わたしはアルバイト時代、「とりあえずやってみて」「まずは自分で考えて」と言われるのが大嫌いだった。
とりあえずやっても、わからないことがたくさん出てきて途方に暮れるし、自分で考えたところで、それでいいかだれかにお墨付きをもらわないと行動に移しづらい。
どうすればいいのか知ってるんだから、教えてくれればいいじゃん。
とりあえずやってもどうせ失敗してやり直しだし、自分で考えてやっても上の人にいろいろなおされて結局相手の希望通りにさせられるなら、最初から教えてよ。
そう思う。
でもこの思考回路は、「最近の若者はすぐ答えを知りたがる」と、上の世代の人たちからはすこぶる評判が悪い。
「自分でやろうとせず他人に甘え、楽をしようとしている」と受け取られるからだ。
でも、「とりあえずやってみて」が若者に響かないのには、相応の理由があるんだよなぁ。
「無駄なく最短ルートで成長したい」若者たち
「世代論」についての本を読むと、どの本でも必ずといっていいほど、「若者はすぐに答えを知りたがる」と書かれている。
コスパ・効率重視で試行錯誤を嫌い、なんでもかんでも他人に聞いて解決してもらおうとする。それが、「若者」。
FromAやタウンワークの編集長を歴任した平賀氏も、若者論としてこのように書いている。
オトナは時折、若者に修行の機会を与えようとします。
「まずは1回、自分で考えてみてよ。それから打ち合わせしよう」
なんでもすぐ答えをほしがるな。自分で考えるようになってほしい。そうした悩みの時間や、立ち止まって考えること、それが経験値となって成長につながる。そんな想いで、あえて課題を与えるわけです。
しかし残念ながら、若者にその想いは届きません。「なんだこの無駄なやり取り」と思われるのがオチです。彼らは「無駄なく最短ルートで成長したい」と考えているのです。
インターネットやSNSには、さまざまな情報が存在します。そこには仕事の解もたくさんあると、彼らは信じています。自らが難しいことに挑んで無駄に時間をかけるより、SNS上の友達から答えを聞けばいい。そのほうが仕事も捗るとナチュラルに考えているのが若者です。出典:『なぜ最近の若者は突然辞めるのか』
なぜ最近の若者は突然辞めるのか
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わたしは今年20代を卒業した91年生まれなので、「若者」といっていいのか怪しいが、たしかにそういう傾向はある。
「とりあえずやってみて」「まずは自分で考えて」と言われるのが、大嫌いだから。
ググればわかることを、わざわざ試行錯誤するのって無駄じゃない? 答えを知ってるなら教えてくれればいいじゃん、ケチケチせずにさ、と思う。
そしてここで話を終わらせると、「若者は楽して答えをもらいたがる」「若者は試行錯誤が嫌い」という結論になってしまう。
でも、そうじゃないんだよ。
若者は、正解を探すまでの過程じゃなくて、正解を見つけた「あと」に試行錯誤するんだよ。
攻略法をシェアしないのは「ケチくさい」
話は変わるが、わたしがはじめてやりこんだゲームは、ポケモン『銀』だった。
当時はネットなんてなかったので、『ポケモン図鑑』という本を買って捕まえたポケモンにチェックを入れたり、菓子パンについてくるポケモンシールをノートに貼って、自分なりの図鑑をつくったりしていた。そんな時代だ。
『銀』には、こおりポケモンを使うチョウジジムがあった。
ストーリーを進めるためには、ポケモンジムのジムリーダーに勝たなければいけない。でもチョウジジムの床には氷が張ってあって、一歩進むと、壁までツル―っとすべっていく。
パズルゲームみたいなもので、遮蔽物を利用して直進だけでボスにたどり着けるよう、進み方を考えなきゃいけないのだ。
でもジムには他の敵もいるから、考えなしにジム内をツルツルすべっていると、他の敵に見つかって勝負を挑まれてしまい、ジムリーダーにたどり着くころにはポケモンの半分が戦闘不能……なんてことになってしまう。
これがわたしはすごい苦手で、なかなかジムリーダーと対戦できなかった。別の敵に絡まれたり、スタート地点に戻ってしまったり……。
最終的に、お兄ちゃんに泣きついた記憶がある。
ではもしこれが、2022年に発売されたゲームだったらどうだろう。
発売日当日に、ツイッターには「チョウジジム完全攻略法」という図解が流れ、その1時間後にはYouTuberが「初見でジムリーダーまでたどり着けるのか」という配信をし、大手ゲームサイトが攻略情報をすべてまとめる。
多くの一般プレイヤーがそのジムにたどり着くころには、もうすでに、情報がすべて出回っているだろう。
わたし自身、最初は自力でやるだろうけど、2、3回失敗したら、「とりあえずググろ」ってなると思う。
いやだって、10秒でわかる攻略法を、10分以上かけて試行錯誤する意味なくない? 早くゲームクリアしたいじゃん?と。
事実、『テイルズオブゼスティリア』の水の試練(だったかな?)は、遺跡中をワープで行ったり来たりするのが面倒で、開始1分で攻略サイトを見た。攻略サイトを見てもだいぶ面倒くさかったけど……。
攻略法を知ってる人がいるならシェアしてよ、有益な情報は広めたほうがみんなの得になるでしょ、わたしも裏技に気づいたらツイートするからさ。
最近のゲーム界隈は、こんな感じだ。
攻略法を見つけたのにシェアしない人は、「なんで秘密にするの? 広まったら困るような方法で攻略したの?」と怪訝に思われるくらいである(不正を疑われないため、早期クリア者やタイムアタック記録保持者は証拠動画をアップするのがお決まり)。
若者は試行錯誤が嫌いなんじゃない、タイミングがちがうだけ
でもそうやって、「若者はすぐ答えを知りたがる」のであれば、大半のゲームなんて、すぐ飽きられて捨てられてしまうはずだ。
だって、発売日当日にラスボスがネタバレされてるんだもの。
でも実際、そうはなってない。
なぜか?
それは、現在のゲームは「解き明かすこと」ではなく、「やりこむこと」を前提に作られているからだ。
わたしは最近のポケモンをやっていないけど、最近はポケモンに色や大きさがあって、レアなものの出現確率はだいぶエグいらしい。
野生のポケモンを数百体倒しまくって遭遇待ちしたり、ほかの言語のポケモンと国際孵化したり。コンプリートにいったい何百時間かかるんだ……。
どのゲームでも、最近の人気作は、クリア後も長時間遊べるように設計されている。
レアドロップ系はもちろん、クリア後のダンジョンや隠しボスは当たり前。
定期的にダウンロードコンテンツを配信したり季節系イベントをしたり、称号を用意したりコンプ系コンテンツをつくったり……。
強いボスを倒しても、ほかの武器で戦ったり、より速く倒せるようにタイムアタックしたり、装備をあえて弱くする縛りプレーをしたり。
そういった楽しみ方への動線もしっかりしていて、「とにかく長時間やりこんでね!」という開発の姿勢が伝わってくる。
メインストーリー自体はすぐにクリアされてしまうので、それが終わった「あと」に、どれだけプレイヤーを楽しませられるかが重視されているのだ。
そうしないと、プレイヤーは「6000円も払ったのに2日でクリアした。クリア後やることがなくてつまらない。低評価」とレビューするからね。
でもこういうゲーム設計って、「効率重視でムダを嫌う試行錯誤をしない若者像」とは、真逆な気がしないだろうか。
やりこみ要素なんて、基本的に全部、非効率で時間のムダなものだ。
それなのに、若者は嬉々として、ポケモンの色違いを入手するために何十時間もかけ、レア称号のためだけにきつい条件で強敵に挑んだりする。
そう、別に「試行錯誤」や「ムダ」自体が嫌いなんじゃないのだ。
「試行錯誤」するタイミングが、オトナたちとちがうだけで。
「努力」に対するジェネレーションギャップ
たとえると、オトナたちは、いまだに攻略本がない時代のゲームをやっているのだ。
ポケモンジムのジムリーダーがどのポケモンを使ってくるかを知らずに、事前知識がないまま勝負を挑み、負けたらああだこうだと考えて再び挑戦し、それでも負けてポケモンを入れ替えてまた挑戦して……
そうやって、「正解」にたどり着く過程で試行錯誤するのが、オトナたちにとっての「努力」。
でもいまは、そういった情報はすぐにシェアされ、広まっていく。
わざわざ情報を遠ざけて、なにも知らずに突っ込んで連敗する必要なんてない。さくっとジムリーダーを倒しちゃえばいい。
試行錯誤は、そのあとにはじまるのだ。
さて、クリアしたからやりこみ要素をやっていくか。ポケモンの色違いを入手する方法自体は知っている。では、より効率的に手に入れるためにはどうするか。情報収集し、ツイッターで手伝ってくれる人を探し、そして何時間も繰り返す。
答えを手に入れたあとに試行錯誤するのが、若者たちにとっての「努力」。
それが、いわゆるジェネレーションギャップなんだと思う。
答えを知って終わりではなくて、その後、手札が全部そろった状態でどう戦うか、答えをもらったあとにどう応用するかで試行錯誤する人は、たくさんいる。
だからこそ最近のゲームは、メインシナリオと同じくらいエンドコンテンツ・やりこみ要素が充実しているのだ。
若者は「答えを知ったあとの応用で差をつける」文化
「若者はコスパ重視ですぐに答えを知りたがる」で、終わらせないでほしい。
「答えを知ったあとの応用で差をつける」文化だと知ってほしい。
そうじゃなきゃ、若者がただの「ラクしたがり」って結論になっちゃうから。
「とりあえず資料つくって」「まずは自分で企画を考えて」のように、「答えを見つける過程で努力しろ」というのは、若者には響かない。
なんで情報をシェアしないんだ、攻略法を秘密にするなんてケチくさい、と思われる。
でも、「サンプル3つあるからそれを見て資料つくって」「過去の企画の記録を参考に新しい企画出して」というように、「答えを与えたうえでその応用のための試行錯誤」であれば、たぶん多くの人は喜んでやると思う。
そもそもの話、「試行錯誤自体が嫌いな人」なんて、ほとんどいないと思うんだよ。
だって仕事なんて、試行錯誤の連続だもの。それが嫌いなら、単純作業以外のどの仕事もできない。
だから、若者は答えを教えてもらわないとなにもできないとか、試行錯誤が嫌いで失敗したがらないとか、そうは思わないんだよね。そんなこといったら、なんの仕事もできないから。
ただ、努力するポイントが、「正解に至る過程」ではなく「正解をもらったあと」にあるってだけで。
「こいつはなんでもかんでも答えを知りたがる。向上心がないイマドキの若者だ」
なんて嘆く前に、
「答えを教えたあといろいろ試行錯誤するのかもしれない。まずは模範解答を示して様子を見よう」
と思ってみてもいいんじゃないだろうか。
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。

<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第6回 地方創生×事業再生
再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。
【今回のトーク概要】
- 0. オープニング(5分)
自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」 - 1. 事業再生の現場から(20分)
保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例 - 2. 地方創生と事業再生(10分)
再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む - 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説 - 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論 - 5. 経営企画の三原則(5分)
数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する - 6. まとめ(5分)
経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”
【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)
【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
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ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
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Photo by Sigfrid Lundberg