女性誌をパラパラと見ていた。きれいな女性たちが着飾り、高そうなバッグやアクセサリーを見せびらかすように本の中に並んでいる。
彼女たちが訴えてくるメッセージはただひとつ、「こういうものを身につけて、幸せになりましょう」というものだ。
20世紀はまさに、「消費の世紀」であり、消費行動そのものがアイデンティティとなる時代だった。
車を買おう。ライフスタイルのために。
宝石を買おう。ライフスタイルのために。
家を買おう。ライフスタイルのために。
服を買おう。ライフスタイルのために。
音楽を買おう。ライフスタイルのために。
そして、消費社会に暮らす人は「何を消費するか」によって、社会的な位置づけが決まりますよ、というメッセージをあらゆる場所から送られ続けた。
当然のことながら、企業は消費者が「消費行動」をとることにより存続する。
だから、消費者の欲望を掻き立てる術、ということを深く研究し続けてきた雑誌は、企業と仲がとても良かった。
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少し前から「雑誌が売れなくなってきた」という話をよく耳にする。もちろんインターネットの発達によって雑誌の役割が置き換えられたのでは、という見方もできる。
だが、私は少し異なる感想を持っている。
則ち、「消費が個人のアイデンティティを決定する」という考え方がとても古臭くなってきたことが、根本にあるのでは、という感想だ。
これに関して、少し前に内田樹が鋭い分析をしている。
”これまでは毎年「ブランド」とか「ファッション」とか「アート」とか「美食」とか「女子アナ」とかいう消費生活オリエンテッドな研究テーマを掲げる学生たちが相当数いたのであるが、今年はみごとにゼロである。
「人はその消費生活を通じて自己実現する」という80年代から私たちの社会を支配していたイデオロギーは少なくとも20歳の女性たちの間では急速に力を失いつつある。
「お金さえあれば自己実現できる」「自己実現とは要するにお金の使い方のことである」というイデオロギーが優勢でありえるのは、「右肩上がり」幻想が共有されている間だけである。
「お金がないから私は“本来の私”であることができません」というエクスキューズはもちろんまだ私たちの社会のほとんど全域で通用している。
その現実認識には「だからお金をもっとください」という遂行的言明が続く。
その前段にあるのは、「私たちの不幸のほとんどすべては『金がない』ということに起因しているから、金さえあれば、私たちは幸福になれる」という「金の全能」イデオロギーである。
このイデオロギーにもっとも深く毒されているのはマスメディアである。
メディアはあらゆる機会に(コンテンツを通じて、CMを通じて)視聴者に「もっともっと金を使え」というメッセージを送り届け、その一方で非正規労働者や失職者がどれほど絶望的な状況であるかをうるさくアナウンスして「消費行動が自由にできないと人間はこんなに不幸になるんですよ」と視聴者を脅しつけている。
「金の全能」をマスメディアはあるときは「セレブ」の豪奢な生活を紹介することで、あるときは「失職者」の絶望的困窮を紹介することで繰り返し視聴者に刷り込んでいる。”
私はここまで極端なことになっているは思わないが、少なくとも
「~を買うことに憧れます。」という発言を、最近は見かけることが少なくなったと感じている。
代わって、Youtube、ニコニコ動画、ブログ、Twitter、Facebookなどで多くの支持を集めるのが、「~をやってみた」「~をつくってみた」「~に行ってみた」などの、コンテンツの創造活動だ。
消費活動から創造活動へ、多くの若者が嗜好をシフトしつつあるのではないか。
当然、雑誌はそういった人々のニーズには合わず、消費活動は停滞する。企業は雑誌にカネを出さなくなる。
そういうことを、雑誌の没落に重ねあわせて見てしまうのだが、考えすぎだろうか。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)