「婚活って短期決戦の、条件の突きつけあいやねん。そんなん無理に決まってるやろ」
先日、婚活を諦めたという50代の友人と話していた時の事だ。
ふと思い付きでぶつけた疑問を、そんなふうに否定されてしまった。
「何人かの候補の人と、1年でも2年でも時間を掛けて理解と共感を積み上げたら、誰か1人くらいとうまくいかへんのか?」
そんな素朴な質問だったが、そんなわけないという。
「女性もなる早で結婚したいから、登録しとんねん。じっくり時間を掛けるとか、それだけで本気を疑われるんやわ」
「時間を掛けることも許されへんとかマジか…。例えばどんな条件なん」
「年齢とか年収、なんやかんやで見た目もあるな。後は兄弟構成、親の介護とか」
「俺の思ってる結婚となんか違う…。っていうかお前も、そんな感じで条件てんこ盛りにしてたんか?」
「いや、俺は子供が欲しかったんで年齢だけや。30代半ばまでの女性って条件以外は、ほぼつけてない」
私自身、婚活というものを経験したことはない。
彼以外に、婚活を経験した人の話も聞いたことが無いので、それが本当なのかもわからない。
その上で思わず、こんなことを言ってしまった。
「ちょっと待て、どう考えてもそれ、最初からクリア不可能なムリゲーやんけ。婚活サービスってそんな詐欺まがいなモンなんか?」
人は必要ないものは買わない
「そんなことないやろ、実際に成婚退会している人もたくさんいるんやし。なんでムリゲーやねん」
「そやな…。例えばお前、こないだ新車買ってたやん。なんでトヨタのあの車にしたんや」
すると彼は、車じゃないと通勤が不便な会社に転職したので、ちょうどいい買い替えの機会だったこと。
昔からトヨタに乗り続けてて、期待を裏切られたことがないこと。
馴染みのディーラーと担当者さんなので信頼しており、今回も同じ店で買ったことなどを説明する。
期待通りのキレイな返事に、思わず吹き出す。
「まさにそれ、マーケティングの基礎やんけ」
「どういうことや」
「人は必要ないものは買わない。人は知らないものは買わない。人は知らない人や嫌いな人からは買わない。合ってるやろ?」
「そんなん当たり前やんけ。マーケティングってそんな程度のもんなんか?」
そう、彼が言うようにこの程度の原則を肌感覚で理解できない人などいない。
にもかかわらず、おもしろいほどに人は、とりわけ会社経営者はその程度の原則を本質的に理解していない。
例えば自社のwebサイトで製品やサービス、経営者の考え方を日々情報発信し、「知ってもらうための努力」を続けている会社が、どれだけあるか。
作って終わりという会社が、ほとんどだろう。
つまりそんな経営者は、こう考えているということだ。
人は必要ないものでも、ウチの商品なら買ってくれる。
人はウチの商品なら、知らなくても買ってくれる。
人はウチの会社からなら、知らなくても(嫌いでも)買ってくれる。
そんなわけがあるものか。
人は必要で、知っている商品で、知っている人(会社)だから「買ってもいいかな」と、思うものだ。
そしてこの「買ってもいいかな」と「実際に買う」の間にも、実は大きな壁がある。
それは「知っている」だけで、人は買ってくれるわけではないという事実だ。
それこそが、マーケティングと両輪で考える必要がある“ブランディング”である。
いろいろな定義があるだろうが、ブランディングに不可欠な要素が少なくとも、3つある。
認知、理解、共感だ。
認知とは、知ってもらうこと。相手の視界にも入っていないのであれば、それはこの世に存在しないことと同じである。
理解とは、自社の考えや商品のコンセプトまで踏み込んで知ってもらうこと。
共感は、それら考えに文字通り共感し、ファンになってもらうことを指す。
認知し、理解しても、「だからこそ買わない」という選択も当然よくある。
認知し、理解し、共感してこそ初めて、人は商品を購入してくれるのが、ブランディングとマーケティングの両輪である。
高額な商品であればあるほど、人はそのように意思決定する。
そんなことを彼に話したうえで、改めて質問する。
「つまりお前は、車が必要で、トヨタを知ってて、よく知っているディーラーと担当者やし、選択肢に入ったんやん?」
「…そういうてるやん」
「加えて、トヨタのモノづくりを理解し、共感したからこそ、ファンであり続けてるんやろ」
「回りくどいな。その通りやけど、それが俺の婚活の話とどう関係があるねん」
「下心なんか、一切なかったんですけどね(笑)」
「すまんすまん、本題に戻るわ。その前にもう一つ、聞いて欲しい話があるねん。50歳で29歳の女性と社内結婚した、かつての部下の話や」
「なんやそれ、そんなことありえるんか!」
「いや~、本当に当時はビビったぞ。離婚と養育費で生活が厳しいとこぼしてたオッチャンなんよ。それが有名女子大卒の国家資格持ちで、すごく愛嬌のある29歳女性の初婚を掴んだんやから」
もう20年以上も前の話なので、時代の価値観を含め多少の粗相をお目こぼし頂きたい。
結婚報告会を兼ねた部署を挙げての飲み会の席で、思わず女性部下に、こんなことを聞いてしまう。
「なんかすごい悔しいなあ!このオッチャンで本当にいいん?」
「…実は私も、よくわからないんです(笑)」
そしてオッサンも会話に参加すると、なぜ結婚にまで踏み切ったのか、2年ほどの軌跡を2人して説明してくれる。
要約、最初はお互いに何でもない“職場の人”としか思ってなかったこと。
しかしそのうち、任せた仕事がお互いに誠実であり、信じられる同僚だと思えるようになったこと。
そんな日常の中で、恋人と別れたり、ケガをした時など「非日常」のタイミングの心のケアで、プライベートの部分にまで入ることをつい許してしまったと女性は話す。
「下心なんか、一切なかったんですけどね(笑)」
そんなことを照れながら話すオッサンだが、だからこそなのだろう。
自然体ではないアラフィフの世話焼きオヂなど、20代の女性から見たら迷惑どころか、恐怖でしかない。
そんなことで、2年以上の時間を彼女と共有したオッサンは、「認知・理解・共感」をゆっくりと満たすことに、奇跡的に(?)成功した。
そして、同僚皆から荒っぽい祝福を受け、幸せな再婚を果たす。
そんな昔話をざっとかい摘まんで婚活を諦めた友人に話すと、改めて聞いた。
「お前の言う“短期間での条件の突きつけあい”ってやり方の婚活、“認知”で止まってしまうやん。頑張っても“理解”まで行けるかどうかやん?“共感”までたどり着けへんやん」
「…そういうもんやねん
「そうか…。でもな、“共感”抜きでの“高額な買い物”って、カタログだけで車とか家を買うようなもんやろ。フェラーリやタワマン並みのスペック持ちでしか無理やって」
SNSでたびたび見かける、「おごりおごられ問題」「初デートがサイゼリヤ」といった話題もそうだが、こんなものは“認知”の段階にある関係でしか起こりえない論争だ。
理解・共感まで成熟した関係であれば、そもそもお互いの価値観に合わないシチュエーションをわざわざ共有することはないだろう。
まして、おごること・おごられることで関係性の軽重を推し量るなど、それだけで未成熟というものだ。
逆に言えば、“認知の次”に行くためには、その壁を乗り越えるためにお互いにいろいろ頑張らなければならないということでもあるが。
その上で、ブランディングとマーケティングについてだ。
人は必要ないものは買わない。
人は知らないものは買わない。
人は知らない人や嫌いな人からは買わない。
認知・理解・共感の全てが揃って初めて、人はモノを買う決断をしてくれる。
そんな当たり前の事ですら、“知っているのに理解していない”経営者やリーダーが、余りにも多い。
「知ってもらう努力」をし続けることこそ、もっとも投資効率のいいセルフブランディングであり、マーケティングだ。
恋愛や結婚という関係も、きっと同じである。
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(2026/4/30更新)
【プロフィール】
桃野泰徳
大学卒業後、大和證券に勤務。
中堅メーカーなどでCFOを歴任し独立。
主な著書
『なぜこんな人が上司なのか』(新潮新書)
『自衛隊の最高幹部はどのように選ばれるのか』(週刊東洋経済)
など
もうずいぶんと昔、27歳で結婚した時に妻が、こんなことを言ったことがあります。
「あんたはチョビチョビしててかわいいから、結婚したんよ」
(意訳:子供みたいで無邪気)
偉そうなことたくさん書きましたが、そんなブランディングなど全く意識してませんでした…。
X(旧Twitter) :@ momod1997
facebook :桃野泰徳
Photo:Hongwei FAN













