おれのLARS
おれはこちらのサイトで、大腸内視鏡検査(結果が出る前)の記事を書き、そこから希少がん(NET G1)がわかり、切除手術を受け、一時的にストーマ(人工肛門)を造設した話を書いてきた。そして、ストーマ閉鎖後に起こるLARSという症状についての恐怖を書いた。
とりあえず、どうなったの? まず、それについて書く。
いま、おれの腹にストーマはついていない。希少がんとは別の病院で、ストーマ閉鎖の手術を受けた。
がんに冒された直腸やその可能性のあるリンパ節を、ロボット支援下手術で6時間行うよりは簡単な手術だ。とはいえ、全身麻酔をかけて行う、入院一週間から十日コースの代物ではある。
で、その結果どうなったのか。前の記事でLARSへの恐怖をさんざん語った人間としては、それを報告する義務のようなものはあるだろう。
現在、閉鎖手術後二週間と少し、水様便による切迫便意と便失禁の地獄には陥っていない。現状ではそうだ。
もちろんおれは、最悪の場合を想定し、あるいは信じ込んでいた。なので、閉鎖手術する入院の際も、「パジャマとタオル使い放題コース」のほかに「おむつ使い放題コース」も申し込んでいた。
おれのLARS恐怖は決して大げさに書いたものではなかった。ストーマの閉鎖の直後からくる、と信じて疑わなかった。
が、手術後、病院食を取るようになったあと起きたのはなんだったのか。切迫便意と便秘、これである。
急に切迫した便意に襲われる。たしか、普通の大腸のころは、だんだん便意というもののゲージが溜まっていったものだったと思う(ストーマ時期を含めて三か月くらいで忘れてしまうものだ)。
ところが、一気にMAX状態でくる。なるほど、切迫だ。で、トイレに行く。おれが今回入院した病院は、大部屋ごとにトイレがなかった。
そして、部屋から男子トイレまで少し距離があった。何度も最短距離での移動を頭でシミュレートした。急いでトイレに行く。が、何も出ない。
これを繰り返す。何度も便意に襲われて、何度もトイレに行く。しかし、出ない。出たとしても、ウサギのふんだ。病院ではほとんどこれだった。
まあ、手術前後の絶食、ほとんど水分の重湯からの食事、まずは出るものもない。それに、大腸もしばらくスルーされていたので機能を復活させていない。そんなところもあるだろう。
おれは希少がん手術のあとも、腸が働かなくて入院がのびた。それもある。
でも、手術痕の状態もよく、ガスも出て、多少の排便もある。これは悪いことではなかったらしい。
おれは最短の一週間で退院した。退院前、こちらから聞き忘れたのもあるが、食事についていっさいなにも言われなかった。
で、おれは野に放たれた。ストーマの切除痕はわざと縫い合わせない技法が取られている。入院時に処置されていたように、ガーゼで保護する。
これもまた、ガーゼを用意して保護して下さいとは言われなかった。消毒の必要もないらしい。ただ、血だかなんだかの液体は沁み出してくる。おれは病室からAmazonにガーゼの注文をした。なかったら大変なところだった。
今回、がんのような大病をしてみて、外出など難しいとき、Amazonは助けてくれた。Amazonをばかにしたり、いろいろな面で批難するひとも多いだろうが、「Amazonは福祉」だと、一人暮らし病人のおれが感じたのは事実だ。
もちろん、Amazonのほしいものリストを通じて、たくさんの人からたくさんのものを支援してもらった面もある。ありがとうございます。
野に放たれたおれの話だった。おれは最初、大腸が機能を麻痺させているから便秘状態なのだと思っていた。いつ、切迫した下痢に襲われるのか、失禁するのかわからないと思っていた。
なので、Amazonで大人用おむつを買った、生理用ナプキンを買った、便漏れパッドを買った。どの程度の症状が出て、なにが過不足なく対応するかわからなかったからだ。
最初おれはおむつを履いて待機した。失禁はなかった。便意は頻繁にあるが、出ても固くて小さいものだった。おむつはもっと危険な状態になったときのために温存しておくか。そう思った。
そう思って、生理用ナプキンにしてみた。Amazonで買った、一番強そうなやつだ。女性用のものなので、男性用の下着、とくにトランクスには対応していないなと思った。
ただ、生理用ナプキンを使うLARSの人の話を聞いていたし、おむつほど大げさでもなく、便漏れパッドより大きい。ちょうどいいように思えた。おれは生まれて初めて生理用ナプキンを使った。それでも水様便には襲われなかった。
最後には……今は、一番小さい便漏れパッドを装着している。
「こんなに小さくて大丈夫なのだろうか」と心配になるようなものだ。
でも、ないよりはマシだろう。漏れたら漏れたで、漏れてみなければわからない。
そう、おれは漏らしていない。むしろ便秘になった。ただし頻便の便秘だ。この状態が二週間と少し続いている。
食べるものは食べていたが、やはり便が極度に柔らかくなることを恐れて、ストーマ時の低残滓メニューをつづけていた。
米、うどん、たまご、豆腐、サラダチキン。退院一週間後に、術後の経過を診るための通院予約が入っていた。そこで食べ物の話も聞こう。メニューを考えるのはそれからだ。そういうことにした。
しかしなんだ、入院時の自分は、退院一週間後に外出できるのか心配していた。そうとうに心配していた。前々日ぐらいから絶食すれば外出できるのだろうか、などと考えていた。
真剣に考えていた。
しかし、おれが実際のところお医者さんに言ったのは「軽い下剤を処方してくれませんか」だった。
下痢、便失禁を恐れていたのに、下剤をお願いする。妙な気分だ。
しかし、おれはこの病気になる前は、野菜中心の食生活をして、便秘とは無縁だった。なかなか起こらないLARS、逆に起こった未知の便秘。便秘の体験もなく、食べても出ないというのもなかなか怖いことだった。退院時に処方された下痢止めも飲まないでいたのだが、出ない……。
で、処方されたのが酸化マグネシウムだった。
これは、おれがずっと自分の病状を叩き込んでいるAIが予想していたものだった。浸透圧系の下剤が処方されるだろう、と。
まあ、それで、土曜日にこわごわと酸化マグネシウムを飲んでみた。そうしたら、すぐに、たくさん、やわらかめのものが出た。たまっていたものが全部出たのではないかというくらい出た。水様便でも下痢でもなかった。
しかし、あまりにも出たので少し怖くなった。飲むのは何日か一度にしようか、とも思った。が、土日の休みに毎食後飲んでも、そんなにお腹が変になることはなかった。むしろ、また軽い便秘に戻った。
というわけで、おれのLARS地獄テキストを期待していた人には悪いが、いまのおれは地獄にはいない。かといって天国でもない。
やはり直腸が存在しない。ためが効かない。急にMAXで便意がくる。何度もトイレに行くし、偽の便意にも惑わされる。ちょっとずつ出る。出たと思ってトイレから出たら、またいきなり来ることもある。頻便ではある。
ただ、幸いなことに、我慢がきく。ぐっとしめると、戻っていく。偽の場合は霧散する。おれはあまりこの手のことを書くのが得意ではないので、なにやら抽象的な表現になってしまうが、そんなところだ。
今のおれは、原理的にはLARSなのだろうが、典型的なLARSではない。便秘的LARSだ。
おれはLARSについてさんざん調べたときに、こんな状態があることはわからなかった。もちろん、自分がなるとも想像しようがなかった。あれだけ不幸を予測した文章を公開した手前、なにか裏切りのような気持ちも少しはあるが、現状、最悪ではないと書いておく。
LARSとはべつの、ストーマ閉鎖の手術痕が痛くてリモートワーク中心の日々を送っているが、出社して一日過ごすこともできた。
もちろん、たくさんトイレには行った。でも、「前もそのくらい行ってたような気がする」と言われた。自覚はあったが、おれは気分転換のために頻繁にトイレに行っていた。それと変わらないのか? まあ、今は「切迫」しているのだが。
まだ、「お出かけ」はできていない。でも、できる可能性はあるような気がする。我慢によって失禁を避けることはできるかもしれない。ただ、いきなり便意がMAXでくるので、怖いところはある。
あるというか、大きい。大きいし、そのような状況で「お出かけ」が楽しめるかというとあやしい。やはり頭の中が「トイレ」でいっぱいになってしまうというLARSの状況にある。
それでもなんだろう、今の主治医(がん切除してくれた執刀医とはべつの医師)は、頻便も「十回が五回、五回が三回になっていく人が多いので」とポジティブなことを言ってくれる。
できればそうあってほしい。ただ、大腸が復活するにつれて悪い方へ転ぶ可能性、おむつの出番がくる可能性もおれは想定している。ただ、今のところは、最悪じゃない。
身体障害者になってみたこと
さて、本題について書きたい。……と、思ったが、ずいぶんLARS報告に時間を取られてしまった。
まあ、そのLARS状態も含めた話だと思ってほしい。
おれは一時期、オストメイトだった。ストーマ、すなわち人工肛門造設者だ。
永久ストーマの人は、身体障害者に認定される。おれは一時だったので認定はされない。ただ、その先に閉鎖する予定があるかどうかというだけで、つける装具も、交換の手間も、その間は永久の人となにも変わらない。
なので、障害者認定とはべつに、各自治体から出るストーマ装具の補助金(月に一万円くらいかかる)は出てもいいんじゃないかと思ったが、それはなかった。
まあ、「骨折しただけで身体障害者認定されない」というようなコメントをどこかで読んで納得したが、そのようなものだろう。
とはいえ、たとえば足を単純な骨折(という言い方でいいのだろうか)した人が、一時的に松葉杖が必要だったり、車椅子が必要だったりした場合、それはやはり一時的に身体障害者になる、ということだろう。
関係ない話だが、おれがストーマ閉鎖で入院した病院は、べつに病状で病室が分けられているわけではないようで、同じ部屋に足を骨折した人が二人いた。
そして、漏れ聞こえてくる話によると、二人ともバイクで事故ったらしい。おれは原付という乗り物が好きだったが、バイクに乗るのはこわいなと思った。
まあいい、彼らも一時的に身体障害者になった。いや、ひょっとすると後遺障害によって身体障害者になる可能性もあるのだが。
そしてまあ、おれもオストメイトという一時的身体障害者になった。希少がん切除手術の退院後は、まさしく歩くリハビリが必要なほど衰弱していたので、その時期も障害があったと言えるかもしれない。
むろん、こんなことを書くと、本当に身体障害者の手帳を持っている人に怒られるかもしれない。
とはいえ、おれも精神障害の手帳持ちだ。いや、張り合うような話ではない。ただ、精神障害者のおれが、身体障害者にもなったのだなと思った。そこは薄目で認めてほしい。
一時的に身体障害者になる。それで見えてくる世界もあるはずだ。世の中がいかに心身の健常者のためにデザインされているのか、それが想像ではなく実感としてわかる。あるいは、健常者だったころカーブカット効果に助けられていたことを実感できる。そういう話だ。
……と、そういう話を一時的オストメイトだった自分が書いておこうと思ったのだ。
思ったのだが、正直に告白すると、おれは自分がオストメイトであるという状態が非常に辛く、ろくに外出もできず、仕事もリモートワークにして、ほとんど引きこもっていた。
だから、「オストメイト対応トイレに助けられた」という話一つない。
自宅以外で排出したことはあるが、「すごく狭くない個室であればできるな」というくらいの感想だ。
むろん、これはおれが中腰になれる身体の持ち主だということによる。
あと、外でパウチの交換をする必要に迫られることもなかった。だからおれは、オストメイト対応トイレについて語れない。
そしてまた、LARSという障害者に認められない病気になった今も、書いてきたとおり「とりあえず、そこまでひどくない」という理由と、これまた本格的な外出をしていないことから、まだ書けない。
しかしまあ、いずれにせよ、どちらについても、トイレは広めできれいで、街の中にたくさんあると助かるなあ、ということは言える。これは、健常者にとってもいえることだろう。
で、なんだろうか、昭和生まれの人間としていえるのは、「外のトイレ」がどんどんきれいになってきたなという実感があるということだ。
商業施設やらなんやら、ウォシュレット付きなんてのは標準的になっている、ような気すらする。昭和生まれの人、そうは思わないだろうか。
べつにこれはカーブカット効果ではない。ではないけれど、まあひょっとしたら、バリアフリートイレの整備といっしょにいろいろ更新されたのかもしれないし、都市の底上げみたいなものが起こったのかもしれない。
もちろん、トイレにしたって、なんにしたって、まだまだ足りないよ、障害者には厳しいよ、ということもあるに違いない。
残念ながら、今回おれは一時的な身体障害者になって、それを体感することはできなかった。せいぜい、退院後に歩けないとき、「もうちょっと歩行者信号は長くてもいいのでは」と思ったくらいだ。
だからなんだ、ちょっと今回おれにはできなかったが、障害者当事者はもちろん、一時的に障害を負った人も、その体験をどんどん流してほしいと思う。
おれも双極性障害の人間としてまともに朝起きて会社に行けないとか、今後はLARSの人間としてトイレについての困りごとについて発信していく。
もちろん、心身ともに健康な人間だって、困りごとはどんどん発信していくべきだ。なにか改善の種になるかもしれない。
ただ、このご時世、炎上の火種になる可能性もある。あるけれど、今日のところはその可能性についてはあまり考えないでほしい。
おれも都市のトイレについて書いていく。結局トイレのことばかり考えている。
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(2026/3/10更新)
【著者プロフィール】
黄金頭
横浜市中区在住、そして勤務の低賃金DTP労働者。『関内関外日記』というブログをいくらか長く書いている。
趣味は競馬、好きな球団はカープ。名前の由来はすばらしいサラブレッドから。
双極性障害II型。
ブログ:関内関外日記
Twitter:黄金頭
Photo by :Marco Bianchetti




