企業対企業の商売、いわゆるBtoBのマーケットにおけるセオリーは「まずは大企業、有名企業をターゲットとする」が普通だ。

 

キャッシュをそれほど持っていない、中小企業相手の商売は収益性が低く、どうしても取引が安定しないからである。

「優良な中小企業は10億、20億位は、キャッシュで貯めているよ」という声もあるだろうが、その程度では話にならない。例えばトヨタが年間に使う広告費は5千億円。桁が違う。

 

だから、BtoB商売を行うならば、「まずは大企業から」となり、多くの会社は「顧客の選別」をする。

例えば、売上◯億以上はAランク、売上◯億以下、◯億以上はBランク、などと格付けし、ランクの高い顧客を重点的にケアする、といった戦術をとる。

 

だが、そのセオリーにもかかわらず

「中小企業マーケットを攻めたいのだが……」という企業は結構多い。

私がコンサルタントをやっていた頃にも、そのような相談を数多く受けた。

 

そこで、「なぜ敢えて中小企業なのですか?」と聞くと、

彼らは、大抵次のように言う。

「大企業のマーケットは取りきってしまったので、中小企業も攻めたいんです。」

もしくは、

「うちは後発なので、大企業に入り込むのは難しいからです。」

と。

 

しかし、上の2つの理由で、中小企業をターゲットとする商売の成功例は、残念ながら少ない。

「大企業をとり終わったから」とか、「大企業に入り込めないから」という、若干後ろ向きな理由で、大企業と同じように中小企業マーケットを攻めても、中小企業は振り向いてくれないからだ。

 

中小企業マーケットを攻めるための「考え方」と「戦略」

では、中小企業マーケットを攻めるには、一体どのような考え方と、戦略が必要なのか。本稿では、「ソウルドアウト」というWebマーケティング支援サービスを営む会社に、その秘訣を聴いた。

彼らは中小企業マーケット専業で上場まで到達しており、独自の戦略を持って、中小企業マーケットを攻めている。

 

だが、Webマーケティング業は基本的には大企業向けの商売であり、競合も多い。彼らはなぜ、わざわざ中小企業マーケットを攻めたのか。

社長の荻原氏に聴いた。

「何故あえて中小企業マーケットを狙ったのか」

荻原氏:

中小企業はよくも悪くも未完成であり、「共に成長する喜びが味わえる」こと。それに自分の幼少期からの経験を通じ、どうしても中小企業を支援したい、と思っているからです。

大企業は大きな仕事を出してくれるし、仕事内容が楽しいことも事実。

しかし大企業の支援は僕らではない、他の誰かがやっている。僕らがやるべき、秀でた理由が特にないのです。

 

中小企業・ベンチャー企業マーケット攻略の要諦はどこにあるか

荻原氏:

それは次の二点です。

◯経営者が、こちらの担当者を信用してくれるか

◯わかりやすい結果を出せるか

本質的に、中小企業・ベンチャー企業は、提案の内容よりもむしろ「代理店の担当者との相性」と、「結果の見えやすさ」で発注を決定することが多いです。

逆に、この二点さえクリアすれば次のステップに進めます。

 

どのように中小企業の経営者の信頼を勝ち取るのか

荻原氏:

多くの中小・ベンチャー企業の経営者は多かれ少なかれ「騙された」経験を持っており、そう簡単に人を信用しません。

ですから、「商品の提案」をしても彼らは動かない。「むしろ、いいことばかり言ってるけど、胡散臭い」と見られてしまいます。

本質的に、求められているのは「理」だけではなく「情」の部分です。

 

経営者に響く「情」とは、具体的にどのようなことか

荻原氏:

中小企業の経営者が「情」の部分で求めることは以下の3つです。

・経営者の気持ちに共感できること

・強い信念を持っていること

・誠実であること

例えば、弊社の営業には「実家が商売をやっている」人物が数多くいます。

商売に関しての父親と母親の言い合い、出入りの業者さんと遊んでもらったこと、運動会の時にも商売が忙しくて来られない両親……こういった記憶を持つ営業は、経営者の語る話に、本音で深く共感できます。

また中小企業支援の動機を持って信念があれば、言葉に熱を帯びるでしょう。その熱は通常の会話からでも感じるものです。これらが信用につながっていくのです。

 

「わかりやすい結果」はそう簡単に出ないと思うが、結果を出すポイントは何か

荻原氏:

中小企業で、経営がうまく行っていないケースは、手を広げすぎているケースがほとんどです。つまり選択と集中が出来てないのです。

あれもこれも、でリソースが分散して中途半端になれば、ターゲットに刺さらないでしょう。

また、誰の、どんな困りごとを解決するのか、という原点を忘れているケースも多いです。したがって、我々の戦略は「顧客を絞り込み、小さく始めて、成果ポイントを見つける」ことを目指します。

例えば、闇雲に「広告をやりませんか」と営業しても絶対にダメです。門前払いを受けてしまうか、受注したとしても結果が出ず、取引を打ち切られてしまいます。

 

自社の戦略については、どうしているのか?

荻原氏:

我々も全く同様に「手を広げず、まずはどこか一社で確実に成果を出す」ことを目指しています。とにかく時間をかけてでも「良い会社と出会い、そこで結果を出す」ことを重視しているのです。

ですから、まず「広告を出稿することによって、儲かるんだ」ということを体感していただく。

儲かると分かれば、余剰分は再投資される。このサイクルを顧客の中に確立することが最優先です。

 

そのような時間のかかるやり方でスケール可能なのか。

荻原氏:

十分可能です。

中小・ベンチャー企業の方々は、彼ら独自のネットワークを持っています。

そして、我々が「成果を出す」事ができて信用してもらえれば、「優良な」顧客を地縁で紹介してもらうことができます。

結局のところ、信用が何よりの資産です。中小企業マーケットの新規開拓は顧客の信頼を勝ち得て、既存の顧客から横に広がっていけるかどうかで決まる。

 

ソウルドアウトは支店を全国に二十箇所以上有しており、前述したやり方だと黒字化まで時間がかかりそうだが。何か対策はあるのか。

荻原氏:

時間がかかるのは、そのとおりです。

中小企業・ベンチャー企業のマーケットは、とにかく短期的な成果を追求することは難しく、むしろ時間をかけてじっくり取り組むべきマーケットです。

実際、我々は地方拠点を出す時には撤退基準を決めていますが、その基準は長期的目線で設定しており「18ヶ月以内で単黒、36ヶ月以内で塁黒化する」というものです。

 

1年半をかけて土壌を作り、3年をかけて中小・ベンチャー企業経営者との強いつながりを作る。こうして地場にゆっくりと溶け込んでいく。

これが我々の「上場」につながる強みであり、ビジネスモデルなのです。

 

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あえて「収益性が低い」とされる、中小・ベンチャー企業向けの商売を選ぶ理由は「合理的でない判断」の向こうに成功があると、ソウルドアウトの経営者である荻原氏が信じているからかもしれない。

 

神戸大学の吉原名誉教授は、著書の中で次のように述べている。

「バカな」と「なるほど」、これが経営の成功のキーファクターなのではないか。私の一応の結論である。

成功している企業について研究してみると、戦略、組織、人事、工場マネジメント、マーケティングなど経営の仕方が、一見したところ非常識と思えることが少なくない。「そんなバカな」と思わずいいたくなる。

ところが、経営者や実務担当者から説明を受けると、理屈が通っており、「なるほど」と納得せざるをえない。このようにして、私は、「バカな」と「なるほど」の二つの特徴を同時にもつことが、経営で成功するための秘訣ではないかと考えるようになっている。

ソウルドアウト社の戦略は「バカなる」を愚直に実践た結果、上場までたどり着いた、一種の成功事例と呼べるのではないだろうか。

 

 

◯ソウルドアウト株式会社コーポレートサイト

 

 

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(Photo:Osamu Kaneko)