私は怒っている。
何に怒っているのかというと、上司と人生の不条理に対してである。
まずは、先月寄稿したこちらの記事を読んでほしい。
「で、結局、どうなるんですか? 今回もマナミさんはお咎めなしなんですか?」
「経費の三重請求は、もし他の社員がやったら懲戒処分ですよ。あの人はミスばかりしてるのに、社長夫人だからという理由で毎回お咎めなしなのは、おかしくないですか?」
「ミスをしたのは自分なのに、自分がちゃんとできないのは社員の教え方が悪いと責任転嫁するなんて、人間性を疑います」
記事に書いたように、社長夫人であるマナミさんのせいで、会社の要であった社員が異動することになった。
本当はすぐにでも退職したいらしいが、「経理と総務を兼任している自分が、業務の引き継ぎと後任のフォローをしないままで辞めるとなると、途端に会社が立ち行かなくなってしまう。そんなことをすれば、これまで仲良くしていた同僚たちにも迷惑がかかる」との理由から、どうにか踏みとどまってくれているのだ。
彼女の責任感の強さに甘える形で、会社はどうにか日々の業務が回っているのだが、社長夫妻は
「彼女が辞めると言い出さないのは、例えどんなに不満があっても、結局はウチの会社の居心地が良いのだろう」
と、どこまでもズレたことを言っている。アホなのか。アホなんだろうな。
もちろん、会社は急いで求人を出した。
けれど、ただでさえ人材不足の田舎で「薄給で働いてくれる、経験豊かな、経理のベテラン」なんぞ市場に居るはずがない。
「できる人に来てもらおうと思ったら、知り合いを高給と高待遇で一本釣りするしかないですよ」
と私は進言していたが、現状認識の甘い経営陣は「いつも通り」の条件で求人を出した。
つまり、スキルと経験のあるベテランからすれば「こんな給料で働けるか、バーカ!」という舐め腐った条件なのである。
案の定、応募者のなかに実際に働けそうな人間は一人もいなかった。
事務は人気の職種なので応募はあるのだが、蓋を開けてみれば、
「経理の経験はありませんが、真面目なので適性はあると思います。派遣の仕事やパートで、入力の仕事なら、したことがあります」
という50代女性ばかりなのである。
応募者たちの経験は似通っており、若い頃(1990年代)に数年の会社勤めをし、退職後は空白期間がある。恐らく子育てに専念していたのだろう。
子育てが一段落してからは非正規の仕事を転々としており、主にサービス業や介護の仕事に従事している。
未経験にも関わらず応募してきた理由は、50代になって体力の衰えを強く感じ始めたからに違いない。
体を動かす仕事に疲れを感じるようになり、どんなに薄給だろうと、座ってできる仕事に転職できれば御の字なのだろう。
私も、前職では全くの未経験から独学で会計の勉強をして経理業務もこなしたので、「未経験者には無理」とあしらうつもりはないが、いかんせん、こちらには若くない新人の教育にリソースを割く余裕がない。
「本当は、すぐにでも会社を辞めたいと思ってます」と言っている経理担当者に、「時間がかかると思うけど、後任はゼロベースなので、一から丁寧に教育と指導をしてください」とお願いすることもできない。「いいかげんにしろ」とキレられるに決まっている。
結局、私に白羽の矢が立った。
ベテランとは言えないが、最低限の知識と経験があるからだ。
やりたくはないが、やらざるをえん。
承諾する代わりに給料を引き上げてもらったが、釈然としないのはマナミさんの態度である。
「あの人(経理担当者)は不親切で、私とは相性が悪かったし、いつかこうなったと思う。仕事ってチームワークが大事でしょ。お互いにサポート精神が必要じゃない?」
サポートされてばかりでお荷物になってる側が言っていいセリフじゃねぇぞ。
「あなたが担当してた仕事は、私が引き継ぐから大丈夫よ」
で? 「迷惑かけてごめんなさい」も「引き受けてくれてありがとう」もナシですか?
当初は、1日に3回くらい背中に蹴りを入れたくなったが、もはや憤ることも虚しくなった。
彼女には、本質的な知性がないのだ。知性がないから、周りの言うことも、自分の立ち位置も理解できないのだ。
知性とは畢竟、己に対しても客観的な視点を持てることではないだろうか。
冷徹な観察眼を自分自身にも向けるのは、辛いことだ。
もしも友人にバカしかいないのであれば、自分もまた同レベルのバカだということだし、パートナーが大した人間でないということは、自分も大した人間ではないことを自覚しなければならない。
レベルが釣り合っているから、付き合っているのだから。
現実とはいつだって情け容赦がない。
けれど、現実を受け止める勇気がなければ、自分の立ち位置は永遠に分からない。
自分の立ち位置を正しく把握できなければ、人としての成長も見込めないのだ。
他者に認めてもらえるだけの能力がないのに、プライドだけはエベレスト並に高いマナミさんのために、私は毎日「クソが!」と毒づきながら猛烈に働いている。
「ユキさんの仕事をマナミさんが引き継ぐの? 無理でしょ?」
と同僚たちは口を揃えるし、私も無理だと思っているが、それでもやらざるをえんのだ。
無理なことを可能にするために、私はこれまで担当していた業務を全て細かいタスクに切り分けて、暗黙知を片っ端から言語化し、マニュアルに落とし込み、テンプレートを作っている。
それまではマニュアルが存在せず、個人の能力に依存していた業務を「どんなアホでもできる」ところまで持っていかないと、事態が前へと進まないためだ。
それと並行しながら、睡眠時間を削って会計・経理・簿記の学び直しもしているのでフラフラである。
全て猛烈に怒っているからできている。全身にみなぎる怒りを機動力に変え、力技で目の前の課題を薙ぎ倒しているのだ。
思えば、いつだって私の原動力は「怒り」であり、怒っている時ほど高いパフォーマンスを発揮する。
前職でもそうだった。ブチ切れている間に、気がついたら問題を全て解決してしまっていた。
ブログや寄稿記事にしても、怒りに任せて書いたものほどよく読まれる。
闘争が私のアイデンティティーなのかもしれない。
夫に愚痴をこぼすと、呆れたように笑われた。
「ブログ書いてた頃から、あなたはずっと怒ってるし、闘ってるよね」
まったくだ。
書いて闘うことに疲れて、勤めに出たら、騙されて死にかけの商店街組合の立て直しをさせられた。ようやく片付いたと思って転職したら、今度は「プロ被害者」かつ「無能ハラスメント」の上司が待っていた。
再び修羅場に身を投じることになり、「元の木阿弥」感がすごい。
「我が闘争だわ」と自分で言って、笑ってしまった。笑うしかない。人生は不条理だ。
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(2026/4/7更新)
【著者プロフィール】
マダムユキ
ブロガー&ライター。
リンク:https://note.com/flat9_yuki
TwitterAmel Majanovic




