最近、管理職になりたくない、昇進したくない人が増えているらしい。

主な理由は、「損をするから」。

 

責任が大きくなるし、仕事が増えるし、ストレスも感じるし、とにかく割に合わない。それなら言われたことをやってる平社員のほうが楽、というわけだ。

たしかに「中間管理職」は上にも下にも気を遣う損なポジション、というイメージは強い。

 

とはいえ、なんでここまで人気がないのだろう。なんで最近になって「昇進したくない」という話をよく耳にするようになったんだろう。

そもそも管理職って、なにをする仕事なんだ?

 

管理職が割に合わないのは、未経験の「人材管理」のせい?

管理職の仕事は、マネージメント。

具体的にいうと、「仕事の管理」と「人材の管理」を通じて、担当部署を運営していくことだ。

 

仕事の管理というのはその名のとおり、さまざまなタスクを割り振り、期限内に終わらせるように段取りを組むこと。

 

営業成績がよかったAさんが営業部門の課長になれば、部下たちの営業成績を見て担当の割り振りを決めなおして、各チームの方針を修正できる。

経理での経験が豊富なBさんが経理部部長になれば、提出された書類に間違いがないかチェックして、手続きの進捗を適宜確認できる。

 

仕事の管理であれば、これまでの経験や知識で、ある程度指揮できるのだ。

しかし「人材の管理」となると話が変わる。

先輩としてアドバイスする、ノウハウを教える、くらいならまだいい。多くの人がすでにやったことがあるだろうから。

 

しかし部下の「自律キャリア支援」「心理的安全性の確保」「1on1の面接でメンタルケア」なんて話になると、お手上げの人は多いだろう。

だってそんなこと、いままでやってこなかったんだから。

 

Aさんは営業成績がいいから課長になったし、Bさんは経理の経験が豊富だから部長になった。

それなのにいきなり「心理カウンセラー」「担任の先生」の役割を求められても、困るにちがいない。

管理職が「割に合わない」といわれるのは、主にこの「人材の管理」のせいなんじゃないかと思う。

 

上司は心理カウンセラーでも担任の先生でもない

少し前、こんなポストが話題になり、3.7万いいねを獲得した。

大前提としてこれは「多くの人がメンタルを病むのなら」という仮定の話ではあるが、こういうポストを見ると、「たしかに管理職ってわりに合わないなぁ」と思う。

 

「多くの人」が病むのなら、職場に問題がある可能性が高い。でもそれは、かならずしも管理職が対処できることとはかぎらない。

 

たとえば、過度なストレスによる教師のメンタルヘルス問題、なんてのはよくニュースになっている。たとえ教師を束ねる校長が人格者だったとしても、ムリなものはムリだ。

ほかにも、救命救急や消防に携わっている友人が、「うつ病で辞める人が多い」と言っているのを聞いたことがある。キツイノルマがある生命保険や金融系でもそういう傾向があるらしい。夜勤がある仕事も、例外ではないだろう。

 

職業柄、もしくは勤務体系などで、メンタルをやられやすい分野は存在する。でもそれは、管理職ひとりがどうこうできる問題ではない。

いくらメンタルをケアしても、どうしようもならないことはあるのだ。

 

これらは極端な例だとしても、たとえばこんな状況はどうだろう。

若手にもどんどん挑戦させることを社風とした、IT系ベンチャー企業。経験がなくとも、「やって覚えればいい」とどんどん仕事を任せていくスタイル。

 

その結果、10人のうち3人の社員が、「プレッシャーに耐えられない」「どうしたらいいかわからずつらい」「失敗続きでやる気がなくなった」と辞めてしまったとする。

 

これも、部下のキャパシティや性格を把握してコントロールできなかった、管理職のマネージメント不足なんだろうか?

……いやいや、それを管理職のせいにするなら、管理職なんてだれもやりたくなくなるよ。そういう企業だから若手にもチャンスがあるっていうのがウリなのに。

 

上司は心理カウンセラーでも、担任の先生でもない。それなのに、そういう役割を求められる。

これまでの知識や経験を一切活かせない人材管理の分野で、赤の他人のケアの全責任を負わされるなんて、あまりに酷じゃないか?

もちろん、部下を意図的に潰す腐った人間は論外だけど。

 

人材管理を学んでいない人が管理職になるのが問題

海外、とひとくくりにするのは大雑把だが、多くのジョブ型の国では、「管理職」に必要なことを学べる環境がある。

たとえばアメリカには、ヒューマンリソースの学士を取得できる大学は200校以上。ドイツにはいくつか職業教育のレベルがあり、そのなかには管理職向けのコースもある。

 

管理職ポジションの募集要項には、そういったコースの履修や経営・人事に関する学位が必須になっていることが多い。

現場ですでに仕事の管理は学んでいるから、次は人材の管理を学んでね。両方できるようになったら「管理職」になれるよ。こういうルートがあるわけだ。

 

(余談だが、こういう教育があるからこそ、現場のことをたいして知らない「人材管理特化型」がいきなり管理職になり、仕事の管理をめぐって現場とトラブルになることがある)

 

でも日本では年功序列の影響か、「仕事の管理」がある程度できるようになったら、そのまま管理職に昇進することが多い。そしていきなり、「人材の管理」も任される。

 

いままではそれでも、根性論と年功序列意識でどうにかなった。

人材管理、なんてむずかしい言葉を持ち出さなくとも、「人望」があれば下はついてきたのだ。

 

しかしいまはそうじゃない。

自由奔放な部下を御せなけばマネージメント不足と言われ、部下が病んでしまったら加害者になる。

 

いくら管理職である本人が頑張っても、人材管理の成果は他人に依存するから、他人をコントロールできない以上「がんばれば結果がでる」ものでもない。それでも、管理職としての成果を求められる。

でもド素人に心理カウンセラーの真似事をしろといっても、向き不向きがあるのは当然なわけで。

 

そう考えると、管理職になるのってやっぱり割に合わないよなぁ~と思う。

 

管理職にはちゃんと「マネージメント」を学ばせてあげてほしい

なんて言いつつ、わたしもこれまで、さまざまな記事で「しっかりマネージメントしろ」と書いてきた。管理職はマネージメントのプロなんだから、仕事も人間もしっかり管理しろ、と。

 

でも改めて考えると、「マネージメントのプロ」といえるレベルで人材管理を学んだ管理職って、どれくらいいるんだろう。

管理職に必要な知識を学んでいないのならできなくても当然だよな、とも思う。

 

いやだって、これまでライターとしてたくさんの記事を書いてきたからって、いきなり「ライター30人をマネージメントしてください」って言われても無理だし。

 

クライアントとうまくいってないライターの仲裁に入れ、仕事と育児の両立に悩んでいる部下の相談に乗れ、いいチームになるように円滑な人間関係を構築しろ、なんて求められてもさ。やったことないし。

 

学ぶ機会がないのに成果だけ求めるのは、都合がよすぎるよ。

そんなの、できなくて当然だもの。

 

「ちゃんと教えないくせにいろいろ要求してくる上司」というのはいつの世でも嫌われる存在だが、「マネージメントを学んでいない管理職にマネージメントで成果を上げろ」っていうのも、同じくらい理不尽だよなぁ。

最近ジョブ型だのリスキリングだの、そういう言葉が流行ってるけどさ。

 

それなら全国津々浦々、いままで学んだことのない人材管理を突然任され、部下のメンタル状態の責任を負わされて先に本人の胃に穴があきそうな管理職に、もうちょっとちゃんと人材管理を勉強させてあげたほうがいいんじゃないかと思う。

それは人材管理をする管理職本人はもちろん、管理される側である部下にとっても、大事なことだから。

 

 

【お知らせ】
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。


<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>

第6回 地方創生×事業再生

再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは

【日時】 2025年7月30日(水曜日)19:00–21:00
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。

【今回のトーク概要】
  • 0. オープニング(5分)
    自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」
  • 1. 事業再生の現場から(20分)
    保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例
  • 2. 地方創生と事業再生(10分)
    再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む
  • 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
    経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説
  • 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
    「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論
  • 5. 経営企画の三原則(5分)
    数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する
  • 6. まとめ(5分)
    経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”

【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。

【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

名前:雨宮紫苑

91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&写真撮影もやってます。

ハロプロとアニメが好きだけど、オタクっぽい呟きをするとフォロワーが減るのが最近の悩みです。

著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)

ブログ:『雨宮の迷走ニュース』

Twitter:amamiya9901

Photo:Michael Pointner