「採用面接はお見合い」
就活まっただなかの大学3年生のころ、よくそんな言葉を耳にした。
その言葉を使っている人たちは「面接は相性を確かめる場だよ」と言いたかっただけなんだろうけど、わたしは「どーりで無駄が多いと思ったわ……」と妙に納得した記憶がある。
要は、「採用担当者が好き嫌いで合否を決めますよ」ってことじゃないか。
だから就活メイク講座だとか、面接マナーチェックだとか、表面的なことばっかりやらされるんだ。
面接っていうのは本来、「お見合い」なんてふわっとしたものじゃなくて、「交渉」なんじゃないの?
面接の素人が印象によって合否を決める採用面接の弊害
この記事を書くに至ったきっかけは、先日公開されていた『スキルのない素人が、印象と好き嫌いで合否を決めている。それが採用面接。』を読んだことだ。
内容をざっくりとまとめると、
・人を見る目がない素人が面接をしている
・だから、思想についてや家族についてなど、法に抵触するような質問も平気でしてしまう
・「それ聞いてどうすんの?」というくだらない質問が出るのは、面接官が「コイツを好きになれそうか」を確かめたいから
・仕事の能力より会話が盛り上がるかを確認しているせいで、いい人を採用できない
つまり採用面接では、面接官が「自分(会社)に合いそうなお嫁&お婿さん探し」をしているのだ。
だから仕事に関係のないフワッとした質問をするし、自分たちはあくまでも「見定める側」だと思い込んで偉そうな態度をとる。
「結婚したいの? ふーん。じゃあちょっと話を聞いてみるか。趣味は? 学生時代がんばったことは? うーん……ほかにアピールないの? もっと俺の気を引かないと振られちゃうよ?」とまぁ、こんな感じだ。
そして、求職者は言ったもん勝ち。
腹の底では「御社は第一志望じゃねーよ自惚れんな」と思っていても、ニコニコ礼儀正しく熱意があると見せかけて、とりあえず「好印象」を目指す。
実に非効率的で表面的。
でもそれは、「お見合い型面接」ではしょうがないのだ。
だって、お互い本音を話さないことを前提とし、上っ面だけの会話でゴールインしようとしているのだから。
面接官と応募者が交渉するための面接は話が早い
じゃあ、そうじゃない面接ってどんな感じなんだろう?
それが、「交渉型面接」だ。
契約書大好き!ルールがあれば安心!自分の仕事以外は1ミリも興味関心がありません!
というお国柄のドイツの採用面接が、まさにコレである。
面接……とはいっても、社内のカフェや担当者の個人部屋に通され、コーヒーを飲みながら会話をするので、まったく堅苦しくない。
志望動機や長所・短所などの基本的な質問からはじまり、面接官は企業の説明や細かい労働条件を提示。
こちらはできること、やってきたことを伝え、「だからその仕事ができます」と言う。
そして「給料はどのくらいほしいか」「君の能力なら他のポストのほうがいいかもしれないが興味はあるか」などを確認。
お互いの条件が合ったら、「ちょっと社内を案内しようか」と上司になる予定の人のところに連れて行ってくれたり、「試しに明日から1週間ほど来てくれ」とオファーをもらったりする。
以上。
採用面接は、「人材探し」をしている人と「職探し」をしている人の、交渉の場。
どちらかが偉そうにすることはありえないし、そんな必要もない。
なんなら求職者は、その時点ではお客様扱いされる(コートをかけてもらったり、クッキーを出してくれたりもした)。
募集要項にすでに条件が書いてあり、応募者はそれをクリアしている前提だから、面接では内容の確認と認識のすり合わせをするだけ。
あくまでわたしが経験した範囲の話ではあるが、ドイツでの面接はこんな感じだった。
相性を確かめるのは面接ではなく試し働きのフェーズで
とはいえドイツでも、個人的な質問をされたことはある。
たとえばわたしなら、「なぜドイツに来たのか」「家族はどういう反応だったか」などだ。
当然ながら、ドイツ人だって、「相性がいい人といっしょに仕事をしたい」と思う。
だから多少なりプライベートな質問をすることもあるし、仕事と関係のないスモールトークをすることもある。
ただしそれも、「個人的な興味だから答えなくてもかまわない」とか、「もし聞いてもいいのであればだけど」といった断りがあってのこと。
コンプラの問題もあり、「あくまで雑談の範囲内であって採用の合否に影響する要素ではないから、答えるのは任意ですよ」という建前にするのだ。
まぁもちろん、たいていの求職者は答えるけどね。
(パートナーの有無や出生に関わること、宗教や思想チェックなどはもちろんタブー)
で、条件面を確認し、そういったスモールトークを通じて「まともそう」だと思ってもらえたら、面接後「とりあえず明日働いてみよう」と言われ、いい感じだったらそれが「3日間」になり、その様子をみて「来週最終判断をする」と言われたりする。
実際の能力や人間性はいっしょに働きながら確認することが多いから、面接ではあくまで「条件を満たしているか」「まともな人間か」のチェックくらい。
だから面接では、話が具体的でわかりやすく、あっさりしているのだ。
面接で具体的な話をしなければ、「いい人」なんてわかりっこない
とはいえ日本は独特な労働社会の国だから、面接は「お見合い型」にならざるをえない。
配属は採用が決まってから決定するから、事前に特定のスキルを求められない。
給料は基本固定だから、交渉の余地はない。
決まった時期に採用活動をするから、ひとりひとりの採用に時間を割けない。
募集・応募をする時点では不確定要素が多いから、具体的な話ができない。
「この仕事ができるかどうか」という基準で合否を判断できないから、結局「なんとなくいい人そう」「この会社に合いそう」という雰囲気で合否を決めるしかないのだ。
人事が「いい人が来ない」と嘆くのも当然。
だって、具体的な話をなにもしていないんだから。
中途採用であれば、日本でも「交渉型」の面接が結構あるらしいけども(わたしは未経験なので情報お待ちしております)。
交渉型面接のほうが合理的だけどハードモードになることも忘れずに
冒頭で紹介した記事が公開されてから5日後、『採用面接で腹が立って「志望動機なんかありません」と答えたときの話。』という記事がアップされ、たくさんの人に読まれていた。
記事の締めくくりには、
つまり会社が、
「当社を志望した動機はなんですか?」
などという寝ぼけた質問をするのではなく、求職者のほうが
「私はこれだけの事ができますが、御社はどのような条件を提示できますか?」
と聞くようになる時代だ。
とある。
これはまさに交渉型面接でのやりとりで、「面接官が偉そうにムダな質問をするお見合い型の面接に未来はないよ」ということだ。
実際のところ、能力がある人からすれば、それを活かせる場所、高く評価してくれる場所で働きたいと思う。
「座右の銘は?」なんて聞いてくる企業より、「いくら給料がほしいですか?」と交渉に応じてくれる企業のほうが魅力的だ。
企業としても、貼り付けた笑顔で「御社が第一志望です!」と言う人より、「これができるから採用してください」と言う人のほうが話が早い。
たしかにそういったやりとりは、理想的な面接、採用面接のあるべき姿といえるかもしれない。
しかしそれは同時に、「よりシビアな採用・求職活動になる」ということでもある。
いい条件を出さないと、能力が高い人を採用できない企業。
アピールできる能力と実績がないと、採用されない求職者。
「この仕事ができる人」とピンポイントで募集をかけるぶん、応募者の絶対数がかぎられるので、企業は人材を確保するため快適な労働環境と相応の待遇を用意しなきゃいけない。
求職者は新卒だろうがなんだろうが「能力」を求められるので、その仕事ができるとアピールするために、インターンをしたり資格や学位をとったりしなきゃいけない。
「交渉型」だからこそ、「交渉材料」がなければ、その土俵にすら上がれないのだ。
採用する側も、される側も。
交渉型の面接のほうがたしかにムダは少ないけども、だからといって、必ずしも「楽」で「効率的」というわけではないのだ。
双方にとって。
良い・悪いは別として、面接の素人が「趣味はなんですか」なんて聞いてる面接の方が、大半の人にとっては「イージーモード」なのかもしれない。
たとえそれが、「印象」というあいまいなものに支配されていたとしても。
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【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
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