先日、高市総理を映すニュース動画を観ていて、とても驚くことがあった。

 

総理就任後、外交デビューとなるASEAN首脳会議に向かう時のこと。

政府専用機に乗り込む高市氏は、タラップを昇ったところで足を止め、敬礼で出迎える航空自衛官に答礼を返した。地上のカメラに向かって手を振るよりも前にだ。

さらに機内で待ち受ける、おそらく接遇役であろう空曹(現場の中核となる自衛官)の女性、接遇の責任者であろう空将補にも頭を下げ、機内に消えていった。

 

「何だそんなの、人として当たり前じゃないか」

そう思われるだろうか。その通りであり、こんなことは人として当たり前のことだ。

自衛隊の最高指揮官として、軍人から敬礼を受けたなら指揮官は答礼を返す。当然のことである。

 

しかし実は政府専用機に乗り込む時、平成・令和の総理の多く、おそらくほぼ全員が、敬礼で待ち受ける航空自衛官を一瞥もせず機内に入るのが普通だった。

唯一、故・安倍元総理がそのような所作をされているのを見たことがあるくらいだ。

 

思えば高市総理は、就任後初の記者会見の際にも記者が所属と名前を名乗った際、一人ひとりに必ずこう返していた。

「お疲れ様です、どうぞよろしくお願いします」

 

時にやや強引さを感じるくらいであったが、それくらいに「礼を尽くす」ことにこだわりがあるのだろう。

それを政府専用機に乗り込む際にも、自然体で示した形だ。

そんな出来事をみて、もう6年以上も前の、苦々しい記憶を久しぶりに思い出した。

 

「心からのお祝いを申し上げます」

もう6年以上も前の話、陸上自衛隊のある最高幹部の退任記者会見に出席したことがある。

防衛大学校時代から通算し、40年もの長きに渡る自衛官・自衛隊員生活の最後の日だ。

18歳で国防を志し、以来誰よりも努力し汗をかき最高幹部にまで昇りつめた日々を思うと、取材する立場であっても胸にくるものがある。

 

そんな感慨を覚えつつ記者会見が始まると、やはりというか案の定というか……。

全国紙やテレビの記者たちは、こんな質問をぶつけはじめた。

「〇〇の問題はまだ解決してないと思うのですが。未解決で離任する心境をお聞かせ下さい」

「先日発生した、XX駐屯地での不祥事について、どのようにお考えですか」

 

口調はケンカ腰であり、怒らせようとしていることが明らかな言葉選びだ。

自衛隊批判、自衛官批判、最高幹部への個人攻撃など、記者個人の“お気持ち表明”に近く、およそ退任記者会見で聞き出すべきバリューのある質問など、一切ない。

そんな空気感にややイラつきつつ、記者会見は進み所定の時間になる。

 

「他に質問のある方はいらっしゃいますか?」

進行役の自衛官がそう会場に問いかけたところで、どうしてもこのまま終わらせたくなかった私は最後に挙手をした。

 

なお小規模な記者会見ではあらかじめ、質問をする記者は主催者側から割り当てられていることが多い。

式典の時間も限られていることから、その役目は全国紙の記者やテレビ局などの、メジャーな立場の人ばかりだ。個人やフリーの記者はその役目をもらえないし、挙手をしても発言の機会はない。

 

そんな事はわかっていたが、どうしてもこのまま終わらせたくなかった私は、横紙破りなことはわかりつつも挙手し最高幹部を見詰める。

一瞬キョトンとする進行役の自衛官。最高幹部は、進行役の方をみると軽く頷くような素振りを見せた。

おそらく「質問させてやれ」という意味なのだろう。

指名を受け、立ち上がりマイクを握る。

 

「総監、ご質問に先立ち、ご退役に際してのお祝いを申し上げます。そして、40年もの長きに渡り国防に捧げられた人生に、心からの敬意と感謝を申し上げます」

 

時に総監の目を見つめながら、時に会場にいる“クソメディアのクソ記者”の方にも目を向ける。

(お前ら、厳しい質問をするのは当然にしても、まず人としての礼儀くらい尽くせ!)

もっとも、どいつもこいつもカエルのツラにションベンであったとは思うが。

 

質問に立った記者の誰一人として、この程度の礼も尽くさなかった。ただそのことが、腹立たしかった。

だからこそそう前置きし、一呼吸空け、改めて質問を始める。

 

「自衛官のなり手不足が深刻な問題になりつつあります。国防に深刻な影響を与えかねない事態になる可能性もあるかと思います。どうすれば若者が自衛官を目指してくれるようになるとお考えか。ご退役の日にあたり、自衛官という職業の魅力とあわせてお聞かせ下さい」

 

総監は少し意外そうに、しかし柔らかな笑顔を作りながら話を聞き終わると、予定外の質問にもかかわらず丁寧に応えた。

「まずは、お祝いのお言葉に感謝申し上げます。国民の皆様のご理解とご協力があってこその任務でした」

 

一呼吸置き、本題に移る。

「自衛官のなり手不足について、深刻に捉えております。若者にお伝えしたいこと、お伝えしたい魅力はたくさんありますが、時間も限られているので簡潔にお答えします。自衛隊には、本気の想いに応える仕組みがたくさんあります。やりたいと思えること、やりたい仕事が、必ずあります」

 

心做しか、先程までの鋭い目力が消え去り、柔和にさえ感じられる。

あるいは、長かった自衛官生活に思いを馳せながら、お話しして下さっているのだろうか。そして思いのほかたくさんのことをお話しされると、こう締めくくった。

 

「ひとことで言うと『自衛隊は良いぞ!興味があるなら、まずは飛び込んできて下さい!』です。私自身、本当に幸せな自衛官生活でした」

 

そして記者会見を終え栄誉礼・離任式に移り、音楽隊の演奏などを経て、見送り行事が始まった。

もうここまでくれば、記者など誰ひとりいない。私だけだ。

栄誉礼の会場には一人だけ地元紙の記者が来ていたが、式典が始まると興味なさそうに、すぐに出ていってしまった。いったい記者たちは何を取材して、何を読者に伝えたいのか。

 

見送り行事も終わると、特別に許可を頂いていた総監の最後の公式行事、「殉職自衛官の慰霊碑参拝」まで同席させて頂く。

先程までのたくさんの自衛官・自衛隊員の見送りと違い、慰霊碑の参拝は副官だけを携えた、総監と令夫人お二人だけによる行事だ。夏の終わり、蝉の声だけが聞こえる厳かな空間で、背筋を伸ばしながら写真を撮り、遠くから取材させて頂く。

 

そして全ての行事を終えて専用車に乗り込まれようとしたその時、突然副官がこちらに駆け寄ってくると、こんなことをいった。

「総監が少しお話ししたいそうです。来て頂けますか?」

 

一体何事なんだと、慌てふためき走り寄る。

この時あまりにも慌ててしまい、総監のおそばまでいったところで足を滑らせ盛大にすっ転んでしまった(泣)そんな私に手を伸ばし、笑いながら引っ張り起こすと総監は短く一言、こんな事を言った。

 

「桃野さんのこと、以前から存じ上げています。これからも自衛隊をよろしくお願いします」

 

そして握手を求めて下さり、車に乗り込んで慰霊碑を後にした。

残された私の右手には、なにやら違和感。手のひらをみると、そこにあったのはチャレンジコインだった。

チャレンジコインとは、高位にある軍人が親愛の情を込めて、部下や友人に渡す記念コインだ。おそらく総監の、自衛官生活最後のチャレンジコインだろう。ただただ深く感動し、目から汗があふれる。

 

それから6年以上の月日が経った。

今、元総監は私にとって自衛隊に関したくさんのことを教えてくださる、かけがえのない飲み友達だ。

 

何を見せられてるのか

特別なことなど、何一つしたことはない。

基本的に自衛隊を応援する立場ではあるが、だからこそ自衛隊の不祥事を厳しく批判することも少なくない。

しかしそんな時にこそ、礼儀や礼節、品位を欠くようなことは絶対にしない。

 

ひるがえって今、高市政権を批判するメディアと野党はどうか。

聞くに耐えないヤジを正当化する、野党第一党の議員。

「(高市総理に)死んでしまえと言えばいい」と言い放った、有名ジャーナリスト。

 

そんな野党議員やメディアなど、多くの国民から嫌悪感を持たれて当然だろう。ロジックや知性に基づく議論ではなく、感情的に喚くだけの批判は、共感や納得に程遠いからだ。

言ってみれば、モンスタークレーマーが飲食店の店員さんにブチギレているのと同じレベルの行為を“報道”と称し、“政治”であると開き直っている様を国民は見せられているのである。

ただただウザイに決まってるではないか。

 

批判という行為は、知性と知識、品位があってこそオーディエンスの納得と共感を得られるものだ。

そしてそれ以上に大事なのは、立場や役割が違う人に対するリスペクトに他ならない。敬礼で出迎える自衛官に、カメラに手を振るよりも先に答礼を返す “人として当然”の礼節である。

 

この程度のこともできない野党やメディアこそが今、日本の民主主義を危うくしている。

意味のある権力批判をすべき勢力として、まったく機能していないからだ。

大株主や取締役、監査役が無能であれば、経営トップは間違いなくロクでもない事をやり始める。

 

同様に、メディアや野党など権力を監視すべき勢力に知性や知識、品位が無ければ、政府はやりたい放題になるだろう。

高い支持率を得ている政権と対峙するためにこそ、その重い役割を再認識して欲しいと願っている。

 

 

 

 

 

【プロフィール】

桃野泰徳

大学卒業後、大和證券に勤務。
中堅メーカーなどでCFOを歴任し独立。

主な著書
『なぜこんな人が上司なのか』(新潮新書)
『自衛隊の最高幹部はどのように選ばれるのか』(週刊東洋経済)
など

ガラにもなく偉そうなことを書いてゴメンナサイ!
> <;
仕方がないのでお酒を飲んで寝ます!
> <

X(旧Twitter) :@ momod1997

facebook :桃野泰徳

Photo:Therese Garcia