知人が転職活動をしていた。
彼はもうそろそろ40歳、今在籍している会社はそれなりの大手である。仕事はまあまあできる方で、人当たりは良い。
だが、転職活動はあまりうまくいっていない、と彼はいう。
「なぜ?」
と聞くと、彼は言った。
「要するに、待遇が合わないんだよ。こちらが求める給料と、向こうが提示する給料が、200万円以上ちがう。」
彼は自分という人物が安く見られている、ということに不満を漏らす。
「実績もある、経歴もきれいだとおもう。でも転職先はない。どういうことなんだろうな。やっぱり年齢の壁はあるんだな。」
「そうだね。」
私は相槌を打ったが、正直にいうと状況がよくわからないので、意見をいうことは控えた。よくわからないことに意見をしても、大抵は相手を怒らせるだけである。
そこで、彼がどのような状況に置かれているのか、少し聴いてみよう、と思った。
「面接って、どんなことを聞かれる?」
「……あまり良く憶えてないけど、今まで何をやってきたか、とか、うちの会社に応募した理由は、とか。まあどこでも聞かれるような話が多いな。」
「ふーん。そうか。」
「……あ、でもよく聞かれるのは、「なんでこの歳になって転職しようと思ったのか」だね。」
そう。彼は40歳近くになって、初めて転職をしようとしているのだ。
転職を繰り返す人を「ジョブホッパー」と言うらしいが、彼はその真逆である。
「経歴は悪くないよな。オレ。なのに意地悪い会社もあってさ、「この歳になって転職を考えるなんて、よほどの理由ですよね。」だってよ。」
「なんて答えてる?」
「今いる会社の業績が悪くて、これ以上今の会社にいる不安だ、って言ってる。普通に現実的な理由だよ。まあ、給料が下がりそうだから、とは言わないけどね。」
少し考えてみる。
自分がもし採用担当者だったとして、
「40まで一度も転職をしたことのない、将来を不安に思う人」と
「40までに2,3回転職をしていて、新しいチャレンジを求める人」
どちらを採用するだろうか?
なかなか難しい。ただ、スキルや人物の良さが同程度であったら、後者を採用する会社のほうが多いのではないか。
40になって保守的に考える人が欲しい、という会社は多くはないし、「他社への適応」という面で、初回の転職者には不安がある。
そこで彼に
「転職回数が少ないことが、逆に不利になってる、ってことはないかな。」
と聴いてみた。すると、彼は言った。
「それ、他でも言われたよ。「15年以上もなぜ転職を考えなかったのですか。外の世界を見ようとは思わなかったのですか。」って聞かれて「仕事が面白かったから、特に気にならなかった。」と答えたら、「初回の転職というのが気になる」って言われた。」
つまり、こういうことだ。
彼は15年以上一つの会社に勤め、それなりに研鑽を積んだ。
だが会社の業績が悪くなり、転職を考えよう、としたところ、今度は「転職経験の少なさ」ともう一つ、「チャレンジ精神のなさ」を指摘され、行き場が無い、という状態だ。
————–
常々思うのだが、現在はも大手といえど、業績がどうなるか全く読めない時代だ。
だから、勤め上げる事を前提としている人は、長い職業人生の何処かで必ず「業績が悪くなって、給料が下がる日」がやってくる。
そしてそれは多くの場合、20代、30代の中盤ではない。給料を下げるのはもちろん「給料が高めの中高年」だ。若い人は安い給料でよく働いてくれるのに対して、中高年は「コスパが悪い」のだ。
誰だってコスパが悪い店には行かない。同じく、会社もコスパが悪い人は使わない。
もちろん、40歳でそれを受けいれることができれば「大手で勤め上げる」のも悪くない選択かもしれない。
だが「右肩上がりを維持したい」という人は、20代、30代から戦略的に動く必要がある。
自分のオリジナリティを見極め、会社が変わっても自分の価値を維持できるようにキャリアを設計する。
単純なことだが、40になってから設計するのでは、些か遅いのだ。
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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)
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