メディアが報じる「世界」は、暗いものが多い。だが、現実はそうではない。
世界はますます豊かになっており、人類は繁栄を謳歌している。
特に「極度の貧困」は、解決しつつある。その撲滅は、遠い将来の話ではないかもしれない。
米コラムニストのモイセス・ナイムは著作の中で次のような事実を紹介している。
二一世紀の最初の一〇年は、人類がもっとも成功を収めた期間だったとは言えないだろうか?アナリストのチャールズ・ケニーが述べたように、人類の「これまでで最高の一〇年間」であったのだと。
この主張は、データによって裏づけられている。世界銀行によれば、二〇〇五年から二〇〇八年にかけて、サハラ以南のアフリカからラテンアメリカにかけて、そしてアジアから東ヨーロッパにかけて、極度の貧困の中で暮らす人々(一日一・二五ドル未満で生活する人々)の割合が急速に下がったという。
これは、世界の貧困に関する統計が利用できるようになって以来、初めてのことだ。先に述べた一〇年の間に、一九二九年の世界大恐慌以来最大の経済危機が到来したことを考えれば、この数字の急落はさらに驚くべきものとなる。
例えば中国においては、1981年以降、6億6千万人が、貧困から抜け出している。
これは実に喜ばしいことだ。
さらに、アジアでは「極度の貧困」に暮らす人の割合が1980年には77%であったが、1998年にはたったの14%に減っている。そしてこれはアフリカに於いても同様の傾向が見られるという。
経済学者のマクシム・ピンコフスキーとザヴィエル・サラ・イ・マーティンによれば、一九七〇年から二〇〇六年にかけて、アフリカの貧困は一般に認識されている以上のスピードで減少しているという。
ふたりが厳密な統計的分析に基づいて導き出した結論は、次のようなものだった。(中略)
鉱物資源の豊かな国でも、乏しい国でも、農業に適した国でも、そうでない国でも、植民地であった国かどうかにかかわらず。そして、アフリカで奴隷貿易がおこなわれていた間、奴隷獲得率が高かった国でも、低かった国でも同じだった。
一九九八年、データが利用できるようになってから初めて、貧困ラインより上で暮らすアフリカ人の数が、下で暮らすアフリカ人の数を上回ったのである
つまり、世界的に見れば「分厚い中間層」ができつつあり、「世界の人々の平等」は進行している。
「世界中で格差が広がっている」ような書き方をしているメディアも多いが、実際には豊かに暮らすことができる人々が世界中で増えている。
多くの貧困諸国の急激な経済成長と、その結果生じる貧困の減少は、「グローバル中間層」の増加も後押ししている。世界銀行によれば、二〇〇六年以降、二八カ国のかつての「低所得国」が、いわゆる「中所得国」の仲間入りを果たしたという。
こうした新しい中間層は、先進国の中間層ほど繁栄していないかもしれないが、かつてなく高い生活水準を享受している。現在、世界でもっとも急速に成長している人口動態カテゴリーは、この新しい中間層だ。
途上国の貧困層は「グローバル化」により、世界経済に参加することで中間層に上がることができ、大きく生活水準を向上させることができた。
こういった、喜ばしい状況が出現する一方で、唯一、「負け組」となっているのが、先進国の中間層である。
彼らは自分たちの地位を低下させた、グローバル化を憎んでいる。
「反グローバリズム」を標榜するトランプ大統領の支持者。
「ブレグジット」に票を投じた移民に反対する人々。
実は彼らこそ、真の「負け組」である。
さて、ここで我々は立ち止まって考えなければならない。
「世界中の人々が同胞であるのだから、世界がどんどん豊かになっているのはとてもいいことだ」
と考える人と、
「先進国の中間層が貧しくなったのは、グローバル化のせいだ。この状況には我慢ができない」
と考える人の断絶について。
日本においても、一般的な傾向としてグローバル企業に勤める人や、起業家、富裕層、知識人たちは「グローバリゼーション」を歓迎しているようにみえる。
大企業の売上構成を見てみれば、極めてこれは当たり前だ。例えば、トヨタの売上構成比は、もはや8割が海外である。(参考:トヨタIR情報)
任天堂の売上構成比をみても、すでに海外の割合が75%以上(参考:任天堂IR情報)である。「日本の会社」臭が強い日本電産ですら、すでに海外売上比率8割近い。(参考:日本電産IR情報)
彼らにとって「日本人」は優先して救う対象なのだろうか?
彼らは「日本人の既得権」を守るべきと考えているのだろうか?
残念ながら、そうはならないかもしれない。
もちろん「配慮」はするだろうが、それは「客」である限りにおいて、である。
グローバル企業は、生存するために株主の論理と、市場の論理に従うだけであり、「日本人である」というだけで救済したりはしない。
もちろん、その従業員たち、株主たちも同様に考えるだろう。
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これは何も「資本主義だから」という話ではない
「親近感」の問題でもある。
つまり、日本人同士の連帯も、薄くなりつつあるのだ。
例えば、東京の大企業に勤めている人が、田舎の見知らぬヤンキーと、会社で隣の席にいる中国人、どちらに親近感を覚えるだろう。
アメリカに留学していた研究者が、日本の限界集落の高齢者と、同じ研究室にいるインド人、どちらに親近感を覚えるだろう。
悲しいことかも知れないが、もはや、同じ国に住んでいる、というだけで「同胞」と呼ぶことはできないと、グローバリゼーションを支持する人々は考えている。
そして、負け組はそれを知っているからこそ、トランプ大統領は「負け組」に支持され、大統領となることができた。
幾つかの政治的混乱を経て、この状況が収束するのか。
それとも負け組の怨嗟が革命を起こすのか。
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