「仕事するって、どんな感じですか?」と、先日学生に聞かれた。一言ではなかなか言いづらいのだが、確かに「テンプレ」のようなものがあるだろう。
もちろん各論は人それぞれで異なる。一つの参考情報と思って、ある「一般的なサラリーマン」のたどる道を見ていただければと思う。
1.就職活動(21~22歳)
ボクは特に学歴が良いわけでもなかったが、なんとか準大手の会社に就職することが出来た。
就職活動は苦労したが、サークル活動のアピールが功を奏したのか、アルバイトの経験が良かったのか、面接官と話が盛り上がり、内定をもらうことができた。
両親も喜んでくれたし、周りの友達にも「それなりの会社に就職した」ということで自慢できる。人生は順風満帆だ。
2.入社(22歳)
入社式には30人以上の新入社員が集まってきた。皆気の合う仲間で、コミュニケーション能力の高い人達ばかりだ。優秀な仲間たちに負けないように頑張らないといけない。
入社式の社長の話は「変わらないといけない」「グローバル化」という言葉が連呼されていた。意味はよくわからなかったが、うちの会社も海外との競争で大変だそうだ。
2ヶ月の新人研修の後に配属が決定されるとのこと。早くも同期の中で「どこに配属されるのか」という話が盛り上がる。
自分は「マーケティング」か「人事」が良いと思っているが、噂によると同期の中でそこに配属されるのは2~3名とのこと。「東大出身でなければダメ」との噂もある。まあ、ボクには無理かな。
3.新人(22歳~25歳)
ボクは予想通り・・・、というか同期のほとんどの人間がそうなのだが、「営業」に配属された
うちの会社の新人の半数は工場、半数は営業に配属される。やっぱり営業か・・・と思いつつ、ボクは横浜営業所に勤めることになった。新人研修で同じ班のやつが人事に配属になっていたが、今頃何をやっているんだろう?
最初の半年は先輩と一緒に客先まわりをした。先輩は「早く仕事を覚えて、1人でお客さんのところにいけなきゃダメだ」という。でもお客さんと先輩の話は専門用語が多すぎてよくわからない。
「メモを取れ、本を読め」と言われるので、素直にやっておく。
そういえば、同期の1周年飲み会がこの前開催された。みんな頑張っているみたいだけど、もう何人か会社を辞めたらしい。
あんなに張り切っていた奴がヤメるなんて・・・。わからないものだ。噂では外資系のコンサルティング会社に就職したらしい。なんか負けた気分だが、他の人のことを気にしてもしょうがない。別にこの会社に不満もないし。
4.若手(25歳~30歳)
お客さんの対応もひと通り憶えて、仕事が楽しい。この前は初めて営業所の中で月間成績のMVPをとった。
営業所長からは「期待していたとおりだ」なんて言われたけど、昔「オマエには営業の才能がない」と言っていたことは覚えている。全く調子いいな。
そういえばお世話になった先輩がついこの前会社を辞めた。なんでもITのベンチャーに転職したとのこと。あんなにできる人だったのに・・・。残念だ。
お陰で自分の仕事に後輩の指導という仕事が追加された。後輩の指導なんて、よくやりかたわからないよ。とりあえず自分がしてもらったみたいに、一緒にお客さんのところに連れて行けばいいのだろうか。
会社も新製品がかなり売れて調子がいい。この前ワールド・ビジネス・サテライトでうちの会社の商品が紹介されていた。両親から連絡があって知ったのだが、喜んでいた。親孝行しているな、と自覚。
人事からメールが回ってきて、今年は新人を一気に120名採用するそうだ。新人の面倒を見るのもカンタンじゃないのに、そんなに採用して大丈夫なんだろうか?まあ、確かにどの部門も人が足りないって言っているし、こんなものなのかもしれない。
5.中堅(30歳~40歳)
最近商品の売れ行きが良くない。「課長補佐」になって数年経つけど、目立った成績を上げることが出来ていない。いや、多分全社的に調子が悪いのだ。
この半期はほとんどの部門で今年は「目標未達」だった。これって、目標が良くないんじゃないか?無理だろあの数字。
去年はついに売上高が前年割れした初めての年だったが、役員も何人か責任を取らされてクビになったらしい。新人時代の上司だった横浜の営業所長もこの前ついに関連会社に「出向」になった。多分戻ってこれないだろうな。
そしてボクも「転勤」の辞令が来て九州の熊本に行くことになった。なぜ熊本?と思ったが、九州の大きなお客さんに人を沢山配置するためらしい。せっかく去年家を買ったのに・・・。単身赴任かな、これは。
そして、この前の営業会議で問題になったのが、「新人の離職率の高さ」だった。入って2年も経たずに3分の1の新人が辞めていくとのこと。
対策として課長補佐以上は全員「マネジメント研修」を受けなければいけないことになった。こないだ受けてきたが、酷いものだった。ひたすら「部下の話を聞け」だと。そんなことわかってるよ。部下が自分と話そうとしないだけだ。
明日は半期に一度の「決起大会」だ。多分「営業改革」というテーマでいろいろな話があるんだろうな。
まあ、実際に今売れない理由は「営業」じゃなくて「商品」が原因だから、毎度のことながらムダな話のオンパレードだろう。会議なんかやっているヒマがあったら、お客さんのところにいけばいいのに。
ボクも転職を考えたほうがいいんだろうか?この前の同期会はついに人数が50人程度になった。みんな会社を去っていったとのこと。
6.ベテラン(40歳~45歳)
会社の業績が安定してきた。といっても、落ち込みが止まっただけで伸びてはいないんだけど。リストラの成果が出たんだろうか。でも、安定しているのはいいことだ。
以前に比べて目標達成へのプレッシャーはとても減った。その代わりに以前みたいに「ギラギラした人」はみんないなくなってしまった。
でも、そういう人は伸びている会社に行けばいいんだ。辞める人も少なくなったから、新卒の採用数も20名程度になった。これくらいがちょうどいいよね。
ボクは家庭が大事だし、単身赴任から戻ってやっぱり家族と一緒にいることがとても大事だと再認識した。だから、今の会社でゆっくりとやっていくのがやっぱり性に合っていると思う。
人事評価もついこの前に見直しが入った。どちらからというと年功序列的な制度に切り替わったんだ。
以前は成果の割合が大きかったけど、不正があったみたいだし、やっぱりお金目当ての人もいたみたいだから。昔みたいにボーナスがドカンと出ることはないけど、成果が悪くてもよくてもそれ程額が大きく変わらないのは良いね。ローンの返済額はボーナスの額と関係ないからね。
そういえば、ついこの前、ついに課長になることが出来ました。
まあ課長と言ってもやることは殆ど変わらないんだけどね。下の人の面倒を見て、お客さんの要望に対応して。
それでも、長く勤続したことを認められての昇進は嬉しい。今の社長になってから人事も変わったし、人も変わった。でも、地道に仕事をしている人が評価されるようになったのはやっぱりいいことだと思う。
高校の同期とクラス会が先週あったけど、「成功したやつ」と「うまくいってない奴」の差がはっきりしてきたなあ。ボクはどっちでもないけど。
一番成功していた奴は不動産の会社を3つほど経営しているらしい。あとは親の会社を継いだやつが数名。羽振りが良かったな。
7.管理職(45歳~50歳)
課長としてのボクの一日は次の通り。8時45分に出勤。9時から10分ほど朝礼があり、そこで部長の話を聞いてからボクが少し営業マンに激励をする。
今日の午前中は営業会議だ。
営業会議の議事は四半期の成績報告と、「単価を上げるにはどうしたら良いか」だった。結論はお決まりの「営業マンの力量をあげる」ことと、「顧客への対応のスピードを上げる」という、10年前からやっている施策だ。
まあ、成果が出ていないわけじゃないけど、他にいいアイデアもないからね。
部長からは「任せる」と言われているけど、部長は一体何の仕事をしているんだろ?社長とゴルフかな?最近日中はほとんど会社にいないから、全然行動がわからない。
まあどうでもいいけど。
午後からは客先を周ることにしている。今日の一軒目は部下から依頼があったお客さんで、「上司を呼べ」とのこと。まあおきまりのクレームだろうが、対処する方法は心得ている。大体の場合納期遅れと部下の対応に怒ってのクレームだ。
このお客さんは仕様変更をギリギリというか間に合わない段階になってから言ってくるから、納期が遅れるのは当たり前だ。
担当の部下も「もう変更できません」とは強く言えないだろうから、だいたい自分が出て行って収めることになる。向こうの担当者も自分の責任を回避して、こっちに押し付けたいんだろう。気持ちはわかるので、次の発注をもらうために少しだけ値引きすることにする。
まあ、こんなギリギリの仕様変更に対応する会社なんてうちしか無いだろうから、他社に流れることはないだろうが。
客先を3件回って帰社する。最初のクレーム以外は楽なもんだった。もう4時過ぎだ。帰ってきた部下を労わなくては。まあクレームをもらったアイツだけは他のやつの手前、少し絞っておくか。
叱ったらアイツ、すごいむくれていたな。こっちの言い方が悪かったのだろうか?やんわりと言ったつもりだったが・・・。
まあ、やる気のないやつには何を言ってもムダだからな。あとはアイツの問題だろう。さて、もう7時近い。帰るとするか。
8.役職定年(50歳~55歳)
ボクは部長にはなれそうにない。会社に30年前にはいった時にはノリで「社長を目指す」なんてことも言ったことがあったが、適任は他にいるだろう。
それよりも再来年は課長の役職定年だ。「後輩にたすきを渡す」というのが名目だが、要は「年寄りはいらない」ということなのだろう。
やれやれ、まあヒラ社員ではなく、課長まで言ったのだから良しとするか。給料も今の半分くらいになるそうだが、もうローンもほとんど返したし、子どもたちも国立大学に入ってくれそうだ。特にお金がかかることもないだろう。これまでと同じようにのんびりやらせてもらうだけだ。
結局同期も残り10人程度になってしまったな。1人だけ出世して役員になった奴がいたが、後は皆同じようなもんだ。やっぱり口のうまい奴が出世するもんなんだな、としみじみ思う。
この前同期と飲みに行った時、「役職定年」の是非についてアイツ、熱く語ってたな。むかしは「老害」なんて言っていたくせに。自分の話となると特別らしい。制度なんだからしょうがないじゃないか。ジタバタするだけ疲れるだけだよ。
でも、自分も役職定年を迎えてヒラになった時、何をすればいいんだろう?新しく何か趣味を見つけてみようか。自転車とかもいいかもしれない。最近人間ドックで運動不足だと指摘されたし。
9.定年(55歳~60歳)
うちの会社は60歳が定年だ。希望すれば嘱託として65歳まで勤めることができるが、もういいだろう。ボクは60歳で仕事をやめることにする。
幸い家庭を大事にしていたおかげで、妻との関係も良好だし、子どもたちも無事に大学を卒業して就職してくれた。
子供の就職先を教えてもらったが、私は全く知らない会社だった。時代は変わったのだろう。
私が自分の会社に就職したときは皆「とにかく大企業」と言っていたし、私も当然そう思っていたが、今の時代はそうではないのかもしれない。
子供からは「父さんの仕事は面白くなさそう」とハッキリ言われてちょっと傷ついたが、定年のお祝いは嬉しかった。会社からも見送ってもらったが、会社なんてやめてしまえば冷たいものだ。かつての同期と何回か連絡をとったが、その後は特に何もない。
若い頃は「定年」なんて遠い未来に感じたが、こうしてここまで来てみるとあっという間だ。友達にはまだ働いている奴もいるが、大半は引退して「孫が楽しみ」などと言っている。
会社とは何だったのか。仕事とは何だったのか。
残された時間はあと20年ほどだ。長い年月に感じるが、実際はあっという間なのだろう。いままで会社に仕える身であり、「会社にこき使われている」と感じていたが、実際は「毎日やることがある」と言うのは気楽なもんだ。
第二の人生、退職金もわずかながらあるし、なにか世の中の役に立つことでもやってみようか。
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。

<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第6回 地方創生×事業再生
再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは【ご視聴方法】
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当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。
【今回のトーク概要】
- 0. オープニング(5分)
自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」 - 1. 事業再生の現場から(20分)
保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例 - 2. 地方創生と事業再生(10分)
再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む - 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説 - 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論 - 5. 経営企画の三原則(5分)
数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する - 6. まとめ(5分)
経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”
【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)
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※この記事は2013年12月16日の或会社員の半生(Part1, Part2)を現状に合わせてリライトしました。