コンサルタント、という仕事は、初対面の、様々な人と話すことが必要な職業です。

しかし、不特定多数を相手にする接客業(例えばホテルや飲食店)が接客する相手を自由に選ぶことができないように、コンサルタントも大体において「話をしなければならない人」は、自分で選べません。

 

どんな嫌味な人であっても。

どんなに話を聞かない人でも。

どんなにワガママな人でも。

「その人に合わせた対応」を、その場で考えて行う必要があります。

 

しかし、私が個人的に苦手だったのは、上のような人々ではありませんでした。

正直なところ、話を聞かなかったり、ワガママであったりする人でも、「接し方」のコツさえわかってしまえば、対して困ることはありません。

 

それよりもずっと難しいのが「賢い人たち」と話すことです。

 

賢い人は、怖い

「本当に賢い人」に接したことはあるでしょうか。

 

別に「IQが高い」とか、「勉強ができる」とか、そういった話ではありません。

そういう人は、正直なところ、世の中に結構います。

 

では、最も希少で、最も「賢い人たち」は、どのような人たちか。

それは、人の心理を読むのことに、異常に長けた人たちです。

 

人の心理をコントロールして、大きな組織をつくります。

人々に支持される、それでいて独創性のある作品を作ります。

世の中で何が売れるのかを察することができます。

目の前の相手を安心させます。

つながりを作るのがうまく、強力な人的ネットワークを持っています。

 

そして、彼らの最も大きな特性として、

「こちらの考えていることは見透かされてしまうのに、相手の考えていることはわからない」

があります。

 

私は何度か、そういう人に出会いました。

例えば、こんなことがありました。

 

「管理職育成プログラム」の一環で、合計で10人ほどの管理職に対して、インタビューを行ったときのことです。

私は管理職たちに部署の課題や人事の悩みを聞き、あるいはその内容から、管理職としての適性を量る、といった任務を与えられていました。

 

インタビューは全員に対して、ほぼ同じ設問で行われます。

回答の内容のばらつきを抑え、比較をしやすくするためです。

 

私が怖いな、と思ったのは、5人目くらいの方だったと思います。

私が部署の課題について尋ね、目標の達成状況について聞き取りを行い、内容をメモして、

「何か質問はありますか?」と聞きました。

 

すると、その方はこう言いました。

「そうですね……、安達さんの仕事って、何をすることなの?」

 

私は答えました。

「貴社から頂いたテーマがこちらです」

そして、「管理職育成」プロジェクトの資料を見せました。

 

すると彼はこう言いました。

「うんうん、それは知ってます。でも、私の質問の回答にはなってないですよね?」

 

*

 

こういうインタビューでは、

「用心深く、ほとんど話をしてくれない人」

「こちらを敵視する人」

「俺は優秀だぞアピールをする人」

「見下してくる人」

「無関心な人」

というのは、数多くいます。

 

彼らはみんな、「自分」しか見えていない。

話し相手については、全く興味がないのです。

そして、そういう人の扱いは、簡単です。

彼らが望むような回答をすればいい。

 

しかし、賢い人の多くは、相手自体に興味をもち、探ろうとしています。

そして、「あなたと話す価値はあるの?」と、こっそりと、逆に値踏みしてくるのです。

しかも、表面的にはとても紳士的にふるまうので、腹の中が読めない。

 

上の彼が聞きたいのはありきたりの「プロジェクトの内容」ではありませんでした。

私がどのような人間で、どのような基準で仕事をしているのか、それを返答から知ろうとしていたのです。

 

具体的には、

・どんな管理職を「優秀だ」と思っているのか

・どんな行動を「良い」と思っているのか

といった、私の「個人的な考え方」に属するようなことです。

これは非常にこたえづらい。

 

当時の我々の考え方として、上のような話は、そもそもコンサルタントが決めるものではありませんでした。

・経営者がどう思うか?

・現状の評価基準がどうなっているか?

・一般的な評価基準に照らし合わせた時にどうか?

・他社ではどうか?

などの基準を総合的に加味して、最終的には、その会社自身が決めるものだとしていました。

我々の役割は、事実の収集と、その話の内容の報告です。

 

その話をしたところ、彼は言いました。

「でもさ、安達さんだって、いろいろ話を聞いて、「この人は優秀だなあ」とか、思うんでしょ?そっちのほうに興味があるんだけど。」

 

彼は背景を知りつつ、私にあえて、「個人的にはどう思う?」と、聞いたのでしょう。

 

ただ、私は、そのような場合に「リスク回避的な回答」をするように訓練されていましたので、

「それは、私が決めることではないと思います。」

と答えました。

 

彼はちょっと笑って

「ごめんね、安達さんと話したくてね。」

と言いました。

 

私は戦慄しました。

人当たりがいいのに「実はものすごく怖い人たち」」の気配を感じたからです。

話を続けるとおそらく、「彼の思い通りに話を引き出されてしまう」でしょう。

 

「隠し事」ができない

子供がいる人ならわかると思いますが、子供の隠し事は稚拙です。

言動や、様子から「何を隠しているか」は、親からすればすぐに読めてしまう。

 

おそらく、それと同じことです。

私が何を考えているか、彼には簡単に読めたことでしょう。

 

繰り返しますが、この「こっちからは相手が何を考えているかわからないが、相手からは簡単に読まれてしまう」

という状態が、「賢い人の怖さ」の正体です。

 

例えば、世界一の名探偵、といえば、シャーロック・ホームズの名前を思い浮かべる人も多いでしょう。

彼は助手のワトソンが考えていることを言い当て、驚かせます。

ホームズは黙り込んだまま、その細く長い身体を猫背にして、何時間も化学実験室に向かっていた。

何かひどくいやな臭いのするものを生成しているのだ――深々とうつむくその様が、私には、ひょろ長い怪鳥けちょうに見えた。くすんだ灰色の毛と、黒い鶏冠を持った怪鳥――

「だからワトソン――」とホームズが突然口を開く。「君は、南アフリカの証券への投資を思いとどまった。」
私は驚きのあまり身を震わせた。このホームズの不思議な力に慣れているとはいえ、どうして私の胸のうちの考えに潜り込めたのか、皆目見当がつかなかった。

「いったい、どうしてそのことを?」と、私は聞き返す。
ホームズは椅子をくるりと回し、手に試験管を持ったまま、その深くくぼんだ瞳を面白そうに輝かせるのであった。

「さあワトソン、ぐうの音も出まい」
「まったくだ。」

「では、この件について、君に証文を書いてもらわねば。」
「なぜかね?」

「五分後には、君はきっと『ひどく簡単な話だ』などと言うからだ。」

(踊る人形 青空文庫

 

このような人と同居するのは、普通の人であれば、さぞかしストレスでしょう。

なんでも見透かされてしまうのですから怖いです。

 

人の心を読み、人を動かす能力を「社会的知性」と呼びます。

(これは詳しく本にも書きました。)

 

この社会的知性が高い人は、一般的にとても仕事ができます。

他者が考えていることが、手に取るようにわかるので、当然です。

悪用すれば、人を操ることもできる。

 

それを知っていると、上の私のように

「この人にはすべて読まれてしまう」

という恐怖がわいてきます。

 

相手がたまたま良い人であればいいですが、そうでない場合は……。

発言には、くれぐれも用心せねばなりません。

 

 

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(2026/4/7更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

安達裕哉

生成AI活用支援のワークワンダースCEO(https://workwonders.jp)|元Deloitteのコンサルタント|オウンドメディア支援のティネクト代表(http://tinect.jp)|著書「頭のいい人が話す前に考えていること」92万部(https://amzn.to/49Tivyi)|

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◯note:(生成AI時代の「ライターとマーケティング」の、実践的教科書

〇まぐまぐ:実務で使える、生成AI導入の教科書

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