この記事で書きたいのは、大体以下のようなことです。
・昔の部下に、「他者への連絡・相談」が絡むタスクを必ず遅らせてしまう人がいました
・「叱られないか、どう反応されるかに対する不安」「相手の時間を奪ってしまうことへの罪悪感」「相談するタイミングの見極めが苦手」「過去の上司に対話を拒絶された経験」などが主な問題だったようです
・心理面とインフラ面の両方から、なんとか解決できないか、上司・同僚として色々試行錯誤しました
・しんざきのチーム内で一番効果があったのは「エスカレーションの単純化」と「エスカレーションルールの設定と周囲への共有」でした
・「部下のコミュニケーションコストをどう下げるか」というのはマネージャーにとって重要な仕事のひとつです
・一方、「連絡・相談が気軽にできる」というのが、ビジネスパーソンとして非常に強力なスキルになることも確かです
・特に4月からの新人の皆様には、「こまめな相談・連絡は何より自分を守るためのもの」「新人期間は、相談スキルを身につけるための無敵タイム」ということを覚えておいていただきたいです
以上です。よろしくお願いします。
さて、書きたいことは最初に全部書いてしまったので、後はざっくばらんにいきましょう。
何度か書いているんですが、しんざきはDBを中心に色々やるITエンジニアです。部下をマネジメントしつつ自分でもタスクをこなす、いわゆるプレイングマネージャーの立場で20年近く働いています。
とはいえ最近はDBというよりクラウド絡みの仕事ばっかりやってまして、
「えっ!?メインフレームで独自実装してたレガシーシステムをモダナイズしつつ四カ月でフルクラウドに!?」「できらあっ!!」
みたいな会話してるところに横から慌てて突っ込みを入れる仕事で主に生計を立てています。
ドキュメント皆無なのに大丈夫なのかな、あのシステム。
それはそうと。皆さん、「他人への連絡・相談」ってお得意でしょうか?
例えば、
ドキュメントの不明点についての確認。
スケジュール調整とミーティング設定。
他部署との利害調整と依頼前の頭出し。
単なる進捗の報告から資料のレビュー依頼まで、「人への連絡・相談」が絡むタスクというものは、仕事をしていれば山ほど発生します。
もちろん人によって、業種によって、タスクによって全然変わってくる話ではあるのですが、しんざきの経験上は、「連絡・相談」が絡むタスクの得意不得意って、人によってだいぶ違いがあるような気がしています。
かつ、(私も含め)どちらかというと連絡・相談に苦手意識、心理的障壁がある人の方が多いような気がしています。
報連相、「社会人の基本」みたいな顔してますけど、案外難易度高いスキルですよね。
そりゃ、「報連相してもただ聞き流すだけで、なんのフォローもしてくれない」なんてなったら連絡も相談もしたくなくなります。そりゃそうです。
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さて。
昔私がいた会社で、「連絡が絡むタスクが極端に苦手」という人がいました。仮に名前をAさんとします。当時3~4年目くらいだったでしょうか。
単にタスク遂行速度の話であれば、速い人も遅い人もいるのですが、Aさんの特徴的な点は、
「人との連絡や相談が絡むタスクと、そうでないタスクのスピードにものすごい落差がある」ことでした。
例えば定型の事務処理とか、ドキュメントの整理とか、独力で片付けられる仕事なら、Aさんは何の問題もなく、前倒し気味にどんどん仕事を進められるのです。
ただ、「誰かに連絡・相談しないといけない」というタスクについては、必ず後回しにしてしまい、大抵の場合期限から大幅に遅らせてしまうという傾向がありました。
特に、「自分が作った成果物のレビューを受ける」という段階になるとその傾向が顕著で、手元で抱えたまま何の報告もせず、気付いたら当初の予定から2週間遅延、なんてこともありました。
これ、管理側として、いくつか選択肢はあるんですよ。
もちろん、「単純に管理強度を上げて、細かい進捗まで逐一見る」という手段は、大変ですけどまあ、解決方法として成立します。
Aさんが明確に「ひとりで完結しないタスク」を苦手としているのは確かなので、「そういう仕事は可能な限り回さない」という選択肢も、もちろんあったでしょう。
ただ、「完全にひとりで完結するタスク」ってとても幅が狭いですし、定年間近な人ならまだしも、社会人としてまだまだこれからのAさんにとって、「できるタスクが超限定される」という状況も、その状況に慣れてしまうのもあまりよくないことです。
「連絡が苦手」という人の中には、成功体験を積むことで改善する人も、「コツさえつかめばできるようになる」という人もいます。
本人と話してみると、Aさん自身「ダメなのは分かっているんだけど、つい遅れてしまって……」という感じだったので、なんとかできないかなーと色々試行錯誤しました。
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Aさんと話したり、Aさんの仕事の傾向を観察していてちょっとずつわかったことなんですが、Aさんが「連絡・相談」タスクを遅らせてしまう理由には、大きく5つくらいがあるようでした。
1.叱られないか、どう反応されるかに対する不安
2.相手の時間を奪ってしまうことへの罪悪感
3.相談するタイミングの見極めが苦手
4.相談内容を言語化するのが苦手
5.相談しても状況が改善しないことによる学習性の無力感
1つめとして、何と言っても「叱られることを想像してしまう」こと。
2,3とも関連するんですが、とにかく「こんなこと言って怒られないかな、呆れられないかな」という恐怖や不安がとにかく大きいんですよね。
もちろん、叱られるのは誰にとってもイヤなことですが、Aさんの場合、後述の経験もあってか、特に「こんなことも分からないの?」的な反応を受けることに対する不安感、恐怖感が大きいようでした。
2つめと3つめは関連しているんですが、「相手の状況を見極めようとし過ぎてしまうこと」。
もちろん「相談」というのは、一時的には相手に時間をとってもらうことですし、忙しそうにしている人には話しかけにくいし、メールやチャットで時間を奪うのも申し訳ない。
そういう心理的な遠慮が働いてしまう点も大きいようでした。
あと、特にPC仕事だと「相手が何の作業をやってるのかよくわからん」という状況も頻繁にありますし、そこで「今相手にコンタクトをとるのは正解なのか?」という疑問が大きくなってしまうことが、Aさんの抱える問題の一つのようでした。
更に、「相談」って、しないまま時間が経てば経つほどしにくくなっていくものなんですよね。
「なんでいままで言わなかったの!?」とか、「こんなに時間かけてこの状態!?」とか言われるんじゃないか、という恐怖感がどんどん大きくなってしまう。「相談できなかった」ことが、そのまま不安を蓄積させていくわけです。
4点目、そもそも「何を相談すればいいんだ?」というのを言葉にするのが苦手。
まあ、これは仕方ないこともありまして、「分からないこと」「煮詰まっていないこと」は、相手に伝わるように言語化すること自体が一苦労でして、これを解決するには「慣れる」しかありません。ある程度ベテランの人でも、「分からない」を言葉にするのが苦手な人は全然います。
5点目として、私以前の上司のスタンスが問題になっている部分も大きいように見えました。
相談してみたものの、「そんなこと自分で判断しろ」と言われてしまう。あるいは、進捗遅れに対してフォローしてもらえない、他部署との調整をエスカレーションしてくれない。「相談」に対する失敗体験ですね。これが、1点目の「相談することに対する恐怖感」を助長しているように見えました。
この辺、単に「私はちゃんとやるから相談してくださいね」のひとことで済めば問題ないんですが、そこそこ根深い問題のような気がしたので、色々と対策を試行錯誤してみることにしました。
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大きく考えた方針は三点で、
・「連絡・相談に対する心理的負荷をなるべく減らして、相手の反応を警戒しなくて済むようにする」
・「連絡・相談自体を「ルール」として部署全体で共有して、他のメンバー含めて「相談するのが当然」という状況にする」
・「相談してうまくいった、という成功体験を積んでもらう」
この三つを実現できる方法を色々考えました。
当時はまだコロナ以前の話で、チャットソフトによる業務的なやり取りがまだそこまで一般的にはなっていなかったのですが、例えば「相談アリ/なし」というトリガーだけを伝えられるチャットルームを用意して、中身については私(上司)が自分から確認にいく、というシステムにしてみました。
これなら、相手が都合のいい時に見に来てくれるので、「相手の時間を奪ってしまう」という不安はだいぶ軽減されます。
また、「分からない」自体を言語化しなくても、ヒアリングでこちらから補助しつつ徐々に拾ってあげられるので、言語化の練習にもなるかなーと思いました。
また、相談や連絡について、エスカレーション自体にルールを設けました。「10分考えて結論が出なければエスカレーションする」とか、「自分一人で解決しないタスクについては、最初からチャットのメンバーに関連メンバーを入れておく」とか、そういうのです。
これ、「ルールとして全体に周知」というのが重要で、自分だけでなく相手も「ルール」として認識しているので、「連絡したら怒られる」という不安はかなり軽減されます。「だってルールだし」の精神です。
あとは、もちろん口頭でも色々話しました。
「相談っていうのは、何より自分を守るためのことですよ」とは、結構口酸っぱく言ったような記憶があります。
つまり、相談しないで自分一人で抱えてしまうと、それは自分の責任になってしまう。相談して、相手にも状況を周知しておくことで、相手にも責任を共有することができる。
上司なんて責任を押し付けるためにいるんだから、がりがり相談してもらって構いません、とかいった記憶があります。
「40%の出来でもってきてください」とも言いました。「完成形」までもっていくのって物凄く大変ですし、人に見せる時の心理的ハードルも上がるので、先に「30~40%」と指定してしまうことで、速いうちに方向性の修正をする練習ができないかなーと思いました。
コロナ後、リモートワークが主体になってからは、割と普通に行われることも多くなったような気はしますが、当時は「何が利くのかなー?」とあれこれ悩みながら色々やりました。
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色々やっているうちに、Aさんの状況についてはちょっとずつ改善していって、普通の連絡・相談タスクならほぼ遅れない、くらいにはなったように思います。
この時、Aさんの場合は「ルール化」の影響が一番大きかったようには思えまして、「もうルールとして決まっているならやるしかない、相手が怒ったとしても自分のせいじゃない」というように頭を切り替えることに成功したみたいです。
相談自体を「ナシ/あり」のスイッチだけにする、というのもそこそこ大きかったのか、とは思います。やっぱり「相談内容を言語化する」って大変ですしね。
この辺、何が刺さるかってのは人それぞれなので、単純に色々試したのが良かったんだと思うんですが、「気軽に相談できるインフラを整える」っていうのは、上司の重要な仕事の一つだよなーと考えた次第です。
上でも書きましたが、コロナ以降、リモートワークがメインになって、この辺の「連絡・相談」の事情もだいぶ変わりました。
連絡自体のコストはだいぶ下がっている一方、「相談しなければいけない点の言語化」についてのハードルはむしろ上がっているような気がします。
チャットソフトで、「何を相談しなければいけないか」というのを整理するのって多分滅茶苦茶大変で、そのためだけに生成AI使うのもナシではないと思うんですが、ここ最近でも手こずっている人は多くみられます。
自分の手が届く範囲ではなるべくフォロー・サポートしつつ、皆が気軽に相談できる環境が作れるといいなあ、と思っている次第なのです。
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ここから先は、私の話というより、この四月から新社会人になった皆様へのおっさんからの助言、という感じなのですが、
・「進んでない」とか「うまくいってない」というのは、一番言いにくいですが、上司にとって一番重要な情報です
・新人の内は進んでないっつっても大した影響が出ることはないので、遠慮なく「進んでません」と言える練習をしておいた方が良いです
・上司が相談しにくい人であれば、他に相談しやすい人をみつけておくのが良いです
・なによりも自分を守るために、気軽に軽率に「連絡・相談」していきましょう
以上になります。
とにかく、「連絡・相談」が苦手だと何が起きるかっていうと、「色んなことを抱え込みやすくなってしまうし、問題が大きくなるまで発覚しなくなってしまう」んですよね。
そこをなんとかするのは上司の仕事ではあるんですが、それでも上司の目が常に全体に行き届いているかっていうとそうでもないので、問題をなるべく小さいうちに人に投げられるに越したことはありません。
マネジメント上、一番困るのは「実は進んでませんでした」ということを知るのが遅くなることで、フォローのための手段がどんどん限定されていきます。
だからこそ、まだ芽が小さい内から気軽に「ごめんなさい進んでないです」と言えるのが良いですし、それが一番上司も助かります。
新人期間というのは、「どんな大失敗しても業務にクリティカルな影響を与えることは(普通は)ない」という、一種の無敵期間なので、この無敵タイムの間に、是非「気軽に相談できる」という社会人としての重要な強みを身につけていっていただければ、と考える次第なのです。
まあ、社会は広いので、中にはいきなり金融機関の結構重要な現場に配属されて、失敗したら即プロジェクトにでかめなダメージが発生する仕事を押し付けられる、みたいな例もあるみたいですが(私とか)。
そういう会社とは付き合い方自体を考えるべきなので、相談連絡自体の重要性が下がる話ではありません。気楽にいきましょう。
ということで、4月からの新人さんにもそうでない人にも、「気軽にエスカレーションしつつ楽しく働きましょう」という程度の結論をもって、この記事を閉じたいと考える次第なのです。よろしくお願いします。
今日書きたいことはそれくらいです。
【著者プロフィール】
著者名:しんざき
SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。
レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。
ブログ:不倒城




