前職の時、職場に「本を月に10冊以上読むこと」というオキテがあった。

 

仕事において、読書は必須で、本好きも多かった。

私の上司だった人間は、とにかく本が好きで、座席の後ろに山のように本を積み上げていたし、空いた時間には座席でよく本を読んでいた。
(同僚たちも、職場でけっこう本を読んでいた)

 

また、ビジネス書だけではなく、小説やノンフィクションなども、良く読まれていた。

面接で、趣味を聞かれて、「小説が好きです。」と答えた人は、その後大いに面接官とその内容で盛り上がったし、お客さんと共通の愛読書があれば、それだけで仲良くなることができた。

 

読書に時間を割く人は、知的能力が高いことも多く、特に、優秀な経営者の方で「本を読まない」という人は殆どいない。

だから書店で「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」というタイトルの本を見つけた時、面白いな、とおもった。

 

なぜなら、「忙しい」といって本を読まない人もいたが、彼らより遥かに働いていた上司は、多くのの読書をしていたからだ。

本を読まない人は、時間があろうがなかろうが、本を読まない人なのではないだろうか、と思ったので、とにかく、手にとって読んでみることにした。

 

だが、結論から言うと、この本には「なぜ働いていると本が読めないのか」についての本質的な洞察はあまり含まれていなかった。

あえて言えば、著者が言いたいのは、次の一文だろうか。

「個人が「頑張りすぎたくなってしまう」ことが、今の社会の問題点なのである。本書の文脈に沿わせると、「働きながら本が読めなくなるくらい、全身全霊で働きたくなってしまう」ように個人が仕向けられているのが、現代社会なのだ。」

つまり、人を働かせすぎる新自由主義や資本主義社会が悪い、というのが結論のようだ。

 

しかし、この主張にはあまり強い根拠がない。

実際、厚生労働省のデータでは、会社員の労働時間は減少している。

本を読もうと思えば、時間はとれる。

「忙しいから本が読めない」というのは昔からある話で、特に新自由主義や資本主義と関連が強いようには思えない。

そもそも、忙しくても本を読む人はたくさんおり、反例が多すぎる。

 

 

しかし、こうした本が出るということは、「働いていると本が読めなくなる」と感じる人が少なくないのも事実なのだろう。

だから、少し考察してみた。

 

働いていると本が読めなくなる本当の理由

本が読まれなくなったのは、単純な理由だろう。

「読書が娯楽としては面倒な活動であり、かつ、他に面白いことがいくらでもある」からだ。

 

実際には、読書は競合関係にあるYoutubeやゲームの様々な娯楽に、魅力で負けている。

そもそも「面白い本」自体も、本の数が多すぎて、選ぶことが難しい。

本は、Youtubeやゲームに比べて、リコメンドが貧弱すぎて、動画のように「個人の読書履歴に合わせたカスタマイズ」が難しい。

 

だから「わざわざ本に時間を使うよりも、面白さが確約されている動画やゲームに時間を使う」ほうが、合理的な選択となりやすい。

 

また「読書」より「仕事」が優先されるのは、仕事の方が読書より魅力的であるからだ。

ものにもよるが、仕事は「フロー」に入りやすく、かなり面白い活動の分野に入る。

 

結果が短期的にわかりやすく、フィードバックも多い。裁量もある程度あり、自律的に工夫もできる。おまけに金銭的な見返りまである。

あまりにも面白くて、のめり込む人が多いので、「働き過ぎ」が指摘されるほどである。

 

「会社は嫌いだけど、仕事は嫌いではない」という人が多いのは、そのためだ。

 

本を読まない人の優先順位は、例えば

Youtube >>> Twitter >>>>>>>>>>> 読書

であったり、

仕事 >>> 飲酒 >>>>> ゲーム >>> 読書

であったりする。

 

現在、読書をする人の大半は、娯楽ではなく、「教本」として読むために本を買っているので、ビジネス書や自己啓発書、ハウツー本は売り上げを伸ばしている。

しかし、娯楽としての読書、例えば小説などは、「楽で面白い」他の娯楽に負け続けているのが実情ではないだろうか。

 

だから、繰り返しになるが、「なぜ働いていると本が読めなくなるのか?」という質問への回答は、

「読書が面倒で、他に面白いことがいくらでもある」からだ。

著者が言う、社会のせいである、という意見は「まあ、そういうこともあるかもね」くらいで捉えておいて良いと思う。

 

どうすれば読書する?

しかし、本質的には「読書」という活動は、スルメのように、噛めば噛むほど味が出る、奥深いエンタテインメントだ。

捨てるには、ちょっともったいない。

では、どうすれば、あまり本を読まない人が、読書を優先しようと思えるのか?

 

はっきり言えば、同じ「娯楽」というカテゴリーでは、ゲームや動画と戦えないだろう。

どう考えても、「スマホゲー」のほうが楽だし、面白い。

娯楽に苦行なんて不要であり、とにかく楽で受け身でもよく、何も考えずに笑える方が良いに決まっている。

 

だから読書は単なる「娯楽」ではなく、「自分の能力を強化するためのツール」という位置づけだと割り切ったほうが良いと思う。

ゲームのキャラに強い武器を装備させるように。

敵を倒して経験値を稼ぐように。

 

本質的には、「読書」が娯楽であったのは、他のエンタテインメントがなかった、人類史上のごく僅かな期間だけである。

読書は娯楽のためではない、という意識こそ、むしろ読書の復権には必要なのだと思う。

 

ビジネス書しか読まない、自己啓発書しか読まない、ハウツー本しか読まない。

別にそれでいい。読書とは、本来そういうものだ。

 

 

 

【お知らせ】
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。


<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>

第6回 地方創生×事業再生

再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは

【日時】 2025年7月30日(水曜日)19:00–21:00
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。

【今回のトーク概要】
  • 0. オープニング(5分)
    自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」
  • 1. 事業再生の現場から(20分)
    保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例
  • 2. 地方創生と事業再生(10分)
    再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む
  • 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
    経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説
  • 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
    「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論
  • 5. 経営企画の三原則(5分)
    数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する
  • 6. まとめ(5分)
    経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”

【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。

【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)

 

 

 

 

【著者プロフィール】

安達裕哉

生成AI活用支援のワークワンダースCEO(https://workwonders.jp)|元Deloitteのコンサルタント|オウンドメディア支援のティネクト代表(http://tinect.jp)|著書「頭のいい人が話す前に考えていること」55万部(https://amzn.to/49Tivyi)|

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◯note:(生成AI時代の「ライターとマーケティング」の、実践的教科書