株式会社翔栄クリエイトの河口と申します。こんにちは。 

弊社は「オフィスを創る」ことを主幹事業の1つとする会社です。

 

こう話をしますと、多くの方は「オフィスデザインのことですか?確かに最近はかっこいいオフィス多いですよね」と思うかもしれません。

 

しかし、私たちの事業は「オフィスデザイン」だけではありません。

デザインはオフィスづくりの一つの要素に過ぎませんし、意匠という意味での狭義のデザインにありがちな「オフィスがかっこいいかどうか」は言ってしまえば瑣末な話です。

 

本質的にはオフィス改装や引っ越しは一種の「投資」です。単に「かっこいい」だけでは、デザインに投資をしようとは思わないでしょう。

デザインとは、本質的には目的を達するための手段です。そして、会社の目的は業績を上げることです。

したがって、我々の事業の正確な定義は「社員の行動や社風に影響を与えることで、業績に貢献するオフィスを創ること」になります。

 

しかし、「オフィスが業績に貢献する」とは、具体的にどういうことなのでしょう。

オフィスの影響で会社の業績が変化する、などということはあるのでしょうか。

 

 

例えば、こんな話があります。

学校のカフェテリアにおいて、ある試みが行われました。カフェテリアのメニューは一切変えず、陳列の仕方や並べ方が子供のメニューの選択に影響を与えるかどうかを確かめるという実験です。

実験者は、何十校もの学校で、カフェテリアの責任者に食品の陳列方法を具体的に指示をしました。

デザートを最初においた学校もあれば、最後においた学校もあり、別のところに離して置いた学校もありました。ある学校では目線の高さにフライドポテトを置き、別の学校では人参スティックを置きました。

 

そしてこの実験は劇的な結果を示しました。

カフェテリアの配列を変えるだけで、数多くの食品の消費量を最大で25%も増減できたのです。*1

 

シカゴ大とハーバード大の行動経済学の研究者は、この結果を建築になぞらえています。

優秀な設計者なら知っているように、トイレをどこにつくるかという、これといった根拠がなさそうな意思決定が、校舎を使う人々がどのように相互交流するかに微妙な影響を与える。トイレにいくたびに同僚に偶然出会う機会が生まれるからだ。(中略)

利用者の注意をある特定の方向に向かせると細部が力を持つようになるケースは多い。*1

つまり「オフィス空間」は一件、些細な話に見えますが、社員の行動に対して大きな影響を及ぼすのです

 

行動経済学者はよく、「人間の問題に見えても実は環境の問題であることが多い」と言います。

あなたの行動も、誰かが環境を変えることで形作られている。今日一日でそのような場面に何度出くわしたか振り返ってほしい。

例えば、交通技術者はあなたに予測通り秩序よく運転してもらうために、道路に車線マーカーを描き、信号や道路標識を設置している。スーパーの店長はあなたに店内で長く過ごしてもらえるように、牛乳のコーナーを一番奥に設置している。あなたの会社のトップは従業員の連携を高めるために、パーティションや仕切りのない「オープン・フロア」の設計図を承認している。銀行はATM機にカードを忘れていく客に業を煮やして、カードを受け取るまで現金が出ないように機械を設計している。

環境を変えるというのは、適切な行動を取りやすくし、不適切な行動を取りにくくするということだ。*2

組織の風土や意識を変えたい、という活動は大きな時間と手間がかかります。

しかし、多くの方がご存知の通り、意識変革は「かけ声」だけではままなりません。「空間」や「環境」を変えることで、従業員の意識変革に実効性をもたせること。これが「オフィス空間を創ること」の持つ大きな力です。

 

 

事例:アクロスロード株式会社

では、少し事例をご紹介します。

五反田のシステム開発会社であるアクロスロード株式会社様は、事業の性格上、顧客先で作業を行う社員が多いという状況にあり、津田社長は「社員と会社の関係が希薄になりがちである」という課題意識を持っていました。

(アクロスロード株式会社 代表取締役 津田徹 様)

 

ちょうど引っ越しのタイミング、ということもあり、津田社長から

「「社員同士のフェイス・トゥー・フェイスのコミュニケーションを増やしたい」

とのオーダーがありました。

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(写真は引越し前の社屋)

では、「フェイス・トゥー・フェイスのコミュニケーションを増やす」には、どうすれば良いでしょう。

社長にお伺いすると「自発的に他者とのコミュニケーションが引き出されるような空間を創ってほしい」と強い要望があります。

 

このような場合、ありがちな解決策として、一般的にはオフィスで勉強会の実施や食事会を開催する事が多いでしょう。

さらに、帰って来て欲しいから「オフィスを心地よいカフェ風にした」なんて話はよく聞きます。

 

しかし、正直に言うとそれは多くの場合「的外れ」です。

実際には、オフィスがカフェ風になったからって、社員は会いたくも無い社長や事務員が居る場所には行きません。

そもそも、会社に気持ちが行っていないので、何を企画されても、帰る気にならず、なかなか、帰って来ないというのが、この業界に多くみられる状況です。

従業員の本音を無視して事を進めても、形骸化するだけなのです。

 

そこで我々は『進んで帰りたくなるオフィス』を創ることを決意しました。

ですが「会社に帰りたくなる」なんてことが起きるのでしょうか。

 

アクロスロード社様の場合、『進んで帰りたくなるオフィス』の源をつきつめていくと、本質は

「社員の活気・モチベーションの高い心地よい空気感を作り出すこと」

にあり、そのカギは「自ら選択できること」にあると我々は考えました。

つまり、どこに座るか、だれと話すか、何の仕事をやり、どのようにオフィスを利用するか、「すべて選べる」ようにすることです。

 

また、「それぞれが独立した空間に居る」ことばかりが重視されるのであれば、会社に帰ってくる必要はありません。カフェで十分です。

わざわざオフィスに帰ってくるのであれば「社員同士、連帯している空気感を感じられる」ことも「社員の活気・モチベーションの高い心地よい空気感を作り出すこと」につながります。

 

したがって、オフィスは以下の条件をクリアしなければなりません。

社員が自ら、仕事も他の人との係わり方も選択できる

会社全体が「心地よい空気感」を保つ

結果として、そこに居るのが心地良い、『進んで帰りたくなるオフィス』ができる、となります。

 

この方針に基づき、設計されたのが以下のオフィスです。

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奥の濃紺のゾーンを除き、全席フリーアドレスとなっており、社員はオフィスに入ると「どの席に行くか」を都度、決めなければなりません。

 

まず、右側、大きなオレンジのスペースは、「フリースペース」です。

ここでは社員はだれとでも自由に会話をすることができ、アイデアは壁面のホワイトボードに書きつけることができます。フェイス・トゥー・フェイスのコミュニケーションが取りやすいように、机は自由に移動、設置することができます。

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左奥のスペースは「集中作業ゾーン」です。

技術者は「だれにも話しかけられたくない」という時もあります。その時はここで集中して作業を行うことができます。

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そして左下の緑色のゾーンは「談笑、くつろぎスペース」です。

ライブラリーも備えており、自由に使うことができます。

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そして、中央には「会議スペース」があります。

この会議スペースは全ての場所から話を聴くことができ、かつ、席の後ろにあるカラーのガラスボードに自分の意見を書くことができます。議論と合わせて、だれが何を「書いているか」も含め、見える化されています。

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これらの結果として、オフィスの移転後、アクロスロード株式会社様はいくつかの点で大きな変化を経験しました。

・帰社率の向上

・会議クオリティーの向上

・リクルーティングへのポジティブな影響(応募数アップ、辞退率減少)

全て計画通りとは行きませんが、しっかりとした議論の上でオフィスを創り込むことにより、ほぼ当初の狙いは達成できたと言えそうです。

 

このように、我々は経営者の方針に基づき、既に数百に及ぶ会社の社員の行動を「少しずつ」変えています。

「オフィス創り」は社員の行動を大幅に変え、風土の変化を誘発し、業績に貢献するのです。

 

 

 

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