わたしは、仕事ができない。
文章を書くのは苦じゃないから、情報をまとめたり、考えを言語化したりすることはできる。でも残念ながら、それでもカバーできないくらい、苦手なことが多すぎる。
だれだって、無能よりは有能になりたい。
「あの人って仕事できるよね」と噂されてにやっとしたいし、「自分じゃどうにもならなかったんです……」と助けを求められて鮮やかに解決したい。
でも、わたしにはムリだ。
だからきっと、有能になることを目指すより、わたしは「有能な人にうまく使ってもらう」ことを目指したほうがいいんだと思う。
能力が低い人間の苦悩
朝起きて髪を整えるためにヘアブラシがある引き出しを開けようとしたが、なにかがつっかえて開かなくなっていた。
んー? なんだろう、ヘアアイロンの入れ方でも悪かったのかな。
かがんで隙間から中を確認するも、特になにかがつっかえている様子はない。
閉めて開けてを繰り返しても、ガタッと音を立てるだけで開く気配はない。
そうこうしていると、夫が起きてきた。
「なにしてるの?」
「引き出しが開かない」
「つっかえてるんじゃない?」
「見てみたけど、なんにもないんだよね」
「下の棚は?」
「下?」
夫はおもむろに、1段下の引き出しを開けようとする。するとその引き出しもガタッと音を立ててつっかえていた。引き出しをゆすってつっかえていた物の位置をずらすと、その引き出しも、ブラシが入っている上の引き出しも開いた。
にしても、なんでわたしは「上じゃなくて下がつっかえているのかもしれない」という発想にならなかったんだろう。
わたしはいっつもそうだ。
カフェで働いていたときも、「冷蔵庫から白パン持ってきて」と言われ、いつもの場所になくて必死で探し回っても見つけられなかった。
それを店長に伝えると、「あるはずだけど」と自分で冷蔵庫を見に行き、数十秒で見つけてきた。わたしは冷蔵庫をくまなく探したつもりなのに。
5年以上居酒屋でバイトしていたのに、ついにドリンカーをマスターすることもなかった。
ドリンクのレシピは全部頭に入っているけれど、ピーク時にダーッと注文が飛び込んでくると、頭が真っ白になってフリーズしてしまう。一生懸命作っても、注文のほうが多くてすぐにパンク。
「なんでまだできてないの!?」と他のバイトがキッチンにやってきて交代すると、ものの10分ですべての注文をさばいてくれるのに。
なまじ小さい頃から「しっかりしている」と言われてきたからこそ、それなりの年齢になって自分が「無能側」の人間だと気づいたときは、ショックだった。
なんでわたしはこんなに能力が低いんだろう。
なんでできないのかがわからないし、わからないからこそ改善もできない。
悔しいし、途方に暮れた。
有能に憧れたけど、わたしにはムリみたい
そこからわたしは、いろんな本を読んだ。
優秀な人がやっているナンタラカンタラ、頭がいい人はこう考えている、仕事が早い人と遅い人の違い……。
それらから学んで、真似して、自分もどうにか有能側の仲間入りできないかと試行錯誤した。
が、現実はそう甘くはない。
いまだって相変わらず不注意で請求書の日付をよく間違えるし、マルチタスクが必要になる場面では相変わらずポンコツだ。
わたしの頭の中にはきっと、なにかのピースが欠けているんだ。
いくら目を凝らして、口に出して全部読んで請求書をチェックしても、しょうもないミスがあるんだから。言われて見ればどう考えたって誤字なのに、なぜか気づけないんだから。
すでに完成したパズルの解像度を上げることは努力でできるかもしれないけれど、存在しないピースを努力で埋めるのは、きっとムリなんだ。
仕事だけにかぎらず、日常生活でもわたしはどこかポンコツで、それがわたしなんだ。
自分が他人に貢献できる方法を考えた
有能側にはなれないと悟ったわたしは、「無能なりに有能な人の役に立とう」と考えるようになった。まぁ、ここでいじけたところでしょうがないし。
たとえば、オーバークックというゲーム。
左上に表示されるメニュー、この図でいえばトマトとキャベツのサラダ→キャベツのみサラダ→キャベツとトマトときゅうりのサラダ……などを作っていくゲームだ。
食材を切って、盛り付けて、提供して、お皿を洗って、といったさまざまなタスクを、協力してこなしていく(ソロプレイももちろん可)。
わたしが苦手なマルチタスクの極みのようなゲームで、自分がなにをすればいいかわからなくてウロウロ。人とぶつかって落下。米を焦がし、不要な食材を焼き、邪魔なところに皿を置く。
控えめに言って、いないほうがマシなレベルである。
足を引っ張っている自覚があったので、おとなしく友だちのサポートに回ることにした。
皿を洗う、できたものを提供する、など、言ってしまえば「だれにでもできるけどだれかがやらなきゃいけない作業」をすることにしたのだ。
かんたんな作業だから少し余裕もできて、「焦げそうな米置いとくね」とか、「トマト運んどくよー」とか、ちょっとは気を利かすこともできた。
先日家具の組み立てをしたときも、夫がテキパキ組み立ててくれるので、説明書を事前に読んでネジを順番に並べておくとか、次に使う板を袋から出しておくとか、段ボールを隅にまとめて作業スペースを確保するとか、そういう雑務を買って出た(妊娠中で組み立てられないのもあったけど)。
活躍したわけではないけれど、自分的には悪くない働きだったんじゃないかと思う。
そうだ、能力が低いからって、なにも貢献できないわけじゃない。
できないことをムリにやろうとするよりも、できる範囲で最大限貢献すればいいんだ。
有能な人にうまく使ってもらえればそれで満足
では、「できる範囲で貢献」とは、どういうことをいうんだろう。
とりあえず、指示通りやる。ごちゃごちゃ言わず、やる。
この指示の目的はこうだな、ってことはこっちをやるといいんじゃないか、と邪魔にならない範囲で気を利かせてみる。でも余計なことはしない。
ミスなくできる作業を進んでやり、自分にできる手伝いを探す。
自分の手柄をアピールするよりも、他の人の成果を素直に褒めて祝福する。
こんな感じだろうか。
「なんかこいつがいたら便利だな」と思ってもらえればひとまず合格。
たとえ第一線でバリバリ活躍するような華々しい結果は残せずとも、貢献しようと誠実に努力していれば、それを認めてくれる人は絶対に現れる。はず。
そしてもっとも重要なのが、自分ができる仕事を割り振ってくれる有能のもとにつくこと。
世の中には、任せるのがうまい人がいる。
多少のマイナス要素は目をつむって、その人の得意分野を見つけて、それを活かせる仕事を振っていくような人。
そういう人にかわいがってもらえれば、最高である。
そのためには、自分ができること、できないことを把握して、できることは率先してやってまわりに貢献していけばいいんじゃないかと思う。
別に、わたしがその「有能」にならなくたっていいんだ。
リーダー仕事はその人にお願いして、わたしはその人に、じょうずに使ってもらえばいい。
伸ばせる能力とそうじゃない能力、はっきり言えば向き・不向きはだれにだって存在する。
なんなら、不向きが多すぎて、「何やっても人並以下、ギリギリこれなら普通にできる」という人もいる。
苦手なことに直面すると、「努力してできるようになろう」と思ったり、「なんで自分はできないんだ」と落ち込んだりする。
だれだって、有能側の人間になりたいから。
もちろん、それで有能になれるならなったほうがいい。でも時には苦手なことだってやらなきゃいけないし、適正がなくとも逃げられない場面もある。
それなら背伸びして「有能」を目指さすより、有能な人に上手に使ってもらえるように、「便利なヤツ」ポジションを目指すほうが現実的なのだと思う。

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【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
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