こんにちは。CourieMate(クーリエメイト)の伊藤と申します。
私はアフリカのウガンダという国で、バイク便の事業を営んでおります。
前職はアクセンチュアでコンサルタントをしていたのですが、何年か悩んだ挙句、「アフリカから世界を変えたい。」という思いに素直に従い、4年ほど前にアフリカのウガンダで起業をしました。
「ウガンダ」という国名を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。年配の方は「人食い大統領」と言われたアミン大統領で名前を聞いた事があるかもしれません。
ケニヤの西方、ルワンダの北東に位置した、国全体がスローライフな農業国です。
首都のカンパラは、アフリカで最も大きな湖、ビクトリア湖の北方にあり、緑豊かな街です。ウガンダはアフリカの中では降水量も多く緑豊かで『Pearl of Africa(アフリカの真珠)』と呼ばれています。
人口は約160万人で、赤道直下ですが、標高が1190メートルと高いため、一年中を通して日本の春や秋の気候であり、とても過ごしやすいです。
お陰で、素晴らしい景色が臨めます。
治安も隣国に比べると安定しており、気を付ければ夜間でも外に出歩く事ができます。
とはいえ、もちろん、日本のような治安は望めません。外務省のページでは現在、カンパラ付近は「危険を避けるため、特別な注意が必要です」と書かれておりますし、ナイフによる窃盗や強盗は頻繁にあるので、初めて来られる方は注意が必要です。
さて、私は前述したようにこのカンパラで、2014年に起業していくつかの商売を経て、2016年3月からバイク便をはじめました。
なぜバイク便かと言えば、3つほどの理由があります。
1.近年の急速な経済発展、世界トップクラスの人口成長の中、物流インフラの発展がビジネスチャンスになる事
2.未成熟な市場から、アフリカ発の持続可能な新たなプラットフォームを構築し、世界に展開できる可能性がある事
3.隣国ケニアなどと比べ、外資大手の参入が少なく、個人の比較的少額の投資でも市場に参入でき、色々と試行錯誤が出来る事。
バイク便のような小口の配送では、バイク1台+ドライバーというセットなため、初期投資も少なくすみます。(その分参入障壁は低いです。)
しかし、商売というものはやってみなければわかりませんし、「想定外」な事ばかりです。
特に、日本と全く異なる国民性と文化を持つウガンダでは、想像もつかなかったような出来事が日々次々と起こります。
“住所”がない
発展途上国で商売をしてみると、つくづく日本という国はインフラが整っているな、と感じます。
例えば、何気なく使っている「住所」ですが、これは「住所システム」という巨大なインフラであることは、案外意識しないものです。
ところが、多くの途上国と同じように、ウガンダではこの「住所システム」というインフラが存在していません。
首都カンパラでは、主要な通りのストリート名(道路名)は存在するのですが、道路の長さが数百メートルに及ぶと、そのどこに位置するのか特定できません。
また、ストリート名(道路名)の「通称」と正式名称が異なっており、Google Mapなどを使っても、正式名称では全く別の地点を指す事もあります。
田舎においては、道路名すらなく、20キロメートル四方の地域が一つの『地名』になっている事もあります。
日本の例でいうと、宅配便の伝票で書かれた住所が、「東京都八王子市」まではわかるけれど、「八王子」のどこにあるのかわからない……といったイメージです。
そのため、宅配サービスを提供する我々にとって、お客様のご自宅まで届けるのは一苦労になります。
では、住所の存在しない国で、どのように物を届けるか。
先人の方々が様々な工夫をしていますが、まだ確立された方法はありません。試行錯誤しています。
そんな中、我々は原始的ですが、荷物を届ける前にかならず電話を入れ、建物やスーパーなどのランドマークを確認し、それを元に荷物を届けています。
政府機関や大企業などを除き、事前に電話をせずに荷物を届けるのは、かなり困難です。
ですから、僻地の田舎によっては電話がつながらない地域もありますが、そのような地域では、玄関先までの宅配は非常に難しくなります。(よくあるパターンは、村の中心部での受け渡しです。)
また、ウガンダではクレジットカードは普及しておらず、モバイルマネー(日本でいう電子マネー)は決済手数料が高い事もあり、ほとんどの場合オンラインショッピングの料金は、「現金代引き」です。
したがって、オンラインショッピングの宅配の場合、我々は集金の代行まで行っています。
ただここにも問題がありまして、荷物を届けに行くと、お金がないという事が頻繁に起きます。
前日にオンラインショップで受けた注文に対して、翌日の朝に電話をかけて確認をすると、
「今お金がないから、一ヶ月後に配達してくれ」とか
「あー、今朝、急用がありお金使っちゃったよ」とか
「月末の給料日まで待って」とか
「子供に借りるよ」とか……
とにかく、一筋縄ではいきません。
始めた当初は、電話に出ない、住所に人がいない、いてもお金がない。など、再配達の率が5割を超える事もしばしばでした。
現在ではオーダーを受け取った時点で必ず、こちらから本人にTELを入れ、
・何処に行けばよいのか聞く
・お金を用意してもらえる
の2つの条件が揃ったときのみ、配達をするようにしています。
日本では信じがたいのですが、中には更にウワテの人がいて、朝に電話したときには「お金ある」と言っていたのにもかかわらず
「あー、1時間前に来てくれれば良かったのに!さっき使ってしまった」
「ATMでおろせばある。おたくの宅配バイクの後ろに乗せて連れて行ってくれ」
「えっと、今はドルしかない。両替所まで連れて行ってくれ!」
といったこともあります。
ここにいると、日本の宅配サービスは、洗練された数々のインフラの上に成り立っているのだなと実感します。
なお、商慣習上では、「2回までは配達する」と認識されており、それを超えると注文は自動的にキャンセル扱いとなります。
地図が読めないドライバー
さて、もう1つ困ったことがあります。
ウガンダの方の多くは「地図が読めない」のです。
特に、バイクの運転手(ライダー)は教育レベルも低い事が多く、地図を読めない人が大半です。
実は商売を始めた当初は、ドライバーにGPS付きのスマートフォンをもたせ、そのGoogle Mapを見て配達をしてもらおうと思っていました。
「地名」や「番地」がなくても、Google Mapでは自分の現在地と目的地を示せば、地図上のルートを確認する事ができます。
しかし、この方法は上手くいきませんでした。多くのドライバーは地図が読めないからです。
地図が読めないには、色々な理由があります。
一つ例を挙げると、カンパラ市内の大きな地図を開いても、「自分が何処にいるのかわからない」のです。
そして、よりミクロな地図になると、右左が分からなくなります。現実世界では右折、左折は当然認識できるのですが、地図上の世界では右と左を混同してしまう事があります。
色々とトレーニングを重ねても、中々改善しないため、最初は理解に苦しんだのですが、初等教育や高等教育の現場に通う中で、理由が判明しました。
ウガンダの教育では、文字情報は扱っても、絵や図など「2次元の情報」を扱うことはほとんどありません。
つまり、表や図が読めない。グラフが書けない。
例えば、大卒のスタッフにエクセルトレーニングを行った際に、いくらエクセルの機能や数式を伝えても、エクセルを使えるようにはなりません。
情報を行列で整理するという発想がない限り、エクセルを使いこなす事は難しいのです。
多くのスタッフは、話を聴いてメモを取る時も、「全文を書き起こし」になります。思考が1次元的なのです。(箇条書きなどで構造化する事もあまりありません。)
これは、学校での教育のほぼ全てが「知識の暗記」に偏重しているためと思われます。
日本人の殆どが地図が読め、料金表を理解し、グラフを見て納得をするのは、教育の賜物と言えるのかもしれません。
ひたすら従業員を教育する
バイクタクシーの運転手に溢れるカンパラの街ですが、宅配サービスが出来るレベルのドライバーに会えることは中々少ないです。
全ての能力が整っている人は、既に他の高給な仕事に就いているケースがほとんどです。
逆にすべての能力が整っていて、職を希望する人は警戒が必要です。前職でお金の持ち逃げをするなどの前科がある場合があるからです。
スキルを満たした人材を雇えないのであれば、我々がやるしかありません。
弊社では、バイクのドライバーに対して、定期的に
「バイクのドライビングの練習」と「接客ロールプレイ」を実施しています。
バイクのドライビングは、日本の教習所でやるような一本橋の練習や、スローでバランスをとる練習などです。街中のバイクタクシーの95%以上は無免許で運転していますし、仮に免許を持っていても教習所などに通っていません。
ウガンダのバイクの免許は、お金さえ出せば取れてしまうため(正確には100メートルほどエンストしないで乗れればOK)、細かな技術指導などは全くありません。
安全にバイクで配達をしてもらうには、ドライビングの研修は必須です。
また、宅配はコミュニケーションスキルが非常に重要です。
丁寧な対応、言葉遣いなども重要ですが、特に、お客様に対してキレない事も重要です。
例えば、代引きのお金を受け取る時に、お客さんから「料金をまけてくれ」という無茶な交渉を持ちかけられる時があります。もちろん我々は単なる料金収納代行なので、お断りせざるを得ません。
ただ、向こうがあまりにもしつこく料金交渉をしてくると、ドライバーもキレてしまう時がありました。
ですから、ロールプレイなどではしつこく、「お客様にキレてはいけない」と教える必要があります。村出身のドライバーには、「お客様は、自分の村の長老と接するように」と伝えています。
でもポジティブなウガンダの人々
ただ、そう言ったユルさには、良いところもあります。
私はウガンダに来た当初、人材育成事業をしており、これまで数百名のウガンダの社会人へトレーニングを提供してきました。その際に『あなたの夢は何ですか?』と問いかけていました。
最初は、彼らは色々と夢を述べます。
『この会社で支店長になる!』
『起業して金持ちになって、世界中を飛び回るビジネスマンになりたい』
『この会社で営業でトップセールスになる』とか何とか。
しかし、関係性を築き、数か月後に聞くと、80%以上の方々から聞いたのは以下のようなものでした。
『良い仕事に就いて金を貯める。30代中盤くらいまでに貯金を作って、そのお金でカンパラで不動産を購入し、田舎に戻って、家賃収入を得ながら家族と自農作しながらのんびり暮らす。』
ウガンダの多数派の夢は、日本のスローライフの最先端をいっているのかもしれません。
また、彼らは他者の失敗に寛容です。
例えば、銀行に行くと、大体1時間以上待たされることが多くあります。またされた挙句、窓口で「あ、ここじゃないですよ。別の列に並んでください。(また1時間並びなさい)」と言われることも。
日本人なら怒りますよね。
でもウガンダの人たちは怒りません。「ふーん、どこ?」みたいな感じです。
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ウガンダは内陸国ですが、地政学的に重要な地点に位置しています。隣国の経済大国ケニアの港から来た荷物はウガンダで降ろされ、そこから南スーダン、コンゴ民主共和国、ルワンダへと運ばれていきます。
内陸国かつ鉄道のないウガンダでは、95%以上が道路輸送となります。
このウガンダからアフリカを変える、世界を変える物流の仕組みを作りたい。
そんな夢を抱きつつ、日々働いています。
なお現在、アフリカでの物流業の発展のために出資してくださる方を探しています。
伊藤淳Facebookアカウント https://www.facebook.com/Itojun までご連絡いただければ幸いです。
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