当分、「コロナウイルス禍」は継続しそうな気配だ。
まあ、1年程度続くことを覚悟したほうが良いのかもしれない。
多分、専門家たちですら「今後どうなるんでしょうか?」と聞かれても、
「そりゃー、わかんないですよ。」と答えざるを得ないんだろう。
まあ、人類の認識の限界ってやつだ。
「ブラック・スワン」の著者のナシーム・ニコラス・タレブは
「極端な事象=統計的な外れ値」は、原理的に予想できない、と述べている。
これはまさにそのとおりで、今回のコロナウイルス禍は3.11やリーマンショックと同様に、
予想もヘッジも不可能な事柄のひとつなのだろう。
まあ、それは良い。大きな流れは個人がどうにかできるようものではない。
ただ、一人ひとりが全くの無力であるかと言えば、私はそうは思わない。
・外出を控えること
・手をよく洗うこと
・情報の出所をあたること
・困っている人をできる範囲で助けること
・家の中でできる楽しみを見つけること
こうしたことは、私でもできる。
誰が悪いとも言えない状況では、我々は日々、起きてしまったことの「後始末」をぼちぼちと、一人ひとりがして回るしかないのだ。
暴発する人がいた
ただ、正直なところ、そんなふうに自分を納得させたところで、
やっぱり気は滅入る。
会社がどうなるか、仕事がどうなるか、それ以前に生活がどうなってしまうのかよくわからないことで、ストレスが溜まる毎日であることは間違いない。
実際、ツイッター上では、「疲」や「ストレス」などを含む投稿が増加しているらしい。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、ツイッター上で「疲」や「ストレス」などを含む投稿が増加していることが、東京大の鳥海不二夫准教授(計算社会科学)の調査でわかった。長引く外出自粛や学校の休校などへの対応で、人々の疲労感が増していることが背景にあるとみられる。
世の中の人がほとんど、そういう状態であるから、中には暴発してしまう人たちもたくさんいる。
例えばこんなツイートが拡散されていた
コロナウイルスの騒ぎ始まってから職場に来たヤバイ客で打線組んだwwww pic.twitter.com/DKlWlt1oua
— まきぶろ@切り絵合同誌主催 (@otogi_zousi1203) April 8, 2020
読んだときは「大げさな」と思ったのだが、どうやら思い当たる人も多く、大げさでもないようだ。
さらにに感染を恐れるあまり、「医療従事者には子供を預けてほしくない」というクレームが保育園に寄せられているらしい。
私の後輩は最前線で新型コロナウイルスの診療をしているのですが、保育園からの保育拒否、病院内でも差別を受けているという、悲痛なメールが届いた。
「私は、何のために戦っているのかわからない」に返す言葉が出てこなかった。 pic.twitter.com/3wV20Fa9Vd
— インヴェスドクター (@Invesdoctor) March 30, 2020
医療関係者に向けられる“コロナ差別”(TBS News)
「医療関係者の子供は登園しないでほしい。卒園式もお断り」。
感染者が出た病院の職員が告げられた言葉です。
最前線で闘うなか、外では偏見に苦しめられる医療関係者。一方で、拍手で感謝と敬意を示す取り組みが日本でも・・・。
世間にはこわい人がいるんだな、と思う。
よくパニック映画で、ゾンビを恐れるあまり、身勝手な行動を取る人間たちが映し出される(それはたいてい死亡フラグだが)が、現実にもいるのだ。
もちろん、これはリアルな活動の場だけにとどまらない。
ネット上では、普段にもまして、
とにかくあらゆる批判しなければ気がすまない人、
デマと知らずに、あるいは知りつつ、フェイクニュースを流す人。
外出している人をわざわざ探し出して、執拗にパッシングを繰り返す人。
不用意な発言を、ここぞとばかり叩く人。
そういった人を見かけるようになった。
リアルなパニックへの戦慄
そして、見ているうちに、私はようやく遅まきながら気づいた。
パニックとは、暴動のような直接の暴力行為だけを指すのではない。
「いまのこれが、地味だけど、リアルなパニックなのだ」と。
例えば、アメリカで「ひよこ」が飛ぶように売れているというニュースを見た。
ひよこの「パニック買い」急増 コロナ拡大の米、社会不安背景か(東京新聞)
米紙ニューヨーク・タイムズなどによると、中西部アイオワ州の販売業者では4月の出荷分のひよこがほぼ売約済み。業者は「人々はトイレットペーパーを買い求めるように『パニック買い』している」と話す。
ひよこを育てるメリットは私にはよくわからないが、少なくとも、買っている本人たちは、大真面目なのだろう。
ときに、笑ってしまうようなニュースなのかもしれないが、正直、私は全く笑えないどころか、戦慄した。
極端な不安の下で「攻撃的な人」や「奇行」が表面化するのが「パニック」なのだ。
非常時に豹変する人
非常時にこそ人の本性が見える、という方は多い。
それが「本性」なのかどうかはわからない。
しかし、非常時に豹変したり、人格が変わってしまうひとがいる、というのは事実だろう。
彼らは、世の中が非常事態となったときだけではなく、私生活でも不安に抑圧されたり、不運に見舞われた際、同じようにパニックに陥る可能性が高い。
そしてひどく利己的な行動に走ったり、暴言を吐いたり、奇行を繰り返したり、突然消えたりして、周りの人を驚かせる。
もちろん、それは強い印象を残す。
「ああ、あの人って、本当はこういうひとだったんだ」と。
前述した「ブラック・スワン」には、1987年の暴落の際のパニックが詳細に書かれていた。
その日、金融市場で衝撃的なことが起こった。(現代になってから)史上最大の株価の暴落だ。(中略)ファースト・ボストンのトレーディング・ルームで、大の大人が何人も静かにすすり泣いてきた。(中略)
一発食らって、ショックに陥り、ヘッドライトのまん前に出たウサギみたいに走り回っている人が大勢いた。
家につくと従兄弟のアレックスが電話してきて、近所の人が自殺を図ったという。アパートの上のほうの階から飛び降りたのだ。でも、それが異常という感じはしなかった。
現在も、同様のことが起きている。
ネット上にはパニックに陥っていると思しき発言が、大量に残されており、中には怖いものもある。
更に悪いことに、それらの「パニック」の感情は容易に伝播する
イェール大学の、ニコラス・クリスタキスによれば「感情は集団暴走する」のだ。
感情の状態が広く伝染していく現象は、数世紀にわたって報告されてきた。
ブコバで突如起こったような笑いの伝染だけではない。感情が人から人へ広がり、多くの人に影響が及ぶ現象を、現在では集団心因性疾患(MPI)と呼んでいる。
集団ヒステリーという詩的で古めかしい表現はあまり使われない。
MPIは明らかに社会的な現象であり、ほかの点では健康な人びとを心理的カスケードに巻き込んでしまう。群れのなかで一頭だけ驚くバッファローのように、一人が一つの感情的反応を示すと、ほかの大勢の人たちも同じことを感じて感情の集団暴走が起こるのだ。
(つながり 社会的ネットワークの恐るべき力 ニコラス・クリスタキス 講談社)
ある一人がパニックに陥ることによって、周りの人々の不安も煽られ、影響はその友達の友達にも及ぶのだ。
「孤独なコロナウイルス後」になりそうな人が可視化されている
だが、そんな事が延々と続けば、いずれ周囲の人も気づく。
「ああ、なんかあの人の周りにいると、疲れるな。」
「あの人、なんかおかしいな。」
「いつもの発言は、平時だったからこそなんだな。」
と。
そうして、「パニックを起こす人」が周りを傷つけるほど、彼は呆れられ、次第に親類縁者・知人・友人のネットワークを失っていく。
コロナウイルス禍に乗じて、不安に負けて何かを強く攻撃したり、パニックまがいの言動を繰り返すことは、百害あって一利なしだ。
たとえそれが「正しいこと」であっても。
人は「正義」の側にいると確信できるときほど、攻撃的になると聞いた。
それが本当かどうかは知らないが、非常時にどんな発言をしたか、どんな行為をしたかは、周りの皆がはっきりと覚えていることは確かだ。
それをうんざりだと思われてしまえば、平時にも相手にしてもらえなくなる。
つまり、コロナウイルス騒動で「孤独なコロナウイルス後」になりそうな人が可視化されている。
本当に恐ろしいのはコロナウイルスと、それにより引き起こされる疫病ではない。
パニックによって引き起こされる、その後の人間の分断なのである。
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