かつて私は職場で、「無能は自己責任」という発言をよく聞いた。
例えば、下のような発言もオブラートに包まれてはいるが、「無能は自己責任」と同じ意味である。
「成長は本人の努力次第」
「結局はやる気でしょ」
「才能ないやつはなにやってもダメ」
上の発言は、率直に言えばほぼ正しい。(と思う時も多い)
正しいが、だからこそ「自己責任でしょ」という言葉を安易に使ってはいけない。
なぜか。
それの理由は仲の良かった、ある経営者とのやり取りにある。
仕事の合間に、共に昼食を食べに行った時、彼は何気なく言った。
「どうも、うちのマネジャーたちが、部下の育成を軽んじているようにみえるんだよね。」
「そうですか?たしかにドライな人が多い気はしますが……なぜそう思われたのですか?」
「最近、すぐに「自己責任」と発言する社員が目立つから……かな。」
「自己責任……?」
「そう。「自己責任」という言葉はね、安易につかっちゃいけない言葉なんですよ。」
「結構つかってましたw」
「ダメだって。「自己責任」って言うワードは、単なる逃げ。特にマネジャーが部下に「自己責任」というのはタブー。」
「……もう少し詳しく教えていただけないでしょうか。」
その経営者は座り直して、語り始めた。
「そもそも。自己責任なるものは存在しているのか、と問われたらどう思う?」
「哲学的問いですね。」
「いや、本質だよ。人が生きるにあたって「完全にその人の責任」というものは存在しないんじゃないか、と私は思っているんだよ。貧乏も、仕事ができないのも、100%その人の責任なのか、と言われて、そうだとは断言できないだろう?」
「まあ、そうです。」
「そもそも、生まれてきたのは本人の意思とは無関係だから。」
「極端ですねw」
「だから、「自己責任なんだから、オレは知らない」っていうのは、要するに「オレは知らない」ってこと。」
私は、できない部下のことを思いうかべると、その発言には納得がいかなかった。
「いやいや、言いたいことはわかりますけど、でも全然努力しない人の評価が低いのは「自己責任」と言えませんか?」
「言えない。というより、「言ってはいけない」だな。」
「なぜですか?」
「「無能が誰の責任か」なんて、どうでもいい話なんだから。」
「……」
「無能なやつを鍛えるのが面倒なら、オレはあいつの面倒を見きれない、一緒に働きたくない、って言えばいいじゃない。ワガママだけど、そのほうがまだわかる。「自己責任」とか言って、ごまかすなと。」
私は自分が批判されているように感じたので、反論したかった。
「なるほど。でも「自己責任」と言ってはいけないとなると、「どんなやる気のないやつも、手をかけて育てなきゃいけない」ということになるのではないでしょうか?」
「いやいや、そこはつながらないよ。」
「なぜですか?」
「会社は「鍛えたら役に立ちそうなら救う」し、「どうやっても役に立たなさそうなら切る」だけ。そして「切る」人数が少ないほうが良いマネジャー、ってだけ。」
「……」
「だから「それは自己責任」って安易に言うマネジャーは、「そもそも、お前ちゃんと教えてすらいないじゃん。彼らが学ぶように工夫してみろよ。それお前の仕事だろ。」っていうツッコミをしたくなるね。」
私は最後に聴いた。
「無能が「自己責任ではない」ならば、我々は彼らを救う義務があるのでしょうか。」
「義務なんかないよ。無能と関わりたくないなら、無視すればいい。人を切りたいやつは切ればいい。でも、人を無視したり切ったりするよりも、人を救う人の方に、富と人が集うのは当然だとは思うけど。」
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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)
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