つい先日、Amazonがリストラを始めたと報道があった。

Amazon、約1万4000人の削減を発表 AI時代に対応すべく組織再編で

米Amazonは10月28日(現地時間)、約1万4000人の従業員を削減すると発表した。この削減は、同社のコーポレート部門全体に影響を与える見込みだ。その内容は従業員に向けて共有したメッセージの中で詳細が明らかにされており、組織全体にわたる組織変更の一環として行われる。(ITmedia)

 

別に驚くには当たらない。

最近では、企業は黒字でもリストラを敢行する。

もちろん、米国企業だけではなく、世界各国で同様の動きがあり、日本企業も例外ではない。

例えば明治ブリジストンパナソニック第一生命三菱電機…… 少し調べただけでも、本当に多くの企業が、社員を希望退職という名の解雇をしている。

 

まあ本当のところ、大手企業には「いてもいなくても良い人」が大量に存在しており、上手にリストラをすれば業績も上がる。

マイクロソフトなどはうまくやっていると言えるのだろう。

Microsoft7〜9月最高益 クラウド4割増収、リストラ効果も寄与

【シリコンバレー=山田遼太郎】米マイクロソフトが29日発表した2025年7〜9月期決算は売上高が前年同期比18%増の776億7300万ドル(約11兆9000億円)、純利益が12%増の277億4700万ドルだった。人工知能(AI)向けのクラウドサービスが4割の増収となり、大規模なリストラ効果も寄与した。3四半期連続で最高益を更新した。(日本経済新聞)

 

「解雇」は経営の正当な手段

私は以前、人事の仕事に関わっていたことがある。

 

その仕事の中で知ったのは、「解雇は必要な手段だ」と認識している人が結構多かったことだ。

「絶対に雇用を守る」としている会社は少数であった。

たしかに、国連機関であるILO(国際労働機関)は「能力」と「行為」は、解雇の正当な理由だとして位置づけている。

 

企業は、社会的な機能を担うための機関である。

解雇は、その機能を担うための手段であるから、「従業員」が機能を果たせなくなれば、必要に応じてそれらを行使する。

 

例えば、ピーター・ドラッカーは、組織において「働く人の意欲」を非常に重視していた。

「意欲のない人間」は組織と本人の双方にとって大きなリスクになると指摘しており、本人に意欲があり、チャレンジを望めば雇用を続けるべきだが、そうでないなら解雇せよ、と言っている。

この問題についてはここでもう一度シンプルな原則を繰り返させていただきたい。挑戦してくるならばチャンスを与えるべきである。挑戦してこないならば辞めてもらうべきである

 

だから、ここで問題となるのは解雇の是非ではない。

真に問題となるのは、「誰にやめてもらうべきか」だ。

 

どのような人を「解雇」すべきか?

一般的には、「無能」が解雇されると考えている人が多い。

しかし、日本では、能力によって解雇される人はむしろ少ない。

 

では何を持って解雇されるのか。

少し古い文献だが、「クビにした会社と、クビにされた社員の紛争」の調停事例を扱った研究書籍「日本の雇用終了」には、企業が解雇を決定するときの事例が数多く書かれている。

これを見ると、日本人が「誰を辞めさせるべきか」についてどのように考えているのかが、よく分かる。

 

具体的には、「態度が悪いやつ」が最も解雇されやすい。

・労働条件変更といった中間形態をとることなく、直接「態度」を理由にした雇用終了に至っているケースが、168件(実質166件)と全雇用終了事案の中で実質的に最も多くなっている。(第一節)

・狭義の「能力」を理由とする雇用終了では、具体的な職務能力の欠如や勤務成績の不良性を理由とする事案はそれほど見られず、むしろ「態度」と区別し難いような「能力」概念が一般的に存在していることが大きな特徴である。(第二節)

 

それは、日本企業がは基本的に「やる気があって真面目な人」を解雇できないからだ。

メンバーシップ型の雇用である日本では、従業員の能力が不足したとしても、仕事が遅かったとしても、それは会社側が「教育・訓練」を施すなり、「環境を整える」なりして、本人の能力を引き上げる義務を負っている。

 

しかし、逆に言えばこれは「従業員の義務として、会社の期待水準まで、自分の能力を上げるための努力をしなければならない」ということでもある。

したがって、

・何度もチャンスを与えたのに努力をしない

・そもそもやる気がなく、勤怠が最悪

・反抗的態度をとって、他の従業員のパフォーマンスを下げる

という授業員に対しては、解雇が認められた判例が多数、存在している。

 

納得して辞めていく社員

実際、そのように社員を解雇する会社を見ていたことがあった。

 

その会社はサービス業だった。

社長はワンマンで、非常に仕事ができる。

会社は右肩上がりで成長していたため、社員の給与水準は高めだった代わりに、当然のように成果が厳しく求められていた。

 

そして、この会社は、解雇をうまく使っていた。

「うまく」というと語弊があるかもしれないが、皆、納得して会社を辞めていくので、大きな問題にならないのだ。

 

ではいったい、社員をどのように解雇していたのか。

 

実は、成果が出ない人をいきなり解雇することはしない。「成果があがらないだけ」は解雇の理由にならない。

逆にその場合、徹底して「行動すること、マニュアル通りやること。」を求める。

 

なぜなら、そのとおりやれば、大半の人は成果が出るから。

忠実にマニュアル通りやればいいだけ。工場の流れ作業と同じだ。

 

しかし中には、「行動しない人」「マニュアル通りやらない人」がいる。

 

例えば、

電話しない。(電話するルールがある)

お客さんに会いにいかない。(定期的にお客さんを訪問するルールがある)

ミスを防ぐために必要なチェックをしない。(チェックリストをつかうルールがある)

アンケートを取らない。(アンケートの回収率を100%にするルールがある)

セミナーの練習をしない。(セミナーの練習をするルールがある)

 

そういう人には、まず上司から、このままだと「評価が下がる、給与が下がる」ことが告げられる。

そこで行動が修正されれば、めでたしめでたしだ。

 

だがそれでもなお、社員が働かない場合、つぎに希望を聞いて「仕事の変更」をする。

例えば

接客からバックオフィス

営業からマーケティング

品質保証から購買

などといった、配置転換だ。

ただし、この配置転換はだいたい、評価が一旦リセットされるので、給与が下がる。

 

ただ、実際には、働く場所によって、人は大きく能力を変える。

ある場所では無能だったが、他では素晴らしく活躍する、ということが普通にある。

そのようにして、配置を変えた結果、また評価のあがる人もたくさんいた。

 

しかしそこでも仕事をきちんとしない人が、どうしてもいる。もう、これはどうしようもない。

 

その場合、会社は「もうあなたのできる仕事は、この会社にはない」と告げる。

合わせて、「他社であれば、あなたの活躍できる場所があるかもしれない。」とも告げる。

 

これで殆どの社員は納得して辞めていく。

中には「これだけ面倒を見ていただいたのに、会社の期待に応えられず、申し訳ない」

といって辞めていく人もいる。

 

重要なのは「尊厳」

この会社が気をつけていたのは、やる気がある限りは、クビにしないこと。

そして、仕事ができないからといって、社員を馬鹿にするような態度を決して取ったりしないことだった。

人は、バカにされれば、むしろ「やり返してやろう」と思い、会社と険悪な関係になってしまう。

 

企業は福祉を担うことはできない。だから、無用の人物は解雇せざるを得ないが、しかし、その場合であっても、人としての「尊厳」は守る。

ウチではだめだったが、ほかでは活躍できるという可能性を告げる。

(努力を怠っていたとしても)あなたは、あなたなりに確かに努力していたと認め、ただし、ウチが社員に求める水準には達していないということを素直に告げる。

 

会社が何度もチャンスを与えれば、結局、彼の適性は本人の知るところとなる。

あとは、どのように送り出すか。

それだけの問題だ。

 

だが、そういうささやかなプライドを踏みにじると、「法廷」で争うハメになり、結局誰も得をしない。

 

 

 

 

 

 

【著者プロフィール】

安達裕哉

生成AI活用支援のワークワンダースCEO(https://workwonders.jp)|元Deloitteのコンサルタント|オウンドメディア支援のティネクト代表(http://tinect.jp)|著書「頭のいい人が話す前に考えていること」88万部(https://amzn.to/49Tivyi)|

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Photo:Gadiel Lazcano