効率化に反対する人というのは、どこにでもいる。
便利なシステムを導入したいのに、「今までとやり方がちがうのは~」と文句をつけられたり、ペーパーレスを推進したら「これだと手抜きに見えるから~」と渋られたり。
日本ではよく「時間をかけているほうがえらいと思われる」「苦労すればするほど頑張ったと評価される」なんて言われるが、やるほうとしても、「これだけ頑張りました」と言えるから「量アピール」はとても便利。
だから、なくならない。
というわけで今日は、「効率化の1番の敵は『自分をわかってもらいたい』っていうお気持ち表明だよね」って話です。
税理士に長文でお気持ち表明したら、たった1文の返信が届いた
8月9日、税理士Aからメールが届いた。
「税務署が〇〇社との取引について、確定申告をした証拠を見せてくれと言っている。締め切りは8月14日と提示されたが、9月14日まで延ばすよう要求した」とのこと。
え、なんで!? ちゃんと確定申告してるのに!!
申告漏れがあったのかな? それとも単に抜き打ちチェック? 取引先は日本の会社だから手続き的になにかミスした……!?とパニック(わたしはドイツ在住)。
週明けの月曜日である8月12日、確定申告した際の書類を送り、税理士からの返事を待った。
が、返ってこない。
1週間後の8月19日に「メールは届いてますか」と確認。かなり焦っていたので、もともとCCに名前を連ねていた税理士B含め、2人にメールをした。
するとBさんが、「担当者のAさんはバカンス中で帰ってくるのは9月です」というではないか。同時に、Aさんから「19日から9月6日までバカンスです」という自動返信も届く。
Aさんお前さては……12日月曜日に届いたメールに返信しないまま放置して、翌週からバカンスに行きやがったな……。せめて返信してから行けよ……!!
と思うがここはドイツ。バカンスは顧客の満足度より大事なので仕方ない。
というわけでBさんに、このようなメールを書いた。
「Aさんがバカンス中だと知りませんでした。9日にAさんから、『~~』というメールをもらい、12日に書類を送りましたが、返事をもらっていません。申告漏れがあったと疑われているのでしょうか。
Aさんが要求したように税務署の締め切りが伸びているのでしたら問題ありませんが、もし伸びていなければ、すでに期日を過ぎているので早急に対応する必要があります。その場合、Aさんに代わり誰かに担当してもらわなくてはいけません」
書き終わった後、ドイツ人の夫にメールを見せて、内容を確認してもらった。
「うん、文法的には特に問題ないよ。まぁ俺なら、こんなに長々と書かないけど」
「え? じゃあなんて書くの?」
「いや普通に、『締め切り延びました?』って聞くだけ」
……そういわれればそうだな。
締め切りが延びていればそれでいいし、延びていなかったら「じゃあ代わりに担当して」で話は終わる。長々と事情を書く必要はない。
でもまぁもう書いちゃったし、このまま送っちゃえーと送信。
Bさんから返事はすぐに来た。そう、たったの一言で。
『Sehr geehrte Frau Amamiya, (雨宮様へ)
die Frist wurde verlängert.(締め切りは延びました)』
うーん、とってもドイツ。
日本だったら、「ご不便をおかけして申し訳ありません。税務署に問い合わせたところ締め切りは延びているとのことでしたので、休暇から戻ったらAが引き続き担当させていただきます。その他ご不明点がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください」なんて返事が来そうだ。
たしかに夫が言っていたように、事情なんて説明せずにイエス/ノーで答えられる質問一文送るだけでよかったな。
……という経験をして、ふと思ったのだ。
「わたしってもしかして、すごく非効率的なことをやってたんじゃ?」と。
「わかってほしい」わたしと、「解決したい」夫
そもそもわたしは、なんで長々と自分の事情を書き連ねたのか。
理由はかんたんで、相手に自分を理解してもらいたいから。
わたしはいまこういう状況なんです。だから困っていて、あなたにこうしてもらいたいんです。わかってくれますよね?」という感じで。
でも夫は同じ状況でも、自分の気持ちは置いておいて、解決するためになにをすべきかを考える。だからまず、「こうしてくれませんか?」と聞くのだ。
そしてドイツには、夫タイプの人が多い。というか、そういう人ばっかり。
わたしの夫のちがいはきっと、過程と結果、どちらを大事にしているかだと思う。
わたしは「理解の先に正しい結果がある」と派だ。
過程を知ったうえで判断したほうが間違いがないし、相手を理解することで正解に近づける。
だからちゃんと経緯を説明して、お互い分かりあいたい。そういう気持ちが強い。
でも夫は、「結果から遡って過程がある」と思っている。
まず結果の話をして、それで足りなければ後から過程の話を付け足していけばいい。必要なときに必要な情報だけ出していくほうが話が早い。
夫は税理士に、「こちらの事情をわかってほしい」なんて1ミリも思ってない。大事なのは、「この問題を処理するために必要なこと」だけ。
このちがいを痛感すると、効率化において「わかってほしい」って気持ちはめっちゃ邪魔くさいんだなぁ、と思うわけだ。
効率化に反対する人の根底には「わかってほしい」
冒頭で紹介したように、効率化に反対する人は一定数いる。
時代錯誤だとか根性論だとか言われるけれど、結局のところわたしと同じで、「自分のことをわかってほしい」と思っているのかもしれない。
新しい技術についていけるか不安だから、「そのシステムを導入したら、新しく全部やり方を覚えなきゃいけないだろう。今まで通りでいい」と言ったり。
書類がペーパーレスで簡易化されることで自分の仕事がなくなるんじゃないか、と焦って「これだと手抜きに見えるじゃないか。やっぱり手書きのほうが気持ちが伝わるぞ」なんて言ったり。
結果がプラスなのは理解しているけど、それまでの過程で自分が不利益を被るんじゃないかと不安になって、ついついお気持ち表明してしまう。
はたから見ればただの効率化に反対する邪魔者なわけだが、税理士に長文を送りつけた自分を鑑みると、他人ごとだと思えないというか……。
で、このお気持ち表明が面倒くさいのは、対処方法が「丁寧に話を聞く」一択だから。
ひたすらお気持ちを垂れ流すだけの話に付き合って、「そうですねぇ」「わかりますよぉ」なんてやり取りするのは、とんでもなくムダで苦痛な時間だけど、それ以外に手段はない。
だって相手は、「わかってくれること」を望んでいるのだから。
ほら、クレーマー対応でもそうじゃないですか。「時間をかけて話を聞くと相手もだんだん落ち着いて丸く収まる」みたいな。
でも効率化を目指す人はゴネる人に対し、説得を試みてしまう。
「いやいや、こうすることでこんなに時間が短縮できるんですよ。こんなに楽ができるんですよ」と、結果について力説する。
相手は「わかってほしい」とお気持ち表明しているのに、それに対し「こっちがこれだけ優れているの、わかる?」と逆に理解を求めるから、こじれる。
過程を重視してお気持ち表明する人と、結果を重視して事実を並べる人、話が合わなくて当然である。
効率化には、「過程と結果、情報開示のバランス感覚」が必要
効率化において、「わかってもらいたい」という気持ちは大敵だ。
とはいえ他人と関わって生きている以上、相手の感情をないがしろにすることもできない。その一方で、感情の部分に重きを置いて現実から目をそらしたところで解決しないこともたくさんある。
要は、「いまは『感情(過程)』と『事実(結果)』どっちを優先して話すべきか」という判断が必要なのだ。
クライアントとケンカしたのなら当然、なにがきっかけだったのか、その時どう思ったかなど、感情のほうが大事になる。
そのときクライアントがキレて資料を床に投げ捨てたとか、こっちもこっちで退室時にドアを勢いよく閉めたとか、そういうモノゴトの情報はたいして必要ない。
逆に、税理士から確定申告の確認と締め切りについてのメールがきたのなら、その進捗がどうなっているかという事実のほうが大事だ。
担当者がバカンスに行って連絡がつかないイラ立ちや、もし申告漏れがあったらどうしようという不安を伝えたところで、結果にはなんら影響がない。
この判断をまちがえると、「話を聞いてくれない」と愛想をつかされたり、「話が長くてダルイ」と煙たがられたりする。
たとえば、こっちはいろいろあって大変だったのに、「結論から話せ」と言われて「取引を打ち切られました」と結果だけ言ったら、過程を聞かずにすぐに怒り出す上司とか。
「クライアントの感触はどうだった」と質問したら、「なんか人事異動でバタついてるみたいで、担当者が丸ごと代わってましたよ~」と答えになっていない返事をする人とか。
結果に注目してムダを省きたい人と、過程に注目して気持ちを理解してほしい人は、設定しているゴールがちがう。
別々のゴールに向かって二人三脚しましょう、って言ってもうまくいかないのは当然のこと。
このトピックにおいて、過程と結果、どっちが大事なのか?
いま相手はわかり合うことを望んでいるのか、スピーディーに解決することを望んでいるのか?
過程と結果、どのくらいのバランスで情報開示すべきなのか?
このあたりの判断とバランス感覚が優れていて、いろんな人と共通のゴールを設定できる人が、「効率化がうまい人」なんだろうなと思う。
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【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
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