つい先日、知人から「漠然とした不安でモヤモヤするので、カベ打ちに付き合ってほしい」という要望を受けた。
「悩んでるんだよね」
「何を?」
「優先度……かな? 何が大事なのか。」
「やるべきことは明確なの?」
「そこも不明瞭で、選択肢が多すぎる気がする。」
「例えば?」
「読書、今年の目標に対する活動、家族に使う時間、スキルアップ、転職の検討、健康診断、旅行や趣味にも打ち込みたい。選択肢が無数にあって困る。」
「なるほど。それは困るね。」
「……ただ、選択肢を出せば、いまのモヤモヤが解決するものなのかどうかも、よくわからなくて……」
「何に悩んでいるのかもよくわからない、ということ?」
「そう。」
*
このように、実生活における不安などの問題の大半は「何が問題かわからない」あるいは「モヤモヤする」という形を取って現れる。
そして同じような状況は、仕事やキャリアなど、あらゆるところに出てくる。
「商品が売れていない。商売がうまく言っていない事はわかるけど、検討事項が多すぎて、何が問題なのかわからない。」
「将来に不安を抱えているが、何をしたらよいのかよくわからない」
「仕事で困っていることは確かだけど、モヤモヤする。何をすべきかわからない」
これらの言語化できない状況は、焦りやいらだちにつながる。
解決に動きたくとも、何をしたらよいかわからないからだ。
こういう状態のとき、人は弱っている。
そして「シンプルに説明ができて、考えずにできる、簡単な解決策」に陥りがちである。
「とにかく金があればなんとかなる」とか。
「結婚すれば解決」とか。
「権威にすがろう」とか。
「神に祈ろう」とか。
それで本人の気持ちが晴れるなら、一時的にはそれでもいいのだが、重要な問題の解決が先送りになってしまうことも。
そして先送りは多くの場合、状況を悪化させる。
分かってはいるんですが……
こういう状況になったときには、「こうすればいいと思うよ」というアドバイスも、役に立たないことも多い。
例えば、「将来に不安を抱えているが、何をしたらよいのかよくわからない」
という悩みに対して、
・転職を検討した?
・貯金はどう?
・副業という手もある
など、様々なアイデアを与えても、大抵は
「それも考えてみたのだけど……」
という反応が返ってくるのがオチであり、本人の悩みは晴れることがない。
これは、「何がわからないかわからないので、何を質問したらよいかわからない」という新人に対して、
・今までやったことを報告したら?
・わからないことを書き出してみたら?
・とにかく相談してみたら?
といったアドバイスが効きにくいのと同じだ。
「分かってはいるんですけど……」
と苦笑いされてしまって、スタックするという事がよくある。
モヤモヤの正体
では一体なぜ「どうすればいいのか分からない」「分かっているけどできない」と、スタックしてしまうのだろうか。
その一つの回答は、以下の本のタイトルにある通り。
「そもそも解決すべきは本当にその問題なのか」
という自問自答にある。
例えば、「エレベーターが来ない」という問題に対して、
・新しいエレベーターを設置する
・高性能のモーターに交換する
・アルゴリズムを改良する
など、目に見えて「解決しなければならない」ことがわかっている状況下だとする。
(出典:そもそも解決すべきは本当にその問題なのか DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー)
しかし正面から解決を試みた場合、手間やコスト、あるいはリスクの高い状況ばかりが見えてしまう。
そんなとき、
「なんかもっといいやり方があるような気がする」
「でもそれ以外の切り口も見えない」
「モヤモヤする」
という状況に陥りやすい。
ガチで行動力のある人は、そんなとき「くよくよ悩まずに、手を動かそうぜ!モーターを変えればいいじゃん!」というアドバイスをする。
それが有効な時もある。
が、まあ、大変なことは目に見えているので、「それができりゃ苦労しないんだよ!」と、普通の人はそれに乗ってこない。
しかし、そういう時に、ショートカットする方法がある。
「問題のすり替え」=「問題のリフレーミング」だ。
例えば、「エレベーターが来ない」という問題を、「待つのにイライラする」という問題にすり替える。
すると、解決策は「エレベーターの扉を鏡にせよ」という、圧倒的に楽で簡単な解決策にすることが可能となる。
実際、殆どの人が、楽に解決できる(ように見える)方法があるなら、そちらを選択するはずだ。
*
このように
「もしかしたら簡単に解決するショートカットがあるのでは?」
「リフレーミング可能では?」
と、意識/無意識にかかわらず、心のどこかに引っかかっていると、
「なんか正面から取り組むのが大変そう」
↓
「回避やショートカットできるアイデアがあればいいけど、浮かばない」
↓
「大変そうなことに取り組むのに躊躇する……モヤモヤする」
という図式が出来上がる。
もちろんここまで言語化しておらず、
「思いつく解決策や、打開策として進められることが、全て負荷が高そうでイヤ」という状況だけで「モヤモヤする」と表現する人もいる。
ただ、いずれにせよこれが「モヤモヤする」の正体だ。
実際、受験や就活の時などに、「モヤモヤ」を経験したことのある人も多いだろう。
「本当に大学に行く必要ある?」 → こんなツライことせずに生活できるのでは?
「本当に就職でいいの?」 → 就活大変すぎるので、回避する方法はない?
「人生はこれでいいのだろうか?」 → コツコツ今の職場で働くのが大変だ。別の方法で充実感を手に入れたいが……
これらの悩みはいずれも、選択肢として見えている「負荷の高いハードル」に対しての不安が表面化しているときに発生する。
(だから、そういう悩みを持っているときの人は、騙されやすい)
ではどうする?
ただ通常、こうした欲求は、赤裸々に「楽をしたい」という形では表明されない。
また、往々にして「ショートカットしたい」という欲求に対しての自覚がない人もいる。
その場合に「頑張りたいのだけど、なんかモヤモヤする」といった表現になる。
「楽をしたがっている」と認めるのが嫌だし、実際にいいアイデアもないからだ。
だからといって、
「負荷が高くてイヤな、大変な未来しか見えない」
という状況では、動くこともできない。そして、スタックする。
だから、冒頭の相談者の本音はこうなる。
「現状が不本意だ。お金、家族、能力、地位、やりがい、健康、パッといろいろ解決できる素敵なアイデアはないかな? 正攻法はツラそうで……。」
*
もちろん、そんな都合のいい解決策はそのへんに転がっているわけではない。
「この壺を買えば、何でも解決ですよ」
という人は、詐欺師だ。
しかし。
「楽に解決したい」という欲求をバカにしてはいけない。
実際に良いアイデアが出る時もあるし、リフレーミングが有効な時もある。
だからモヤモヤするときには思い切って、
「突き詰めていくと、そもそも私の真の欲求は何か?」
という問いを発すること。
「金はほしいけど、大変なのはイヤだ」でもいい。
「アイドルと結婚したい」でもいい。
「手っ取り早く有名人になりたい」でもいい。
ただし、人前で欲求をむき出しにすることは、それほど簡単ではないから、一人で自問自答してもいい。
だが、究極的には、言語化を突き詰めれば突き詰めるほど、「自分の隠れた欲求」を突き詰める必要がある。
自分の強くカッコいい部分ではなく、弱さや、俗な部分と向き合うことでしか明らかにならないことが数多くでてくる。
MITのハル・グレガーセンはこのようなときには「問いのブレインストーミング」、クエスチョン・バーストと呼ばれる行為を推奨している。
まず最初に、関心がある課題を選ぶ。誰にでも何かしら前進の妨げになっていることがあるだろう。もしくは、おぼろげながら魅力的なチャンスが見えていることがあるかもしれない。(中略)
タイマーをセットして、四分間、課題についての問いをみんなでどんどん出し合おう。一般的なブレインストーミング同様、ほかのメンバーの発言に対して、いっさい反対意見を述べてはいけない。目標は、一五から二〇個以上の問いを紙に書き出すことだ。(中略)
ここからはひとりで、書き取った問いをじっくり読み返そう。新しい道を示している問いがないかどうか、注意深く調べよう。
興味を引かれた問いや、今までの自分の取り組み方とはちがうと思える問いを数個選ぼう。それらを選ぶうえでは、次のようなことを基準にするといいだろう。
今までに自分で考えたり、人から問われたりしたことのない問いか。自分が答えを知らない問いだと、うそ偽りなくいい切れるか。感情に訴えかける問いか。つまり、驚き、本心、意欲という観点から問いをチェックしてみよう。
「私はなぜ戸惑っているのか?」
「私が重要に思っている価値はなにか?」
「なんで働きたくないのか?」
「私は疲れていないか?」
「大事なことを後回しにしていないか?」
など、「自問自答」に対して正直に取り組んだとき、モヤモヤは解消する。
(2025/5/8更新)
人手不足 × 業務の属人化 × 非効率──生成AIとDXでどう解決する?
今回は、バックオフィスDXのプロ「TOKIUM」と、生成AIの実務活用支援に特化した「ワークワンダース」が共催。
“現場で本当に使える”AI活用と業務改革の要点を、実例ベースで徹底解説します。
営業・マーケ・経理まで、幅広い領域に役立つ60分。ぜひご参加ください!
こんな方におすすめ
・人材不足や業務効率に悩んでいる経営層・事業責任者
・生成AIやDXに関心はあるが、導入の進め方が分からない方
・属人化から脱却し、再現性のある業務構造を作りたい方
<2025年5月16日実施予定>
人手不足は怖くない。AIもDXも、生産性向上のカギは「ワークフローの整理」にあり
現場のAI・DX導入がうまくいかないのは、ワークフローの“ほつれ”が原因かもしれません。成功のカギを事例とともに解説します。
【内容】
◯ 株式会社TOKIUMより(登壇者:取締役 松原亮 氏)
・AI活用が進まないバックオフィスの実態
・AIだけでは解決できない業務とは?
・AI活用の成否を分ける業務構造の見直し
・“人に任せる”から“AI×エージェントに任せる”時代へ
・生産性向上を実現した事例紹介
◯ ワークワンダース株式会社より(登壇者:代表取締役CEO 安達裕哉 氏)
・生成AI活用の実態
・「いま」AIの利用に対してどう向き合うか
・生成AIに可能な業務の種類と自動化の可能性
・導入における選択肢と、導入後のワークフロー像
登壇者紹介:
松原 亮 氏(株式会社TOKIUM 取締役)
東京大学経済学部卒業後、ドイツ証券に入社し投資銀行業務に従事。
2020年に株式会社TOKIUMに参画し、当時新規事業だった請求書受領クラウド「TOKIUMインボイス」の立ち上げを担当。
2021年にはビジネス本部長、2022年より取締役に就任し、経費精算・請求書処理といったバックオフィスDX領域を牽引。
業務効率化・ペーパーレス化の分野で多くの企業の課題解決に携わってきた実績を持つ。
安達 裕哉 氏(ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO)
Deloitteで大手企業向けの業務改善コンサルティングに従事した後、監査法人トーマツにて中小企業向け支援部門を立ち上げ、
大阪・東京両支社で支社長を歴任。2013年にティネクト株式会社を設立し、ビジネスメディア「Books&Apps」を運営。
2023年には生成AIに特化した新会社「ワークワンダース株式会社」を設立。生成AI導入支援・生成AI活用研修・AIメディア制作などを展開。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計71万部を突破し、2023年・2024年と2年連続でビジネス書年間1位(トーハン/日販調べ)を記録。
日時:
2025/5/16(金) 15:00-16:00
参加費:無料 定員:50名
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
こちらウェビナーお申込みページをご覧ください
【著者プロフィール】
安達裕哉
生成AI活用支援のワークワンダースCEO(https://workwonders.jp)|元Deloitteのコンサルタント|オウンドメディア支援のティネクト代表(http://tinect.jp)|著書「頭のいい人が話す前に考えていること」65万部(https://amzn.to/49Tivyi)|
◯Twitter:安達裕哉
◯Facebook:安達裕哉
◯note:(生成AI時代の「ライターとマーケティング」の、実践的教科書)
Photo:Etienne Girardet