あるところに、チームリーダーがいた。Aさんとしよう。

実に頭がよく、誠実な人柄で、部下の話によく耳を傾け、嘘をつかず、困っている部下にはよく手を貸した。そして「間違ったこと」は決して言わなかった。

Aさんの部下からの評価は「いい人」であった。彼と働いていて不快になる人物はまずいないのだ。彼は柔らかな物腰と、人に意見を押し付けないという評判で、どの部下からも嫌われることはなかった。

だが、Aさんは、4,5人を束ねるチームリーダーを勤めたが、その後昇進することはなかった。「Aさんについていきたい」と言われることがなかったからだ。

40を過ぎると、異動で子会社に飛ばされ、そのまま一社員として定年を迎えた。

 

Aさんの同期で同時期にチームリーダーになった人物がいた。Oさんとする。

Oさんは主張が強く、部下から「話を聞かない上司」と思われることも度々あった。

また、彼の言うことを聞かず、仕事でミスをした人間を厳罰にするなど、容赦のない一面を時折見せた。しかもOさんはよく間違えた。彼は間違えるたびに、部下を頼った。部下はよく働かされた。

 

Oさんの部下からの評価は多くは「話は面白いが、怖い人」であった。そして、社内の彼に関する評価は、賛否両論だった。「アイツは血も涙もない男だ」と、批判されることもあったがOさんは意にも介さなかった。

だが、Oさんは、チームリーダーを務めた後、10人、20人を束ねるグループのリーダーに抜擢される。一部の社員から、強力な推薦があったためだ。

なにより「Oさんのもとで働きたい」という社員が少なからずいた。

 

Oさんは40代半ばになると、ついに100名を束ねる部長まで昇進した。強烈な性格をもつOさんには敵も多い。

だが、Oさんを慕ってくる若手も多く、彼は有能な部下に事欠かなかったのである。

 

——————

 

AさんとOさんはこうして、随分と異なった会社員人生を送ることになったのだが、このちがいの本質はどこにあるのだろうか。

 

端的に言えば、Aさんはリーダーではない。彼は人から嫌われないが、リーダーシップを発揮してはいない。

対してOさんはリーダーである。彼は敵を作りつつも、彼はリーダーの名に相応しい行動を取っている。

 

ピーター・ドラッカーは、リーダーについて次のように語る。

リーダーが真の信奉者を持つか、日和見的な取り巻きを持つにすぎないかも、自らの行為によって範を示しつつ、いくつかの基本的な基準を守り抜けるか、捨てるかによってきまる。(中略)

優れたリーダーは、常に厳しい。
ことがうまくいかないとき、そして何ごとも大体においてうまくいかないものだが、その失敗を人のせいにしない。(中略)

真のリーダーは、他のだれでもなく、自らが最終的に責任を負うべきことを知っているがゆえに、部下を恐れない。(中略)そもそもリーダーに関する唯一の定義は、付き従う物がいるということである。

信頼するということは、必ずしもリーダーを好きになることではない。常に同意できるということでもない。リーダーの言うことが真意であると確信を持てることである。(中略)

もう一つ、古くから明らかになっていることとして、リーダーシップは賢さに支えられるものではない。一貫性に支えられるものである。*1

 

———-

 

Oさんは首尾一貫していた。強烈な自信に裏打ちされた信念が彼を支えていたため、部下や他の人物からの多少の攻撃に揺らぐことは決してなかった。

主張があるので、他の人物としばしばぶつかったり、基準に満たない部下に対して厳しい仕打ちをすることもしばしばあった。

だが、Oさんは

「彼ならどう言うか」という質問に対して誰もが「Oさんなら絶対にこう言うだろう。」というわかりやすさを持っていた。この「わかりやすさ」故に、敵も味方も、彼を「一貫している」とみなすことができたのだ。

 

それに引き換え、Aさんは信念よりも部下に配慮し、優先した。

「部下がこう言うから、自分はこう思う」

「部下に嫌われないように、こう言う」

こういった配慮が行き過ぎ、Aさんは部下からもまわりからも、「Aさんは何を考えているのか、本心で言っているのかわからない」
という評価を受けてしまった。

結果的にAさんは、「優しい」という評価を受けることはできたが、「信頼できる」「頼れる」という評価を得ることはできなかった。

 

「魅力的な、わかりやすい物語」を語る人物であることが、リーダーであることの最低要件である。

人は、物語によって結集するからだ。

効力を持つような物語を語るのは楽ではない。難しいのは、物語を語ること自体ではなく、あらゆる人を納得させ、誰からも信じてもらうことだ。

歴史の大半は、どうやって膨大な数の人を納得させ、神、あるいは国民、あるいは有限責任会社にまつわる特定の物語を彼らに信じてもらうかという問題を軸に展開してきた。

とはいえこの試みが成功するとサピエンスは途方もない力を得る。なぜなら、そのおかげで無数の見知らぬ人どうしが力を合わせ、共通の目的のために精を出すことが可能になるからだ。*2

 

実際、いつの世も、支持されるリーダーは、「魅力的なわかりやすい物語」で武装している。

トランプ大統領しかり、小泉純一郎しかり。

もちろん、そのリーダーが良いリーダー足り得るかどうかは別の問題だ。しばしば「物語を語る」リーダーの暴走と、大衆の盲従が、悲惨な結果を招いたのは周知のとおりである。

したがって、「魅力的なリーダー」は、「パワハラ上司」と紙一重であることも多い。

 

だが、人々は常にリーダーを欲する。

彼らがリーダーとして認められるのは、ひとえに彼らの語る物語に魅力があるから、ということに尽きる。

 

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