「お気持ち」というネットミーム(?)をよく見かけるようになった。

 

 

ひと昔前は、クレーマーをなだめるために

「あなたのお気持ちは良くわかります」

と定型的に使われたり、あるいは丁寧に

「感謝のお気持ちとして」

といったりした使い方だったように思う。

 

が、今では用法が異なる。

もっと、嫌な感じがする場面で使われている言葉だ。

 

ちょっと前に、雨宮さんも、こんな記事を投稿していた。

効率化の1番の敵は『自分をわかってもらいたい』っていうお気持ち表明

結果がプラスなのは理解しているけど、それまでの過程で自分が不利益を被るんじゃないかと不安になって、ついついお気持ち表明してしまう。はたから見ればただの効率化に反対する邪魔者なわけだが、税理士に長文を送りつけた自分を鑑みると、他人ごとだと思えないというか……。

で、このお気持ち表明が面倒くさいのは、対処方法が「丁寧に話を聞く」一択だから。

なるほど、と思った。

 

つまり「お気持ち表明」とは、相手に「配慮せよ」というプレッシャーを掛けることなのだ。

 

そしてもう一つ。

これはしんざきさんが触れてくれていた。

「私憤を公憤にすり替えて」の部分が加わると、

 

「お気持ち表明」は、相手にプレッシャーをかけるために

・配慮しなさい

・みんなそう思ってるよ

という主張を、「自分の手を汚さずに」やろうとする表現。

 

と言える。

確かにイメージが悪い。

 

「お気持ち表明」を利用する人たち

だが、「お気持ち表明」を利用する人間は結構いる。

 

例えば、当初の約束にない、追加の要求をしてきては、

「こういう機能も必要だと思ってしまったのだけど、どうかな?」

とか言って、「お気持ちを述べる」ような交渉をする客がいる。

 

お客さんだからと思って、無下にはできない。

しかし、向こうからのはっきりとした要求ではない。

その場合、こちらが気を遣って「配慮」してしまうと「我々が善意によって、引き受けた」ことになるから、向こうは金を払わずに済む。

 

こうした「お気持ち表明」は、一種のテイカー気質(=受け取るが返さない)の表れだと私は思う。

だから、仕事においては基本的には「お気持ち表明」には配慮しない。

 

実際、最初に勤めた会社では、明確にそのような教育を受けた。

 

例えば、上司から仕事を振られた時も、「ちょっと忙しいですけど……」と、あいまいな形で「配慮」を求めても聞き入れてもらえない。

できない時は「こういう理由でできない」とはっきり述べなければならない。

そして、その理由が妥当であることを証明せねばならない。

 

でなければ、「何が言いたいの?やるならやる、やれないなら、やれないと言ってくれないと、こっちも困る」

と言われる。

「お気持ち」には全く配慮されず、はっきり言わないと、信用を失う世界だった。

 

これはお客さんに対しても適用されて、テイカー気質の客が、工数以上の要求をしてきても、

「客のところに必要(設定された工数)以上に行くな」

と、まず言われた。

それは八百屋が自分の店の野菜を食べたり、タコが自分の足を食うようなものだとも言われた。

だから、工数オーバーは厳罰で、昇進に大きな悪影響があった。

 

要望はストレートに、明確にして伝えること。

要望を引き受けるにあたっては、適切な報酬を要求すること。

これは社会人として最低限の嗜みであった。

 

仕事上の「要望」は「責任」が発生する

とはいえ、「お気持ち」を全否定するものではない。

 

プライベートではいくらでも「お気持ち」を利用すればいいと思う。

相手との関係性が近い場合は、「察して」という希望をかなえることもまた、重要なのだろう。

「お気持ち」で回る世界もあることは事実だ。

 

しかし、仕事においては、「お気持ち」は極力排除しなければならない。

というより、お気持ちを利用する連中は「卑怯者」だ。

 

なぜなら、「お気持ち」を利用する連中は、要望に伴う「責任」と「対価」を回避しているからだ。

 

要望を出してくる以上、我々の労力の対価は要求します。

そして、あなた方も発注側として、要望がかなえられたかどうかを判断する責任を持ってください。

 

そうした健全なやり取りを介さずに、

「お気持ち」を表明して、対価も責任もなく、相手に何かを要求することは、非常に醜悪だ。

 

ということで、仕事においては「お気持ち表明」は徹底的に排除しないといけない。

単純な話である。

 

 

【安達が東京都主催のイベントに登壇します】

ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。


ウェビナーバナー

▶ お申し込みはこちら(東京都サイト)


こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい

<2025年7月14日実施予定>

投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは

借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。

【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである

2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる

3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう

【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00

参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。


お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください

(2025/6/2更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

安達裕哉

生成AI活用支援のワークワンダースCEO(https://workwonders.jp)|元Deloitteのコンサルタント|オウンドメディア支援のティネクト代表(http://tinect.jp)|著書「頭のいい人が話す前に考えていること」65万部(https://amzn.to/49Tivyi)|

◯Twitter:安達裕哉

◯Facebook:安達裕哉

◯note:(生成AI時代の「ライターとマーケティング」の、実践的教科書

頭のいい人が話す前に考えていること

頭のいい人が話す前に考えていること

  • 安達 裕哉
  • ダイヤモンド社
  • 価格¥1,650(2025/06/09 09:51時点)
  • 発売日2023/04/19
  • 商品ランキング110位

Photo:Mulyadi