あるソフト開発のエンジニアと話をした時、

「現場の改善活動」の話になった。

その方が言うには、

「社長の命令で、「やる気のある人」を中心に一生懸命、改善活動をしている。アイデアは現場にたくさんあるので、実行するのに結構忙しいんだけど、なぜか納期や品質が改善された感じがしない。なんでだろう。」

という相談をされた。

 

そして偶然、ほとんど同時期に、同じ相談を複数の会社から受けた。

「やる気のある人が頑張れば頑張るほど、全体として成果が出ない」という皮肉な状況。

これは何処の企業でも大変良く見られる状況なのだ。

 

「ザ・ゴール」という本を読んだことがあるだろうか。

エリヤフ・ゴールドラット氏という、イスラエルの物理学者が著したもので、「制約条件の理論」について小説形式で解説されている。

非常に面白い本、かつ役に立つ知識が収められているので、新社会人必携の書籍と言っても良い。

 

そして、この本のテーマの一つは「部分最適」への批判である。

例えば、特定のプロセスだけ新型の機械を導入して生産効率を上げると、後工程で在庫があふれかえるなど、かえって大きな混乱が起き、全体の成果が落ちると言う事例を紹介している。

 

そしてこれは、冒頭に紹介した状況と全く同じである。「会社の一部の人」だけが頑張っても、会社は良くなるどころか、かえって全体の歩調を乱して混乱を引き起こす。

 

ある複数社の共同ソフト開発プロジェクトにおいて、一社の「生産性の高い会社」が前倒しで仕事をした結果、お客さんのイメージが明確になり、

「こっちのほうがいいね」

と、仕様が変更になった。

だがその結果、周りのスキルの低い会社はそれに対応できず、結果として「ソフトウェアの一部だけ綺麗」で、後はボロボロになってしまった。

 

後日、これを反省材料にし、

「一部の会社やエンジニアだけ生産性が高いと、かえって現場が混乱する」と知った彼らは

「共同開発のプロジェクトでは、一番スキルの低い会社やエンジニアに合わせ、あえて遅く仕事をする」と言っている。

 

*******

 

さて、こう考えていくと、重大な事実に気づく。

結局「プロジェクトの成果」や「チームの成果」も、「その中で最低の能力」の人物がボトルネックとなって、全体の足を引っ張るのである。

もっと言うと、「集団の成果は、その集団内で最も能力の低い人物/グループに規定される」ということである。

 

例えば、営業がイマイチの会社は、製造やマーケティングチームがいかに有能でも、営業部の能力以上のことはできない。

営業が優秀でも、事務の能力が低ければ、事務で仕事の滞留が発生し、結局営業は新しい営業ができなくなる。

 

これが、制約条件の理論で言うところの、「ボトルネック」だ。

 

 

私が昔、あるマーケティングチームの相談を受けていたときのこと。

4名の体制だったが、そのうちの一人が、非常にズボラだった。

果たして、そのズボラな人間は、ダイレクトメールの宛名を間違ってクレームをもらったり、「メルマガの配信停止をしてくれ」と言ってきたお客さんに更にメール送ったりしてしまい、リーダーがお詫びに行くなど、周りの人の仕事を増やしてばかりいた。

 

そこでリーダーは「ダブルチェック」をしたり「メルマガリストの更新ルール」などを作って、そういったミスに対応しようとしたが、逆に業務量を増やしてしまい、残業が増える一方だった。

 

そんな時、リーダーから

「どうしたら良いか」と聞かれたので、

私は言った。

「「その人物をチームから出して、3名で早くやる」か「ズボラな人に合わせて、もっとゆっくり仕事をする」かどちらがいいでしょうか。」

 

リーダーは暫く考えていた。

「……目の前のことだけを考えれば、3名でやったほうがいい。」

「そうですね。では……」

「いやでも、3名にしたとしても、結局3人のうちの誰かがまた、足を引っ張る事になるかもしれない。チームに無能な人間がいるからと、その人を切っていったら、「結局全部一人でやったほうが早いじゃない」ということになる。」

「そうですね。」

「それは、もはやチームじゃない。わかった。全体のペースを落とすよ。」

「了解しました。」

 

後日、彼らのチームは「ズボラな人」に合わせ、彼が十分なチェックの時間が取れるように納期を遅らせて仕事をした。

だが、3ヶ月後にはそのリーダーは

「最近は能率が上がってきましたよ。慣れって重要ですよ。」

と言っていた。

それは、そのリーダーが、「マネジメント」を理解した瞬間だった。

 

【生成AI関連ウェビナーのお知らせ】
単なる理論ではなく、現場で成果を出す生成AI活用の“実装方法”を知りたい方に最適なウェビナーです。
本セミナーでは、製薬・バイオ企業でのPoC(概念検証)から得られた実データとノウハウを元に、「どこにAIが効くのか」「どこが難しいのか」を明確に解説します。

製薬・バイオ企業の生成AI導入セミナー

お申し込み・詳細はこちら


【開催概要】
・開催日:2026年2月12日(木)
・時間:12:00〜13:00
・形式:オンライン(Zoom/ログイン不要)
・参加費:無料(定員150名)

製薬・バイオ企業の生成AI導入は、「試行」から「実利」を問うフェーズへと移行しています。
本セミナーでは、13チームのPoCで時間を50〜80%削減したノウハウを余すことなく共有します。適用可否の見極め、評価設計、失敗領域への対応方法、全社展開のガバナンス設計まで、実践的な内容です。:contentReference[oaicite:1]{index=1}

【対象者】
・製薬・バイオ・化学業界のDX/業務改革担当者
・AI導入プロジェクト責任者・企画部門・法務・人事などの全社展開担当者
・PoC設計や効果測定の「型」を学びたい方
・自社の生成AI活用を確実な成果につなげたい実務担当者

【セミナーの内容】
・生成AIの“適用可否”を短期間で見切る方法(PoC設計・評価の型)
・現場で成果を出すAI活用ノウハウ(バックキャスティング/プロンプト構造化 等)
・適用が難しい領域(PowerPoint・OCR 等)の整理と次の打ち手への転換
・横展開に向けたガバナンス設計とナレッジ共有

【登壇者】
奥田 真輔 氏
システム開発やITコンサルティングを経て、
外資系製薬企業で15年以上のITビジネスパートナーとして人事からコマーシャル、 メディカルなど製薬企業の様々な分野のプロジェクトに携わる。
現在はネクセラファーマ株式会社で、システムだけではなく、企業風土改革や業務改善をリードし、
日本発グローバルバイオ製薬企業にむけて、同社の成長基盤の構築に尽力している。

岡田 雄太(ワークワンダース株式会社 CTO)
野村総合研究所に新卒入社後、証券総合バックオフィスシステムやオンライントレードシステムなどの開発に従事。
その後、8 Securities(現SoFi Hong Kong)へ出向し、日本人唯一のエンジニアとして国際的なプロジェクトに携わる。
BOOSTRYでは信託銀行向けSaaSの立ち上げと成長を牽引。
WiseVineではCTOとして開発組織を30名規模に拡大し、プロダクト開発を推進。
2025年4月よりワークワンダース株式会社CTOに就任。AI活用を中心とした開発支援をリードする。


【お申込み・詳細】
こちらのウェビナー申込ページをご覧ください。

(2026/01/19更新)

 

【著者プロフィール】

安達裕哉Facebookアカウント (安達の最新記事をフォローできます)

・編集部がつぶやくBooks&AppsTwitterアカウント

・すべての最新記事をチェックできるBooks&Appsフェイスブックページ

・ブログが本になりました。

・「「仕事ができるやつ」になる最短の道」のオーディオブックもできました

 

(Photo:Werkheim