早い人はそろそろ就職活動の準備をしているだろう。自分の望む職に就くために、早々と準備をする学生は少なくない。先日会った学生も、そんな学生の一人だった。
彼は情報交換のため、と言っていたが、私も採用活動を行なっているので、現在の学生の方々の状況が気になる。
彼は会うとすぐに「質問があるんですが……」と切り出した。
「アルバイト経験って、企業の面接官はどのくらい重視してますか?」
なかなか難しい質問だ。「場合に依る」と言いたいところだが、それでは相手の本当に聞きたいことの回答にはならないだろう。
「一般的な回答でない、例えば私の個人的な感想でもいいですか?」
と聞く。同意が得られたので私は正直に答えた。
「率直に言うと、面接においてアルバイト経験で面白い話が聞けたことが非常に少なかったので、私はあまり重視していません。」
と答える。
学生は「そうですよね」と頷く。「アルバイト程度で、アピールになるって考えるのは、甘いですよね。」
「甘い、というよりも「コンビニのアルバイトのリーダー」とか「家庭教師」とかの話がありふれているので、差別化できない、というだけです。」
「つまり、皆同じような話をする、ってことでしょうか。」
「そう思います。」
「裏を返せば、皆とちがう話ができれば、自己アピールになるということでよろしいですね?」
「それはそうですが……。」
学生は改まって話を始めた。
「私、累計で30個程度アルバイトをしてきました。」
「多いですね。」
「家が裕福ではないので……とにかくお金が欲しかったので、結構色々やったんですが……でも「アルバイトはやらない方が良い」という結論に至りました。」
「30もやったのに?」
「そうです。もっと早く気づけばよかったです(笑)」
「なぜですか?」
「単純に、拘束時間の割りには得られるものが少ないなと。金銭面もありますが、覚えることがあったりするのは最初の1ヶ月くらいだけ、創意工夫も求められない。マニュアル通り、人の言うなりにやるだけと感じました。つまり、アルバイトをするくらいなら、図書館に行って、本を読んだり、勉強しているほうが時間の使い方として絶対にいいと感じました。」
「30もやる前に気づかなかったのですか?(笑)」
「改めて、就職活動を始めるにあたって、アルバイトで何が得られたか?を振り返ってたんですよ。」
「そうなんですね。」
「はい、でも今はカネがなくても遊べる方法を考えるか、本当にお金が必要なら、勉強しながら金を稼げる方法を考えないとダメだと思っています。」
「接客などは勉強になりませんでしたか?」
「接客ですか?そんなの働き出せば1ヵ月で憶えられますし、大抵の人はすぐにそつなくやれるでしょう。「お客様とのふれあいが大事だと思いました」なんてテンプレのセリフは、面接官の方は聞きたくないですよね。」
「……ま、そりゃそうですが。」
「あと、一番の問題として、コンビニとか、居酒屋とか、引っ越しとかをやって、正直言うと「働くのが大嫌い」になりました。いつも同じことをやるのは、本当に退屈でした。振り返ると、自分を歯車の一部と考えて、時間が早く過ぎるように「考えずに、忙しくしている」ことが一番重要だったな、と思います。」
「……なるほど。」
「で、この話を友達にすると言われるんですよ。「つまらない仕事をガマンしてやるから、金がもらえるんだろう」って。大学の就活アドバイザーからは「その話は就活でしないほうがいい」って言われました。「面接官の機嫌を損ねるから」って。そんなもんなんですかね。」
私は思案した。どうだろうか……。
「「つらいことをするから、お金がもらえる」と思っている人は、確かに多いと思います。だから、そういう人が面接官の会社では、採用してもらえないでしょうね。「辛くても我慢できないとダメだ」と言われそうです。」
学生は笑って言う。
「それなら、むしろ望むところです。というか、アルバイトってほとんどどれも、仕事の一番面白くない部分を切り出して、安く人にやらせているような気がするんです。それって、仕事に対するネガティブなイメージが付くだけなので、「アルバイトはやらない方が良い」という結論に至ったんですが……。これって、自己アピールになりますかね?」
ニヤリとさせてくれる、なかなか面白い学生だ、私は聞いてみた。
「で、どんな仕事に就きたいんですか。」
「他人の作った仕事をこなすだけの人は、一生仕事嫌いのワーカーで終わりますよね。逆に、自分が仕事を創意工夫できる余地が大きければ、すごく楽しいと思うんです。あと「嫌な人が多いな」と思った会社には行きたくないです。」
私は学生に言った。
「ウチが新卒採用をやっていたら、アピールは成功です。面白い話だった。他ではどうだかわからないけど。」
学生と別れた後、思った。
「アルバイトも良い経験になるんだな」と。彼がアルバイトを勧めないのは皮肉なことだが。
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【著者プロフィール】
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