」による集客も、仲間内を一巡すると終わってしまう。

 

商売は水ものと言うが、虚業であればなおのこと。いつだって収入も立場も心も不安定で、将来への不安から逃れられない。

「そんなあなたのマインド、支えます」とばかりに、つけ込んで来るのがコミュニティーに紛れ込んでいるスピリチュアル系の虚業家たちだ。

 

自称・起業家である占い師やヒーラー、霊能者から、霊視だの鑑定だのヒーリングだのを受けているうち、どんなバカでもふと気が付く。

「こんなチョロい商売なら、俺(私)にもできんじゃね?」

 

このようにして、にわか占い師が量産されていくのだろう。

知人は、信頼できる風の占い師であることを演出するために、今度は着物を着ているというわけだ。

「運命というならまだしも、宿命というのは実に嫌な言葉だねぇ。二重の意味で人間を侮辱している。一つには、状況を分析する思考を停止させ、もう一つには、人間の自由意志を価値の低いものとみなしてしまう」

(出典:アニメ「銀河英雄伝説・本伝」シーズン3エピソード24第78話「春の嵐」より)

これは、「銀河英雄伝説」というSF小説の金字塔で、主人公の1人であるヤン・ウェンリーが発した言葉だ。

 

よく「銀英伝・名言集」としてネットにまとめられているが、このセリフには続きがある。

「宿命の対決なんて無いんだよ、ユリアン。どんな状況の中にあっても、結局は当人が選択したことだ」

「すみません…」

「いやぁ、これは、私自身に戒めて言っていることさ。宿命なんていう便利な言葉があるとつい、自分の選択をそのせいにして正当化したくなる。
私はべつに、いつも自分が正しいなんて思っちゃいないよ。が、同じ間違えるにしても、自分の責任で間違えたいのさ」

私が銀英伝のアニメシリーズを見るためにレンタルビデオ屋に通い、原作小説を貪り読んでいたのは中学生の頃である。当然、大いに影響を受けた。

 

ヤンのセリフに私なりの解釈を加えると、宿命とは「状況を分析する思考を停止させる」と同時に、「状況にあらがわず諦める」ことを肯定するための方便なのだ。

 

スピリチュアルに傾倒する人たちは、自分の思い通りにならない状況を、いつも何かのせいにしている。

「私が◯◯を苦手なのは、前世が関係しているせい」

「何をしても上手くいかないのは、大殺界だから」

「結局いつもこういう結果になってしまうのは、宿命なのよ」

そうやって便利な言葉で理由をつけて、「まずは現実を直視し、現状を受け入れる。その上で、現実的な解決策を考えて、自ら行動を起こす」ことを拒否している。

 

宿命鑑定士と肩書きを変え、仕事を志事と表現するようになった知人のプロフィールは、いつまで着物姿だろうか。

お手並み拝見である。

 

 

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【著者プロフィール】

マダムユキ

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