「最近、全然リーチが取れなくなった」
ここ1〜2年、企業のSNS担当者の方と話していると、必ずと言っていいほどこの言葉が出ます。SNSマーケティング支援に携わる私自身も、実感する場面は多いです。
企業のマーケティング活動において、SNSの活用は随分一般的になりました。ChatGPTを始めとする生成AIを活用し、投稿用テキストや画像、動画制作を効率化している企業も少なくないでしょう。
しかし、SNSをオウンドメディアとして活用するだけでは、以前のような成果を得ることは難しいのが現状です。「SNSは無料で生活者に情報を届けられる」「良い投稿さえすれば自然に情報が広まって、もしかしたらバズるかもしれない」という期待をもっている方は、認識をアップデートする必要があります。
というのも、SNSは今や「レコメンドメディア」となり、以前ほどシンプルに成果が出せる媒体ではなくなったからです。
2026年を迎える前に、いまSNSで起きている不可逆な変化と、その中で企業が成果を出すための方法を整理してお伝えします。
SNS運用担当者が直面する「リーチが取れない」という現実
主要なSNSは、ここ数年で「フォローしている友人の投稿を見る場所」から、「AIが選んだおすすめ投稿を見る場所」へと変化し、すっかり定着しました。私はこれを、SNSの「レコメンドメディア」化と呼んでいます。
かつてSNSマーケティングの定石は、「フォロワーを増やすこと」でした。フォロワーが増えれば、その分だけ多くの人に情報を届けられる。非常に分かりやすい図式です。
しかし、レコメンドメディア化した現在のSNSにおいて、フォロワー数は以前ほど意味を持ちません。ユーザーは「フォロー中」のタブよりも、AIが最適化した「おすすめ」のタブを見ることに時間を費やしているからです。「フォロワーを増やせば安泰」という時代は、プラットフォームの仕様変更によって、強制的に終わらされてしまったのです。
ただ、これは2025年になって突然起きた現象ではありません。
この流れを作ったのは、2018年頃から日本でも支持されるようになったTikTokです。TikTokは、浸透した当初から高いレコメンド性能を誇るプラットフォームでした。それに追随するように、Instagramもここ数年で同様の傾向を強めていきました。
そして、X(旧Twitter)も現在では「フォロー」タブよりも「おすすめ」タブを優先的に表示させるなど、レコメンドを強化しています。2023年8月にフォロワー獲得広告が終了したことも、フォロワー重視の時代からの変化を象徴する出来事だったと思います。
2025年に拍車をかけた、AIによる「情報爆発」
さらに、2024年から2025年にかけて顕著だったのが、生成AIによるコンテンツの爆発的な増加です。今や、専門的なスキルがなくても、誰でも高品質な画像や動画を作れるようになりました。
例えば、私の子供は最近、「いかにもAIが生成した猫の動画」を延々と見ています。ただただ目を惹きつけられるコンテンツが、無限に供給されているのです。これは、企業にとって非常に厄介です。
ユーザーの可処分時間は、文字通り有限です。企業が一生懸命作った商品紹介の投稿やショート動画は、こうした「AIが量産する、中毒性の高いコンテンツ」と同じ土俵で戦わなければなりません。
さらに言えば、SNS上には個人のクリエイターやインフルエンサーによる、面白くて共感を呼ぶ投稿も溢れかえっています。
この状況下で、ただ「良い投稿」をオーガニック(無料)で発信するだけで、自社の情報がユーザーに届くでしょうか。残念ながら、今の環境では膨大な情報量の中に埋もれてしまい、誰の目にも留まることなく流れていってしまうのがオチです。
レコメンドメディア化によるプラットフォームそのものの変化に加え、AIによる情報爆発が、2025年のSNSのリアルな姿です。
SNS運用に、企業もAIを取り入れるべきか?
ここで、「だったら企業もAIを使ってコンテンツを量産すべきでは?」と感じる方もいらっしゃると思います。
結論から言えば、生産性を高める(投稿数を増やす)ためにAIは積極的に使うべきです。
ただし、AIを使うことでコンテンツの質が劇的に改善したり、従来よりも大きく成果が上がったりするわけではない点には、注意が必要です。AIで作った画像よりも、シズル感のある実写の方がユーザーに受け入れられやすい場合もあります。過度な期待はせずに、あくまで効率化の手段として捉えるのが、現時点では確実です。
ただ、AIは指数関数的に進化をしているので、そのうちに全く違う状況になるかもしれません。その意味でも、今のうちからAIを活用しておくことは重要です。
「巨人の肩」に乗り、アテンションを最大化する
では、この状況で企業はどう戦えばいいのでしょうか。
AIによる無数のコンテンツや、強力なインフルエンサーたちと同じ土俵で戦い、SNS上にいる何千万のユーザーのアテンション(注目)を獲得し続ける……。それを自社のリソースだけで成し遂げるのは、一部の大企業を除けば、「再現性のない」SNS活用と言えます。
だからこそ私たちは、自社の商材と相性の良い「既存のコミュニティ」に入り込んで、その中で認知を取り、UGCを生み、効率よく購買につなげる考え方を提唱しています。「巨人の肩に乗る」という考え方です。
これは、特定の狭いコミュニティだけに情報を届けて満足する、という意味ではありません。すでに熱量を持って活動している「既存のコミュニティ(巨人)」を見つけ、より効率的に、より質の高いアテンションを獲得するのです。
具体的には、狙うべきコミュニティを見つけ、そこにいる人たちが「語りたくなる切り口」を提供する。そうして発生したUGC(クチコミ)は、企業の広告よりも遥かに強い説得力を持ち、周囲のユーザーへと伝播していきます。
局地的な熱狂から始まって、そこから多くのユーザーへ拡散していくことを目指す。これこそが、情報爆発時代において、最も効率よくアテンションを獲得し、成果を最大化させる方法なのです。
どうやってコミュニティに「お邪魔する」のか
商品特性からターゲットとなるコミュニティを定めた後、どうやってそこに情報を届けるか。先述の通り、オーガニック投稿だけでは届きづらいため、情報を届けるための手段を考えなければいけません。
例えば、そのコミュニティで影響力を持つインフルエンサーをプロモーションに起用したり、人気IPとのコラボレーションが考えられます。
これらはコミュニティに入り込むための強力な「起爆剤」として機能します。しかし、こうした施策は、話題が継続する設計しなければ一過性の話題作りで終わってしまう可能性が高いのも事実です。
では、持続的に成果を出すためにはどうすればいいのか。私は、ひとつの効果的な方法として広告の活用を推奨しています。
高い人件費をかけて制作されたオーガニック投稿が、わずか数百から数千のインプレッションで終わっていては、費用対効果に見合いません。
日々の投稿に数万円でも広告費をかけることで、狙ったコミュニティに対してピンポイントに情報を届けることができ、ターゲットとするコミュニティ内でのインプレッションが伸び、認知獲得やUGC創出が期待できるのです。
広告によってアテンションを獲得することをきっかけに、UGC数・指名検索数の増加を期待できます。
反対に、UGCや指名検索は知っていないと起き得ない行動なので、十分なアテンション獲得ができていなければ増加することもありません。中長期的な視点で考えると、自社の日々の発信を「広告配信」でコツコツとターゲットに届けていく方が、結果として効率が良い場合が多いと言えます。
これからのSNSにおいて、広告は商品を売りつけるツールではなく、自分たちの存在を、届けたい相手に確実に届けるための手段です。わざわざ広告用のコンテンツを作らなくても、日々発信している投稿をそのまま広告として配信すればよいのです。
SNS広告を出稿する目的は、直コンバージョンを狙うことではありません。「〇〇といえば、このブランドだよね」というブランド想起を獲得することです。まずは広告で接点を作り、「あ、この会社知ってる」という状態を作る。そうして認知を獲得し、UGCが生まれる土壌を整えていくのです。
広告費をかけて獲得した認知がUGCを呼び、それが次の認知につながり、さらなるUGC創出のきっかけとなる。このサイクルが構築されれば、UGCによる無料のアテンションが徐々に増えていきます。SNSは、この「資産化」のサイクルを実現できるのに適したチャネルなのです。
幻想を捨て、SNSにも正しい投資を
2026年に向けて、ぜひみなさんにも「SNSは魔法の杖ではないし、無料で使えるツールでもない」という認識をもっていただきたいです。
AIの進化やアルゴリズムの変動により、SNSを取り巻く環境は目まぐるしく変わっています。そんな中で、「運良くバズれば売れる」といった不確実な運用を続けるのは、経営資源の無駄遣いになってしまう可能性が高いです。
これからの企業に求められるのは、効果を見込めるチャネルにしっかり投資することです。投資した分が、認知やUGC、そして最終的な売上にどうつながるのか。その道筋を明確に設計し、再現性のある形でリターンを得られる仕組みを、SNSで構築する必要があります。
「無料で誰でも気軽に、簡単に」というSNSへの幻想を捨て、費用対効果が見込める、戦略に基づいたマーケティング投資を行う。当たり前のことですが、それができる企業だけが、変化の激しい2026年も成果を出し続けられるのだと思います。
■著者プロフィール
増岡宏紀
株式会社ホットリンク 営業本部長
2016年にホットリンクへ入社後、SNSコンサルタント・プロモーションプランナーとして企業のSNS戦略立案や運用支援に従事。現在はコンサルティング営業本部長として、新規顧客の戦略設計から実行支援までを統括。業界イベント・セミナーへの登壇、マーケティング専門メディアへの寄稿・取材実績も多数。2025年12月には、日経BP社より著書『コミュニティマーケティングは「巨人の肩」に乗れ ~UGCと指名検索が増え続けるSNS活用の新常識~』を発売。
前回記事:「SNS売れ」はどのように生まれるのか
Photo:Shutter Speed




