「転売ヤーだけは許せない」
そう考える人は多いが、なぜ転売で金儲けするのはダメなのだろうか。
「需給を乱して、流通や社会の秩序を混乱させるから」
間違いなくその通りだが、では需給を乱さず流通や社会を混乱させない転売なら、なんとも思わないだろうか。
きっと、なんとも言えないモヤモヤ感があるだろう。右から左にモノを流す「不労所得」で稼いでいるように感じるからだ。
他人のすることなら、多くの人がそんな嫌悪感を持つ。
不労所得という行為に、卑しさを感じる。
しかしそれが自分事になると途端に、その価値観に鈍感になる人はとても多い。
「転売と商売の違い」を自分の言葉で語れる人は、いったいどれだけいるだろうか。
「どうやって利益出すねん」
そんなことを思い知らされたのがもうずいぶん前、友人と一緒に飲んでいた時のことだ。
「頑張って4000万円の資産を作ったねん。Fire(早期リタイア)にはまだ心もとない金額なんで、起業しようと思っている」
大手企業に勤める友人が、そんなことを話す。
独身ということもあり、都内での勤務時には実家から通っていたと聞いていたので、かなり余裕があったのだろう。
気がつけばひと財産になっていたというのは、なんともうらやましい話だ。
「帰れる実家があるうえに一人なら、それだけあれば人生逃げ切れそうやん。致命傷にならん範囲で起業してもええんちゃう?」
「そうやねん、でも何していいのかどうもわからなくてな…」
大手で長い間勤め上げた知人からよく聞く、典型的な“起業相談”だ。
お金に余裕ができたので、勤労意欲を維持することが難しい。
会社を興すことに漠然とした想いがあり、最低限というには十分な資本金がある。
しかし大手で務めていたがゆえに、自分の強みが何なのかよくわからない。
営業職であればどうにでもなるが、技術職の彼がひとり親方で独立したところで、販路をつくることは難しいだろう。
まして彼の技術は大企業の環境ありきで、工場や研究設備を持たない個人の起業で仕事を貰えることは考えづらい。
そんなこともあり、本来なら止めるべきなのかもしれないが、そうもいかないのでこんなアドバイスをする。
「自分で営業も販路開拓もできないなら、すでにマーケットが十分に認知されている領域でしか無理やん。小売りとか飲食のような、大きな努力なしで売り物を認知してもらえる業態のことやけど」
「どういうことや?」
「よく知っている商品やサービスを、“少し安くて少し良い商法”で提供するなら、少なくとも消費者に興味は持ってもらえるってことや」
そんなものは、右から左にモノを流すだけで何の付加価値も生み出さないじゃないかと不満そうな友人。
少しでも付加価値を生み出していることを実感したい、そんな商売をしたいという。
しかし営業力や販売力がないということは、顧客の付加価値を想像できないということでありムチャである。
「なら本当にキャリアとは畑違いになるけど、少し本気で修行して飲食をやるしかないんちゃうかな」
「いや、それは無理やろ」
「なんでや?」
「飲食って、そもそも俺は食材を安く仕入れるルートを持ってないやん。どうやって利益出すねん」
「…それ、本気で言ってるんか?」
彼のように、飲食業を勘違いしている人は本当にとても多い。
「小さな居酒屋をやりたいんだけど、安い仕入先ってどうやってみつけるの?」
かつて、そんな質問をされたこともあるほどだ。
こう考える人は、起業そのものに向かないのでやめた方がいい。なぜか。
考えてもみて欲しいのだが、飲食ほど過酷に「付加価値」を要求される業界はない。
自炊なら500円で十分満足できる“食事”という行為に、800円、3000円、時に1~2万円を出してもらわなければ成立しない商売だからだ。
牛丼800円であれば、美味しいうえに料理や後片付けの時間と手間を削減できること。
焼肉とビール3000円であれば、それに加えプロならではの技術と味、外食らしい満足感を楽しめること。
フレンチのコースとワイン2万円であれば、それに加え非日常の空間とサービスによるもてなしを堪能できること。
それに満足することができてこそ初めて、500円で済む食事という行為に2万円を出していいと思える付加価値がつく。
言い換えれば、ビール大ビン1本を400円で買えることなど良く知っている顧客に、喜んで700円出してもらうのが飲食業だ。
700円で満足してもらえるアテやサービスを先に考えるのが筋であり、「安い仕入れルート」を語るなど100年早いというものである。
そんなことを話したうえで、改めて聞く。
「例えばお寿司屋さんが朝から市場に仕入に行くのは、スーパーよりも安くマグロを仕入れる為じゃないやん。むしろスーパーで売ってるより高価な本マグロを仕入れてるんやぞ」
「…確かにそうやな」
「どんな分野でもそうやけど、安く仕入れるルートを確保して、それを消費者価格で販売するだけで儲かり続ける商売なんか存在しないんちゃうかな」
「わかった、少し冷静になって考えてみる」
未開封のガンプラ
話は冒頭の、「転売と商売の違い」についてだ。
結局彼は独立することなく、その後もずっと同じ会社で仕事をしているが、本当に良かったと思っている。
自分の思考ルーティンが「転売」の発想でしかないことに、気がつくことができたからだ。
他人の転売行為には嫌悪感を持ちながらも、自分で起業を考えた時にはこれほどに、転売の発想から抜けきれない人はとても多い。
そもそも、「安定的に安く仕入れるルート」などというものは、成功し強者に昇りつめたものだけに、事後的にもたらされる特権でしかない。
そんなことは、私たちも日常、コストコや業務スーパーに行けば肌感覚で知っているだろう。
鶏もも肉を2㎏買えば100gあたり100円で買うことができるが、400gの小口パックだと120円になる。
会社経営でも同じで、例えば毎月3000万円の決済額の小売店の場合、カード手数料で3%持っていかれる。
しかしこれが1億円の決済額になると、決済代行会社が営業に来るようになる。
「1.8%にしますので、ウチに乗り換えて下さい!」
高い仕入れでも顧客を満足させる付加価値を生み出し続けた、その先にある結果の果実でしかない。
「転売と商売の違い」を考える上で飲食ほど、わかりやすい業界はない。
誰でも簡単に手に入れることができる400円の瓶ビールに、700円出してでも行きたい付加価値を提供できるお店に育てることができれば、それは誇るべき商売だからだ。
顧客のニーズに応え続ける限り、安定的な再現性があるのだから。
希少性や時限性のあるものを仕入れ、それを高値で売る「転売」には、安定的な再現性が全く存在しない。
「せどり」と呼ばれる行為も同様で、地域や販売店で価格差のあるものを見つけ出し、安く仕入れて高く売る儲け方にも安定的な再現性がない。
そんなものは、商売ではない。
「そんなこと言ったら、中古車や貴金属の買取業だって、規模を大きくしただけで再現性がないので転売じゃないか」
そんなお叱りを受けるかもしれないが、安定的な再現性があるということは間違いなく、誰かの付加価値になっている。
「親が集めていた未開封のガンプラ」は、昭和のオッサンには宝物だが、令和の若者には無価値なゴミでしかない。
無価値に感じる人から価値があると感じる人への橋渡しには安定的な再現性があり、誰かの幸せになっている。
再現性を失えば、事業が潰えるというだけに過ぎない。
転売行為が長続きしないように、社会から必要とされなくなったということである。
人によって言語化に差はあるだろうが、「転売と商売の違い」とはおそらく、そういうことではないだろうか。
少なくとも、400円の瓶ビールを700円で売る方法すら見当がつかない人に、起業は向かない。
Google検索にAI Overviewが表示され、ChatGPTやPerplexityで情報収集するユーザーも増えています。検索順位を上げるだけでは、企業の情報が見つけられなくなる時代に、何をすべきか——。Books&Appsの弊社ティネクト代表安達裕哉が「経営oneplusサミット2026 Summer」に登壇します。

<2026年7月30日 開催予定>
AI検索対策最前線:手法から効果測定まで
安達裕哉 登壇|経営oneplusサミット2026 Summer 内セミナー講演概要
これから重要になるのは、AIに正しく理解され、引用され、推奨されるための情報発信です。SEOからAIOへと変わりつつある考え方から、具体的な対策手法、効果測定の考え方までをコンパクトに解説します。
登壇者
安達裕哉(ティネクト株式会社 代表取締役社長)
Deloitteで12年以上にわたり大企業から中小企業まで業務プロセス改善コンサルティングに従事。近年はAIによるコンテンツ作成を専門とする。著書に『仕事ができる人が見えないところで必ずしていること』『頭のいい人が話す前に考えていること』など。
開催日時:2026年7月30日(木)13:35-13:55
配信形式:オンライン(経営oneplusサミット2026 Summer 内)
参加費:無料
特典:事前申込でアーカイブ動画(2週間)を全員にプレゼント
お申込み・詳細
こちらのイベント詳細ページ をご覧ください。
(2026/6/26更新)
【プロフィール】
桃野泰徳
大学卒業後、大和證券に勤務。
中堅メーカーなどでCFOを歴任し独立。
主な著書
『なぜこんな人が上司なのか』(新潮新書)
『自衛隊の最高幹部はどのように選ばれるのか』(週刊東洋経済)
など
偉そうなこと書きましたが、なんせ起業するようなヤツは総じてどこか頭がおかしいです。
X(旧Twitter) :@ momod1997
facebook :桃野泰徳
Photo:Crystal Jo











