人類は賢くなり続けている、という研究結果がある。

これは、オタゴ大学のジェームズ・R・フリンが発見した事実で、「フリン効果」と呼ばれる。

「なぜ祖父母世代よりもIQが高いのか」というテーマで、TEDで講演も公開されているので、興味がある方はご覧になると良いだろう。

さて、精神科医で筑波大学教授の斎藤環氏は、フリン教授の研究について、次のように述べている。

人類の知能は向上し続けています。少なくとも、知能指数(IQ)のスコアが、過去100年にわたって上昇を続けているのは事実です。

この現象は「フリン効果」として広く知られています。ニュージーランドにあるオタゴ大学政治学部のジェームズ・フリン名誉教授が最初に提唱した現象だからです。

フリン教授は35カ国から知能検査のデータを収集し、多くの国でIQスコアが世代にわたって上昇しているという事実を発見しました。知能の上昇を示すデータはほかにもあります。

たとえばキングス・カレッジ・ロンドンの研究チームは、過去64年間に48カ国で実施された知能検査のデータを集めて分析し、1950年からIQの平均値が20ポイントほど上昇していることを指摘しています。つまり科学的に見ても、フリン効果には「再現性」があるのです。

これは驚くべき事実である。

例えば、オランダにおいては、1952年の9割の人が、1982年の平均的な人よりもIQが低い、という結果が出ている。

たった、2,3世代、つまり祖父母の代に比べて、これほどまでIQの差が出るのは何故なのだろう。そして、人間は実際に賢くなっているのだろうか。

 

フリン教授は「我々は賢くなっているのか?」に対して、こう結論づけている。

「祖先よりも多様な認知的課題を負わされる時代に私たちは生きており、そうしたもろもろの問題に対処できるように、新たな認知能力や脳の領域を進化させてきたのか」という意味なら、そうだ。

(中略)だとすれば、私たちは祖先よりも「賢い」と言ってかまわない。だが、「私たちのほうがより現代的だ」と言ったほうがふさわしいだろう。それはけっして驚くことではない。

つまり「脳ミソ」の出来不出来は変わらないが、我々は「より複雑な問題が解けるように思考回路を適応させてきた」というわけだ。

 

では、この「IQの高さ」は具体的に、どういった部分に現れるのか。

フリン教授は、

・仮定を真剣に受け止めること

・分類すること

・論理を使って抽象概念を扱うこと

の3つの分野に、IQの高さが顕著に現れるとしている。

 

例えば、「仮定を受け止める」について、

フリン教授は父親との会話を引き合いに出す。

私と兄は、父を相手に人種問題についてよく議論した。

父が人種差別を擁護すると、私たちは「もし父さんの肌色が変わったらどうするの?」と食ってかかった。

すると、具体的な事柄にこだわる1885年生まれの父はこう言い返してきた。「バカも休み休み言え。肌色が変わった人なんて見たことあるか?」

古い世代の人々は、常に自分の経験や、自分の周囲の現実に即して考える習慣があり、仮定や推論、思考実験が苦手なのである。

 

考えてみれば、「仮定」が通じない人と、しばしば遭遇する。

「結婚しない人生なんて不幸に決まっている」

といった発言をする人が、古い世代の人々には数多くいるが、そういう人々に

「結婚しない人生をおくったことがないのに、なぜわかるの?」

と聞いてみても埒があかない。

 

これはまさに「結婚していない人の身になって考えてみたら?」という

抽象的な思考ができていない証であり、そしてこれが、IQに反映されているのだ。

 

また、さらに興味深い実験結果も残っている。

上述したTEDの講演でも触れられているが、1920年代におこなわれた、ロシア人への魚とカラスの分類に関するインタビューには驚かされる。

問い:魚とカラスの共通点は何だい?

答え:魚は水のなかに棲む。カラスは空を飛ぶ。魚が水面すれすれを泳いでいたら、カラスは捕まえることができる。カラスは魚を食えるが、魚はカラスを食べない。

 

問い:魚とカラスをひと言で表現すると?

答え:動物は正しくない。魚は動物ではないし、カラスも違う。カラスは魚をついばむけれど、魚は鳥を食べられない。人間は、魚は食べてもカラスは食べない。

上の回答に違和感を感じるなら、あなたは現代人だ。

現代人の我々は分類や、推論といった、抽象的な思考を使うことに「慣れている」のである。

 

下のような単純な論理テストについても、少し古い世代の人は、我々とは異なる回答を出す。

問い:ドイツにラクダはいない。B市はドイツの都市だ。では、B市にラクダはいるか、いないか?

答え:ドイツの村を見たことがないからわからない。大きな街ならラクダくらいいるだろうさ。

 

問い:でも、ドイツのどの場所にもラクダはいないとしたら?

答え:そこは小さな村で、ラクダには狭いのかもしれないな。

この事例を見ると、「オレの経験」を基にしてしか話ができない上司は、「古い世代の人々」に属するのかもしれない。

こういった人々はそもそも、「自分の経験の中にあること」にしか興味を持たないし、それを一般化して考えることについては、それを拒否するのである。

 

だが、学校は一貫して「科学」を教え、「抽象的な思考」を鍛える問題を、生徒に出し続けた。

例えば、フリン教授はオハイオ州の14歳児が1902年〜1913年と、1997年〜1999年に受けたテストを比較検討した。

結果、古いテストでは、当時の「45の州都の名前」が問われていたのに対して、現代のテストで問われているのは、「殆どの州都が州最大の都市でない理由」といった、概念同士の複雑な関係性が理解できるかが試されていた。

 

もちろん、仕事も同じだ。

4、50年前と比べて現代では、「成功したECサイトの共通点は?」や、「消費者の購買行動にパターンはあるか?」、「商圏は変化しているのか?」など、分類と推論を要する仕事が多くなった。

肉体労働者は数を減らし、現在は高度な分類、推論を要する専門職が増えた。

また、仕事の中身を取り上げても、質の向上が見られる。例えば医師の仕事一つを取ってみても、100年前の医師と、現代の医師では圧倒的に現代の医師の方に「頭の良さ」が求められる。

 

つまり、現代人は

「より普遍的」

「より科学的」

な技能を身につけることを、学校や仕事で要求され続けた結果、たった2,3世代の違いにも関わらず、大きな知的能力の飛躍を見せた、ということになる。

「現代人の高いIQ」は、教育と産業の生み出した、人類の適応の結果なのである。

 

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